放射線の人体影響   03.17.2011 03.23
重要な訂正



本文だけでなく、付録があります。

目次
放射線の人体影響
付録1:原発は、周辺機器の安全係数をより高く改造すべきだ。
付録2:原子力トリビア


放射線の人体影響

 今回の福島原発の事故に関連して、放射線の人体影響が再び新聞紙上などを賑わせている。

 実は、1999年に、JCO臨界事故という本邦初の事態が発生し、日本中が大パニックになった。メディアだけだったかもしれない。いややはりそんなことはない。同年2月の所沢ダイオキシン騒ぎもヒドかったが、このJCO事故でも、茨城県産の野菜が売れなかった。野菜中のNaにでも中性線が当たって、核変化が起きて放射性元素が出来ていると思ったのだろうか。いや、そんなはずはない。そこまでの知識もないだろう。やはり放射性の物質が漏れたという感覚だったのだろう。

 そのため、そんなに心配するような事態ではない、と、こんなことを盛んに書いていたのだ。なんとなく、懐かしい感じがする。作業員2名が死亡したが、それ以外に、重大な影響は何も生じなかった。

 調べてみたら、1999年に発生したJCOの臨界事故のデータが、きちんと整理されていることを発見した。
http://old.kokai-gen.org/information/0_jcotori.html

 JCOの事故といっても、すでに忘れ去られていると思われるので、少々復習してから、人体影響のまとめに行きたい。

 1999年9月30日に発生した。茨城県東海村の株式会社ジェーシーオーの核燃料加工施設で起きた。666名の被曝者と死者2名が出た。

 ウラン溶液を均質化する作業を、本来行うべき容器でやると効率が悪いという裏マニュアルがあり、沈殿槽というずんぐりした形状でしかも、周囲を冷却水のジャケットで囲まれた装置を使用して行ったために、連鎖反応が継続する臨界状態になって、核分裂が自発的に継続してしまった。

 作業に従事していた3名が大量に被爆。2名が死亡した。連鎖反応を止めるために、ジャケットの水抜き作業、ホウ素水を注入する作業に従事した作業員が被曝した。

 83日後に死亡した35歳の作業員が被曝した中性子線量は、16〜20グレイ・イクイバレント(注1)で、211日後に死亡した40歳の作業員の被曝量は、6〜10グレイ・イクイバレントだった。

 当時54歳の作業員は、推定1〜4.5グレイ・イクイバレントの中性子線を被曝したが、回復した。

 正式文書には記載されていないが、従業員の被曝は、臨界状態になって霧状に吹き出したウラン溶液を吸い込んだためという。

(注1)急性症状を起こす際に使用される放射線量。シーベルトは長期的な影響を評価する際に用いられる。異なる種類の放射線、今回の例だと中性子線とγ線を区別しないようなラフな議論をするときは、シーベルトと同じだと考えても良いのではないだろうか。

 今、思い出すと、このときのメディアの無知さ加減は、ひどいものだった。NHKは、ニュースで、放射性物質が漏れ出したと報じたが、実際には、物質が漏れたのが問題ではなく、臨界状態になって、連鎖反応が起きたことが問題だったのだ。要するに、「臨界事故」などという言葉をほとんどのメディアははじめて聞いたのだろう。

 ウランを扱っていた作業員以外にも、沈殿槽のウォータージャケットの水を抜く作業、ホウ酸水を投入する作業に従事した作業員は、当然被曝を受けたが、その数値は、50ミリシーベルト以下だった。

 周辺住民も被曝を受けたが、最大の被曝量でも25ミリシーベルト以下だった。しかし、気分が悪いと訴えた人がかなり多かったという。やはり、ヒトは、精神的な支配から逃れるのが難しい存在なのである。

 精神的な支配から逃れる方法はあるのか。それを実現するのが、何につけても充分な知識だと思うのである。

 さて、本題の人体影響である。一般には、以下の程度だとされている。

 まず、影響を二つに分ける必要がある。急性影響と晩発影響である。

 急性影響を次にしめす。
http://www.hicare.jp/09/hi04.html


 Sv=シーベルト


 急性影響という言葉は、常識的な言葉だが、晩発影響とは、余り耳慣れない言葉である。その実態は発がんだと考えれば良い。

 晩発影響は、国際放射線防護委員会の1990年勧告によれば、1シーベルトの放射線被曝をしたときに生涯の間に生じる致死的ながんの発生確率は0.04%であるとしている。このhttp://www.hicare.jp/09/hi04.htmlの記述は 間違いだと思われます。

 Facebookの「環境学ガイド」のメンバーからご指摘を受け、再度、なにか、信頼できる資料がないものかと探し回りました。もっとも信頼できそうな国際放射線防護委員会(ICRP)の出版物は、有料で情報がほとんど入手できません。そこで、日本国内のデータを探したところ、文部科学省の文書で、使えそうなものを発見しました。それは、ICRPの1990年勧告の解釈の文章です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/housha/sonota/81009.htm
 その記述のうち、

U.職業被ばくに対する線量限度
1.1990年勧告の基本的考え方
(4)これらの理由から、ICRPは、、、、、、、、

によれば、
「1Sv=20mSv×47年間で、損失余命0.5年と考えている」、とのこと。これを基に以下の算出を行いました。

以下に計算例を示します。
 計算例1:1Svの暴露で、発がんして死亡。それによって、一人が発症し、50年の余命を損失したとする。
 平均損失余命が0.5年/人ということなので、50年=0.5年/人*100人分。すなわち、この仮定だと100名に1名という計算。

 計算例2:1Svの暴露で、発がんして死亡。それによって、12.5年/人の余命を損失したとする。
 平均損失余命が0.5年ということなので、12.5=0.5/人*25名。この仮定では、100名に4名が、12.5年ほど寿命が短くなることを意味する。

 以上の数値からみて、どう考えても、0.04%とは桁が2桁違う。むしろ、100名に4名との解釈が正しいと思われる。
 こんな結論になりました。訂正させていただきます。


 この解釈はこのようになる。もしも、なんらかの状況下で、1万人が1シーベルトの放射線被曝を受けたとする。ただし、一気に1シーベルトをうけると、急性影響がでてしまうので、別のケースを考える必要がある。まず、日本人なら年間2ミリシーベルト程度の自然被曝があるので、75歳までで150ミリシーベルト。なぜか、200ミリシーベルトを少し超すぐらいの放射線をしばらく期間を置いて、4回ぐらいを受けた1万人のうち、何人かは放射線被曝が原因でがんになるが、

 100人の人が1Svの被曝を受けたとする。通常のがんの場合なら、最小潜伏期が10年、中央値が16〜24年でがんを発症し、それが元で死亡する人が4名程度。この程度だと、晩発影響なのかどうか、まず分からないだろう。もしも白血病の場合であれば、最小潜伏期間が2年、中央値が8年なので、4名の死亡者がすべて白血病になった場合には、晩発影響の検出が可能かもしれない。

 放射線の人体影響というと、遺伝的影響、すなわち、被曝した本人ではなく、子孫に影響が伝わることを気にする人もいるだろう。しかし、これに関しては、広島・長崎の原爆被爆者に対する詳細な調査が行われ、ヒトの遺伝的影響が増加したという報告はない。

 一方、国際放射線防護委員会のまとめた動物実験の結果では、10ミリシーベルトの被曝でも、0.01%の確率で遺伝的影響が現れると報告されている。

 動物実験だと影響があり、ヒトだと影響が無いのか。その本当の理由は分からないのだろうが、他の発がん物質などのケースを考えてみても、ヒトが持っている損傷を受けた遺伝子修復酵素が強力であること、ヒトは、卵、精子が異常なときに流産を確実に起こすように設計されていると思われること、などの要因があるのではないだろうか。いずれにしても、流産を積極的に止めることは、自然なことではない。

 放射線が「怖い怖い」という思いから抜け出るための知識の一例を示したい。

 10ミリシーベルトなどというと、かなり大量の被曝のように思われるかもしれないが、通常、ヒトが受けている自然放射線の線量は、世界平均で2.4ミリシーベルト/年程度だとされている。

 最大の要因はラドンを吸い込むことであるが、これは欧米に多く、地域依存性が高いが1ミリシーベルト以上の場合もある。ラドンは花崗岩から出ている場合が多いが、日本では花崗岩盤の土地が少ないので、ラドンへの曝露は少ない。

 EU諸国などでは、今回の福島原発の件で、日本への渡航を禁止する方向だという。ところが、EU諸国、特に、北欧などではラドンからの被曝が多いので、日本への旅行を止め、自国に留まっていたら、被曝量は多いという結果になるだろう。

 他の被曝は、
(1)体内からの被曝   0.3ミリシーベルト カリウム40他。
(2)宇宙線         0.28ミリシーベルト
(3)大地放射線      0.32ミリシーベルト
(4)核実験起源      0.05ミリシーベルトぐらいか
(5)その他色々      0.01ミリシーベルトぐらいか
(6)医療X線        0.5ミリシーベルトぐらいか

 このなかで、恐らくご存じないだろうと思うものが、自らの体内からの被曝(1)である。カリウムの多い食品であるバナナは健康に良いとされているが、カリウムには質量数が39のものと40のものがあり、カリウム40は実は放射性元素なのである。カリウムを摂取しないのは不可能であるので、避けようがない。

 EUから日本に来る場合には、確かに(2)の被曝が増えるので、それを気にしてもしも渡航禁止にするのなら、非常によく理解できる(冗談)。

 いずれにしても、放射線の規制値というものは、安全係数を考えて相当な余裕をもって作られているのである。



付録1:原発は、周辺機器の安全係数をより高く改造すべきだ。

 それに引き換え、原発の方は、十二分な安全係数を掛けて設計されていないのが残念なところです。今回も、原子炉本体は見事に止まりました。これは整備状態が良かったと、当然のことではありますが、少々賞賛して上げても悪くはない。

 しかし、非常停止装置の電源が、高さ5mの津波を想定して設計されていた(?)との噂である。あの地域、昔話を探し出してでも検証すれば、過去、最高の高さの津波は、5m以上あったのではないか、と想像する。

 本体の設計は、十二分のマージンをとって行われているのに、もっとも重要な付帯施設である非常用電源のマージンが不十分だったのではないだろうか。

 同じことは、柏崎刈羽原発が地震で被害を受けて、原子炉本体とは全く無関係な変電用トランスの油が燃え出して、黒煙を吹き出している映像が、センセーショナルな画像が大好きなテレビで延々と放映された。

 何も知らないと、大変なことが起きていると思ってしまう。

 なぜこんなことが起きたのか、と言えば、トランスなどの耐震設計は、本体の耐震設計値を一段下げたものが適用されているからである。たしかに、全部を耐震設計にするよりも、その部分の耐震設計の程度を下げる方が、コスト的には有利だろう。しかし、そのコストをケチって、決定的な悪いイメージを一般社会に振りまくことをコスト計算に入れれば、投資の価値はある。こんな学習を柏崎刈羽原発でやったのではなかったのか。

 今回の福島原発の事故で、今後の原発のコストは大幅に高くなるだろう。もう、新規原発はできないかもしれない。最初からもっと安全係数の高い設計をしておけば、その方が結果的にコストが低かった。今更、悔いても遅い。


付録2:原子力トリビア

 地球が原子炉だという話をご存知ですか。イギリスも地球原子炉の上に存在していることになりますね。

 46億年前に地球が生まれたときは、火の玉状態だった。単純な火の玉だと仮定して、冷却速度を計算すると、もっと早く冷えていなければならないという(ウィリアム・トムソンを検索してみてください)。

 現実の地球は、半径6000kmの球形だとして、ほんの表皮を剥けば、その下はドロドロに溶けたの高温状態。なんらかの発熱体があるはずである。太陽の発熱源は核融合だが、地球の発熱源は核分裂である。地球の内部は原子炉なのである。放熱はどうなっているのか、原発のような水冷なのか。いえいえ、単なる空冷です。