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   スティーブ・ジョブズになれない
  日本の経営者・技術系管理職へ  
 2011.10.16




 しばらく前のことになってしまうが、スティーブ・ジョブズが、10月5日亡くなった。56歳であった。やはり早過ぎる死であったろう。

 個人的には、日本で50人目ぐらいのAppleUのユーザであったので、アップル製品との付き合いは、1978年ぐらいから、ということになる。しかし、その後、初代Macが閉鎖的なシステムになったために、また、その上で、科学関係のプログラムを開発することが難しいパソコンであったために手を出さなかった。

 ただ、一時期、どうしようもなくて、MacUを買った。Desk Top Publishingをする必要性に迫られたからであったが、その後、プログラム開発などがオープンなWindows系しか使っていない。

 しかし、今、ノートパソコンをどうしても買うことになったら、MacBook Airだろうか。これまで、初代のR1からのLet's Noteユーザだったが、現時点で、パナソニック製を買う必要性は全く感じない。革新性がみじんも無くなってしまったのが原因。

 さらに重大な理由がある、DropBoxなどのクラウドを使い出すと、実は、キーボードがしっかりしていれば、普段はパソコンでなくても良いからである。

 しかし、余りにも安価であったのでフラッと買ってみたNECのLifeTouch(Wifi+3G版)は、なんと6台目のAndroidになるが、もともと「失敗作との評判」だから、と覚悟はしていたが、やはり成功作とはとても言えない。

 そもそも本体がやたらと重すぎる上に、電源のサイズと重さが携帯することを考えて作られていない。恐らく、自分ではこの製品を使う気もない管理職が、コストばかりを気にして、パソコン用を流用するという愚かな製品仕様を決めたのだろう。NECにジョブズは居ないことを証明している製品である。

 多少弁護をすれば、良いところが一箇所だけある。それはキーボードである。ピッチは16.8mmと広くはないのだが、配置が非常に素直である。そのため、小さいながらも、ほぼ、フルスピードで文字を打ち込むことが可能である。これで、この機種の役割は決まったようだ。広いテーブルの上で、審査書類や新聞などを広げながら、自分用のメモなどを作るときには最適の製品のようだ。となると、Wifi+3G仕様を買ったのは間違いだったようだ。

 先日、なぜか買い込んだキングジムのポメラだが、NEC製よりこちらの方がキーボードが大きいぐらいだ。しかし、これは打ちにくい。理由は2つ。ストロークが深く重いことと、最下段のZ、X、、、列のキーの位置が間違っていること。Bのキーの中心は、GとHの中点の真下にぴったりと位置しなければならないのだが、ポメラはこのようなキーボードの文法を無視している。こちらは、恐らく、キーボードのこと知らないデザイナーが作ったからだろう。また、製品を文法に沿った形で磨き上げるという思想が無い製品だからであろう。

 ポメラの役割は、実は、まだ決まらない。持ち運ぶには、意外と重たいしかさばるので、なにかちょっとだけ長めの文章を書く必要のある出張用だろうか。

 日本の携帯メーカーにもジョブズは居ない。日本のパソコンメーカーにもジョブズは居ない。日本の自動車メーカーにもジョブズは居ない。洗練された趣味的な製品を作ることができる日本企業はほとんどないのが現実である。加えて、先ほどのキーボードの例のように、日本のデザイナーには、無視してはいけない文法というものがあることが理解されていない。

 ジョブズは、趣味の人だと言う評価もあるが、実は実用の人だったのではないか。自分のニーズを実現するために、とことん何が必要なのかを考え、それに向かって製品を突き詰める実務者だったと思う。彼がニーズと考えているものが、大多数の人々のニーズとも一致していたところが、彼のもっとも優れた点であったと思う。

 ジョブズがつくった製品には、気に入らないところが多数あるが、その一つが、彼は「単純な方が美しい、したがって、ボタンの数は少ない方が良い」、と信じていた点である。そして、Apple製品には、これが行き過ぎていることだろう。さらに、決定的な難点は日本語。変換ソフトのような異文化に依存するシステムに対しては、さすがのジョブズでも、感覚を持ちようがないのだから当然なのだが、やはり無理だった。日本向けのiPad、iPhoneは、やはり日本人が設計に関与すべきだったと思う。

 もう一つ、ジョブズの製品で気に入らないことがある点が、プロのニーズを切り捨てていることである。Androidだとできることができない。例えば、日本語変換ソフトを入れ替えることができない。AppStoreでは、そのためのアプリとしてATOK+専用ノートが売られていたりすることである。

 さらに、iPadを写真ビューワとしてみた時、ファイル自体の解像力が足りない。普通に入力すると、勝手にサイズを縮小してしまうからである。GoodReaderなど、別の迂回手段も無い訳ではないが、選択肢として当然用意すべきだと思うのである。極論すれば、AdobeのPhotoshopのような自由度と洗練さと心配りを求めると、iPhone、iPadには行き着かないのではないか。

 いずれにしても、日本には、ジョブズになれる経営者も技術系管理職も無い。さらに、Adobeを超えるソフトを作って売ることができる企業もいないが、それも、経営者、技術系管理職が、本当のニーズを把握する能力が無いためである。

 具体的には、日本製造業には2つの問題点がある。1つは、社長になるのが文系が多いこと。もう1つは、技術系の管理職にも、とことん製品を突き詰めるセンスと自分なりのニーズをもっている人が居ないことである。そのため、デザインを外注したときなどに、きちんとしたチェックができない。経営者や技術系管理職が、もっとオタクにならなければダメなのである。オタクになれるような人には、経営者としての才覚が欠けてしまうのが通例なので、経営者、管理職がオタクになる以外に方法は無い。ゴルフなどをやっている暇があったら、まずは、使いこなす技量を磨き、そして、世界中の類似製品を自分で探して、自腹で買い使ってみる、といった経営者・管理職が必要だと思うのである。

 要するに、日本の製造業の管理職は、自分で欲しくてたまらないような製品を作ろうとしない、あるいは、それができないようでは、最終製品に良いものができる訳はないのである。かつてソニーはそのような企業だった。今は、残念ながら、昔のソニーを引き継ぐ会社は無い。

 アップルにジョブズの後継者が育つのであれば、日本にも昔のソニー的企業が再生できるはずである。それには、後継者がジョブズと同様のマインドの持ち主なのかどうか、を見極めることが重要だと思われる。それには、ジョブズ亡きあと、どのような製品が出てくるかによって判断することになる。具体的には、iPhone4Sや5ではなく、しばらく先になるが、iPhone6がどうなるかに注目したい。