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   グリーン・イノベーション再考 
 2011.11.06




 昨日11月5日は、平成23年度めぐろ環境ナビゲーター養成講座(第4期)の第二回目の講座の講師を勤めました。毎年講師をやっているような状態ですが、今年は、エネルギー話。最後に、放射線のリスクをどう理解するかの話をして、質問をしてみました。

 「ラジウム温泉、ラドン温泉に行けば健康になるというけれど、そこで受ける放射線は、セシウムから出るものと変わらない。セシウム温泉は体に良い、と言われたら、そこに行きますか?」

 環境ナビゲータになるために応募した人々でも、知っている人はかなり少なかったようです。

 その前の、11月4日、和歌山市で、花王の「いっしょにEcoシンポジウム」が開催された。200名の参加者があった。そこで、「未来とエコイノベーションをみる視点」という講演をさせていただいた。

 そして、火曜日11月8日には、東大小柴講堂でインペックスの政策研究寄付講座が主催する「グリーン・イノベーション」の講演をさせていただくことになっている。

 このあたりでエコイノベーションとか、グリーン・イノベーションについて、もう一度その本当の姿を考えておこうというのが、今回の趣旨である。

 最近のやり方が良いかどうか不明ではあるが、それを踏襲して、ここに、
http://lebenbaum.art.coocan.jp/PPT/1106HP.pdf
使用したパワーポイントファイルを20枚程度を提示して、その内容について記述をしていくという形式を採用してみたい。



1枚目 まずはイノベーションの定義
 辞書的な定義から行きたいと思います。イノベーションという単語は、In+Novusが語源であるInnovateの名詞形。In=make、novus=newですので、何かを新しくするということではないでしょうか。英語で言えば、Createという単語よりも、Renewという単語に近いのではないか、と思われます。全く新たに何かを作り出すことではなく、すでに存在するものを壊して、新しいものを作るという意味ではないでしょうか。
 日本で最初にこの言葉が使われたのは、1958年の経済白書の中らしく、そのときには、技術革新と訳されました。しかし、技術を対象とするだけでは、意味が狭すぎるようです。


2枚目 2006年科学技術白書
 2006年の科学技術白書では、オーストリアの経済学者、シュンペーターの定義を採用しています。彼の著書「経済発展の理論」(1912)のなかで、経済発展には、人口増加、資本増強などよりも、イノベーションのような内的な要因の方が主要な役割を果たすと記述しています。そして、イノベーションの必須要素として、次の5つを指摘。
(1)創造的活動による新製品の開発
(2)新生産方式の導入
(3)新マーケットの開拓
(4)新たな資源の獲得
(5)組織の改革
 この5つをみれば、1958年の経済白書の定義である技術だけが革新されても、イノベーションにはならないことがよく分かります。


3枚目 内閣府のイノベーション25
 2007年、当時は安倍内閣でしたが、2025年を見据えたイノベーション25という概念が作られました。そこでの記述も、技術革新だけではない枠組みを提示しています。
 同時に、これまでの個別産業育成型、政府牽引型から、国民一人一人の自由な発想を重視する「環境整備型」への移行が重要だと指摘しています。同時に、地球温暖化への対応は、20世紀型ではない21世紀型の仕組みが必要だと指摘しています。
 環境整備型の仕組みだけで、21世紀型の取り組みが可能になるのかどうか、その議論は後ほど話題にしたいと思います。


4枚目 環境基本計画、市場のグリーン化
 環境基本計画にもイノベーションを組み込むべきでしょう。個人的なイノベーションの定義は、次の3つのステージで進行するものだと考えています。
 Stage1:なんらかの価値の創造
 Stage2:社会への実装
 Stage3:人々の考え方が変わる:変革
ところで、価値とは以下のようなものではないでしょうか。「新規製品、技術、サービス、価値観、思想、習慣、生活感、教養、科学など」
 このように考えると、本当のイノベーションは、人類史レベルで考える必要があることなのかもしれません。何がイノベーションだと思われますか?


5枚目 人類史的イノベーション
 ここに人類史的なイノベーションと思われるリストを作ってみました。そのうちいくつかにコメントをしてみたいと思います。
 まずは、「火を使いこなすこと、調理をして食べること」。これがもっとも重要なイノベーションだったかも知れません。なぜならば、火が人類を人類にした、言い換えれば、猿よりも圧倒的な進化を進めた根本的な原因が、この火と調理ではないか、と考えられるからです。
 サルから分かれて600万年から700万年。先祖であるサルは、この間にそれほど進化しませんでした。火を使い始めたのは、恐らく50万年前ぐらい。現在の人類ができあがったのが20万年前だとすれば、それより遙かに昔のことです。
 どうやって進化が速かったのか。その一つの要素が、食事に要する時間が調理をすることによって短くなったことです。もちろん調理の直接の目的は、食品の貯蔵と有効利用のため。具体的には、微生物を殺し、食中毒を避けるためでした。しかし、結果的に、でんぷんなどは消化しやすくなって、人類はその気になれば、15分×3=45分ぐらいの時間で、1日分の食事をとることができるようになりました。
 一方、サルは食事に少なくとも4時間程度を掛けています。餌を探し、そして、長時間食べ続ける必要があるのです。それは、食物の消化速度が遅いからだと考えられます。
 もう一つだけ説明すれば、個人的には天体望遠鏡を挙げたいと思います。ガリレオが1611年に発明したとされる望遠鏡ですが、これは、単に遠くが見えるようになったという道具ではありません。星の運行状況を観測し解析するために必須の道具なのです。
 ガリレオ時代までの科学は、科学ではありませんでした。アリストテレスの時代から哲学が科学の役割を果たしていたのです。ヒトは頭が良いので、一所懸命考えれば、宇宙・地球のすべての仕組みを見抜くことができる、と考えれていたのです。しかし、星の運行状況を厳密に観察することによって、最終的にはコペルニクスの地動説に至るのです。すなわち、科学には、まず観察・観測という行為が必要だということを証明した最初の機器が、望遠鏡ではないか、という感触からこのようなことを申し上げているのです。


6枚目 ドラッカーが述べるイノベーション
 最近、ドラッカーは映画にもなったようです。1985年に書かれた「イノベーションと起業家精神」を読んでみると、当時の日本がかなり高く評価されていることが分かります。どうやら、その当時、日本はイノベーションの実践国そのものだったようです。
 ドラッカーの言う7つの機会は、いまでも正しいように思えます。
 7つのうち、グリーンイノベーションを考える上で、重要なことは、「現実にあるものとあるべきものとのギャップを考える」、「人口構造の変化に着目する」、「認識の変化を捉える」の3つかと思います。
 今回、人口構造の変化の話は、時間の関係でスキップします。また、「あるべきもの」の話は、最後にちょっと振れたいと思います。
 「認識の変化を捉える」ことの重要性は、今回の東日本大震災によって、日本国民が必要だと思うことが変わったのか。多分、東北と関東では変わったということをどう考えるかということで、重要かと考えます。


7枚目 破壊的技術とイノベーション
 もう一つ重要なことが、イノベーションには、価値の破壊という概念を含むことです。すなわち、確立した技術が、イノベーションによって破壊されるのが当然だということです。
 このテーマに関しては、クリステンセンの著書、「イノベーションのジレンマ」が有名です。
 このスライドは、いくつかの例を示しています。グリーンイノベーションを考える上で、もっとも重要な指摘は、電力会社が分散発電によって破壊されるというものではないでしょうか。分散発電としては、自然エネルギー、燃料電池などが相当するでしょう。
 このクリステンセンの著書の主張をどう解釈するのか。それは、もしも電力の分野でイノベーションを実行するのであれば、電力会社の役割が変わることは当然であるというメッセージが強力に出されること。さらに、現時点での強力な規制の一部を実際に解除することが必要なのではないでしょうか。


8枚目:新成長戦略とグリーンイノベーション
 平成22年6月にまとめられた成長戦略では、グリーン・イノベーションの重要性が述べられています。また、平成23年8月に閣議決定された科学技術基本計画には、個別の技術のリストのようなものまで記述されています。
 その中では、社会インフラのグリーン化の記述もあり、具体的には、電力、ガス、水道、交通などの社会インフラと一体となった巨大ネットワークシステムという言葉で、いわゆるスマートグリッドを意識した記述があります。まず、スマートグリッドに関連する交通がどのような状況になることが予測されているのでしょうか。


9枚目 IEAによるEVとPHV予測
 それは電気が交通の動力になることを意味しています。
すなわち、電気自動車EVとプラグインハイブリッドPHVが普及するということを意味します。
 この図は、IEAが発表している予測でして、2035年まで、次世代自動車の実体はEVとPHVであり、比率にすると1:5から1:3ぐらいの割合で普及することを予測しています。
 日産のゴーン社長は、依然として電気自動車が究極の自動車技術であり、HVやPHVはそれが普及するまでのすき間技術であると主張していますが、それは相当な的外れだと指摘すべきかと思います。
 充電時間という拘束を逃れない限り、EVは普及しないのです。
 民生用途の電源をグリーン化するという考え方は重要で、IEAは、2035年に、1kWhの電力のCO2原単位が100g台になることを想定しています。


10枚目 未来型電気自動車のイメージ
 タウンコミュータ型が電気自動車の生きる道だということは、ほぼ合意されていると思います。やはり夜間8時間程度で充電し、昼間に走行。電池の寿命を伸ばすために200Vの電源で充電すれば、20kWh程度が電池の最大容量になります。これだと、100km走るのが実用上の限界でしょう。
 カーシェアリングが普及すれば、100km以上走る場合には、途中で車を乗り換えることが可能でしょうから、これでも普及するのです。
 タクシーの場合には、バッテリーをすべての電気自動車タクシーが共有して、バッテリーを瞬時で交換する仕組みを作れば、いくらでも長く走ることができるようになるでしょう。
 米国テスラモーターのように、非タウンユースのために、大容量バッテリーを搭載した車がありますが、これはなぜでしょうか。テスラロードスターは、56kWhもの電池を搭載していますが、もともとこの車は3台目の車として売ることを考えて作られているのです。1台目は通勤用、2台目はSUV、そして3台目のスポーツカーです。休日に運転を楽しめば、次に乗るのは、また休日なのです。充電に48時間掛かっても問題はないのです。


11枚目 社会システムの変更
 車の共有化、言い換えれば、公共財的な管理方法に変えることは、民間でも不可能ではありません。しかし、タクシーのバッテリーを交換可能にするといった考え方をしたとき、全国一律の標準規格があった方が合理性が高いでしょう。場合によったら、世界一律の標準規格の方がよりよいかもしれません。
 ところが、日本は国際的な標準を提案することが極めて不得意な国です。むしろ、提案すると負けるという学習を何回も行ってきたため、提案しないという方針をよしとしているようにも見えます。
 しかし、日本だけが提案することができるという技術があるのです。それが、実は省エネ・省資源技術です。なぜならば、日本人ほど自然に省エネ・省資源を受け入れることができる国民性は世界にはないからです。
 ところが、このような共通規格は、産業界からは受け入れられないのが、通例のようです。


12枚目 グリーン技術には社会的推進力が必要
 さきほどの例で、カーシェアリングは民間の力で普及できるのに、なぜ、バッテリーシェアリングは普及しないか。その答えを標準化に求めました。これをより拡大するとどうなるのでしょうか。
 この図は、イノベーションがなんらかのニーズに答えるために起きるとしたら、そのニーズには、違う場合あるということを意味するのではないでしょうか。
 公害が激しかったころ、公害によって健康被害を受けることを避けたいという個人的なニーズはありました。しかし、現時点での環境問題、たとえば気候変動にしても、異常気象がそろそろ酷くなっているとの認識は多少あるにしても、それが温室効果ガス削減の駆動力になるには、もう少々の時間が掛かるように思います。やはり、温暖化防止の方針は、国が国益・国民益・地球益を考慮して決めることで初めて動くのです。
 この図は、市民が直感的に理解することが難しいタイプのイノベーションと、たとえば、現時点で言えばスマートフォンのように、直感的にニーズが分かるイノベーションと二種類のイノベーションがあることを示すために作りました。それを論理的ニーズと表現しています。
 環境エネルギー系のニーズについては、どうもこの論理的ニーズに分類されるようなのです。


13枚目 電力網改善のニーズは、やはり電力のグリーン化
 このスライドは、電力というものに、これまで一般市民がいだくことのなかったニーズというものが出てきた状況を記述しています。
 放射線のリスクを過大に理解する人が多いために、ある政治的な意図にこれを利用しようとしている人が多いように思います。
 しかし、本当のニーズは、電力のグリーン化であり、それによって実現するエネルギー安全保障なのではないか、と考えます。


14枚目 電力網の今後の図 その1
 この図が電力網の2020年頃の実体を示すものだと思います。
 スマートグリッドといっても、せいぜいスマートメーターが普及している程度でしょう。


15枚目 その2 電・熱複合型スマートグリッド
 これが2020年以降に実現すべき、電力と燃料電池による複合型スマートグリッドではないでしょうか。


16枚目 電・熱複合型の装置SOFC完成
 その最大のツールである新型燃料電池SOFCがとうとう今年の10月17日に発売されました。ところが、商品名がエネファームと以前と同じ名称なもので、誰も新しい商品が出たと思っていないのではないでしょうか。
 この装置の最大の特徴は、エネルギー効率が極めて高いことです。家庭に最低100W、最大700Wの超高効率発電機が設置されることになるのです。発電所で天然ガスを燃やすよりも遥かに高効率です。若干の問題は、深夜の発電量をどこに使うかぐらいでしょうか。


17枚目 2035年頃の電力網
 電力をグリーン化するためには、自然エネルギーの最大限の導入、もしくは原発の増設が不可欠です。日本国民が選択する方向は、どうも原発増設ではないようですので、大量の自然エネルギーを導入するための工夫が必要でしょう。
 その時点で直流幹線網は完成していないとすれば、不安定な自然エネルギーを電気自動車の蓄電池の充電のために使う専用の直流送電網をローカルに作ることになっているかもしれないです。


18枚目 2050年頃の電力網
 ほぼ直流幹線網が完成し、大量の自然エネルギーを導入することができるようになり、揚水発電が巨大電池の役割を果たすようになっています。


19枚目 最後にあるべきものの話を
 ドラッカーは、あるべきものを最初に議論することで、イノベーションが推進できると考えていたようです。現代の言葉で言えば、バックキャスティングとでも言うのでしょうか。先にゴールを決めて、それからゴールへの行き方を考え、必要な変化を行うことです。
 グリーン・イノベーションの目的は、実は、雇用を増やし経済活力を高めることが目的なのかもしれませんが、その遠いゴールは、やはり人間活動の持続可能性にあるように思います。
 持続可能性というものの答えは、実は、すでに出ていると考えています。1987年のブルントラント委員会の指摘である「未来世代との世代間調停」がその一つ。
 そして、もう一つの究極的な持続可能性は、1972年にデイリーが述べた「定常状態経済」ではないでしょうか。この指摘は余りにも正しすぎて、長い間無視されてきました。


20枚目 やや具体的な場合での対応を記述したものがこのようなものになります
 再生可能資源であれば、木材・紙や薪・炭、漁獲量、水などについては、やはり再生速度を超えた使用は破綻に繋がります。
 再生不可能な資源は、なかなか難しいのですが、その一部を再生可能なエネルギーの発生に投資するのは正しいでしょう。
 金属などの鉱物資源には、この条件は直接適用不可能ですが、エネルギーを投入すれば、水平リサイクルを行うことが可能ですので、最終的にはエネルギーの使い方に帰結することは正しいでしょう。
 汚染物質については、通常の公害型の汚染物質であれば、健康被害のような直感的なニーズを満たしますので、先進国では現時点ですでに解決が進んでいます。しかし、温室効果ガスやオゾン層破壊物質のように目で見ても分からない現象については、やはり「論理的ニーズ」を理解するというプロセスが必要で、これを推進する役割は、やはり国際社会であり、国というところにあるのではないでしょうか。


21枚目 しかし、一気に行くのは無理
 環境問題の難しいところは、やはりバランスが重要で、軟着陸を目指すべきことだと考えます。ハーマン・デイリーの考え方を経済活動の条件の一つに入れて、今すぐ実行しようとしても、連立方程式を解いたら虚数解になるようなものです。
 できるだけ、長期的な視点で考える事、特に、未来をみつつ決断をするということに勤め、軟着陸を早めること意外に解決の道はなさそうです。