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  チェルノブイリのデータ追加と単行本紹介 11.12.2006
      リスク その3   



 過去2回、連続してリスクを取り上げた。最近、リスクに関する本がかなり出版されるようになった。リスクという言葉になじみが出てきたために、こんな本が売れるようになったのかもしれない。

 しかし、環境に関して言えば、いわゆるローカルなリスクが大幅に改善されて来て、そして初めてリスクに関する本が売れるようになったようにも思える。「本当にリスクが高い社会では、リスクに対する関心は低い」のが通例なのだ。

 その前に、またまた追加。今回は、チェルノブイリ。


C先生:まずは前回と同じく、表へのデータ追加。今回は、チェルノブイリ事故を考慮した原子力事故。

A君:ブログの方で、 macroscopeさんからの指摘が有ったことへの対応。

B君: macroscopeさんが指摘していることは2点。一つは、チェルノブイリを入れるべき。もう一つは、ウラン採掘段階から濃縮段階までのリスクを入れるべき。

A君:チェルノブイリの被害は、どれが正しいか、という意味ではっきりしたデータが無いので、いささか難しい面が残りますが、まあなんとかなります。

B君:ウラン採掘段階から濃縮段階だが、これはほぼ不可能。信頼できるデータが全く無い。ただ、JCOの事故でもお分かりのように、ウランは、臨界に到達しないかぎり、バケツで取り扱っても、規則違反であり様々な問題はあるのだが、正しく作業すれば、被曝に関してはそれほど問題が無い程度のもの。

A君:採掘段階ならインドのジャドゥゴダ・ウラン鉱山の問題があるという情報をいただいたので、インターネットで調べてみたら、ウラン鉱山の悲惨な状況が映画になったとのこと。この手の話は、他の途上国での他の金属の鉱業においても見られることで、地域の環境を全く省みない経営が行われている。これを平均的な状況としてリスクを評価するのは不可能。

B君:日本だって、鉱山ではないが、水俣病などはそんな例だったとも言える。インドは駄目だ、など、余り偉そうなことは言えない。社会全体の発展がある程度の水準にならないと、駄目なのだ。外圧を利用して、地域の環境の修復と被害の発生を防止することを義務化し、そのための価格を地下資源採掘に上乗せしなければならない。

A君:まさに鉱業全体について言えること。しかも、インド政府が外圧を受け入れるとは思えない。

B君:たしかに難しい。いずれにしても、この状況から採掘段階の死亡数を推定するのは無理。職業リスクについては、鉱山の従事者のリスクのデータがあれば、それはなんとかなるが。

A君:いずれにしても、職業リスクは、通常のリスクとは分けて考えるのが普通ということはありますね。実は、この表を作るときの仮定、原子力関係の事故は、20年間で2名の死亡、というものも、JCOの臨界事故ことなので、実は職業リスクなのですね。

B君:職業リスクは分けるということだが、例えば、魚を食べるとき、メチル水銀やダイオキシンのリスクを評価することになるが、それに加えて、漁業従事者のリスクを入れるかどうか。
 体質研究会のデータによれば、
http://www.taishitsu.or.jp/risk/risk2005.html
 43.6 漁業の労働災害(2002)〔死亡者数/当該労働者数=15/34,433〕
となっている。

A君:労働災害の死者は15名ですが、これを魚を食べる際のリスクとして加えるのか。これが無ければ食べられないのですから入れるべきという考え方も有り得ます。リスク受ける集団が妙になるのも事実ですが。

B君:先日来示している表のダイオキシンなどの有害物は、かなり魚起源だと考えられるので、今0.3という値だが、これを0.2はダイオキシンだと見て、労働災害による加算を0.15と見れば、合計で0.35ぐらいになる。

C先生:これも表に入れておくか。ついでといっては問題だが、有害化学物質では最大のリスクと思われるホルムアルデヒドの値も、蒲生さんのデータを換算して、加えておこう。

A君:チェルノブイリですが、IAEAの発表では、チェルノブイリを原因とする死者予想数が4000名。当時のソ連からの発表では、13000人。また、Wikipediaによれば、「2000年4月26日の14周年追悼式典での発表によると、ロシアの事故処理従事者86万人中、5万5千人が既に死亡した。またウクライナ国内(人口5千万)の国内被爆者総数342.7万人の内、作業員は86.9%が病気にかかっている」

B君:事故処理従事者5万5千人の死亡の解析データが無いと処理不能。非常に荒い目安を求めると、またまた体質研究会のデータからだが、ロシアの全死因による死亡数が1564。これは10万人あたりだから、86万人を対象にすると、約13500人。それが14年間続いたとすると、総死亡予測値は、18万人ぐらいになって、5.5万人という死亡数と全く合わない。

C先生:様々な値が言われているが、根拠は不明だが、40万人というものが最大のようだ。IAEAの4000名、そして、巷の最大値である40万人、これに加えて、中間の4万人という3種類の死者数として採用してみよう。

A君:さて、分母を何にするか。原発を持っていない国の人口まで加えるのは妥当だとは思えない。

B君:これも2種類の考え方がありうるのでは。チェルノブイリ型の原発、すなわち、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉と、日本などにある軽水炉、あるいは、カナダが使っている重水炉とは事故の面から言えばかなり違う。北朝鮮の原子炉は、プルトニウムを多く作るために、黒鉛炉らしいが。一般には、旧ソ連圏で使われていた。

A君:旧ソ連圏の人口を使うという考え方が一つ。これは、旧ソ連圏でのリスクということになる。もう一つは、原発を持っている国の総人口を分母にする。これは、原発をもっている国のリスクを考えることになる。

B君:原発は、一体何カ国がもっているのだ。

A君:調べたのですが良く分からない。大体、こんなものではないか、と思うのですが。



表1 原発を持っているらしい国

C先生:約40億人以上か。中国、インド、米国、ロシア、インドネシア、ブラジル、パキスタン、日本、メキシコといった1億人超えの国が入っていて、さらに、5000万級の国がかなり入っているから当然か。それでは、ちょうど40億人を分母にしよう。
 それから、旧ソ連圏の人口だが、3億人ぐらいが妥当な推計だが、政治的には、もう少々影響力があったということにして、ここも4億人にしてしまおう。

A君:となると全部「4」で簡単ですね。さて、チェルノブイリ事故が起きたのが1986年。すでに20年経っていますので、このような重大な事故は、いくら可能性が高くても、20年に1度しか起きないと仮定して死亡数を計算します。

B君:さらには、軽水炉と黒鉛炉との違いを考慮することも必要。ここでは、そのリスク比を10と見積もった数値を一つ加えておこう。これが、チェルノブイリ事故から、今後起こるであろう原子力の事故を推測する際の基準点みたいなものになるのではないか。

C先生:軽水炉なら、チェルノブイリほどの被害にはならなかっただろうというのは、火災になりうる黒鉛が無いから。黒鉛などというものは、そう簡単に燃えるものではないのだが、一旦燃え出すと消すことが難しいようだ。
 となると、頻度としても、規模としても、チェルノブイリほどの事故は無いのではないか。4000人というIAEAの推定値が正しいかどうか、それは分からないが、この場合の死亡者数0.0005名を基準として、議論をするのが良さそうには思える。

A君:本当なら考えなければならないものとして、再処理プロセスや最終処分地の問題がありますね。

B君:再処理プロセスは職業リスクだと思って良いと思うが、高レベル廃棄物の最終処分になると、地層の安定性が問題だから、日本のような狭い地域で安全な場所を見出すことが果たして可能なのか、という根源的な問題が発生しかねない。

A君:高レベル廃棄物の最終処分の問題点は、やはり長期に渡ること。1000年間、人類の手の中で保存しなければならない。ただ、現状のように、処理しないで保存する方がさらに危ない。青森県にどんどんと蓄積されている現状だが、青森県の住民にとってみても、最終処分地を持ってしまった方が、今後、トータルなリスクは低くなるのではないだろうか。いずれにしても、分からないものは評価できない。

B君:もう一つ、これも根源的な問題なのだが、日本人の放射線被害に関する誤解があること。たしかに放射線は健康被害を引き起こすのだが、非常に強いの放射線を浴びた場合以外であれば、そのリスクは固形がんが主たるもの。胎児への被曝は奇形も出て深刻だが、それ以外のいわゆる遺伝的影響、すなわち、子孫に奇形などの問題が出るという影響は、広島・長崎の研究からほとんどありえないという結論になっている。

A君:放射線を浴びたから白血病になる、という世間一般の常識も、最近ではそれだけではないとされている。通常の発がんをもっと気にすべきだということ。
 より正確に表現すれば、急性の障害がでない程度の放射線を浴びると数年で白血病が発症する可能性があるが、白血病の発生は被曝後6〜7年でピークになり、その後減少する。しかし、放射線量がかなり少なかった場合でも、その後、発がん年齢に到達すると、固形がん、すなわち、食道がん、胃がん、泌尿器がん、リンパ腫、肺がん、甲状腺がん、乳がんなどが増加する。 
 一方、被曝時に胎児として母体に居た場合以外の子孫への影響、いわゆる遺伝的影響は考える必要は無い

C先生:遺伝的影響が非常に心配されていたのは、かなり前。1977年に大きく考え方が変わったのだ。日本の放射線の常識は、いまだにそれ以前だと考えられる。

A君:ただ、今後考えなければならないことは、どのぐらい設置基数が増えるかということ。現在、450基弱ぐらいですが、これが10倍になると、恐らくリスクの管理能力の無い国にも普及する可能性があって、リスクは100〜1000倍ぐらいになるかもしれない。すると、0.05〜0.5ぐらいの死亡数を覚悟する時代になるかもしれない。特に、テロを考えるととても心配。

B君:そうなると、そんなに低いとも言えない。自然災害と同程度ということになる。化石燃料がある間は、やはり化石燃料に依存する方が無難かもしれない。バイオエネルギーに行くかどうか、それは地球の持続可能性を十分に考える必要あり。

A君:チェルノブイリの話は大体こんなところでしょうか。

C先生:そうしよう。それでは、ここで表を再度掲載。



A君:今日は、リスクに関する単行本の内容の紹介。今回取り上げるのは、以下の本です。これ以外にも、最近多数出版されています。例えば、中西先生の何冊かの本、それにC先生の「リスクメータ」などもあります。大体の内容をざっと説明したいと思います。

(1)「安全」のためのリスク学入門、菅原努、昭和堂、2005年8月10日、ISBN4-8122-0528-X、1600円+税

(2)リスク対リスク 環境と健康のリスクを減らすために、J.D.グラハム、J.B.ウィーナー、菅原努監訳、1998年11月25日、ISBN4-8122-9833-4、2500円+税

(3)安心と安全の科学、村上陽一郎、集英社新書、2005年1月19日、ISBN4-08-720278-X、680円+税

(4)「リスクのモノサシ」安全・安心生活はありうるか、中谷内一也、NHKブックス1063、2006年7月30日、ISBN4-14-091063-1、970円+税

(5)ゼロリスク評価の心理学、中谷内一也、ナカニシヤ出版、2004年2月10日、ISBN4-88848-828-2、4600円+税


B君:まず、
(1)「安全」のためのリスク学入門、菅原努、昭和堂、2005年8月10日、ISBN4-8122-0528-X、1600円+税。
 菅原先生は、1921年生まれ、京都大学医学部、医学部長、放射線生物研究センター長、などを歴任。
 もともと放射線の専門家なので、リスクというものの考え方の一つのご本家である放射線分野の情報を知りたい人には、適している。

リスクに関する数値情報など

◎米国では、紫外線によって年間100万3000人の皮膚がんが発生し、悪性黒色腫による7800人の死者が出ている。ハーバードリスクセンター。広報誌、2003年6月

◎内視鏡検査のリスクは、1件あたり10万分の1程度の致死的事故がある。
「放射線と健康」館野之男著。岩波2001年。

◎X線検査で奇形児が生まれるという誤解による新生児のリスク。「放射線と健康」館野之男、
◎X線による胎児の奇形児発生には、しきい値がある。その量はもっとも多い腰部でのCTスキャンの場合の4倍。
◎チェルノブイリの後、全ヨーロッパで、10万件を超す中絶があった。

◎日本の診断被曝報道。
 国内でがんにかかる人の3.2%は、医療機関での放射線診断による被曝が原因の発がんと推定されることが、英・オックスフォード大グループが行った初の国際研究で明らかになった。
 日本は、調査が行われた英米など15ヶ国中、もっとも高かった。
 日本の推定値は年間7587件で、がん発症者の3.2%。
 日本は、1000人あたりの年間検査回数が最多の1477回で、15ヶ国の平均の1.8倍、発がん率は平均の2.7倍。これは1回の検査での被曝量が多いことが原因。

◎世界の高自然放射線地域
*ラムサール(イラン、ラムサール条約の採択地) 10.2ミリグレイ(世界平均の20倍)
*ガラバリ(ブラジル) 5.5ミリグレイ(10倍)
*陽江(中国) 3.5ミリグレイ(5.4倍)

A君:次ぎは、
(2)リスク対リスク 環境と健康のリスクを減らすために、J.D.グラハム、J.B.ウィーナー、菅原努監訳、1998年11月25日、ISBN4-8122-9833-4、2500円+税

 この本は、訳本であるが、まさしくリスクのトレードオフについて議論をしている。リスクトレードオフを余り定量的ではないが、まともに理解したい人には適した教科書のようである。価格に比較して、内容が充実している。
 しかし、リスクの値が、米国の状況を記述していることになるのはどうしようもないことで、それを日本流に焼きなおす必要があるだろう。

第一章:リスクトレイドオフとはどういうことか
第二章:更年期障害に対するエストロゲン治療
◎リスクトレードオフ:更年期障害を緩和することと、発がんリスクの増大

第三章:高齢ドライバーの運転免許問題
◎交通事故の増大と高齢者の自由度

第四章:ガソリンの節約と生命の救済
◎車の小型化の進行による交通事故死の増大

第五章:魚を食べる
◎魚を食べることによる健康の増進と、毒性物質による健康被害

第六章:安全な飲料水を求めて
◎塩素消毒による感染症のリスクの低減とトリハロメタンなどの生成による発がん

第七章:鉛のリサイクル
◎鉛蓄電池のリサイクル率を85%から95%に増大することによる鉛の血中濃度の推定

第八章:農薬規制
◎マンネブのレタスへの施用

第九章:地球環境の保護
◎オゾン層破壊の防止と大体物質の毒性と温暖化係数

リスクに関する数値情報など

◎トリハロメタンの代表としてクロロホルム 0.1mg/Lの水道水の発がんリスクは10万分の2.
◎マンネブなる防カビ剤のリスクは、消費者に対して、10万分の0.3.

B君:次ぎは、
(3)安心と安全の科学、村上陽一郎、集英社新書、2005年1月19日、ISBN4-08-720278-X、680円+税

 この本は、リスクを議論するとき、良識的に議論ができるための準備に必要といった感じの本ではないか。

 様々な話題がでてくるが、全体としてはリスク削減の歴史のような知識を村上先生に語って貰うという形。

 基本的な本としてお奨め。

A君:次は、
(4)「リスクのモノサシ」安全・安心生活はありうるか、中谷内一也、NHKブックス1063、2006年7月30日、ISBN4-14-091063-1、970円+税

二週間前の記事、http://www.yasuienv.net/RiskSortedbyDeath.htm ですでに紹介しているが、以下のような目次になっている。

序章 リスク情報が引き起こした社会の動揺
第一章 マスメディアの報道スタイル
第二章 専門家がもたらすリスク不安
第三章 リスクを過大視する心のしくみ
第四章 リスクのモノサシを創る
第五章 安全か危険かになりがちな判断
第六章 信頼は何によって決まるのか
第七章 信頼の回復には何が必要か
第八章 安全・安心生活はありうるか

 すでにご紹介したのは、第四章のみであって、他の章については、紹介していないのだが、第一章から第三章までは、リスクの報道や議論が行われるとき、その大小をそれほど正確でなくてもよいから議論できるようにならないと、といった主張で書かれている。
 そして、第六章からは、信頼という言葉について考察が行われている。

 この本も、お値段の割りにお買い得。特に、心理学者が書いていることもあって、他の本にはない理解が得られるものと思う。

 この本でのリスクの数値情報は、すでにかなり引用している。


B君:最後は、
(5)ゼロリスク評価の心理学、中谷内一也、ナカニシヤ出版、2004年2月10日、ISBN4-88848-828-2、4600円+税

 (4)と同じ中谷内先生の専門書。
目次構成は次ぎの通り。

第1部 環境リスク論とリスク認知研究 第1章 リスク認知研究の背景
 第2章 リスク認知研究の主要な知見
第2部 ゼロリスク要求について
 第3章 ゼロリスクをめぐる専門家と公衆の相違
 第4章 ゼロリスク要求についての理論的説明
 第5章 ゼロリスク要求についての「結果の程度」へのアプローチ
 第6章 将来のゼロリスクに結びつき得る現在のリスク対策の価値
 第7章 ゼロリスクへの高い評価の制限
 第8章 ゼロリスク要求についての領域分類
 第9章 環境リスクマネジメントにおけるゼロリスク追求

 これまでのリスク認知研究の概要から、ゼロリスク要求の制限をどのようにして行うか、その実験の方法と結果、さらには考察などが紹介されている。
 中谷内先生のこれまでの研究の集大成と言えるだろう。
 実験結果が丁寧に解説されているので、なかなか興味深い。
 とは言え、さすがに高い本なので、将来リスクの認知や受容に関する研究を行うという可能性が無い方にはお奨めしにくい。