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  「思い込み」が決める?不健康   03.15.2009
     



 今回の話題は、環境省が真面目に取り組んでいる「子どもの健康と環境に関する全国調査」の話である。
http://www.env.go.jp/chemi/ceh/index.html
http://www.env.go.jp/chemi/ceh/connection/kodomo_pamphlet.pdf

 子どもは、体の小さな大人ではない。これは良く言われる話だし、その通りである。今回、前向きコホートというこれまでには無い疫学的なアプローチを用いて、子どもの健康に環境因子がどのように影響をしているか、それを明らかにするということが目的である。

 しかし、ものすごく難しい問題である。本当に何か分かるのか。ヒトの健康は、非常に多くの要素によって決まっている。考えるべき要素があまりにも多い。いくら前向きコホートを使った検討ではあっても、完全な把握は難しい。

 上に示した環境省のホームページを見つつ、このような問題に本当に解が出るのか、などと考えつつ図を見ていたら、妙なことに気が付いた。


C先生:子どもは、からだの小さな大人ではない。これは良く言われる話である。その通りである。したがって、胎児のときから、まあ、小学生になるまで、様々なリスクに適正に対処しておく必要はある。

A君:今回の環境省のプロジェクトを見ると、どうも問題にしているのが、次の2つの図で表現されているようです。
 一つは、ぜんそくの増加。もうひとつは、先天異常の増加。




図 ぜんそくの増加推移、先天異常の増加推移


B君:こういう数値を見せられると、どうやってそれを把握したのか、ということが気になる。

C先生:1万分のいくつといった数値は、統計的に難しい領域ではある。現在、日本での新生児は100万人程度。男児がやや多い。1万人に1人となると、日本中で約100人ということになる。
 子どもの健康ということで問題になったのは、最近だと環境ホルモン問題。成長過程に重要な影響を与えるから。
 さらに、メチル水銀などの有害物質も問題だ。

A君:子どもの成長への影響の重要性を考えて、ダイオキシンやノニルフェノール、フタル酸エステルなどの有害性を環境ホルモンという言葉で表現した。

B君:このところ環境ホルモン問題をなぜメディアが報道しなくなったのか、と言えば、それは、非常に重大なことに気付いたからだ。河川水に含まれるホルモン的作用を持つ物質を調べていたら、本物の女性ホルモン、17β−エストラジオールのホルモン作用がもっとも強く、ノニルフェノールなどの人工的物資のホルモン性を遥かに上回っていることが分かった。

A君:女性ホルモンは、体外に排出されるときには、包接化合物というものになっていて、ホルモン作用を失っている。ところが、下水処理の過程で、包接が外れて、またホルモンとしての作用を持つようになる。しかも、女性ホルモンはきわめて分解性の悪い物質なので、下水処理の過程では、完全に分解されることは無い。

B君:要するに、もしもこの問題を突き詰めると、下水処理水を河川に流すことは不可、ということになりかねない。

A君:琵琶湖の水は淀川水系に入って、大阪湾に排出されるが、その間に平均的に3回程度は、下水処理を受けているものと考えられている。このような水を飲料水にすることが良いのか、という問題に対して、答えが出せなくなる。

B君:なかなか本当のことは分からないだろうが、まあ恐らく余り問題はないのだが。

C先生:下水システムというものは、ある意味で現代社会基盤の根幹をなすものであるが、もしも、真剣にゼロリスクを目指すとしたら、水洗トイレというものの存在を否定しなければならなくなる。しかしそれなら汲み取りトイレに戻るのか?

A君:まあ、その必要もないと思うのですが。

B君:しかし、下水処理の普及率が、子どもの健康に影響を与えているという可能性もない訳では無いですね。しかし、河川別で状況が違う。下水処理水が海に入るまでに何回浄水処理をされるか。こんなデータどっかにあるかな。

A君:後ほど調べてみましょう。調べるリストを作ろう。

B君:もしも飲料水が問題なら、ミネラルウォータの販売量も調べないと。

A君:了解。しかし、そんなことを言い出すと、ペットボトル入りのお茶を飲むか。それとも、自分でお茶を入れるか。こんなことだって、調べないと。大体、ペットボトルって本当に安全なの、といったことだって、疑問になってくる。

B君:まあ、それなら、ペットボトルの使用量も調べておくか。

C先生:さまざまな事柄について注目して解析を行うのだろうが、化学物質としては、何に注目をするのだろうか。

A君:岸玲子先生のPPTファイル
http://www.env.go.jp/chemi/ceh/conf/01/index.html
によれば、ダイオキシン、環境ホルモン、PCB、メチル水銀といったところのようですよ。

B君:ダイオキシン、メチル水銀は似たようなものだ。いずれにしても、魚からの摂取が多いだろうから。

A君:メチル水銀で最初に問題になったのが、キンメダイ。しかし、その後、マグロなども問題になった。いずれも、海洋における食物連鎖の頂点にある魚を食べることが問題。当然のことながら、食物連鎖の過程で、生体濃縮が行われているから。

B君:PCBも似たような状況だろう。やはり食品から、特に、魚ではないか。となると、脂身の美味しい魚の消費量の推移が必要ということになる。

A君:しかし、魚には、DHAなどの健康によいとされる成分を含んでいますよね。

B君:老人には良くても、子どもにはダメかもしれない。

C先生:それよりも、良質なタンパク質を摂取することは、寿命には良い。ただし、アレルギーなどに良いかどうか。

A君:食品の話ですか。穀物と果実は大体食べることができるのですが、それ以外のものだと、何かと問題がありますからね。葉っぱにしても、根っこにしても。

B君:確かに、最近、現代人が誤解している最大のものが食品かもしれない。多くの人々が、健康に良い食品、健康に良くない食品という区別が明確にあると思っている。現実は、どの食品もそれだけを大量に食べると仮定すれば健康に良くないが、同じものを大量に摂取しない限り、それほど悪くもない。

A君:ところが、サプリメントをとるということは、大量の単一の食品を食べることと同じだから、サプリメントは多くの場合、良くない。

C先生:そんなところだ。食品本体のリスクを議論しないで、そこに含まれる化学物質などの可否を議論しても仕方がないのだ。

A君:化学物質を食品から摂取するとしても、様々な状況を見てみると、その摂取量は順調に減っている。

B君:確かにその通り。例えば、ダイオキシン。母乳中のダイオキシン濃度は、順調に減っている。

A君:こんなグラフがありますからね。



図 母乳中のダイオキシン

B君:現在、われわれが摂取しているダイオキシンの大部分は、1970年前後に環境にばらまかれた水田除草剤に不純物として含まれていたダイオキシンなのだ。

A君:中西準子先生と、益永先生が解明したダイオキシンの環境への放出量のグラフがこんなものです。



図 ダイオキシンの環境への放出量推移

B君:このグラフは実にインパクトが大きなものだった。そして、このグラフ以来、ダイオキシンは大変な毒物だと言う人は少なくなった。

C先生:その例外が何人か居て、実は、その環境省の委員会のメンバーに含まれている。直接的に個人的批判をしあったのは、遠山千春元国立環境研研究員、現東大教授だ。ダイオキシンに限らないが、危険だ危険だといって、国民を人質に取って、研究費の獲得をするのは良くない。過去、何が起きたかを十分に把握できる研究をしないで、新しい研究費ばかり欲しがるのも良くない。

A君:ダイオキシンの最大の放出量があったの1970年頃ということになっています。この頃に何があったを十分に解明する必要がありますね。70年頃がもっとも排出量が多かったということも、多くの他の化学物質についても真なのでは。

B君:現時点で証明せよと言われても難しいが、恐らくそうなのだ。それに何とか取り組むべきなのだ。

A君:PRTR制度が始まって以来、化学産業から環境に放出されるPRTR対象の化学物質は大幅に減少しています。例えば、こんな傾向が。多くの企業のCSRレポートなどで見られますね。



図 ベンゼンの排出削減。出光のCSRレポートより

B君:PRTR対象外の物質、例えば、家庭で使用されている殺虫剤などの放出の推移も調べないと。

C先生:このところ化学工業はかなり努力をして排出量を減らしてきた。PRTR制度の効果だ。その良い副作用ということで、いくつかデータが見つかるはずだ。

A君:了解。というようなことがあって、以下のような情報を調べてみました。


調べるリスト
(1)下水の普及率の推移
http://www.jswa.jp/05_arekore/07_fukyu/index.html
(2)河川別の下水処理と浄水処理
http://www.pref.saga.lg.jp/manabinetsaga/avance/topics/report91.html
(3)ミネラルウォータの販売量
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/hakusyo/H17/sankou06.pdf
(4)ペットボトルの使用量
http://www.petbottle-rec.gr.jp/data/da_tou_sei.html
(5)化学工業からの排出削減
http://www.idemitsu.co.jp/factory/tokuyama/environment/index.html
http://www.sumitomo-chem.co.jp/japanese/csr/csr_report.html
(6)食中毒の推移
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/iken/dl/031209-1d.pdf
http://www.fsc.go.jp/sonota/poisoningtransition.pdf
(7)家庭用殺虫剤などの排出
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/07/kakanho_wg4/wg_4_pdf/wg4_7.pdf
(8)新生児死亡数
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1120-11n_0003.pdf
(9)妊婦の肥満
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2570415/3778370
(10)中国の炭鉱付近に先天異常多発
元データが見つからず
(11)女性の喫煙率
http://www.health-net.or.jp/tobacco/ladies/mr4000006.html
(12)女性の飲酒
http://www.fsc.go.jp/sonota/54kai-factsheets-alcohol.pdf


B君:下水道の普及率が向上すると、雑菌への暴露などが減少して、それでアレルギーになる、という推定と、ハエなどの害虫が増えるので、殺虫剤を多く使うようになって、そのために、なんらかの不健康状態になるという相反する2種類の可能性があって、なんも難しい。

A君:化学工業からの化学物質の排出は、このところ大幅に減っていますね。家庭用の殺虫剤などの影響の方がすでに大きいような感触ですね。

B君:となると、系統的に調査をすることが必要になる。ガーデニングを趣味として、殺虫剤をかなり多めに使っている家の健康状態が、どう違うかなど。

A君:女性の肥満、喫煙、飲酒が悪いことはどうやら確実のようですね。

B君:ペットボトルの生産量の推移が、以外とぜんそくの罹患率の増加と似ていないか。



図 ペットボトル生産量の推移

A君:まあ、関係は無いことは確実。とも言えないか。雑菌の摂取量と関連があるかもしれない。

B君:食中毒の推移だって、何か関係が無いとは言えない。アレルギーと雑菌への暴露は関係がある。ヒトは60兆個の細胞からなるが、人体には、100兆個の雑菌類があると言われている。特に、腸内にあるのだが、そこ以外にも多い。



図 食中毒の推移

A君:雑菌類がアレルギーと関係するとしたら、ぜんそくと無関係だとは言い切れない。特に、サルモネラ、腸炎ビブリオの減少の傾向は著しい。

C先生:決定的なことは何も言えないが、いろいろな可能性があることが分かったのは収穫だった。今回、もっとも興味を引いたのが、実は、次のミネラルウォータの生産量だった。といっても、極めて細かいところなのだ。



図 ミネラルウォータ生産量推移

C先生:このグラフは、単に右上がりのように見えたのだが、実は、細かく見ると、1999年の国内生産量が多く、そして、2000年には元に戻っている。それが、ぜんそく罹患率にも同じようなピークがある。

A君:なるほど。最初に示した図の左側の図ですね。



図 ぜんそく罹患率の推移

B君:この図でも1999年が多目になっている。ミネラルウォータを買いたくなるような年だと、ぜんそく罹患率が高くなる。

C先生:この1999年という年がどのような年だったのか。実に、日本の環境史に残る事件があって、それが所沢ダイオキシン事件。所沢付近では産業廃棄物が焼却されていたが、排煙処理などが十分ではなくて、そのためにダイオキシンが大量に発生しているとされていた。そして、久米宏氏のニュースステーションで、1999年2月1日の放送で、環境総合研究所のデータを基に、所沢産の葉物野菜から大量のダイオキシンが検出されたと報道したのだ。
 その結果、所沢産のホウレンソウのスーパーなどへの出荷がストップするという風評被害が発生した。
 ところが、その葉物は、実は煎茶が対象で、乾燥しているために数値上大きくでただけ、というお粗末を演じた。

A君:ということは、この年には、というよりも前年も含めて、産業廃棄物の焼却によって大気汚染がひどいという印象を持たせるような報道が大々的に行われていた。

B君:1996年に、環境ホルモンの危険性を始めて指摘した「奪われし未来(Our Stolen Future)」という小説(Scientific Detective Story)が米国で刊行され、1997年には、日本語訳も出た。

C先生:この1998年1999年の2年間は、化学物質に対して、異常とも思える危機感があった2年間だったのだ。

A君:ということは、親に危機感、特に、大気汚染に対する危機感があると、子どものぜんそく罹患率が上がるということを意味していることになる。

B君:それも、一つの可能性を示唆しているだけ、というのが正しい解釈ではあるが。

A君:それにしても、興味深いですね。

C先生:先天異常の発生といった問題は、なんらかの原因を突き止めることが重要だとは思うが、もともとバックグラウンドとしてある程度の確率では起きることだろう。大体、人間の細胞の総数は60兆個とも、それ以上とも言われており、もともとは、2個の細胞から分化してこれができるのだから、明確な原因が無くても、いつでも間違い無しに体が作られる方が不思議なのだ。
 一方、ぜんそくの方は、場合によると親の精神状況が影響する可能性は否定できないように思える。親の思い込みで子どもが病気になることは十二分にあり得ると信じる。

A君:子どもに限らず、環境と健康の話は、どうにも思い込みの要素が大きいように思えますね。

B君:今回は、環境と不健康の話だったが、まさに、健康のための食品とかサプリメントとか、これもどうも思い込みが大きな影響をしているような気がする。

C先生:最近のサプリメントの広告が多いが、一度冷静になって、その成分がどのようなものであるかを調べて、そして買うということが必要だろう。どこで調べるか、などの話は、次回以降チャンスがあれば掲載してみたい。