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    こんなやり方でSDGsに取り組もう2  
       ガラスびんリユースを例に:その2
 12.23.2018
               



 前回の続きです。今回は、ガラスびんリユースとは何か。どのような環境負荷があるのか。ガラスびんの将来の役割は何なのか。などなどを記述し、「SDGsの一つの活動として、ガラスびんリユースに取り組むとどんなことになるのか」、を例示することが目的となります。

  
C先生:ということなので、まずは、ガラスびんリユースの現状あたりから行こう。

A君:はっきり言えば、ガラスびんリユースは絶滅危惧種です。そもそも、世間的な認知度がほとんどない。特に、若者は全く知らない。ビールびんでビールを飲む人も、かなり限定的。飲み屋でビールといって注文するときも、「びんビール3本」という注文よりも、「生中!」、「同じ!」といった注文の仕方が99.9%以上。その場合のビールは、恐らく、金属製のビールタンクで配送されてくるので、そのタンクは当然繰り返し利用ですから、実は、輸送に関わる環境負荷は低く、さらに、容器の製造に関わる環境負荷もかなり低いと思われます。したがって、本当の問題は、ビールを家庭で飲むとき。多くの場合には、商品の重さを考慮して、アルミ缶入りを買うのが一般的。びん入のビールを買って、自宅に持ち買えるのもなかなか重い。すなわち、利便性が優先されているのが現状。それでも、宴会などで、ビールびんが並ぶと、その場の雰囲気が盛り上がることはあり得ると思われますね。

B君:ビールよりも問題が大きいのは、日本酒。やや価格の高い日本酒は相変わらずガラス瓶が主流。なかでも一升びんは、リユースびんで、回収されて使われるのだけれど、実は、飲み屋などでの一升びんが回収されているかどうか、それは飲み屋の方針による。なぜならば、多くの都会の飲み屋にとって、空びんを置く場所がないのが普通だから。

A君:それに最近の清酒醸造元は、一升瓶でも、ダンボールで出荷するところが増えてきたのです。リユースするには、帰りのトラックに搭載するための、プラスチック製の箱が必要なのです。要するに、使い捨てのダンボールというものは、価格的にみれば、効率的なのです。利便性も高いのです。前回から述べているように、日本社会というところは、環境負荷がどうだろうが、利便性と効率性の高さを求めて、ある意味でここまで経済成長してきたのですが、実は、パリ協定で世界の流れの方向は完全に変わったのですが、残念ながら、日本の個別企業で、それに気づいているところはかなり少ないのです。大企業は実は、気づいているのですが、それを明確に表明しない方針をとっているところが多いのです。その理由は、対応にコストが掛かるから。結果的に、ガラスを作るときに発生するCO、輸送に関わるCO、などなどは無視ということになるのです。

B君:鉄鋼業ぐらいの重量級の産業になると、当然、パリ協定は自社にとって、大きなリスクであるし、先進企業であることを示さないと、将来がないことは分かっているので、2100年には、水素還元法によって、COゼロの製鉄プロセスにする、といった方針の表明が行われるようになったのだが、清酒業界のように、極めて地場産業的なものでは、まだまだ意識すら何も変わっていない。パリ協定の存在すら知らないかもしれない。

A君:清酒という産業を所轄しているのは、国税庁なのだけれど、国税庁を通して、清酒業界にプレッシャーをかけることになるのです。日本政府の状況を見ると、これもかなり実行可能な状況になりつつあると理解していますけど。

B君:一升瓶が、清酒業界の環境対応のシンボルなのだけれど、そのリユースもいささか怪しい。さらに、かなり一般的ないわゆる4合びんは、実は、余りにも多種多様なびんが存在しているもので、リユースが難しすぎる(実際、不可能に近い)という難点がある。

A君:しかし、多くの高級酒が独自の4合びんで販売されているのが実情。これを統一するという機運がでるかどうか。それも、そろそろ不可能な問題になったような気がすることはするのですが、何と言っても、日本という社会にしかないことを変化させるのは、海外と共通の何かを変える場合と比較すると極限的に難しい。

B君:やはり、日本企業の「利便性と効率性重視」、かつ、「それ以外は無視の姿勢」が仇になっている。

C先生:大体の状況は分かっていただけると思うので、そろそろ本題に入ろう。それは、「リユースびんは本当に環境負荷が低い製品なのか」

A君:それを議論するには、いくつかのシナリオで検討することが必要ですね。比較対象は、ガラス製に限ります。なぜならば、プラスチック容器になると、そもそも使い捨てが99.9%以上。欧米ではかつて、ペットボトルのリユースをドイツ・デンマークなどの国では行っていたのですが、少なくともドイツの場合だと、容器のデポジットが1988年に制度化されて以来、国民にとっては、リユースとリサイクルの区別が分からなくなって、どうも結果的に、リユースは大幅減少したというところまでしか、情報がないですね。

B君:あるある。ドイツでは、2003年1月1日にリユース容器のリユース率が2年連続72%を上回った場合には、リユース認定を認めず、強制デポジットの対象にするという制度ができた。強制デポジットとは、非炭酸系清涼飲料、ワイン、牛乳、紙パック入飲料、乳幼児用飲料以外のワンウェイ容器、を対象にして、1.5リットル以下の飲料容器には25ユーロセント、1.5リットル以上だと50ユーロセントのデポジットを課すもの。
 この情報は、経産省から得た。
http://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/research/pdf/model15-2_ap2.pdf
 ドイツの場合、ビールは大体「地ビール」なので、ビールのびんはガラス製のリターナブルびん。その場合には、デポジットは8ユーロセントと、ワンウェイの容器よりも割引になっている。

A君:ドイツ人の地ビールへのこだわりは相当強いケルンのビールは、「ケルシュ(Kolsch)」と呼ばれ、色は薄く、味も軽い。

B君:それに対し、ミュンヘンのビールは重いミュンヘンの人々は、ビールの本場だと自認しているので、ケルンのビールを非常にバカにしている。よくあんな不味いものを飲むなあ、という感じ。

A君:結果的に、ビールは地ビールの集合体になっています。そのため、びんも狭い範囲でリユースができている。

B君:だからという訳ではないけれど、ドイツ人には、リサイクルのデポジットを受け入れる素地がある。環境へのこだわりが強いからだ。

A君:日本の場合、ドイツほどの制度を作るのは非常に難しいのが現状。ヨーロッパでも、ドイツは、日本とは逆の意味で、やや特異な国だとも言えるものの、やはり日本の特異性は、すでに述べた消費者の利便性、企業の効率性が支配原理なのだ、ということで理解できるのですが、この点では、アメリカよりも世界的異端の国でしょうね。

B君:日本人は、こだわりが非常に強いので、何かを変えようとするときには、世界標準の「雑さ」が受け入れられず、負ける。パリ協定は、すべての人に基本的なマインドの変更を迫っているのだが、そもそも、その認識が日本には十分行き渡っていない。多少不便である方が、地球環境の保全、特に、陸上生態系、海洋生態系の保全と温暖化防止を考えると、実は、先進的だ言える場合が多い、という文明改革をする時期になっているのだ。

A君:さて、本題に戻りますが、日本の国ような状況で、リユースびんの環境負荷は本当に低いのか

B君:それについては、いくつかのLCA的研究がなされている。その概要を述べると、非常にざっと言えば、リユースびんの方が環境負荷が低いケースとは、回収のためのエネルギー消費量が、新しくガラスびんをつくる際のエネルギーと比較して、どのぐらい低いか、ということになる。当然、洗浄などの手間とかエネルギーも掛かるのだけれど。

A君:回収は、トラック輸送によることを前提とした計算になっていて、最悪のケースで評価されているようです。最悪とは、回収したびんしか運ばない。しかも、片道は空荷で移動する。そんな仮定だと、目安となる輸送距離が100kmぐらいまでとのこと。もし、帰りに別の荷物を運ぶとすれば、輸送距離が200kmぐらいとなるのでしょうね。

B君:まあ、細かいことは、これから先の議論ではどうでも良いのだ。それは、今後、輸送に関わるエネルギーが、トラックの場合であれば、ディーゼルエンジンだったものが、将来は、電気に代っている。その電気もゼロカーボンの電力、すなわち、なんらかの再生可能エネルギーになっているものと考えられる。となると、輸送によるCO排出量は、考えなくても良くなる可能性が高い

A君:確かに、現時点でもモビリティーの変化がもっとも急激かつ、精力的に検討されている。要するに、EVであり、水素燃料電池車であり、そのシェアリングであり、さらには、自動運転。

B君:そんな時代が来ると、輸送の環境負荷というものがゼロと判定されることになる。ということは、これまでの環境負荷の算出法の常識がすべてひっくり返ることになるのだ。

A君:リユースガラスびんの場合には、かなり遠いところから運搬しても、環境負荷が限られているということになる。勿論、環境負荷と経済的負荷とは全く違いますけど。

B君:一方、ガラスをどうやって作るのか。ガラスびんの製造を、すべて水素と電気エネルギーだけでやれるのか。不可能とは言えないが、実は、かなり難しい。しかも、それだけが問題ではない。ガラスを作る場合には、原料をどこからか得る必要がある。原料は、珪石=シリカ(SiO2)、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム。シリカは、地球のメインの構成物だから、いくらでもあるのだけれど、ガラスの原料になるような良質なシリカは相当に少ない。実際には、そのような良質なシリカは、最優先すべき用途が、太陽電池用の板ガラス。鉄などの不純物が多いと、光の吸収が多くなるから。そして、自動車用などの板ガラス。これは、視野が十分に確保できていないと安全性に問題があるからなのだが、完全自動運転になれば、どうでも良いのかもしれない。びん用のシリカであれば、品質の悪いものでも十分。多くの場合、実は、中味の飲料を光劣化から守るためには、色をわざわざ付けているのが現実。しかし、地球から原料を掘るという行為は、許容可能なのかどうか、と言えば、実は、それは、「陸上生態系の破壊だ」という認識になりつつあるのだ。

A君:炭酸ナトリウムと炭酸カルシウムについては、炭酸という言葉が意味するように、加熱すると分解して、COを排出しますよね。

B君:そういうこと。しかし、それ以外の化合物、例えば、硝酸ナトリウムと硝酸カルシウムで行けるのか、となると結構面倒な話。特に、硝酸カルシウムは、潮解性があることと、可燃物を接触させると、それを酸化して発火する。無水物は、そのぐらい強い酸化力を持っている。一方、炭酸カルシウムは、石灰岩なので、極めて安定。建材にも使われてきたぐらいだから。硫酸塩だと、これは硫黄が入っているので、やはり面倒。

A君:無機化学者でなくても、まあ、常識。話は変わりますが、ガラスびんをリサイクルするというのはどうなのでしょう。

B君:勿論可能。しかし、高温で融かし直す必要があるので、エネルギーの消費が必須だ。固形のガラスをいきなり電気だけで融かせと言われても、まあ不可能に近いのではないが。それに、現実的には、無限回数のリサイクルはやはり無理なので、どこかで最終的にはゴミになる。あるいは、土木工事用などに使うことになる。結論として、ガラスは、やはりリサイクルではなくて、リユースが一番

C先生:そろそろ、終わりが近づいた。SDGs用として、どのような結論になるのだろうか。

A君:まず、環境負荷が低減されて、特に、陸上生態系などの保全には良さそう。そんなことを含めて、SDGsの5Psで書くと、こんな風ではないですか。

People:利便性は、それを享受する人だけの価値だが、CO排出量を減らす努力は、Planetレベルの価値があることを知るべき。環境負荷が低い素材を使うことによって、災害が減れば、被災して経済的に困難な状態になり、不幸になる人々が減る
Planet:気候変動が若干抑えられ、災害が減る。資源がむやみと採掘されることが減り、生態系の保全に寄与する。
Prosperity:地球の破綻を先送りすることで、豊かさを持続できる可能性が、ある程度高まる。
Peace:地球の破綻は、必ず戦争を呼び込むが、その防止に貢献できる。
Partnership:「びんを媒体」として、びんを作る人、飲料を製造する人、消費者、回収する人、洗う人、輸送する人、といった人々の間で、5Psに貢献できることを共有して、豊かな人間関係を築くことができる

B君:まあ、その通り。大げさな結論を出すとすればだが、パリ協定時代の資源循環のゴールは、次のようになるのかもしれない。NZE=Net Zero Emissionで、今世紀の後半までには、人類は、COの排出量を正味ゼロにすることが必要という言葉を使って表現しよう。資源を対象としても、そのような表現が使える。
 「廃棄物の完全3RをCOのNZEと資源のNZEで実現する」

A君:COの大気中の寿命は1万年とも言われていますので、一旦、CO濃度が上昇してしまうと、戻すのには、大量の再生可能エネルギーを使って大気中からCOを人為的に吸収するか、植林などをどんどんやる以外に方法は無いのです。

C先生:よし、これで結論が出たようだ。現時点でのガラスびんのリユースは、経済的にも、文化的にも厳しい状況にあるが、2050年までの道筋を想定すると、そのどこかで非常に優良な方法論であるという認識に戻る可能性が高いと思う。それをSDGsで表現しながら、社会を説得して行くという新しい動向が、やっと日本にも僅かな芽生えが見え始めたまだまだ抵抗勢力は多く、その抵抗勢力は何かと言えば、利便性と効率性だけを重視する集団なので、もはや時代遅れだと言おう。その発言を後ろから支えることを可能にするツールとしてもSDGsは有用だと思う。そんな目で、SDGsを見て、各人、各団体、各企業が活用すべき段階に来ている。
 しかし、現実の世界はまだまだで、いかに簡単にSDGsをやったフリができるか、ということを考えている企業が大部分だ。しかし、だからこそ、「先行することが差別化に使える」という意味があると考えていただきたい。
 SDGsの本来の、かつ、最終の目的である「Transforming Our World」を、是非とも、実現したい。