また困った本が出た    11.14.2010   

     「眠りにつく太陽 地球は寒冷化する」 桜井邦朋著




「眠りにつく太陽 地球は寒冷化する」 桜井邦朋著 祥伝社新書215 740円+税  2010年10月10日初版

 広瀬隆氏著の本に続いて、またまたロジックの無い自然科学書が出た。このような本を自称科学者が出版すると、「科学というものはこの程度のもの」なのか、という誤解を与えるだろう。アマゾンの書評を見ると、この本の全く奇妙なロジックを、見抜けない人がいることが分かる。
 この本のもう一つの弱点は、後ほど指摘するように、ちょっと調べれば分かる事実すらフォローしていないことである。

 本書の基本的な主張は、「太陽活動周期(サイクル)あたりの全相対黒点数が気温平年差とかなり強い相関があり、これを認めれば、今後、地球は寒冷化する」、ということである。
 サイクルとしては、12サイクルから22サイクルが使われており、グラフもサイクルでプロットされている。これを西暦で書けば、ロジックが変であることがバレると知っているからだろう。
 ちなみに、1サイクルはほぼ11年である。そして、執筆時である2010年は、23サイクルの終わりの年になりそうである。現在から130年程度の黒点数と気温を調べたことになる。

 不思議なことに、23サイクルの数値が相関関係を主張している図15に出てこない。まだ終っていないと考えているのかもしれないが、このところの太陽の活動の低さから言って、今後の黒点の数の増加などは知れている。
 それなら、なぜ23サイクルのデータを使わないのか。その理由は単純で、やはり23サイクルは筆者にとって、不都合なサイクルなのである。もしも23サイクルをプロットすると、このデータだけがかなり相関からズレていることが分かってしまう。
 どちらの方向にズレているのか。23サイクルをプロットすると、20サイクルぐらいから、相関が変わっていることになる。20サイクルは1964年から始まっているサイクルである。



図15 太陽活動と平均気温との関係(p83の図) 23サイクルのデータと矢印類は今回追加してみたもの。

 IPCCの第四次報告書に取り上げられた23のコンピュータシミュレーションの傾向を見ると、どうも1960年頃から地球は寒冷化傾向を示し始めているが、地球の温度は逆に上昇している。恐らく人為的な原因によって、という解釈が妥当かもしれない、という結論になる。
 図15に書き込んだ青線は、まさしく、この解釈と極めて良く一致した傾向を示している。
 すなわち、この同じ図を根拠としても、相関を示す直線を1本でなく、2本にすれば、この著者の主張とは全く異なった結論を導くことができて、その妥当性の方が高いように思われるのである。

 事実を確認していないことが多いと指摘したが、それは以下のようなところである。

 縄文海進についていの誤解である。これはかなり多くの誤解があるが、縄文海進は、氷河期の氷の重さで沈んでいた地殻が、氷が無くなったことによって、浮かびつつあるという「アイソスタシー」によって説明される。

 図3にH.Lambの気温の変化の図があるが、6000年前から、現時点まで1.5℃程度の温度低下を示している図である。このところの自然の揺らぎは、大体この程度で、1800年ごろから1950年頃まで、地球の温度はなぜか上昇しているが、その変化は、0.5℃/100年程度である。今後、温室効果ガスの放出という人為的な原因によって上昇すると考えられいる温度は、2℃/100年程度であり、地球(太陽)の揺らぎよりもかなり大きい。

 筆者は、水蒸気も温室効果ガスであると主張している。これは正しい。しかし、大気中の水蒸気が増えると、当然雲が増える。雲が増えると地球の反射率(アルベド)が増える。従って、大気中の水蒸気の増加によってどのぐらいの温度が上がるのか、未だ科学的に確定できていない。

 筆者は、二酸化炭素は大気中の0.04%に過ぎず、大気中の水蒸気の存在量の方がはるかに多いから、水蒸気の役割を無視するわけにはいかないと考えられる、と主張している。上述のように、誰も実際のところ水蒸気を無視している訳ではないのだが、定量的な結果が未だに出せないのである。

 0.04%の二酸化炭素は少ないと言えるのか。実際、この厚みの薄い大気圏中の0.04%の二酸化炭素だが、赤外線の吸収には十分以上の濃さで、むしろ吸収の飽和を考慮しなければならないぐらいである。

 この点は、コンピュータシミュレーションを行うまでもない程度でも検証が可能である。要するに、温室効果ガスを排出すれば、やはり温度は上昇するのである。
 
 人為起源による地球温暖化を多少なりとも緩和するために、太陽の活動が低下して、地球が若干寒冷化してくれることを祈る。しかし、過度に寒冷化するのはゴメンで、それなら多少の温暖化の方が人類にとってはマシだろう。

 それにしても、理学系、特に、天文学などからの気象学への反発は非常に強いようだ。気象学を地球環境に絡めることによって、研究費を独占しているように見えるのだろうか。