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     『日本人の誤解』 川島氏の著書   05.03.2020
                東南アジアの国々の日本観 その1



 本書の著者、川島博之氏は、東京大学生産技術研究所で本Webサイトの筆者の先輩である鈴木基之教授のお弟子さん。鈴木研究室は、化学工学の研究室であったが、鈴木先生の経歴と言えば、環境研究における日本の第2代目のボスであったこと。鈴木先生は、その後、国連大学の副学長を務められたが、その後任を務め、かつ、環境研究3代目ボスをなんとか務めたのが、不詳、このWebサイトの著者である。
 川島先生は、鈴木先生の化学工学の分野から離れ、東京大学農学部にポジションを得て、食糧問題などに関して、多くの著書を残している。しかし、『食糧』という文字の単語には、『食料』とはいささか違った意味があって、どうやら3つの意味があるようだ。
 1、主食となる食料
 2、精神、生活の活力の源
 3、携帯食糧
 1はまあ、当然。米偏に量という漢字であることからも分かる。2,3の意味から見ても、単なる食料より重い意味を持っている。となると、当然のことながら、国家的な食糧自給問題や、輸入するとしてもどのぐらいの量の食糧が適切なのか、といった極めて政治的な背景に近い文字だということになる。さらに、海外からの輸入となると、大きな企業が動くことになることもあって、かなりセンシティブな課題でもある。
 農水省は、それが本業だから当然であるが、食糧自給率をしばしば問題にしている。できるだけ自給することが望ましい、とも言えなくはないが、日本のような国土の状況であると、農業用超大型重機の導入には限界があるため、どうしても、農作物の価格は高くなる。米国の農地のように、見渡す限り広大な農地に、巨大な自動散水機や超大型農機が動いているタイプの農業とは全く違う。日本の農業と言えば、経済的な見地からは、輸入穀物を増やすのが妥当なのだけれど、農協のような農業団体は、国内生産の増量を、当然のことながら主張する。
 かなり回りくどい記述になっているが、川島氏は、国際的な観点から見れば、穀物の自給はそれほどの問題にはならない。ある一定の範囲内で、適切なところで妥協することが、コストと食糧危機のバランスを考える上で不可欠という立場で、農水省などの食糧は自給が理想という考え方とはかなり異なったことを主張する書籍を書いてきた。実は、その記述が真実だと個人的にも思う。農水省は、農業団体の利益代表でもあるので、当然、自給率を高めようというスタンスを取る。そして、東京大学農学部のスタンスも、当然のことながら農水省に近いものである。そのためかどうかは不明ながら、化学工学出身の川島先生の食糧生産に関するスタンスは、農業を専門とする人々からは、認めがたいものだったのだろう。そのためか、農学部での最終ポジションは、教授まで届かなかった。
 しかし、川島先生の世界の状況を見る視点の鋭さと確実さは、極めて優れたものであったと思うし、現時点においても、非常に実践的である。その証拠は何か。彼の現職を見ればよく分かる。東京大学を離職して、現時点では、ベトナムに在住。そして、ビングループの首席経済顧問である。同グループは、不動産、ホテル・リゾート開発、遊園地事業、小売業、病院事業、教育事業など多岐に渡る事業を展開しており、その主席経済顧問は、完全なる国際人でなければ、決して務まらないポジションである。
 そして、川島先生の最新の著書が、
  扶桑社新書323
 「日本人が誤解している東南アジア近現代史」
   2020年3月1日 初版一刷

なるもので、東南アジア11ヶ国、6億5000万人をビジネスの中心的対象としないことには、今後の日本経済の発展はあり得ない、ということを主張している。しかし、「その実現には、東南アジア各国の国民が、日本という国をどう理解しているか、ということを、『すべての日本人ビジネスマンが、日本の歴史に基づいて、十二分に理解していることが条件』である」、という極めて当然の主張を述べると同時に、東南アジア各国の対日本の感情を詳しく解説した著書である。
 個人的な話になるが、本Webサイトの著者は、アジアの国の状況を知るよりも、どちらかというと、米国とヨーロッパの国々が、どのような考え方であるか、それに対して、日本という国の大いなる特異性は、なぜなのか。これが興味の中心であった。このような経歴なもので、この川島氏の著書の内容である「東南アジア諸国の日本観」については、深く考えたことがなかった。そのため、この本の内容は、本当に勉強になった。というよりも、このような事実を知らないで、東洋の国である日本で育ったと主張することは、非常に大きな恥ではないか、とすら思った次第である。
 ということで、日本の未来をビジネスで支える人のすべてが、この本を購入し、手の届くところに常に置いて、東南アジア諸国について何かを考えるときには、参照することをお奨めしたい。特に、東南アジアをどう理解すべきか、日本という国とアジアのある国が、経済面で十分な協調的関係になりうるかどうか、などのビジネス関する重要な情報に興味ある方々にとって、必須の図書が出現したと思う。無条件に、推薦したい。


C先生:海外の人々と理解しあうことはかなり難しい。色々な要素があるが、本書では対象地域外なので取り上げられていないが、例えば、このところの最悪な例となった国としては、韓国がある。国をまとめる手段として、初等・中等教育の段階から、日本を『悪』と決めつけた教育をしているので、今後の予測としては、現状よりさらに取返しのつかない状況になっていくだろう、と言う以外にない。それが大変残念な韓国という国の政治的方針である以上、その方向性を変えることは不可能である。日本人としては、韓国はそのような国であると、現状を丸呑みして理解し、対応するしかない。
 さて、この著書だが、東南アジアの諸国、具体的な国としては、ベトナム、タイ、ミヤンマー、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、について詳細な記述がある。その内容は、川島先生の言葉を借りれば、『”あの戦争”が東南アジアの諸国にどのような影響を与えたか』、それを知らない限り、それらの諸国と真の交流をすることは難しい。しかも、現時点において残るその影響は、これらの国で全く異なっている、ということだ。

A君:東南アジアが対象ですから、韓国、中国の記述は章としては無いのが当然なのですが、現時点で、中国の東南アジアへの影響力は非常に強いので、それぞれの国が中国をどのように扱おうとしているのか、といったことは、本書全体として、底流として取り扱われていることが読み取れます。最後の章である第4章が、「華僑」の話になっています。

B君:もう一つ重要な結論が、”あの戦争”の影響。あの戦争への各国の意識は、歴史が全く違うので、実はバラバラ。それはやはり影響が全く違ったから当然とも言える。影響が最悪だったのがフィリピン。それも当然で、日本軍兵士にとっても、フィリピンでの”あの戦争”の結果は最悪だった。あれほどムダな戦闘を他国の地でやった国は、世界史上、日本以外に無いのではないだろうか。日本軍人にとっては、まさに、無駄な死に場所としての意味しか無かった。そして、フィリピン人は、そのとばっちりを受けた。

A君:そのため、現時点においても、フィリピンで、日本人が新規ビジネスを展開するのがかなり難しいとも言える、ということのようですね。なぜなら、フィリピンでの日本人の印象は、”あの戦争”の影響で、現時点でもかなり悪いから。

C先生:そろそろ章別に説明をする段階だけれど、やはり、目次から説明してもらうか。

A君:了解です。章だけご紹介。
第一章 人口から読み解く東南アジア
第二章 日本人が知っておくべき本当の東南アジア近現代史
第三章 世界が注目する東南アジアの経済発展
第四章 華僑を知らなければ東南アジアは語れない


B君:東南アジアを舞台とした、日本という国の戦争の歴史を十分に知ることがまずは第一の条件になる感じだな。”あの戦争”が、それぞれの国にどのような影響を与えたのか。本当の事を知っているのは、戦中派に限られる。しかし、本物の戦中派は、日本社会からほぼ引退した。C先生も生まれは戦中だけれど、生後6ヶ月で終戦になっているから、経験した訳もない。

A君:川島先生は1953年生まれ。完全な戦後派だけれど、ここまでの本を書いたということは、すべてを新たに勉強したということでしょうね。しかも、日本に住んでいて勉強したということではなくて、アジアの国に住むようになり、各国を巡って、そのとき日本人として肌で感じたなんらかの感覚があり、それが過去の歴史で説明できるかどうか。この問題に真剣に取り組み、そして、考えた。

B君:ひょっとすると、国際人、特に、アジアの国際人である川島先生以外に、こんな本を書ける人は居ない可能性もある。類似の本がAmazonで売られているかどうか、チェックしてみよう。

A君:キーワードが難しいですね。”東南アジア”、”対日感情”、”ビジネス”、”太平洋戦争”ぐらいで検索してみますか。

B君:1冊発見。糸木公廣著、”日本人が海外で最高の仕事をする方法 ― スキルよりも大切なもの”、2013年11月初版、英治出版。

A君:Amazonでの読者の反応から分かることは、ソニーのベトナム現地法人のトップだった人で、例えば、こんな感想がありますね。「一生懸命現地に溶け込もうと努力する姿勢に心を打たれました」。

B君:いきなり現地のトップになった人間にとっては、当然の心がけだと思う。しかし、今回の川島先生の主張は全く違う視点からなのだ。そもそも、”あの戦争”の影響が東南アジアの国それぞれで全く異なっている。それは、日本軍があの戦争で実際にやったことが全く違うから。そして、その影響が、各国において現時点まで残っている。そのために、日本企業あるいは日本人となんらかのビジネスをしようというときの、現地ビジネスマンのスタンスが最初から違うこともある。

A君:非常に簡単に最終結論の一つを明かしてしまえば、東南アジアでもっとも難しい国がフィリピン。それは、”あの戦争”のときに、日本軍が現地で行ったことがあまりにもデタラメだったから。

B君:今年の1月25日に本Webで”日本に明るい未来はあるのか”といういささか悲観的な題名でご紹介したけれど、その中身は、小松真一氏が書いた「虜人日記」に書かれている日本軍の敗因21項目だったのだ。

A君:読むのもつらい記述ばかりだけど、やはり、再掲ですかね。

B君:さすがにそれは避けよう。結構分量があるので。 
  日本軍の敗因21項目
   小松真一氏著「虜人日記」

という書物に書かれていることだ。

A君:本Webサイトでは、2020年1月26日版にアップしました。
http://www.yasuienv.net/RyojinNikki.htm

B君:現時点でこれを読むと、コロナウィルスと重ねて考えてしまう。今回のコロナは新規ウイルスだから仕方がないとも言えるが。

A君:今回のコロナで言えば、この21項目にはないことで、もう一つ重要なことがありますね。それは、『判断の迅速性・政策性が充分でないこと』。

B君:確かに、その通りなのだが、その項目は、上記21項目とは、項目のレベルが違う。21項目は、『指導者に生物学的な常識がなかった事』と書かれているが、それは、いささか視点が違っていて、なぜ、『判断が遅くなるか』の原因が書かれているとも言える。

A君:なるほど。『判断が遅くなる上に、しばしば間違った判断をする』、いや違うかもしれない。『判断が遅くなるのは、そもそも日本政府にはできないことが多すぎる』という記述の方がより真実に近いかもしれないですね。

B君:今回のコロナの例だと、「アベノマスク」ですかね。安倍首相以外の国会議員が「アベノマスク」を付けているのを見たことがない。

A君:アベノマスクはまあ、首相の冗談だったと思えば我慢もできるのでは。その割には、予算はかなり掛かったので、やらない方が絶対的に良かったけれど。

B君:まあね。しかし、将来を考えると、イギリス、イタリア、フランスなどが行ったロックダウンをできるようにしておかないとコロナに類似したパンデミックは、近い将来また発生するだろう。多分、また中国から。となると、パンデミックに限って、ロックダウンを行うことができるような法体系を整備しておかないとダメだと思うのだけどね。

C先生:そろそろ、本論にいかないと。余りにも回り道がクドイ。

A君:はいはい。川島先生の書籍は、すでにご紹介したように、第1章から第4章で構成されています。各章は以下の通りです。

第1章 人口から読み解く東南アジア p17〜p61

第2章 日本人が知っておくべき本当のアジア近現代史 p62〜165
 第1節 東南アジア近現代史を学ぶ前に
 第2節 ベトナムの近現代史
 第3節 北と南に分断されたベトナムと朝鮮の比較
 第4節 タイの近現代史
 第5節 ミヤンマーの近現代史
 第6節 マレーシアとシンガポールの近現代史
 第7節 インドネシアとフィリッピンの近現代史

第3章 世界が注目する東南アジアの経済発展
 第1節 東南アジアの農業
 第2節 東南アジアのエネルギー
 第3節 スマホが変える東南アジアの交通事情
 第4節 貿易から見える東南アジアと日本の関係

第4章 華僑を知らなければ東南アジアは語れない


そして「おわりに」。以上です。

B君:第1章は、人口への認識から始まる。途上国の状況を判断するう上で、人口の問題は基本中の基本。特に、経済成長にとって非常に重要な要因。人口が増える傾向にあるときと、現在の日本のように少子化の傾向である国とでは、全く、状況が違う。

A君:1950年からの人口予測を2050年まで行うと、東南アジアの国で、もっとも人口増加があると予測されているのが、まずは、インドネシア。人口数の絶対値がそもそも違う。

B君:その次がフィリピン。こちらは絶対数というよりも、増加率がすごい。これらの国とは対照的なのが、ベトナムとタイで、人口増加という面で見れば、すでに、ある程度の成熟国になっている。

A君:中国のように一人っ子政策をやると話は違うのですが、通常の国ですと、「自分の子供に良い教育を与えると、その子供は幸福な人生が送れる」、と思えるような経済状態になると、人口増加はかなり抑えられる。要するに、教育費というものは、どの国でも、国民所得から見ると、高いということ。

B君:アフリカの低開発国のように、子どもは薪(エネルギー)の獲得と水の調達のための労働力である、と理解されている間は、出生率は下がることはない。

A君:人口のデータを見ても、ベトナムとタイは、すでに中進国のレベルを超えた。今後、政治的な安定性は常時問題になるけれど。

C先生:そろそろ、どの国がどのような状態なのか、という各論に行くべきだが、この速度だと、今回では絶対に終わらない。
 そこで、対策が不可欠だが、今回は、結論と一言のコメントで終わりにして、次回、なぜ、そのような結論になるのか、という説明を別途ご紹介するというやり方で行こう。

A君:了解。それでは、ベトナムからどうぞ。

B君:ベトナムは、「中国文明であるが、中国が大嫌いな国」

C先生:そうなのだ。過去、中国と戦争状態になることが何回もあるが、中国は戦争相手としてベトナムが苦手らしい。徹底的に抗戦するので。

A君:ということで、ハノイなどには、韓国が大進出していて、サムソンの工場は考えられないほどに大きいけれど、本来、日本が経済的観点からもっと頑張るべき国だと思う。

B君:次はタイ。タイとミヤンマーは、テーラワーダ(上位座)と呼ばれる仏教、日本の仏教とは全く違う仏教の国。微笑みの国ではあるが、「親日国」という先入観は持たない方が良い。

A君:次はミヤンマー。ロヒンギャなどの少数民族の問題を抱えている。

B君:アウンサン・スーチーの父親であるアウンサン将軍と日本は密接な関係はあった。

A君:ミヤンマー人は日本に親近感があるが、外交やビジネスとなると、それに甘えてはいけない

B君:次がマレーシアとシンガポール。華僑が2割程度存在する。日本軍が占領した初期に、数千人の華僑を殺害した。それがまだ、燻っている。マレーシアの住民は、マレー系69%、華僑系23%、インド系7%からなるが、マレー系の住民は、日本に対してそれほど悪い印象は持っていない

A君:次がインドネシア。オランダ人が香辛料欲しさに入植して、それまで植民地としていたイギリス人を追い出した。オランダ人の政策は過酷だった。日本軍がインドネシアのオランダからの独立を支援したため、親日国である。

B君:最後がフィリピンこの国と日本軍の関係はなんともすごいものなのだ。当時、フィリピンには米軍がいて、日本軍がインドネシアなどから運ぶ石油の輸送船を攻撃していた。米軍の司令官は、マッカサーであった。日本軍が行ったバターン死の行進のために、フィリピン軍兵士が多数死亡したため、日本軍が恨まれている。日本人のイメージはフィリピンでは最悪。

C先生:やはり記述が大幅省略形になってしまった。今回は、このあたりで止めることにして、次回、日本の東南アジア戦略に対する川島先生の考え方をご紹介することにしよう。
 それはそれとして、今回のコロナ騒ぎで、日本の政治の進め方は、いくつかの点で「さすがに日本流だなあ」、と思う。現時点における日本流が顕著に見えるのは、例えば、新薬の認可に対する態度。「とにかく慎重に。急を要する時には、さらに慎重に進める」。これが方針の様だ。何か新しいことをやって、失敗すると政府は大々的な批判を受けるが、「慎重に、さらに慎重に」進めることで、遅れを招いた場合には、余り批判されないと思っているようだ。今回のように、死者数が最終的な問題にケースではそうではないと思うのだ。そろそろそのような認識をすべき時代になっている。それには、日本軍の失敗、それは、計画性が無かったこと、そのため、結果的に、最適解が選択できなかったことに尽きるのだけれど、過去の失敗を、もう一度、反省材料にすることが必須のように思える。