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   リスク・コミュニケータ道場
      06.02.2013
        実施プラン Version 1




 1ヶ月ほど前から構想を練ってきた「リスク・コミュニケータ道場」の実施プランを公開します。是非、ご意見をお願いします。

 これまで、コミュニケータの養成をした経験はないに等しいのですが、必ずしもリスク・コミュニケーションを目的とするのではなく、一般的なコミュニケーション・スキルを向上させる訓練のためにも、もっとも困難なコミュニケーションであるリスク・コミュニケーションにチャレンジする機会を設けることを提案してみたい。これが意図でもあります。

 リスク・コミュニケーションを行う人、すなわち、リスク・コミュニケータは、育成が難しいもののようで、養成側がしっかりしたスキル開発・訓練を行わないと育てることができないようです。いきなりの実践は難しい。まずは、失敗が許される場での訓練が必要なのではないか。そこで、まずは、『道場』を設置してみたい。

 『道場』だから、あくまでも、状況を想定した訓練の場です。まずは、『道場』における具体的なスキル開発・訓練のカリキュラムを考えてみることにしました。

 最初のテストケースとして、現時点では、11月頃に何かを実施することを目指して、準備を開始している状況です。

 説明用のPPTファイルを作りましたので、これも公開します。


まずは、
「そもそもリスコミとは何か 再考」の説明から

 以下の項目、1.〜5.の各項目について、道場主が初日の開始時(13:30〜を想定)から30分程度で説明する。その際に用いるパワーポイントファイル(道場全体の時間割を含む)をここに公開。


1.基本的理解

 コミュニケーションを目的とする行為のうちで、もっとも難しいのがリスク・コミュニケーションではないか、と思われる。

 なぜならば、目前に利害が異なる相手が居るからである。しかも、相手に自己イノベーションを起こしてもらうことが最終目的の一つだからである。これは自分側だけが努力をしたり、練習をしたりすることで達成できることではない。相手が何を考え、何を感じているか、それをよく理解できなければ、もともと無理である。それだけではなく、相手から自分がどのように見えているかが分かっていないと、実現不可能だと思われる。

 コミュニケーションは、教育の場でも極めて重要である。しかし、教育の場合、幸いにして、その目的はそれなりに共有されている。たとえ落ちこぼれの場合であっても、「勉強はしたくないけど、卒業したい」、と考えているから学校・大学に通っているわけで、学校・大学側としても、この「学生を卒業させる」という目的は持っている。すなわち、完全ではないものの共有された目的が存在している。

 しかし、リスク・コミュニケーションの場合には、全く目的が共有されていない場合、例えば、全くの無関心であるという場合もあれば、目的が正反対である相手に対しても、コミュニケーションを取る必要があるのかもしれない。

 目的が正反対である場合には、共有されている感覚や思考方法が全くゼロで、したがって、コミュニケーションは不可能だと判断し、諦めるのが妥当なのかもしれないケースもあるだろう。しかし、諦められない場合もあり、そのような場合には、達成目標のレベルを落とし、それこそ、双方向のコミュニケーションを行うこと、そのものが目的であると理解すべき状況もあるかもしれない。

 お互いの目的が正反対の例としては、訴訟になったとき、当事者として相手方となんらかの落とし所を探るという状況があるだろう。このような場合には、いかに対立する当事者の目的が正反対であるとしても、どこか多少は共通するベクトルがあるかどうかを探ることも必要である。

 要するに、再び、コミュニケーションの目的は何か、という議論になる。リスク・コミュニケーションの場合には、これまでも主張してきたように、まずは最終的に目的とする到達のレベルを最初に設定することが必要不可欠のように思える。


2.リスク・コミュニケーションの到達レベル

 次のように理解しておくことが、まずは第一段階ではないか。

双方向のプロセスで実施し、
レベル0:理解の向上を目的とする
レベル1:(不完全な)納得を目的とする
レベル2:異なった意見も受け入れる=受容を目的とする
レベル3:将来の危害の可能性の補償などを含めた合意を目的とする

 レベル3はむしろ調停というべきかもしれない。「安心」を本当に求めると、やはり補償の議論ができないと無理だと思われ、通常の意味でのリスク・コミュニケーションのレベルを超すだろう。

 そこで、レベル2をリスク・コミュニケーションの高い目標地点だと考えるのが良さそうである。

 しかし、レベル2でも、かなり困難な場合が多いと思われるので、レベル1を当面の目標として、上手く進めば、レベル2も視野に入れるといったことを目標として、コミュニケーションスキルの開発・訓練のためのワークショップのプログラムを具体的に考えてみたい。


3.リスクコミュニケータが準備すべきこと

 具体的には、すでに述べた日蝕型・お化け屋敷型の手法で、不完全な納得を目標とするリスク・コミュニケーションを目指すものとする。この手法の説明は、すでに、
http://www.yasuienv.net/RiskCom2Kinds.htm
において行なっている。

 非常に簡単に復習する。科学技術以前の人々が日蝕に対していだいた恐れを、現代人はなぜ持たないのか。それは、(1)歴史的に日蝕が元に戻らなかったことはない、(2)開始予定時間ぴったりに始まったのだから、やはり予測通りに終わるだろう。

 歴史的経験と予測可能性、この2点が現代人が日蝕に対して恐れを抱かない理由だと考える。

 歴史的経験は分かりやすいとおもわれるので、特に説明は必要ないかもしれないが、一応、記述をしておく。現時点で太陽が日蝕状態にないということが、歴史的に日蝕が元に戻らなかったことはないことの証明になっている。

 予測可能性については、いつ起きるかに関して、どのぐらい正確に予測できる情報を我々が持っているか、ということである。現象が始まる時間的情報がどれほど正確か、と言い換えることができる。これは現時点で我々人類が持っている科学的な時間予測手法がどのぐらい確実か、ということである。

 しかし、これまで本Webサイトでも述べてきたように、科学的事実とか科学的予測手法といっても、対象が確定論的な事実、もともと不確定性を持った事実、不確実性をもった事実などがあるので、それをきっちりと区別をして述べることが重要だと思われる。

 以上が日蝕型である。

 お化け屋敷型とは、これから起きることがわかっていれば、お化け屋敷の怖さも和らぐというのが、その内容で、上記の予測可能性と類似点はあるが、ちょっと違う。時間的予測可能性に限らない。加えて、近未来におきる不都合な事態がどのぐらい怖く、それが起きるとしたらどのような順番でどのような形で起きて、対処するにはどうしたら良いか、ということで、カバーされるべき範囲はかなり広い。

 すなわち、これから入る建物の中で、どのようなイベントがどのように起きて、怖い思いを持つ可能性がどのぐらいあるか、被害や悪影響を回避することが可能なのか、といったことが、お化け屋敷型の情報である。言い換えれば、単なる仕掛けに過ぎないお化け屋敷なのか、それとも、本物のお化けがでるのか、ということを知ることができるかどうかである。

 以上がお化け屋敷型である。

 日蝕型・お化け屋敷型に加えて、補助的に、悟り獲得型とも言える全体リスク把握も伝達すべき情報として考慮することとする。すなわち、不安は結局解消できないという場合もある、ということを伝達の対象とする。

 互いに関連する内容ではあるが、具体的には、リスクゼロ不可能型、リスクトレードオフ型、生命現象不確実型、高いバックグラウンド提示型などがある。

 しかし、この悟り獲得型は上手に伝達しないと誤解を招く可能性があり、かなり難しいことは予め理解しておく必要がある。

 以上が悟り獲得型の取り扱いである。

 さて、以上より、コミュニケータとして準備しておくべきことをリスト化する。

今回の対象事象について
(1).歴史的経緯 人類はどのぐらい確実な科学的知識を持っているか 不確実性がどのぐらいあるのか
(2).予測可能性 いつどのようなイベントが起きるか
(3).不都合な事態の深刻さと対処が可能かどうか
(4).悟り獲得型を用いることも検討の価値はあるが、取り扱いは要注意。


具体的な実施方法

 ゲーム感覚で取り組んでもらうために、二つのチームの対抗戦の形式とする。道場内で紅白戦をやるようなものである。

 紅白両チームのメンバーは、もしも可能であれば、事前に伝達し、チーム内でなんらかの打ち合わせなど準備ができていることが望ましいかもしれないが、それを必須のものとしては考えないこととする。

 そのため、まず、リスクコミュニケーションの課題を二つ決める必要がある。まさに仮の課題であるが、ここでは、一例であるが、この程度の大きさの課題とする。

チーム『紅』の課題の例:
「低線量被曝はどこまで安全なのか」、

とする。もう一つは、

チーム『白』の課題の例:
「バイオレメディエーション技術はどこまで安全か」、

とする。

 以後、この課題に関して、そのためにどのようにしてコミュニケータはをすべきか、を考える。


1.方針

 紅白戦を実施する。第三者に対してリスコミをいきなり実施するのでは失敗が必定なので、充分に仮想的なリスコミ体験することを目的として行うものであるので、形式は、中立型ロールプレイとする。

 中立型ロールプレイとは、相手の立場になりきるのではなく、例えば、一般市民の立場になりきって質問をするのではなく、「一般市民からの質問として、このようなものが考えられますね」といった中立的な発言を常時採用する方式をとることにする。

 紅白チームはそれぞれのチーム内での分業が必要である。まず、チーム内は、出し手組=コミュニケータ組と受け手組=市民組に分ける。出し手組は、相手チームにコミュニケートをする役割、受け手組は、相手チームからのコミュニケートに対して、質問で切り返す役割である。

 役割は2つに別れるものの、その準備は、紅白チーム単位で行う。すなわち、まとまって準備をする。

 ここで用いる手法はイノベータが一般的に用いる次の4つの手法を最大限活用することにする。

a)質問をする(できるだけ質問を多く作成)
b)観察をする(一般社会には、どのような不安・疑問があるか、一般社会の理解のレベルはどのようなものか)
c)ネットワーキング力を付ける(チーム内でどう協力関係を作るか)
d)実験・体験力を付ける(他人の立場でものを考える) 



2.道場開き 1日目の13:30を想定

@).チーム分け

 まず、5〜6名を1チームとした紅白2チームに分ける。具体的には、参加者を12名程度と想定し、6名のチームを2つ作るが、そのチーム分けは、道場主が事前に準備しておいて、この段階で発表する。

 チーム分けは、やはり専門性で分けるのが妥当であろう。すなわち、低線量被曝と遺伝子組み換えについて、どちらのテーマが自らの専門に近いかを事前に10点満点で自己申告して貰ったデータに基いて、道場主が事前に2つのチームに分けておく。

 紅白戦形式なので、伝え手と受け手の両方の立場が体験できることになる。

A).記録係&キャプテンの選任

 それぞれのチーム内で相談し、キャプテン役一人を選択する。同時に、記録係を一人選任する。

 ただし、キャプテンの特性としては、できるだけ他人を観察する力のある人を選択する。記録係はそれに準ずる人とする。キャプテンと記録係は、チームの戦闘力をできるだけ高めることを目的にして、指導力を発揮する。


3.紅白それぞれのチームとしての作業

一日目:準備作業

14:00から開始を想定。夕刻まで。宿泊形式の開催であれば、理想的と思われる。

作業空間の条件
条件1:インターネットの検索が可能であること。
条件2:『紅』『白』それぞれのチームに別室を提供する。


@)想定質問作り(全員参加)

 まず、キャプテン役・記録係を含め、全員が与えられたリスコミ課題の『受け手になったと想定』し、以下の作業を行う。

 まず、質問の作成である。受け手(一般市民を中立的にロールプレイする)が持ちそうな質問を作る。できるだけ素朴・些細な質問から高度なものまで、各人が30個ぐらいの質問を作る。質問は、各人色違いの付箋紙に書き、記録係に渡す。

 キャプテン&記録係は、各人の質問を眺めて、グループの中のその話題に対する習熟度を見極める目的で、作られたすべての質問を適当を思われる人に答えられますかとぶつけてみる。答えはYes、No、調べればYes、などが返ってくる。そこで、記録係は、次の段階で誰にその質問への回答を作らせるか、を判定する目的で、十分に観察しつつ行う。

 この段階が終了したら、再び個人に分かれ、追加の質問を作る。

 この質問を同様に処理する。このループが終わったら、次の段階に入る。

A)想定質問への回答の作成作業と、相手チームの課題に対する質問の準備作業

 記録係は、前ステップでの自らの感覚をもとに、どのような質問が相手から来るかをリスト化したものを作成し、これを想定質問リストとする。

 キャプテンは想定質問リストに対する回答を準備する出し手担当と、受け手担当を決める。その際、@)の作業の観察結果を十分に生かすこととする。

 出し手担当は、準備した想定質問リストに対する回答案を作ることが役割である。

 受け手担当は、相手チームの課題に質問をすることが役割であるので、中立的ロールプレイの立場でできるだけ多数の質問を作ることが役割である。自チームへの仮想質問を考えたノウハウを活用して、相手チームへの質問をできるだけ多数作成する。質問をする順番や、想定される議論の展開をあらかじめ予想しておく。

 出し手担当(3〜4名)、受け手担当(2〜3名)に分かれて、過去の歴史的な事例などを調査し、準備作業を進める。

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@)、A)の想定作業時間は3時間以内。
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B)想定質問への回答のチェック

 その後、出し手、受け手が調査結果を持ち寄る。記録係が順次、担当者に質問し、全員がその回答と質問をチェックし、要改良点があれば、どのような改良が必要かを議論する。

C)回答案を最終的に詰める

 回答案を詰めると同時に、現在、想定していない他の質問がないか、再度検討する。

 その際、今回の対象事象について
1.歴史的経緯 
2.予測可能性 いつ起きるか
3.不都合な事態の深刻さと対処法

 が十分にカバーされていることを確認する。

D)相手チームの課題への質問案を最終的に詰める

(1).過去にどのような疑問点があって、どのような議論がこれまで行われてきているのか、その歴史的な経緯をチェックする。
(2).素朴な疑問点をできるだけ多数考える。
(3).質問を記録係に向かって行い、記録係は、その質問の真意などについて、逆に質問を行う。
(4).質問をする順番の概略を決める。

E)チーム内でのリスコミ仮想演習

 受け手担当が相手側の受け手役を引き受け、実際に質問をし、それに対する答え方のチェックを行う。
 想定外の質問、全く関係の無い質問が来たときの対処法などを十分準備しておく。

 しかし、最後はいかなる状況になっても対応せざるを得ないので、柔軟性を最大限発揮できるような体制を確立しておくことが重要。キャプテンの仕切りが最重要項目。

F)最後に、翌日の実践のタイムテーブルを作成(その通り進む訳はないが)。

以上の作業が初日の作業となる。

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B)、C)、D)、E)、F)の想定所要時間の合計は、1時間
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二日目:リスク・コミュニケーション


タイムスケジュール
 9:30開始 本日の予定の再確認

 午前に2時間15分、午後に2時間15分の時間帯を用意する。どちらのチームが先攻とするか決める。

 道場主は、この段階で、それぞれの役割の前提となる注意事項を再度簡単に説明する。

ラウンド1の実践:
10:00 チーム『紅』が出し手役
12:15 終了

昼食休憩

ラウンド2の実践:
13:30 チーム『白』が出し手役
15:45 終了 & 休憩
16:00 評価会・反省会
18:00 終了

 この評価会・反省会が非常に重要だと思われる。しかし、おそらく準備をしておいても、無意味だと思うので、「なるようにしかならない」、という道場主の割り切りが必要。むしろ、様々な表彰状を用意しておくのがよいようにも思える。



付録:
道場主からのメッセージ(案)

(初日午前中の最初に述べる道場主からのメッセージ案)

今回の『道場』の意義と参加者それぞれの役割に関する基本的な考え方

 目的から導かれる参加者のスタンスは以下のようなものかな、と思います。

1)リスクコミュニケーションというものがどのようなものかを体験してもらうこと=研修の目的。しかし、中立的なスタンスを維持したまま質問と回答が進行する方式を採用したい。すなわち、ロールプレイを強制しない「中立的ロールプレイ」を採用。

2)リスクコミュニケーションの最大の目的は、相手側に「そんな考え方もあるのか」という不完全ながらも一種の納得をしてもらうこと。理由は、完全な納得を目指すのはもともと無理だから。研修での、仮想的なリスコミでも、そのぐらいを目指す。最後行われる評価の時間に、受け手側が相手側のコミュニケータを評価するときにも、「市民の立場を想定すると、本日行われた情報交換では、・・・・・・・・・・と思われる」。

3)社会というものを相手にしたリスクコミュニケーションを実施するには、あらゆる個人的なイノベーションが必要。なかでも最大かつ、基本中の基本は、相手の立場になって考えること。=道場から得て欲しい最大のこと。

4)受け手=一般市民の立場を想定し、一般市民が疑問に思いそうなあらゆる質問を考えるものの、実際に質問をする際には、受け手ではない中立的なスタンスを取りつつコミュニケータに質問をすることが理想なのではないか。例えば、「市民からこんな質問も来るのではないですか」、を常に質問の先頭に付ける。

5)出し手=コミュニケータ側がどのようなリスク情報を準備するか。それは、「一般市民が質問をしてくることに対して、適切な回答とはなにか」、という判断基準を持ち続けて考え、実践する。

6)有りうる疑問点:「科学的知見と不確実性の整理の時間での検討では、想定質問を踏まえたリスク情報の作成が必要になるが、ある程度詳しい支援者が必要か」については、できれば、それぞれのチームに、顧問役を一人ずつ割り振るのが良いかもしれない。しかし、できるだけ支援をしない顧問役、すなわち、「自分達で調べろ」という顧問役が理想。と考えると、顧問役は不要とも言える。
 その代わりとして、二日目の実践の場に立ち会って、それぞれのチームの良かった点、要改善点を評価しアドバイスする顧問役が居ることで、良い効果を得ることができるように思える。