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     リスクガバナンスとは何か 
    08.09.2014
              リスクコミュニケーションとはどう違うのか


 IRGCという組織がある。International Risk Governance Councilで、その本部はスイスのジュネーブにあります。リスクマネジメントについては、ISO31000にもなっているものの、リスクガバナンスとは何か、これまで、本サイトで取り上げたことがありません。

 現時点での最大の問題かもしれない原発のような巨大システムのリスクに的確に対処しつつ運用するには、単なるリスクコミュニケーションやISO31000のリスクマネジメントといったレベルでは不可能であるという主張のようにも思えるので、少々違いを説明してみたいと思います。

 今回使用した文書は、このアドレスからダウンロードが可能です。
http://irgc.org/wp-content/uploads/2012/04/An_introduction_to_the_IRGC_Risk_Governance_Framework.pdf


C先生:IRGCは、単なるリスコミやリスクマネジメントでは不足だ。リスクガバナンスという概念を導入することで、以下のような状況がおきることを回避することが可能だ、と主張している。

◆リスクを受忍する不公平性:例えば、国家間、組織間、社会的なグループ間での不公平性
◆同じリスクを評価し、マネジする異なったアプローチの存在
◆リスクプロファイルに関する状況:リスクの高い状況を過大評価と、低いが広範に起きるリスクの過小評価
◆リスクトレードオフの不十分な考察
◆個別問題の二次的な相互影響や関連性に対する無理解
◆不効率な規制のコスト
◆一般社会の理解に対する無理解
◆一般社会からの信頼性の喪失


A君:こんな不都合が日常的に起きている国が日本ですから、リスクガバナンスということが有効な概念だという理解が広がれば、リスクに対してより適切に対応できるようになるのでしょうね。

B君:まあ、理論的にはそうだけれど、理論と実際は違うという結論になるのではないか。どういう反応が来るか、それを想定。するために、リスクガバナンスというもののチェックが必要だ

A君:さて、このようなリスクガバナンスですが、実際には、5つの段階で実施されるとしています。
1.プレアセスメント=Pre-assessment
2.鑑定=Appraisal
3.分析と評価=Characterization and Evaluation
4.管理=Management
5.コミュニケーション=Communication


B君:まず、対象としては、Policy Makers(政策決定者)を考えているらしい。通常のリスクマネジメントとの違いは、いくつかの作業を追加していること。それは、社会的な状況を十分に考慮した上で、リスクを取り扱うため。

A君:いかにも良さそうですが、それなら具体的に何をするのか、というと、まずは、1.に示したリスクのプレアセスメント。その目的は、異なった主体がどのようにリスクを捉えているか、さらに、すでに存在している法的なルールとか当然とされている処理プロセスがあるか、などをあらかじめしっかり把握するということから始めようということ。

B君:それは当然。ISO31000のリスク管理とは、主として、企業などの組織を対象に考えていて、それがリスクをどのように対処すべきかが主たる目的で、社会的なリスクに関する事象を管理するためのものではない。だから、社会とより密接な関係をもたなければならない。ということで当然だろう。

A君:そして、IRGCは、『リスクのカテゴリ化』というプロセスを実行することを推奨しています。具体的には、そのリスクが、自然、技術、経済、環境のどれに起因しているか。そしてその評価として、単純、複雑、不確実、不明瞭などの分類をすることも推奨しています。

B君:これは、当然ともいえるけれど、それによって、コミュニケーションをどうするかという解が大きく異なる。

A君:IRGCは当然ながら、コミュニケーションを重視していて、その定義は、単に、リスクとかリスク管理の結論を伝達することではなくて、双方向の会話が実質的に行われること。ここまでは、ある意味で当たり前なのですが、特筆されているのが、政策決定者と、政策決定に必要な知識を提供する側とでも双方向の対話が行われること必須である、としています。

B君:その部分は、理解可能だし、実施可能のように思える。最初から考え方が全く違う集団相互のリスコミについては、どう記述されているのだ。

A君:若干抽象的なのですが、リスクと事実に関する知識の伝達は、情報を受け取る側が、その利益、関心、信念、能力に応じて、選択できるように配慮すること、というように理解できます。
 そして、次のようにも記述されています。リスク文化の多様性に対して、それを受け止め、配慮することが重要。なぜならば、それぞれの特性に応じて、異なった方法論が必要だから、と指摘しています。

B君:これは厳しい。

A君:さらに、リスク文化が違うと、リスコミを行うタイミングの選択が非常に重要になるという、追い打ち的記述があります。

B君:リスコミは、かなり深刻な状況において重要になるのだから、まあ、当然ともいえるけれど、それに対してできるだけ事前に準備を行っておくことが求められるのだろう。その準備も、リスコミの相手の状況がどのようなものかを十二分に理解しておくことから始めるべきなのだろう。

C先生:IRGCの提案が本当に有効なのかどうか。これをどのようにしたら確認できるのか、という問題意識で、これから先の議論を進めよう。

A君:まずは、リスクの分類をしっかりやることが重要だということを言いたいのだと思いますが、リスクの分類などに関する情報が整理されています。

リスクの分類
▼どのぐらい新しいリスクか。
▼リスクのスコープ:地域、分散、国境を越えている、地球レベル。
▼対象(レンジ):ヒトの健康と安全、環境、資産、貿易など。
▼時間:リスクを解析するのに要する時間。
▼ハザードのタイプ:いつでも起きる、継続的に起きる、不可逆性。
▼影響の遅延:暴露から影響が顕在化するまでの時間。
▼科学技術によってもたらされたリスクの場合、変化が段階的だったか、急激だったか。


リスクの評価、管理、対応などに関すること
△リスクの取り扱いに国際的な枠組みが必要か。
△重要な社会的価値との関係、ビジネス上の見通し、公正性の観点、安全保障の要求、貿易上の合意。
△保険が有効かどうか。
△一般社会の関心、ステークホルダーの関与。
△法規制上の枠組み、規制、標準、ガイドライン、放任:国際的かどうか:強制力のレベル。
△政府の関与の強さか自主的な枠組みか。


C先生:様々な要素が、しっかりカバーされていることがよくわかると思う。問題は、ここまでしっかりとカバーすると、実際に動く場面でも、極めて多様なことを考えなければならないことになって、実施可能性とか、必要な準備や努力に比較したとき、実効性が若干弱くなるということがあるかどうか。これから、リスコミの具体的な枠組みの記述に入るから、これに着目しつつ、進めよう。


1.プレアセスメント

A君:了解。まずは、プレアセスメントからです。これを 言い換えれば、「早期警戒の枠組み」とでもなって、そのリスクに関する問題点を構造的に定義することから始めよということのようです。

B君:まずは、例から理解せよということのようだ。ナノテクノロジーに関する早期警戒の枠組みは、この技術に関して、どのような理解がなされているか、から始めよ、ということのようだ。すなわち、ナノテクノロジーは、(1)単に、これまでの材料技術の延長線上にある、(2)かなり革命的で現時点での経済の枠組みまで変える、(3)原子力やGMOのように、地球レベルのリスクをもたらす、といった異なる見方がありうる。

A君:国際的には確かに「ナノ」という言葉にある種のイメージが結合していたようですが、このところの理解では、カーボンナノチューブのようなものを単独で応用することが思ったよりも難しいことが分かってきて、結果的には、リスクの過大評価かもしれないと思います。

B君:どのように議論すべきかがリストになっている。
●今取り上げているリスクとチャンスは何か
●このリスクの多様な側面は無いか
●われわれの評価に限界があることをどう設定すべきか
●すでに問題になっていて、対応をする必要性があるか
●誰が関係者なのか。彼らの見解がこの問題の定義と取り扱う範囲にどのように影響するか。
●このリスクを定量的に評価することに使えるツールで、科学的あるいは分析用ツールと言えるものは何か。
●この問題に関する法的なあるいは規制的な枠組みはなにがあるのか。
●関連する政府、国際機関、ビジネス、人々の組織的な能力はどのようなものか。


A君:プレアセスメントにおいて、欠落しているガバナンスとはどのようなものか、という問いもあって、その答えがまたまたリストになっています。
■警告:知られているリスクの存在を示すシグナルが検出されていない。もしくは、認識されていない。
■スコープ:かなり狭い範囲にしか存在しないと思われているが、実は違うということはあるか。あるいは、全く逆のケースはありうるか。
■枠組み:異なった関係者が相反する見解を持っていることはあるか。
■黒鳥=希少品:ハザードとありうるリスクに気づかない人々。


B君:枠組みについて、欧州と米国における遺伝子組み換え食品の規制に関する違いが、コラムとしてまとめられているので、紹介してみようか。

 欧州での遺伝子組み換え植物に対する理解は、これは、これまで存在しているいかなり品種とも大幅に違った植物であるために、これまでとは全く別の考え方に基づく規制が必要不可欠である。いわば、エイリアン植物として取扱いであった。
 一方、米国の規制当局の理解は、遺伝子組み換え植物と言っても、これまで品種改良で使われてきた様々な手法とそれほど違わない手法によって作られた新しい植物である、というものだった。

A君:実態は、両者の中間のように思いますけどね。遺伝子組み換えによって、ピンポイントである条件を満たす植物を作ることと、それまでの品種改良の手法によって、偶然によって新しい植物を作ることの質的な違いは無視できない。特に、ピンポイントの条件を活用することで、得られる経済的な効果が非常に大きいというところが、もっとも違うところでしょう。

B君:まあ、そんなところだろう。除草剤耐性が遺伝子組み換え植物から雑草に伝達されたとしても、そのピンポイントは確かに伝達されるのだけれど、だからといってスーパー雑草になって、どの除草剤も効かないようなものができるということではない。むしろ、一般的な抗菌剤を開発して、それを大量に投与することで、耐性菌を次々と作ることの方が、非常に厄介。それは、微生物というものが新しい形質を獲得する速度は非常に速いので、次の抗菌剤を開発するのに要する時間より圧倒的に短い。抗菌剤の開発競争は、決して、微生物の変化速度を上回ることはできない。


2.鑑定=Appraisal

A君:そろそろ次に行きます。それは。2)鑑定=Appraisalです。リスクの鑑定というよりは、値踏みなのかもしれません。
 そのリスクを取るべきかどうかについて、必要な知識ベースを開発し使えるように整備することを意味するようですので、値踏み用のツール開発といった感じがもっとも近いかもしれません。

B君:appraisal explorationが石油の試掘。まあ、値踏みが近いかもしれない。

A君:さらに追加の行動も、Appraisalには含まれているようです。それは、もし、リスクを取るとしたとき、果たしてそのリスクを若干なりとも減少させたり、封じ込めることが可能かどうか。

B君:やはり値踏みが良さそうだ。封じ込めが不可能となれば、より慎重に判断を下すという感じなのだろうから。

A君:ということで、Appraisalには、科学的なリスクアセスメントコンサーンConcernアセスメントが含まれる。このコンサーンアセスメントはなんと訳しますかね。

B君:もう少々先にいかないと、判断が難しい。

A君:それでは先に。科学的なリスクアセスメントは、次のような要素からなります。
★可能性のある被害や不都合な影響は何か?
★どのぐらいの頻度で起きるか?
★被害はどのぐらいの広がりか? どのぐらい継続するか? 可逆的は不可逆的か?
★原因と影響の関係がどのぐらい明確になっているか?
★どのような科学的・技術的・分析的なアプローチ・知識・助言などをこのリスクに付随するインパクトの分析に使うべきか?
★一次的・二次的なベネフィット、チャンス、そして、ありうる逆効果はどのようなものがあるか?


 そして、コンサーンConcernアセスメントは、次のような質問に答えるものである。
☆一般社会の懸念と理解はどのようなものか?
☆このリスクに対する社会の反応はどのようなものか?
☆ある種の運動化や争いになる可能性はあるか?
☆既存の組織、政府、メディアの役割は何か?
☆リスクを管理しようとすると、関係者の利害やそれぞれの目的などによって論争を起こすような状況を生み出すか?


B君:なんという名詞で表現したらよいのだろうか。文字通りの「懸念アセスメント」ぐらいでとりあえず行こう。 

A君:そして、最後のまとめが、リスクの鑑定にあたって、弱点になりがちなもののリストです。

◇情報:リスクに関する科学的なデータはあるが、懸念を解消するデータが不足している。もしも十分な量の情報があったとしても、それが受け入れられていない。
◇確信:データ・モデル・解釈の確定性が不足。
◇配慮不足:登場人物間の相互依存関係、相互作用。あるいは、関係者とリスクの間の相互依存関係とか相互作用に対する配慮が不足。
◇利害関係者の懸念に対する不適切な対応。


C先生:これまでのところ、通常のリスク管理よりは、利害関係者の対立構造が厳しい場合についての対応がより意識されているように思われる。ということで、次に行こう。


3.リスク構造の分析と評価 Characterization and Evaluation

A君:普通であれば、科学的なリスクの理解に基づいて分析し評価すること、ということになるのですが、このIRGCの方法では、かならず社会的価値の完全な理解を伴うこと、という制約が付随しているという条件を理解した上で、そのリスクが受容可能、受忍することが可能、受忍も不可能という評価を下すべし、となっています。

B君:当然のことながら、リスクを受容するのであれば、特に、なんら条件はないけれど、もし、受忍するということであれば、リスクを減らすということも検討しなければならないし、もしも、受忍も不可能ということになれば、そのリスクを避ける方策を考えなければならない。

A君:ということで、リスクを受忍するなら、以下のようなことを考慮しなければならないという結論になります。
◎社会的、経済的、環境面でのベネフィットとリスクが解析されていること。
◎QoLへの影響はあるか。
◎倫理上の問題が起きる可能性はあるか。
◎代替するという方法の可能性はあるか。
◎特定の技術を選択すると、何かリスクに強い影響を与えるか?
◎リスクを補償したり、減少する可能性はあるか?
◎判断をする際に、どのような社会的な価値と規範を考慮するか。
◎利害関係者の誰かが、リスク統治の過程で生じる特定の結末を望んでいるということがあるか。


そして、リスクガバナンスが困難になるケースのリスト
▲不当な除外:ある利害関係者を無視したとき。
▲決定不能と責任の回避が起きたとき。
▲トレードオフに隠された問題があって、透明性が損なわれたとき。
▲価値の見逃し:社会的ニーズ、環境影響、コストベネフィット解析などでの見逃しがあったとき。
▲タイミングがずれたとき。


B君:まあ、多くの警鐘がリストアップされている。


4.マネジメント

A君:次がマネジメントです。これは、リスクを受忍することを選択した場合なので、リスク管理と訳すよりも、対処法とでも訳した方が良いのです。リスクを受けることを決めたので、その場合には、リスクになんらかの対処をする必要があって、それは、行動を計画し実行する、あるいは、リスクを避ける・減らす・移転する・保持するといったような対処法がある。

B君:そして、この際に発すべき質問は以下の通り。
*責任をもって決定を行う人は誰か。
*彼らはこの責任を受ける覚悟があるか。
*オプションはあるか。技術的・規制的・組織的・教育的・補償的なものが?
*これらのオプションの評価と優先度は?
*国際協力、共通化などの適正な対応は?
*リスク削減が生み出す二次的リスクは?
*対策をすることによって、新たなトレードオフがでてくるか?
*対策の長期的な効果を維持するには? 遵守・強制・モニター・順応的管理など

A君:そして、リスク管理が失敗するケースとしては。
#隙間に落ちる。だれも責任を取らないため。
#情報がいい加減だったため、不適正な対応になる。
#不適正な規制。
#短期的な結論が二次的な問題を引き起こす。
#管理者のご都合主義による短期的な対応。
#柔軟性を欠くこと。新しい知識が出たのに、リスクの再検証をしない。
#決定をしない。タイミングの悪い決定。
#決定によってリスクとベネフィットの分配を不公平にする。
#決定者が決定のもつインパクトから隔離状態に置かれる。
#決定が無視される。もしくは、わざと不十分に実施される。



5.コミュニケーション

A君:そして、コミュニケーションが重要、ということは当たり前。もっとも重要なこと、という理解すべし。
 コミュニケーションによって、利害関係者と市民社会の間で、リスクそのものの理解が進む。そして、この両者が、リスクガバナンスで果たすべき役割を理解するようになる。意図的に双方向で行い、その中で、意見を述べるようにする。リスクガバナンスの決定が行われた後には、その決定の合理性を説明し、人々に、リスクとその管理、そして、負うべき責任について、情報をすべて与えた上での決定を行うことを許容する。
 効果的なコミュニケーションがリスク管理に対する信頼性を得ることができるかどうかのカギである。

B君:その際、考えるべきこととしては、
%要求事項・ニーズ・目的は何か?
%情報を得た人々がその情報をどのように解釈しているか?
%リスクとハザードについて、何が良く知られているか?
%誰によって、その情報が利害関係者や一般社会に伝達されるのか?
%コミュニケーションがどのように設計されるか。特に、双方向性の情報交換が有用であり、啓発的であり、かつ、時宜にかなうものになるように。
%利害関係者と一般社会の懸念が正確に表現されているか。それを政策決定者は聞いているか。
%コミュニケーションが規制側、リスク評価者や他のエクスパート、リスク管理者、関心の高いグループの間で、効果的に進められているか。
%リスク管理者の自分自身に対する自信はどの程度あるのか。特に情報を作り、伝達し、そして、会話を進める面で。
%メディアの役割は、何であったか。そして、何であるべきか。


A君:最後に失敗する可能性について。
□一方的な情報の伝達を行うこと。双方向の情報交換が絶対的条件。
□コミュニケーションの際、利害関係者によって、情報の理解と受容がどのぐらい違うについて、配慮されていない。
□疎外感:人々の、あるいは、主催者の懸念への配慮が、不合理かつ不適切であった。これが起きると、リスクの全貌が理解されることはなく、また、組織や最終決定に対する紛争を誘発する。
□決定プロセスにおける自己への自信と他からの信頼性のレベルが低い。これは、プロセス全体を弱いものにしてしまう。


C先生:これで、プロセスの解説が終了して、IRGCの主張とプロセスが大体わかったことになる。さて、どのような感想を持ったかな。

A君:かなり包括的。いろいろと失敗の実例などを多数持っていて、その検討をしているのではないか、という感触ですね。

B君:たしかにその通り。だから、失敗をしないためには、相当の準備をしないとダメだということだと思う。しかし、リスコミも、その対象によって、ここまで準備しないとダメ、などといったことは、それぞれのリスコミの主体が、経験的に身に着ける以外には無さそう。

C先生:多分、そんな結論になるだろう。リスコミは、あくまでもコミュニケーションの一部なので、コミュニケーションは人と人あるいは人と社会の関係で、どこまで行けばゴールというものではない。とにかく、実施して、それなりに成果を上げるということで、徐々に経験値を高めないとダメなのだろう。その準備をするときに、この文書にある注意事項を参照することによって、失敗の可能性を多少なりとも減らすことができれば、なんらかの成果を上げることが可能になると同時に、次には、さらに高度なコミュニケーションを行うことができるようになるのではないだろうか。

A君:それでは、最後のまとめに行きますか。IRGCの主張もその通りでして進化せよ。最初は、コアリスクガバナンスプロセスをする。コアの意味ですが、ここでは、最低限の程度の意味です。それを実施することで、その主催組織の実力が上がる。そして、それが人的資産になって、次には、さらに高度なコミュニケーションが行うことができるようになる。すなわち、リスクガバナンスのスキルも上がる。

B君:なるほど。そして、レベルが上がることによって、他の組織との交流なども可能になって、リスクガバナンスの実施者同士の交流も盛んになり、さらにレベルが上がる。そうこうしているうちに、政治的あるいは、規制に関する理解や文化的理解なども進化することによって、高度な経験が可能になる。そして、最終的には、社会的な気候、まあ、温度とか風向きとか言ったことかもしれませんが、社会気候への影響力すら持てるようになる。

C先生:そうなれば、社会全体から、有用な組織であるという認識を得ることもできる。ということのようだ。IRGCは、自らの方法論をInnovative、Comprehensive、Flexibleだと自己評価していて、この方法論に従えば、リスク評価の機構などが、自らの使命を達成することが容易になると主張している。そう簡単には行かないとは思うものの、これまでのリスコミの書籍の内容と比較すると、確かに、経験を積んだ人々が、時間を掛けて議論をした結果が提供されているように見える。
 結論として、もしもリスクコミュニケーションを行う必要が生じた場合には、この文書を参考にして実施し、数回の経験を積んで、最終的には、リスクガバナンスプロセスとしてのリスクコミュニケーションを行うという進化を目指すことが良いかもしれない。
 リスクガバナンスとは言うものの、その根幹は、やはりリスクコミュニケーションに依存している。その意味では、これまでのリスコミの手引きのより高度バージョンと考えれば、それほど、間違っていないと思う。どこかで実験をしてみたい。

       
FACEBOOKの環境学ガイド(クローズドのグループ)に掲載した本記事の紹介文

 リスクガバナンスという言葉をご存知でしょうか。ガバナンスというからには、「統治」「支配」といった感触がなければダメ、ということになりますので、定義をすれば、『リスクの統合的な制御』ということになるのかもしれません。
 IRGC=International Risk Governance Councilという団体がありますが、この団体は、いくつかの個別の問題、例えば、「ナノテクノロジーのリスク」などに対して見解を発表していますが、リスクガバナンスの最終的な目的は、「世界がなんらかの変化を享受できるために、それに付随するリスクを最小化することが必要」で、その手法をリスクガバナンスと定義しています。
 ところが、その手法でもっとも重要なところは、実は、リスクコミュニケーションだとしていて、失敗の無い包括的なリスクコミュニケーションをいかに行うか、そのために、4種類の準備を行うべし、といった提案がその根幹に存在しています。
 ということは、場合によっては企業でも、団体でも、あるいは政府でも、社会全体を対象に、なんらかのリスクコミュニケーションを行おうとするとき、IRGCの文書、Risk Governace Frameworkには、失敗をしないための知恵が満載という訳です。
 ということで、リスクガバナンスに関して、今回は少々リスクコミュニケーションよりで記事を書いてみました。