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   EcoLeadサマースクールを開催する思い
     
大学の本来の機能を意識して欲しい 05.28.2017
               



 今年も、やっと手筈が整いまして、9月11日午後から15日の4日半の日程で、渋谷のダイヤモンド社石山記念ホールにおきまして、EcoLeadプレミアムサマースクールを開催することになりました。

 明朝(5月29日)から、募集を行いますので、身近な大学院生など(大学院生・ポスドク・院進学内定者が対象)に情報を伝達していただければ幸いです。院生諸氏は、必要情報と書類とをEcoLeadのWebサイト
http://www.eco-lead.jp/
からダウンロードしていただき、応募していただければ幸いです。遠方からの参加者の滞在費と交通費は、7割程度以上を補填したいと考えていまして、そのため、約30席ある企業参加者のための席の使用権をお買上げいただく枠組みを用意しております。

 昨年は、結局21名の大学院生・ポスドク・大学院内定者を得て、10名の講師によりまして、一人持ち時間3時間(2名のみ1時間)という講義が1日2駒。それに加え、こちらが勝手に決めた課題について、大学院生による夜の議論の結果をまとめて発表するというプロセスでした。普段、同じような論文課題をもつ院生だけが身近にいるような環境で大学院生活を送っているのが普通だと思いますが、自らの研究課題と全く異なった研究領域に取り組んでいる他の研究室の院生と「環境と社会に関する議論」ができるチャンスがあったことが、参加者にとってはもっとも刺激的なことのようでした。

 ということでして、サマースクールで提供できることは、環境という領域における日本のトップクラスと思われる教授・企業人・官僚などの講義が一つ。そして、もう一つが、様々な志をもつ大学院生などの立場の、いわば同志との出会いと議論だと思います。さらに、これは追加的なメリットだと思っていますが、企業関係の方々との会話をする機会があることも、場合によっては意味のあることかもしれません。特に、重視したいのが、2番目の同志との出会いと議論で、これは、大学が追求すべき本来の機能だと思うのですが、最近のように、「授業には全部出ろ。出席点を重視する」、という大学は、もう大学の定義を外れていると思っていますが、もともと無理でしょう。

 そもそも環境とは何か。その定義が、「環境=地球のすべて×人間のすべて」ですので、環境の専門家と言われるようになるためには、最終的な目標として、できるだけ多様な知識をもって、環境問題を非常に広い視野で俯瞰的に見る能力があることになるはずなのです。しかし、最近の大学・企業の事情などの社会的な情勢が、残念ながら、それを許していないように思えるのです。

 大学に関しては、その根本的な責任は文部科学省にあると思っています。最近の大学の運営における、文部科学省の対応が大問題。具体的には、大学の本来の機能が何であるのか、という本質的な議論が行われず、その結果として、様々な機能不全を招いている最大の原因だとという認識です。文部科学省は、その予算配分とか、大型プロジェクトの組み方によって、国立大学法人だけではなく、他の私立を含めた大学の運営などにも影響を与えます。

 2015年に国立大学法人が「三つの枠組み」に分かれました。これは、建前上、それぞれの法人が自分で選択したものだとされています。
 その結果、
第一ジャンル:「地域と特色分野の教育研究(地域)」55大学
第二ジャンル:「特色分野の教育研究(特色)」15大学
第三ジャンル:「卓越した海外大学と伍した教育研究と社会実装(世界)」16大学
 となりました。

 この過程で、各大学では、様々な反応が見られ、現場教員からの反発は大きかったとされています。しかし、最終的には、常盤豊高等教育局長の「学術研究の国立大には、社会変革のエンジンとなる新たな知を生み出してほしい」と「すぐに職業に役立つ”実学”特化を促すことではない」ことを示して、理解を求めたとされています。

 しかし、一方で、特に、第三ジャンルの「世界」を目指す大学の学長が、大学教授に対して、「インパクトファクターの高い論文を書け」と常に発言し、この言葉だけが鞭になっているという現実は、変わってはいないように見えるのです。

 ちょっと話題を変えて、現時点をどのように理解するか、その一助となるような過去の環境分野における大学の活動に話題をざっとまとめてみたいと思います。

 まずは、環境系大学の簡単な経緯をまとめたいと思います。環境系大学の経緯をもっとも表している実例が、公立鳥取環境大学の歴史ではないでしょうか。

 webサイトによれば、http://www.kankyo-u.ac.jp/about/outline/history/
・平成7年、鳥取商工会議所等から、「東部地区へ公立大学を設置」についての要望が鳥取県及び市へ提出されました。
・平成9年6月、県と市が有識者からなる「大学設立準備委員会」を設立し、公設民営方式による新大学の設置について検討を始め、平成10年3月「新大学基本計画」を県議会、市議会に説明し、了承を得ました。
・平成10年4月より、具体的な教育内容の検討と教員確保に着手し、文部省の許可を受けて、平成11年3月、鳥取環境大学設立準備財団が設立されました。
・平成11年9月、文部省へ学校法人鳥取環境大学寄附行為と大学設置の認可申請を行いました。
・平成11年12月、環境に配慮した施設となるよう様々な工夫を凝らしながら大学の建設工事に取りかかりました。
・平成12年12月、文部省からの認可を受け、平成13年4月の開学が決定しました。

 この歴史に見られるように、平成7年=1995年頃が、環境系大学の新設の動き非常に活発に行われました。その最大の理由が、恐らく1992年にリオで行われた地球サミットでした。人類最大の問題として、地球環境問題が共有された結果、これまで、大学教育において取り上げられていなかったテーマだけに、専門家がほとんどいない状況であるという問題が指摘され、多くの学生も環境に取り組む機運ができたからです。

 そして、地球環境に関する京都議定書の合意が続いたものと思っています。1997年のことでした。しかし、この枠組みはかなりの強制力を持った枠組みであったためもあり、特に、米国では、大統領選でフロリダ州のわずかな票差によって、ブッシュ大統領が当選し、ゴア前副大統領が落選しました。そして、米国は、京都議定書の枠組みから離脱しました。これが一つのピークでした。

 しかし、地球環境だけが環境問題ではありません。その当時、日本の生活環境のリスク、例えば水道水のリスクなどが話題になっておりました。その極め付けとして、ダイオキシン騒動によって作られたごみ焼却に対する恐怖症のような反応がありましたのが、これは1998年頃にピークになります。ダイオキシンに続いて、環境ホルモンという話もありました。現在はいずれも死語になっているかもしれません。実際、何の被害も明らかにならなかったからです。水道水が飲めないという人が未だに残っているのが、そのリスク騒ぎの後遺症かもしれません。

 その後も、しばらくは、言わば環境フィーバーと呼べるような状況が続きました。化学物質過敏症という問題もありました。しかし、現時点で考えると不思議なことなのですが、このところ、化学物質過敏症という症状を出す病気が、ほとんど見られなくなったことです。1997年に環境省が研究班を設置した間接的な結果として、ホルムアルデヒドなどを含んだ塗料が使用されなくなったことが理由かもしれませんが、恐らく依然として、確定した結論はないように思います。2004年の報告書では、原因化学物質過敏症の症例には、化学物質以外の原因によるものが含まれているとの考察が出されました。

 しかし、これと並行して、市民は環境問題に対する関心を失います。要するに、命に関わると思う大きな問題が無いからです。自分が地球の資源を消費しながら、持続できるはずもないやり方で生きているという意識を持てないのが、ヒトという生命なのだと思います。確かに、日本の現状だけを考えれば、日本の環境の状況は良好です。例えば、晴れたときの東京の空の色は、世界の大都市の中でも、もっとも青いように思います。

 そして、現在に至るのですが、今から2年半前の2015年に起きたことは、人類史に残ることなのかもしれません。それは、国連の気候変動枠組み条約のCOP21において合意されたパリ協定です。もう一つあります。日本でのインパクトはいささか低かった(今でも低い?)のですが、SDGsも同じ年に新しく提案された枠組みです。

 パリ協定が地球気候変動防止の枠組みだと言うと、トランプ大統領のように、「地球温暖化はフェイクである」、と考えている日本人が依然として多いことを思い知らされます。米国と日本に、なぜ、このような考え方の人が多いのか、それは、当時行われた反地球温暖化キャンペーンとそれに便乗した図書の出版が原因だと思われます。その内容のウソを暴くだけの科学的な知識がないことが第二の原因でしょう。

 気候変動を全く信じていない訳ではない人でも、どうせ、環境問題の一つなのだから、この日本と言う国では、あれほどの様々な公害問題やごみ問題があったのに、キレイに片付いたではないか。だから、気候変動も近い将来簡単に片付く問題なのだろう、という希望的な観測を持っている人が多いようです。

 現実はそれほど甘くないことは、本Webサイトの記事で記述してきた通りなのです。未だに地球全体のメカニズムの解明が不足しているため、数値的には不確実なのですが、一旦放出してしまったCOの大気中の寿命は数1000年オーダーであると考えられるため、一度、上昇した気温は、数1000年間下がらないと考えるべきなのでしょう。

 以上のような状況を一言でまとめれば、このようになります。
 「環境関係の話題は、21世紀になってメディアなどに取り上げられる回数が減る一方だった。しかし、その状況は、2015年から変わった。しかし、本当の危機はこれからかもしれない。環境問題の根幹をなす問題は、地球の気候変動であることが、ほぼ確定し、その解決には、産業革命以来継続してきた価値観のすべてをひっくり返すぐらいの意識を全員が共有することが必要不可欠になった。ところが、パリ協定が「気候正義」という枠組みで書かれていると説明すると、「そんなものは理解できない」、と最初から無視するのが、日本人の共通の特性のようです。それは、「日本という社会においては、正義を語ることは野暮でしかないから」。そもそも、「将来目標を立てると、それを遵守しなければならないので、できれば目標は作りたくない。特に、超長期なものは、ビジョンでも嫌だ」、という反応が一般的です。

 しかし、それでは、日本からグローバル企業が消えてしまいます。幸いにして、自動車業界だけは、そんなことを言っていられない状況ですので、例外なのですが。

 これから、環境問題の行方をしっかりと分析し、その正しい方向を見つけることができる人材が一定数存在していることが必須事項なのですが、現時点の大学における研究・教育の枠組みでは、そのような長期的な視点をもった人材供給が出来そうもないのです。

 それをもう一度説明しますと、それは、すでに述べた「インパクトファクターという魔物」が大学に生存しているからです。Nature系などの雑誌に取り上げられるシャープな切り口を持った論文を書くことが、大学教授の最大の目的になっていて、そのためには、地球環境への正しい対応のために、社会をどのように変えることが必要か、といった現実社会を対象とした議論は、置いてきぼりにされているのです。

 ここで、一つ、やや具体的な話をします。三井物産環境基金という社会貢献を目的とした活動があります。助成対象には、環境活動分野と環境研究分野の二つの分野からなっていますが、ほぼ大学向けである環境研究分野に、パリ協定があったにも拘らず、このところ、新風が吹いておりません。気候正義という哲学を題材にした新しい研究はできない、と考えられているのかもしれません。あるいは、非常に狭い分野でシャープな論文を書き、インパクトファクターの高い雑誌に掲載されたい、という思いが非常に強いのでしょう。さらに、そうなれば、科研費の分配などにも有利に作用するのでしょう。

 となると、環境科学の全体構造がどうなっているか、という基本的な理解すら、自分の研究分野だけが優先されるような全体構造の表現以外は受け入れないという短絡的な反応をしてしまう研究者が多いということになりがちです。

 昨年、ストックホルムのレジリエンスセンターが発表した、SDGsのウェディングケーキモデルを次に示します。


図1 SDGsのWedding Cake Model 紫色の文字は、筆者が加えたもの。

 ちょっと理解しにくい図なので、この図の料理の仕方は、後日、考察したいと思います。実は、私個人が、一時期話題になったFuture Earthに関する研究会が学術会議で行われたときに提案した「環境と持続可能性に関するピラミッド」の図とほぼ同一の概念です。


図2 Future Earthの概念に基づく環境研究のあり方「環境と持続可能性に関するピラミッド」by著者

 図1では、気候変動のロゴがケーキの最下層の遠慮気味に入っていますが、これが環境関係者の一般的な考え方なのかもしれません。誰が考えても、地球の気候が大幅に変わってしまえば、食糧の獲得が難しくなって、人類の永続的な存在などはあり得ないのですが。そうでなくても、日常生活の必需品を作る資源の供給も2050年頃には、現有技術では限界になり、人口の増加に対応できないのですが、余り深刻に考えている人は居ないようです。ということで、図2では、地球という言葉が、最下層、すなわち、ここが崩れたら、そこから上も同時に崩れるという場所に、堂々と入っています。

 本日はこのぐらいで。地球全体・日本全体を、そして、現在だけでなく、未来をしっかり見る若者が育つことを期待して行うEcoLeadプレミアムサマースクールの開催のコマーシャルでした。

 良い候補者が身近に居られましたら、背中を押して下さい。

 また、企業の環境関係の方々、参加者の交通費・滞在費を負担のために使用する参加費にご協力をいただき、このサマースクールで何が起きるか、その証人になっていただけませんか。

 本年の講師のリストを最後に示します。

・原田 幸明 (国立研究開発法人物質・材料研究機構)
・沖 大幹 (東京大学生産技術研究所・教授、国際連合大学副学長)・
・黒沢 厚志 (エネルギー総合工学研究所・部長)
・矢原 徹一 (九州大学理学部生物学科・教授)
・伊坪 徳宏 (東京都市大学・環境学部環境マネジメント学科・教授)
・細田 衛士 (慶応大学経済学部・教授)
・馬奈木 俊介 (九州大学工学研究院・教授)
・環境省からの講師(未定)
・安井 至 (東京大学名誉教授、一般財団法人持続性推進機構理事長・EcoLead代表幹事)