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   日経新聞はパリ協定派になった
     
電力の特殊事情の真相 02.26.2017
               



 今回、取り上げることは、その実情をほとんどの方々がご存じ無かったことだと思います。ところが、それが日経の2月22日付の「真相・深層」で大きな記事として取り上げられました。見出しには大きく、「風力、ネックは送電網〜事業者の開発意欲に水」。現実にその通りなのです。

 パリ協定提出した約束草案(現在は約束)では、2030年までに、2013年比で26%の温室効果ガスの削減を目指すのですが、エネルギー起源の二酸化炭素発生量は、2030年度で25.0%削減の9億2700万トンとすることになっています。しかし、今のままだと、自然エネルギーの導入量の目標達成はどうなるのでしょうか。

 電力のベストミックスを決定するにあたって、達成すべき具体的な条件とされたのは、
  ◆GDPの年間1.7%成長を仮定し省エネ17%
  ◆2030年の電力は9808億kWh程度
  (2013年度の電力供給実績は9666億kWh)
  ◆再生可能エネルギーの割合 22〜24%
  ◆原子力の割合       20〜22%
 この2種のCO排出量ゼロの電源からの発電量の割合が果たして実現できるのか、これが鍵になります。

 本日は、様々な分析から始めて、上記の条件を実現するためには何が必要か、といった議論をしつつ、今後の方向性を探ってみたいと思います。

  

C先生:まずは、日経の記事をまとめてもらおう。

A君:了解です。ポイントは以下のようになります。
 まず、「風力、ネックは送電網」という見出しは、実際その通りです。送電幹線網が未整備なもので、北海道の西海岸などのように、風の状況がいくらよくても、風力発電を設置したとしても、北海道電力は電力を買ってくれないのです。

B君:いつも議論しているように、日本の送電網は、ヨーロッパなどの送電網に比べると脆弱だ。その最大の理由は、ヨーロッパには、すでに高圧直流送電網ができているけれど、日本には、大規模な直流送電網はない。技術的には、スイス系のABBとか、ドイツのSiemensなどが直流送電技術を持っているけれど、どうやら、日本の場合には、電力会社が送電線の発注をするので、日本を9分割している電力会社にその気がなければ、電力を融通することも不要だし、自分の営業範囲の狭い範囲だけを考えていれば良いので、熱心ではない。そもそも、50Hzと60Hzが共存する国など、世界で唯一なのだ。

A君:自分の営業範囲だけとは言っても、北陸の神通川などにある発電所は、かなりの割合で関西電力の持ち物ですよね。

B君:北陸電力は、3県しかカバーしていない。北陸の河川は、水力発電の適地である。そんな理由で関電のものなのだろう。

A君:電力会社の規模を年間の販売量で記述してみませんか。2015年度のデータです。

北海道電力  280億kWhぐらい。
東北電力   620億kWhぐらい。
東京電力  2471億kWh
中部電力  1220億kWh
北陸電力   275億kWh
関西電力  1275億kWh
中国電力   567億kWh
四国電力   257億kWh
九州電力   792億kWh
沖縄電力    47億kWh
J-Power    653億kWh
合計    8457億kWh

A君:これらの電力以外にも、自家発電などがあるので、後で検討するように、日本全体の発電量の正確なデータは、資源エネルギー庁の総合エネルギー統計に基いて作業をしないと。

B君:このデータを見ただけでも分かることは、北海道電力、四国電力、北陸電力は電力販売量では同じぐらいなのだな。となると、これらの地域では、不安定な太陽光発電や風力発電の導入可能量は、かなり限られることになる。

A君:今回の話題の中心は、北海道や東北地方の風力発電が建設できないこと。なぜならば、風車は建設しても、送電線までは、自前の電線を敷設しなければならない。これをなんとかやったとしても、現時点だと、不安定さが問題にされて、電力系統には接続できない。出来たとしても、電力側が、いつでも受け入れを一時的に止めることができる。どうしても、接続したい場合には、電池などを設置することになる。

B君:しかも、風力のFITは、太陽光に比べれば余り有利ではなかったのに、現在22円/kWhが、17年度から3年間、毎年1円ずつ下がる。

A君:確実に買って貰おうとすれば、電池を設置して不安定さを改善しなければならないし、それをやったとしても、常に電力が売れるという訳ではない。

B君:それは、基幹となる送電線の容量が不足しているから。送電線の容量を増やすのは、そもそも誰の責任なのだろうか。勿論、電力会社の責任ではあるのだけれど、その投資ができるかどうか。原発が止まっていることが原因で、経営状態は良くないので。

A君:日経の記事には、東北電力が発表した「東北北部における系統状況変化についてという文書があると記述されています。

B君:東北電力によれば、「平成12年のFIT開始以降、太陽光や風力発電の新設が相次いだ。このため宮城県沿岸北部を含む東北北部と、同南部を繋ぐ基幹送電線の一つに物理的にこれ以上電気を送り込めなくなった。新たに基幹送電線をつくらなかれば、東北北部に発電所を新設しても、接続できなくなる」

A君:勿論、空いている送電線がないわけではない。東通原子力発電所や新設を計画する原発向けの高圧送電線がすでにある。東通原発は東日本大震災以降停止中のため、原発から電気は現時点では通っていない

B君:それを開発事業者の幹部こう表現したそうだ。「4車線の高速道路がガラガラなのに、莫大な費用で真横に1車線増やそうとしている」

A君:名古屋大学の高村先生が主張しているように、「送電網のどこにどれだけの電気がながれているのか、情報開示がなされていない」。

B君:この情報開示は、資源エネルギー庁まではされているのだろうか。それとも、電力会社の外へ一切流れていないのだろうか。

A君:もし資源エネルギー庁まで流れているとしたら、ある程度の情報提供をすることは国としての義務ではないですかね。そもそも2030年の目標達成は、温暖化防止対策計画によって決められている訳だから。

B君:関係者間に伝わっている隠れ情報によれば、「秋田県で関西電力と丸紅が計画する出力130万kWの石炭火力発電所への接続が受け入れられたからだ」、と日経は記述している。さらに、記述は続く。 「先進国で石炭火力を進めているのは日本だけ。温暖化対策として、どちらを優先すべきなのか」

A君:この最後の発現は、開発関係者の発言というよりも、日経の記者の感想なのではないか。どうやら、最近の日経は、パリ協定派になったようなので。

B君:確かに、自然エネルギーの導入は、デッドロックに乗り上げた感があるな。様々な問題がある。

A君:太陽光発電だと、もはや、増設は旨味がないですね。九州あたりがポテンシャルが高いですが、FIT制度の悪評を招いたのも九州の太陽光の過剰申請だった。しかも、低電圧分割といった「厳密には違法ではないが明らかに強欲」としか考えられないコスト削減策を行うような信じられない事業者が多くて、呆れましたが。

B君:そのお陰で、日本の太陽電池の製造メーカーは、中国産の安価な太陽電池が大量に入ってきたために潰れた。これは、ある意味で仕方がないことだ。日本という国は、閉鎖社会を作って世界的なコスト低下からの影響を防ぐという行動パターンがある。一言で言ってしまえば、あらゆる既得権益が生き残る国なのだと思う

A君:米国で始まったUBERのような仕組みも、まだ、入ってこない。確かにUBERは、非正規自己雇用制度なので、これだけで生活できる訳もない。

C先生:ポルトガル・リスボンに居たとき、川向うのホテルから中央駅までどうやって行くのかなとGoogle Mapを見ていると、「UBERなら5分後に迎えに行けます」、というメッセージが入ってくる。そのぐらい普及しているようだ。

A君:中国でも上海などでは、UBERの方が雲助タクシーよりも遥かに安全、しかも快適とのこと。万一、過大な料金を取られたとか、遠回りをしたとか、そんな情報はUBERに筒抜けになるので、そんなことをすると、もはや客が付かない。

B君:しかし、ポルトガルのように、失業率が非常に高い国だと、非正規雇用の仕組みが必須のように思われているのだろう。なにせ、ポルトガルには、相続税が無い。そのため、多くの親族を養っている財産家の家系はかなり続くのだ。中国でも似たようなものかもしれない。日本だと、まあ、中産階級は3代続けば良い方で、その意味では、極めて平等な国なのだ。もっとも、自分の財産で財団を作って親族だけで利益を分配するという正当な裏技もできるけれど、それには、財産が何10億かないと無理だろうけれど。

A君:トランプ大統領のように自分の親族を最優遇する人物が、低所得者に支持されるということが理解できない。最後には、金持優遇税制をやって、そこで一般的支持が無くなって終わると思うけど。

C先生:大分、話がずれたが、今回の記事には記述がないが、将来の見通しを語ることが必要だろう。太陽光発電の優遇を下げるのは良いとして、一体、どのぐらいの風力発電や他の自然エネルギーを導入しないと、パリ協定の2030年目標が達成できないか、ということを明らかにしなければならない。

A君:それには、2030年の発電量を見積もらないといけないですね。このところ、電力の販売量は確実に下がっているようです。資源エネルギー庁の総合エネルギー統計
http://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/results.html#headline2
の統計表一覧から、総合エネルギー統計簡易表をすべてダウンロードして、26年分のデータをチェック。このエクセルのR33のセルにある数値が、日本の発電総量。なんとそれがTJという単位で示されています。この数値を億kWhに変換するには、単純に360で割れば良いのですが、まあ、面倒な作業でしたね。
 ということで、1990年から2015年までの日本の総発電量の推移をエクセルに準備しました。

B君:日本のGDPとの相関も取ってみたいね。

A君:了解。GDPの統計は、物価変動の影響を除いた実質GDPです。
http://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html
の数値を使いました。

図1 日本の発電総量と実質GDP(物価変動補正)の推移

A君:このデータの発電量は、電力ベストミックスの検討の際の数値(2013年度の電力供給実績は9666億kWh)より、明らかに多いのですね。統計上、なんらかの違いがあるのでしょうが、詳細は不明です。

B君:でも、2007年のピークあたりから電力消費が下がる傾向になったのは明らかだ。しかし、何が理由で電力消費が下がるのだろう。下げる要因として、電気機器の消費電力の削減は、もうそろそろ限界だけど。

A君:例外がLEDの導入ぐらいですかね。蛍光灯機器が古くなれば、LEDに変えるのはまあ当然ですよね。

B君:それだけで、電力消費量が下がるとも思いにくいのだけど。

A君:町工場などで使われるモーターの消費電力も、プリウスのモーターのように永久磁石型になれば、下がっても不思議ではないですし、エアコンや冷凍機のヒートポンプの効率もインバーターが当たり前になって、高まっているでしょう。スーパーなどで使われている冷凍ケースなども、新製品は消費電力が下がっているでしょうね。

B君:パソコンにしても、ハードディスクがSSDになって、また、ディスプレイの光源もオンエッジのLEDになって、消費電力が下がったに違いない。

A君:ハードディスクの塊のようなデータセンターの省エネは経営上の大問題でもあるので、このところ改善が進んでいるようですね。大容量光ファイバーがあれば、地球上のどこにあっても良いとも言えるので、冷却の不要な北国が適地ですね。

B君:図1を2007年から2030年まで単純に延長すれば、日本の発電総量は、800億kWh近くまで下がっていても不思議ではない。人口も減るし、自動車以外の製造業は海外移転が当たり前になっているので。

A君:このところ、日本国内では、人不足。製造業が海外移転しても、仕事があれば良いですね。製造業も、名人技でこなせる仕事は、徐々に減るでしょう。しかし、定年などの無い名人級の職人になれば、生きがいを長く感じられて良い人生でしょうね。

C先生:そろそろ、2030年を語る準備は出来たようだ。さて、電力事業者が、未だに石炭火力にすがっているのはなぜか。それはどう考えても、発電コストだ。石炭発電ならば、5円/kWhだから、発電事業者と電力会社にとっても送電費用を余裕で負担することが可能な儲けが確実にある。ところが、FITだと、ギリギリでしかも不安定なので儲けが出ない。だから、できるだけ、再生可能エネルギーは入れたくないのだ。これが、九電力とJ-Powerに共通のマインドなのだ。

A君:しかも図1で示したように、2030年までには、日本の電力消費量は、場合によると、800億kWhまで減る可能性もある。そうなると、減らさなければならないのは、どのエネルギー源か。その頃には、さすがにこの日本という国でも、CO2発生量が最大の着目点になるので、石炭だということになるでしょう。

B君:2030年を超えて、CCS無しの石炭発電が稼働できると考えるのは甘いと思う。

A君:そんな意見を述べると、ますますJ-Powerを含む電力会社が、石炭に固執して、短期的利益を追求するようになる。

B君:ということで、今回の日経の記事は、これまで一般社会には知られていなかった状況を暴露してしまった。それは、日経のような国際的なビジネス情報を提供している新聞としては、日本の経済界が少しでも、世界の標準に追いついて貰いたいという強い思いが表面に出たのだろう。

C先生:そろそろまとめにしよう。これまでに導入された自然エネルギーの実績をISEPがまとめたものが、次の図だ。

図2 日本国内の発電量に占める割合の推移(出典:電力調査統計データなどからISEP推計)
http://www.isep.or.jp/wp/wp-content/uploads/2016/08/fig21.gif 

A君:しかし、この増加傾向は多分、一時的に止まるでしょうね。しかし、2030年に発電量が、2010年のピークから20%下がれば、26%の削減も、原発の再稼働によってなんとでもなる、という考え方になるのかもしれませんね。再稼働原発による発電コストは、やはり相当に安価でしょうからね。

B君:自然エネルギーはできるだけ入れないで、防衛的な経営戦略で行こうという考え方になるね。しかし、それでは、電力会社として責任を果たしたことにはならないと言える。なぜなら、2050年の80%削減をどうやるのか、その方針を2023年に行われるパリ協定の査察、グローバルストックテイクと呼ばれるものが入ると、未来を語らざるを得なくなるから。

C先生:現時点で電力会社の関係者は、防衛的にならざるをえないのだろう。まず、原発の状況が悪い。再稼働ができないことが一つ。しかも、今後寿命が到来する古い原発の新規原発での置き換えは、日本国民は受け入れないような気がする。個人的にも、現在の3.5世代の原発も、使用済廃棄物に含まれるマイナーアクチノイドのために最終処分が難しいという欠陥があるので、使用済廃棄物の処理が容易な第4世代へ早く移行するしかないと思うのだけれど、開発には、相当長期間かかるだろう。それにつけても東芝・WHがあのような状況では、どうしようもない。
 さらに、省エネが意外と進展してしまって、電力の販売量が、大幅に減ってしまう可能性がもう一つある。電力の売上は減るけれど、電力網の維持費などは、変わらないので、できるだけ新しい電力網を作りたくない。勿論、電気自動車の増加などは、考えていないと思うのだ。折角の残されたチャンスなのに。
 2030年には、日本の人口はさらに減って、1億1500万程度(2010年1億2800万人の10%減)だろうか。しかも、老齢者が増えるので、電力使用量は人数比例よりもさらに下がるだろう。これも経営上悪影響を与える可能性がある。
 しかし、全く別の要素もある。それは、先程述べた自動車だ。日本では、純粋の電気自動車は余り普及しないという見方と、不安定な自然エネルギーによる安価な電力で充電できるようなローカルな電力網を整備すれば、電気自動車がやはり主力になるという全くの違う二種類の考え方がある。
 今回、新型になったプリウスのPHV(プラグインハイブリッド)は、2030年を超えて有力な選択肢になるという考え方もあり、個人的にもそう思うが、日常的使用法に関しては、普通の電気自動車として考えれば良いだろう。そうなると、相当な電力が必要になるが、それを誰が商売にするかだ。電気自動車の充電用であれば、不安定な再生可能エネルギーでも充分なのだ。J-Powerを含む電力会社は、自分達の商売ではないと思っているのかもしれないが、それはチャンスを逃すだけだ

 という訳で、電力会社に期待ができない分、今のうちから、色々な面で再生可能エネルギーを推進しないと、2030年以降の対応が難しくなることは確実なのだ。
 それにしても、今後できるだけ速やかに、新設石炭発電には、2030年以降スタートで良いから、CCS Readyを義務化の決定をすることがなんとかできなだろうか。電力会社の方向性と自然エネルギーの方向性とが共存共栄できる唯一の選択肢のように思えるのだが。

 最後の結論だが、日経がパリ協定推進派になったので、これまで通常の新聞に掲載されないような情報が出て来るようになったのは、大変に良いことだと思う。