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 自然エネルギーはどれをどこまで   02.14.2010
     



 環境省の中長期ロードマップ検討会の全体会議の委員を務めている。多くの委員は、4つのワークショップの委員を併任していてノルマが大変だが、全体会議だけの委員のノルマはそれほどではない。

 先日開催された全体会議で、これまで政府が推進してきた自然エネルギー導入シナリオとは違う考え方がありうるのではないか、という15分間のプレゼンを行った。

 要旨は、地熱、中小水力、太陽熱など、電力網に負荷を掛けないエネルギー源をもっと活用するというシナリオも検討すべきである。その理由は、これらのエネルギー源をいずれフルに活用せざるを得なくなるが、その際、社会制度面でのさまざまな問題があることは確実なので、現在から、その問題に対して挑戦をすべきである。



C先生:15分間のプレゼンのポイントは、2020年について2点、2050年については3点。

2020年まで:15〜25%削減
(1)普及を早期に図る必要があり、現在すでに使える技術以外には、可能性が低い。その最適な組み合わせを模索すべきである。
(2)自然エネルギーの追加的な導入を最低でも11%程度行うことが必要。電力網の安定性に影響を与えない電力源を重点的に導入するというシナリオも検討すべき。理由は、社会的な制約が明らかになり、将来への検討課題が明らかになるから。


2050年まで:80%削減
(1)より広範な視点と予測に基づいた検討が必須。化石燃料の部分的な枯渇、人口、などの状況を含む。
(2)技術的な進歩をどこまで読むか?
(3)市民社会の価値観の変化をどこまで予測するか?


A君:2020年というとたったの10年後です。新しい技術などを待っている時間は無い。今存在している技術のコストをいかに下げるかといった対応だけでも、時間的余裕はない。

B君:自然エネルギーといっても、太陽電池の効率がそんなにも上がるとは思えない。まあ、現状の2割増しにでもなればよい。本当の問題は、コストと製品の寿命だろう。

A君:太陽電池の「フラフラ&昼間だけ電力」の貯蔵と平滑化を電池で行うとしたら、やはり電池の寿命が大きい。電気自動車用としてのリチウム電池が、5年間を超す寿命を持ちうるかどうか。

B君:GMは、シボレーボルトという、シリーズ型のプラグイン・ハイブリッド車を導入するようだ。しかし、名称としては、ハイブリッド車という名前を使わない。それは、トヨタとの差別化が大きい。

A君:Extended-Range Electric Vehicleが正式な形式名のようですね。日本語にはどう訳すのでしょうか。

B君:長距離巡航型電気自動車というのはどうだ。中国風の訳だが。

A君:日本だとなんと訳すのでしょうかね。

B君:名前はどうでも良くて、シボレーボルトは、16kWhのバッテリーを搭載し、そのうち半分に相当する8kWh分を使う。このバッテリー、10年の寿命を保証するということなのだが、本当にできるのだろうか。

A君:GMは10年寿命を保証するのですね。これは楽しみ。

C先生:いずれにしても、リチウム電池すら、2020年に長寿命品ができているかどうか。シボレー・ボルトでも、リチウム電池の最大容量の50%しか使わない。そうやって寿命を延ばす以外には無さそうなのだが、電池価格が下がれば、そんな使い方も可能だが、価格が高いと、やはりフルに使いたくなって、寿命が短くなる。

A君:リチウムイオンという大きさのある粒子が電極材料という固体(結晶)の中に入っていく。これは、固体にとって大変なことなのですよ。

B君:電極材料が疲れる。それが寿命の正体。

A君:いずれにしても、現在考えられるすべてのメニューから良さそうなものを選択する以外にない。

自然エネルギーのメニュー

B君:そこで、自然エネルギーとして何がメニューになるのか。日本の場合だと、太陽電池、風力が主力だと考えられている。

A君:風力は、世界的に見ると、結構ポテンシャルが大きい。太陽電池は、なんといっても夜はダメなので、余り良い選択肢ではない。

B君:しかし、土地の狭いところでは、現実的な解だと考えられている。

C先生:日本で太陽電池への期待が大きいのは、基本的にそれぞれの家庭や企業が設置するからだ。個人金融資産が現在1400兆円ぐらいあるとされているが、その大部分は、高齢者層がもっている。それを太陽電池でも買ってもらうことで、流動化したい。これが、どうも太陽電池の本音のように思えるのだ。

A君:太陽電池と対比されるものとして、太陽熱がありますが、狭い屋根を使うとしたら太陽熱は効率が50%を超えるので、こちらの方が狭い屋根でも使える。

B君:しかも、太陽電池と違って、雲などで太陽光が多少隠れても、基本的に積分型とでも言えるエネルギー源なので、問題は起きない。しかも、夜に使うお湯を昼間に作ることで、時間をずらせた使い方ができる。

C先生:太陽熱の優位性は、世界中で認識されているのだが、日本だけがどうも衰退気味なのだ。

A君:その理由は、格好が悪い、原始的といった印象を与えていることと、もうひとつは、朝日ソーラーが販売で不祥事を起こしたこと。

B君:東京都は、どちらかといえば、屋根が狭いのだから、まずは太陽熱を考え、そして、余ったら、太陽電池を考えようという方針を述べている。極めて妥当。
http://www.gepforum.jp/event/090827GEPFseminar/presen/3kobayashi.pdf

C先生:その資料の4ページ目のグラフがなかなか衝撃的で、日本における太陽熱温水器とソーラーシステム(温水タンク別置きで、不凍液を循環させるタイプ)の年間設置台数がどんどんと減っている。

A君:一方、EUでは、どんどんと増加している。

B君:日本における政策の失敗だ。特に、1997年京都議定書ができた年だが、それ以後の日本における太陽熱温水器の減少速度の余りのすごさには驚く。

C先生:1998年小渕恵三首相、2000年森善朗首相、2001〜2006年小泉純一郎首相。この3名の辞書には、気候変動という言葉は無かった。

A君:この空白期間が、今となっては「逆行の時代」としか言えない時代だった。

地熱・中小水力など ポテンシャルが重要

C先生:イントロが長くなったが、太陽熱利用、さらに、地熱、中小水力などの導入をすべきだという主張を中長期ロードマップ検討委員会でしたのだ。その導入量を次のように表現した。

仮定:2005年のエネルギー使用量を原油換算で4.13億kL(16000PJ)とする

導入目標:11%削減に相当する4500万kL相当の再生可能エネルギーの導入

内訳:
◆地熱で1600万kL(ポテンシャル50%)
◆中小規模水力で700万kL(〃50%)
◆太陽熱(エコキュート付属タイプ+ガス追い炊きタイプ)で300万kL(〃60%)
◆バイオエタノール400万kL分ブラジルから輸入
◆バイオマス熱利用300万kL
◆風力・太陽電池その他で1200万kL

A君:このポテンシャルが正しいかどうか、どんな研究があるかをチェックするのが本日の目的

B君:この表記だと、石油換算kLで表現されているが、文献上では、様々なエネルギー単位が使われているようなので、その検討から行くか。

A君:資源エネルギー庁のエネルギー需給の調査は、PJを単位にしている。Pはペタで10の15乗。

B君:このデータは面白い。(総合エネルギー統計)
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/resource/pdf/091030.gaiyou.pdf
2008年度の最終エネルギー消費量が、2007年度に比べて、なんと6.8%も減っている。

A君:産業部門が7062PJから6288PJまで減った。なんと11%減だ。

B君:PJを原油換算kLに変換するには、原油1kLの発熱量が必要と。原油1Lの発熱量を9250kcalとして、ジュールに換算し直せばよい。
  1万kL=0.387PJ

A君:東京ガスによる日本のエネルギーというHPで、2007年度の合計量が4.10億kL。一方、資源エネルギー庁の2007年度の最終エネルギーが15790PJ。
 これから計算すると、
  1万kL=0.385PJ
原油の発熱量をどう算定するかを考えれば、誤差のうち。

B君:資エネ庁の報告には、どんな数値を使ったかも書かれている。基礎定数として、標準発熱量、実質発熱量があるらしい。

A君:エネルギー関係も結構お宅的で、なかなか付いていけない。
 どうも、
http://www.rieti.go.jp/users/kainou-kazunari/download/pdf/taro11-x1031ebs_8.pdf
この文書が良さそう。

B君:なるほど、原油の発熱量で9250kcal/Lというものは古いようだ。今は、9126kcal/Lか。

A君:それだと、今度は値が小さくなりすぎる。まあ、マニアックな人でなければ、十分な精度だということにしますか。

B君:この文書によれば、
http://www.rieti.go.jp/users/kainou-kazunari/download/pdf/2004EBXRCP1000.pdf
従前の原油換算といった単位は使わない。以後は、PJで表現しなければならないと書いてある。

C先生:ということは、環境省の中長期委員会でも、PJを使うべきだったということか。今後、努力しよう。

A君:それではやっと本論に入って、地熱発電のポテンシャルから。

B君:「地熱 ポテンシャル」でGoogleを検索してみると、古い文献などにもぶつかるが、大量にデータがあるようだ。
 1973年の文献だ。
http://www.gsj.jp/Pub/News/pdf/1973/01/73_01_01.pdf

A君:その文献によれば、一つは1億数千万kW、もうひとつは、それより1桁少ない1〜2千万kWがポテンシャルとなっている。
B君:待ってくれ。地熱のポテンシャルはkWなのか。それは出力ではないか。しかし、熱出力なのか電気出力なのか。

A君:その文献を読むと、「電気になるときの効率が考慮されていないので、それを12%として、。。。。」という記述があるので、電気出力のようです。

B君:1千万kWという発電ポテンシャルだったとすると、1年間を約9000時間だとすれば、9000倍して900億kWhの電力がでる。

A君:日本の年間総発電量が12000億kWh。
http://www.iae.or.jp/energyinfo/energydata/data1006.html
1千万kWが地熱のポテンシャルだとしたら、これによる発電量は、電力の約8%程度にはなる。

B君:産総研の推計によれば、どうも日本の地熱発電のポテンシャルは、村岡氏らによって、2357万kWとされている。
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g81201a05j.pdf

A君:そうだとすると、日本の電力の20%近くが地熱で行けるということになる。

B君:しかし、この文書にも書かれているように、150℃以上の熱水資源の81.9%は国立公園内にある。

C先生:このポテンシャルをPJに換算するか、あるいは、原油換算の万kLに変換しないと、やはり議論ができない。

A君:PJを使わないと古いと資エネ庁に言われても、万kLという方がどうもピンと来る。日本は年間約4億kLというのが頭にあるので。

B君:1万kL分の原油の発熱量は、1.07億kWhに相当。これを1年=8766時間とすれば、1.22万kWの出力で、常時運転していたことに相当する。

A君:まあ、1万kL=1.22万kW。さらにエイヤと言えば、1万kL=1万kWだと思っていても、直感としては良いということで、便利。

C先生:太陽光発電のポテンシャルが1億kWだとしても、昼間しか動かないし、朝晩には効率が下がる。雨が降れば動かない。ということで、稼働率が問題になるが、そのあたりはどうしているか。

A君:風力も同様で、風が吹かなければどうしようもない。これを設備稼働率と呼ぶようです。設備稼働率の概ねの値が、18%ぐらい。太陽光だと10%程度。それに対して、地熱とか中小水力は65%ぐらいはある。

C先生:ということで、発表用に使わせて貰ったのは、こんな数値だ。



表1 日本の各種再生可能エネルギーのポテンシャル

出典は、中長期委員会の未公開資料。その元となっているものは、
太陽光が
http://www.nedo.go.jp/informations/other/161005_1/161005_1.html
地熱は先ほどすでに出した
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g81201a05j.pdf
中小規模水力が
http://www.enecho.meti.go.jp/hydraulic/data/dl/houkokusho.pdf
風力を含め全体的には
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/conf_re-lcs/rcm/ref02.pdf

太陽熱のポテンシャル

A君:太陽熱利用の話になると、これまた色々な予測がある。

B君:上述の環境省の報告書では、1200万kLから3342万kLまで、様々なポテンシャルの推定値がある。

A君:色々な仮定があるが、どれがどのぐらい実現可能性があるのか、よく分からない。

B君:4平米の集熱器を何戸の住宅に設置するという考え方もある。中長期ロードマップの事務局は、そんな考え方だ。

C先生:新規設置台数はどんどんと減っているのだが、2005年で350万戸に設置されているらしい。

A君:ソーラーシステム振興協会のHPによれば、累積の出荷台数は、太陽熱温水器が668万台、ソーラーシステム(温水タンク別置きタイプ)が64万台。

B君:それが現時点で何台残っているかという話か。それは難しいが、半数が残っているとして350万台。

C先生:東京都の目標、「2016年までに、都内に100万kW相当の太陽エネルギーを導入することを目指す」の中で太陽熱としては、ここ2年間で4万世帯を目指している。ところが実際にはなかなか応募がないらしい。

A君:太陽光の場合には、高く買い上げるという方法があったのですが、太陽熱だと、設置補助はできても、太陽熱活用量を買い上げるというのがなかなか難しい。メーターを付ける訳にもいかない。

B君:先ほど述べた4平米の集熱器を全住宅に付けると、190PJのポテンシャルがあるという計算結果。

C先生:120PJを新規に追加できれば、300万kLぐらいになる。すべての給湯器に太陽熱利用を進めて、ベランダなどへの設置でもかなり効率アップにはなる。そのぐらいは行けるのではないか。

A君:これでC先生の発表の根拠がほぼ出揃った。

あり得る反論は?

B君:このやり方だと、色々と問題があるという反論が来ることだろう。太陽熱利用は別として、地熱、中小水力、というエネルギー源は、24時間安定して同じ出力を出すことができる。ということは、ベースロードとなる原子力と同じような性格だということになる。

C先生:太陽光発電を増加させると、その揺らぎを補う必要があって、火力発電が通常その役割を果たす。電力平滑化技術が必要なのだが、これまで二次電池は、余りにもコストが高いとされてきた。

A君:そこに電気自動車が出現しそうだ、というのがスマートグリッドなどを考える根本的な理由。

B君:しかし、日本の場合も、米国の場合も、余り問題はない。2020年までであれば、石炭もベースロードに近い性格なので、石炭火力を自然エネルギーで置き換えるだけ。

A君:しかし、石炭火力発電は、1980年以前はほとんど無かった。それが、急速に増え始めたのは、やはり経済性が理由だった。そして、2004年ぐらいまで直線的に伸び続けて、現時点では電力の1/4は石炭火力で発電されている。ということは、比較的新しい発電設備であるということになる。

B君:石油はコスト的な観点から逆に1980年以降、発電量がどんどんと下がっている。太陽電池が普及すれば、石油などのように、小回りの利く発電が使われるようになる。電力会社にとって、どちらが嫌かという話になるだろう。

C先生:そこで、電気自動車が搭載しているリチウム電池をどう考えるかということになる。1台の電気自動車に10kWh程度の電池が搭載されて、毎晩充電されるとすればどうなる。

A君:取り敢えず100万台としますか。1000万kWh/日。36.5億kWh/年。日本の総発電量がほぼ1兆kWhだとすると、余り問題にならない量。
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2007energyhtml/excel/214-1-6.xls

B君:3000万台となると、これは相当なものになる。現時点での乗用車の半分程度ということだが。
http://www.airia.or.jp/number/pdf/03_1.pdf

C先生:このぐらいの台数が電気自動車(コミュータ的な性格の車)になると、深夜電力需要が増えて、地熱とか中小水力などの電力が丁度それを補うようになるかもしれない。

A君:いずれにしても、2020年に、自然エネルギーを現時点よりも11%以上増加させるということが、意外と難しいことが分かる。

B君:11%という数値は、1990年比で15%削減をするとき、自然エネルギー導入で11%削減、省エネで11%削減で実現するという数値。だから、25%削減となると、さらに苦しいことになる。ほとんど不可能のレベルかもしれない。

C先生:もっとも、電気自動車が3000万台導入されているということが実現すれば、省エネがもっと進んでいるということを意味するかもしれない。
 ということで、自然エネルギー話はなかなか難しい。しかし、エネルギー自給率の向上は基本中の基本なので、将来頼りになりそうな、高深度地熱のような技術開発を進めるべきだと思う。
 むしろ省エネの方が、すでに絞った雑巾と呼ばれている日本でも、家庭部門、オフィス部門、運輸部門はまだまだなんとかなりそうなところが多い。むしろ省エネの方が簡単かもしれない。
 しかも、旨くやれば、省エネ機器の開発は日本を支える未来産業にもなる可能性がある。
 ということではあるが、いずれにしても2020年25%削減は、余りにも難しそうだ。やはり、10%程度は、海外での削減を実現し、クレジットを獲得することだろう。そのための枠組を作るべきだ。
 12月の新成長戦略で言う、日本の技術で世界で13億トン(日本の排出量に匹敵)の温室効果ガスを削減する、という心意気は良いかもしれない。