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カネボウ化粧品製の美白化粧品の有効成分、ロドデノールによる白斑事件の報告書が9月9日付で発表されていることを知った。 「美白化粧品というもののリスク管理がどのように行われているのか」、を探る意味で、この報告書を読んでみた。 今回の記事は、若干の考察である。 C先生:カネボウ化粧品製のロドデノールを含む美白化粧品が引き起こした白斑事件だが、この事件がどうしたら防げたのか、どこかに甘いところは無かったのか、などを検討してみたい。 A君:まず、その実態からです。それには、カネボウ化粧品から発表された報告を見るのが確実でしょう。 B君:一応、Wikipediaの記事を参照しつつ、その裏を取ることも一つの狙おう。Wikiは、 「カネボウ化粧品」、 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8D%E3%83%9C%E3%82%A6%E5%8C%96%E7%B2%A7%E5%93%81 「ロドデノール」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%87%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB の2つがあるが、先の「カネボウ化粧品」は、本日現在、カネボウ化粧品からのニュースリリース7月4日バージョンを引用している。 後者の「ロドデノール」の記事では、特に、数字に関しては、7月4日付、7月24日付の中日新聞からの引用が主要。 A君:中日新聞から数字のいくつかをピックアップすると、 (1)開発過程で成人女性330人を対象に試験などを実施し、安全性を確認した。 (2)製品の累計販売数は、436万個 (3)8月までに症状が確認された人数は5702人 (4)回収を発表した7月4日現在で、25万人が使用していると推定されている。 B君:後ほど、どのぐらいのサンプリングをしなければならないかの解析に有用だろう。 A君:それでは、まずは、カネボウからの報告。10月4日版。 カネボウから発表された報告 1.最新版「被害の全貌」 カネボウ化粧品のサイトにある報道資料2013年10月4日付 http://www.kanebo-cosmetics.co.jp/company/pdf/20131004-01.pdf によれば、 ・顔や手など広範囲にわたり明らかな白斑」がある 907人 ・「3箇所以上の白斑」「5cm以上の白斑」「顔に明らかな白斑」のいずれかに該当する 3999人 ・軽度な症状 5946人 ・完治した 3107人 ・問い合わせ総数 192,877人 ・回収製品数 653、000個 C先生:8月までの被害者総数と合わないが。 A君:そうなんですが、その原因は不明でして、軽度な症状をどう扱っているのか。もし、軽度な症状や、すでに完治した人を含めれば、13959名になりますが、中日新聞の数字は5702名。 B君:後ほどの解析には、取り敢えず中日新聞の数字でやるしかない、ということだろう。 A君:それでは、弁護士による第三者調査報告書です。少しずつ進めます 2.調査報告書 弁護士による調査 平成25年9月9日 http://www.kanebo-cosmetics.jp/information/pdf/20130911/investigation-report.pdf A君:これURLが出典です。厚労大臣への承認申請の様子を検討してみることが目的。 2.1 ロドデノール含有化粧品の製造販売に関する薬事法に基づく厚労大臣への承認申請と承認 (1)医学部外品の製造販売に関する許可および承認申請の法制 (2)商品申請の手続き及び添付書類 (3)カネボウによるロドデノール含有化粧品の製造承認申請 (4)厚労大臣の承認 A君:以上が9ページまで。 B君:この段階で、どのような試験が行われているのかが分かるか。 A君:発明の経緯などが書かれた後に、そのような記述があります。K166というのが、ロドデノールのことです。 「K166はメラノサイト数に悪影響を及ぼすことが無いこと、動物皮膚に白斑、色素脱失等の問題を引き起こすこともないことを確認した」。 「K166の常温または過酷条件下における安定性試験を通じて、原体の安全性および安定性が高いことを確認した」。 B君:ここまでは、動物実験と物理的な実験だな。どのぐらい濃度で、どのぐらいのサンプル数で実験をしたのかは、分からないということだ。 A君:そうです。次に、K166を配合した有効性製剤の開発の経緯です。 「A−1系モルモット動物モデルにおいて、紫外線照射による色素沈着の改善の程度(凾k)を測定したところ、2.0%以上のK166溶液で、溶媒のみの塗布部位と比較して有意な色素沈着の改善効果が見られたことから、2.0%配合した有効性エッセンスを完成させた」。 B君:なるほど。安全性試験は。 A君:次のように記述されています。 「K166の安全性試験については、単回投与毒性試験、反復投与毒性試験(「28日間反復経口投与毒性試験」、「28日間反復皮下投与毒性試験」、「90日間反復投与経皮投与毒性試験」)、生殖発生毒性試験(「ラットおよびウサギにおける経皮投与による胚・胎児への影響に関する試験」)、抗原性試験(「感作性試験」、「光感作性試験」)、遺伝毒性試験)「復帰突然変位試験」、「染色体異常試験」、「ラット小核試験」、「ラットを用いるin vivo/in vitro胚細胞・不定期DNA合成(UDS)試験」)、局所刺激試験(「皮膚一次刺激性試験」、「連続皮膚刺激性試験」、「光毒性試験」、「眼粘膜刺激性試験」、「ヒトパッチテスト」)、および、吸収・分布・代謝・排泄に関する試験(「ラットにおける単回経皮投与時の体内胴体試験」、「ミニブタにおける経皮投与後の吸収・排泄」)を実施。 B君:読むだけでも、結構疲れる。結果は。 A君:次のようです。 「in vitroにおける「染色体異常試験」で染色体異常誘発性が認められたが、in vivoにおける「ラット小核試験」、「ラットを用いるin vivo/in vitro胚細胞・不定期DNA合成(UDS)試験」で遺伝毒性は認められなかった」 B君:なるほど、in vitroすなわち、試験管を用いた試験では染色体異常が何か起きていたが、動物実験では大丈夫だった。 A君:まだあります。 「ラットにおける単回経皮投与時の体内動態試験」において高い経皮吸収性が認められたが、「90日反復経皮投与毒性試験」、「胚・胎児発生への影響に関する試験」の結果より算出したヒトに外用した場合の「安全係数」からは高い安全性が推察された。 B君:かなり吸収性が高いということだ。他のテストは特に異常なし。 A君:それで、K166を2.0%配合した調剤(エッセンス)を作成して、安全性試験をしています。 「単回投与毒性試験、抗原性試験(「感作性試験」、「光感作性試験」)および局所刺激試験(皮膚一次刺激性試験、連続皮膚資源性試験、光毒性試験、眼粘膜刺激性試験、ヒトパッチテスト)を実施し、いずれの試験において問題の無いことを確認した」。 B君:有効性についてのテストは? A君:二重盲検群間比較法でテストしています。 「顔面に肝斑などの色素沈着を有する被験者に対する6ヶ月長期連用試験および多人数の健常人女性に対する顔面使用し件を実施した」。 B君:多人数というが、具体的な記述は無いのか。 A君:無いですね。となると、中日新聞の言う「開発過程で成人女性330人を対象に試験」の330名がこの人数でしょうか。 B君:そう考える以外に方法はなさそうだ。 A君:具体的な人数を書くべしという指導はないのでしょうかね。 B君:当然、具体的な人数を書くべきだろう。濃度2%以外のテストは? A君:それもやられています。 「申請濃度の2倍量の4%の6ヶ月長期間使用においても、白斑、色素脱失などの問題が発生することはなかった」。 B君:外国での状況は。 A君:この物質には、ラズベリーケトンという一般名称があるようで、「米国では1965年以降、欧州では1974年以降に使用されていると思われる」、という記述があります。使用量は、1992年と古いのですが、北米で6000kg、欧州で8500kg、日本で2000kg。 B君:やたらと多いように思うが。 A君:どうも汎用香料としての使用が多いようで、また、化学品の中間合成物質としても、約100トンが使用されているとあります。 B君:これ以外に最近承認された有効成分は無いのか。 A君:ポーラが申請したのだと思いますが、4−n−ブチルレゾルシンがあって、これを0.3%配合した化粧品が承認を受けていますが、これとK166配合品も同等の効果があると記載されています。 C先生:ここまでが、報告書からの抽出ということだが、これで十分なテストが行われていたのかどうか。これが問題かもしれない。それを検討しよう。 A君:それには数字が必要です。結局、報告書からは、被験者数が分からないので、中日新聞の330人を採用。となると、他の数字も中日新聞のものにして、被害者5702名、推定使用者数25万人で検討します。 B君:5702名を25万名で割ると、症状が出た割合が2.3%。 A君:極めて単純に考えれば、330人を試験してその2%だったら6.6名が、まあ7名が異常になっても良い。それが無かったのだから、問題は無かったということを言いたいのでしょうか。 B君:そうは行かないと思うよ。「標本数 決め方」という言葉でWebを検索したら、なんと総務省統計局とかが出る。これを使おう。 http://www.stat.go.jp/koukou/trivia/careers/career8.htm これが式。 ![]() 図 標本数の計算式 A君:回答比率になっていますが、これは、調査結果の回答がどうなるか、ですね。今回だと、2.3%±0.5%ぐらいの精度で結果を出すとすると、p=0.023、標本偏差がd=0.005、信頼水準95%だとλ=1.96。 これを代入すると、 n=3453名 B君:2.3±1%ぐらいでも良いなら863人で済む。 A君:逆算すると、330名とするなら、2.3±1.5%ぐらいなら結果が出るはずではあるけれど、もしも、発症率が2.3%も無いとすれば、330名では見逃すことになる。 B君:ということは、もし何かがあるとしたら、10人に1人ぐらいの確率で何かが起きるかどうかを調べたということになるのかもしれない。 C先生:工業用の化学物質の有害性の評価では、動物実験を行って、有害性が見られない最低の摂取量に、安全係数を100倍程度を掛けるが、今回の実験だと、どうも、安全係数という考え方がないということか。 A君:そうみたいですね。 B君:工業用物質で発ガン性がある場合には、安全係数を1万倍ぐらいは取るのが普通。 A君:化粧品の場合、多くの有効成分は、通常の化学物質の毒性と違って、化学反応を起こすことによって何らかの機能を果たすのではなくて、皮膚に付着して、見た目を滑らかに見せたり、太陽光を吸収して日焼けを防止したり、また着色をすることによって見栄えを良くしたりするものが多いからではないですか。 B君:まあ、保湿をしたりする機能や、皮膚に吸収されて発揮される機能もあるけど、化学反応ではないのかもしれない。 A君:今回の美白化粧品の主成分、ロドデノールは、こんな構造式の物質です。ちょっと複雑にはなっていますが、似た構造でヒドロキノンという物質があって、これも還元剤ですので、メラニン色素を分解するようです。昔の銀塩写真の現像薬としても用いられましたが、銀イオンを銀にする還元剤がその反応の実態。 図 ロドデノールの分子構造 図 ヒロドキノンの分子構造 B君:EUでは、化粧品の動物実験を禁止した。実験しないでも済むような物質しか、化粧品用には許可しないという意味のように思える。実は、ヒドロキノンを美白用に用いることは、EUでは許可されていない。 C先生:ということでまとめるか。今回の最大の問題点が、使用者からのクレームがあったのに、なぜか皮膚の病気だろう、ロドデノールが原因ではないだろう、という思い込みから担当者から、経営層に情報が上がっていなかったことなのだろう。 しかし、もっとも本質的な問題として、化学反応を伴うような化粧品というものが、医薬用部外品の規制で良いのか、という問題がありそうな気がする。もし、生体物質と化学反応を起こすのであれば、安全係数を多目に掛ける必要があるのかもしれない。 そして、そのために行った実験の対象数が330名では不足だったということも、一つの要素のようだ。もしも、1%オーダの発生率まで防止するのであれば、数千名での実験が必要だということを意味するのではないか。今後、これは問題になるかもしれない。 消費者側に、美白といったことが、着色物質であるメラニンを破壊しないと実現できないことだから、若干危険を伴うかもしれない、という理解が無いことも問題の一つかもしれない。 ![]() ![]() |
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