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   ハリケーン被害からの回復
   12.02.2012
       停電 地下鉄への浸水 など



 ハリケーン・サンディが米国東海岸を襲っい、カジノで有名なAtlantic City付近に上陸したのが、10月29日の午後8時頃であった。ほぼ1ヶ月が経過し、被害の全貌が分かってきた。

 米国版Wikipediaによれば、
http://en.wikipedia.org/wiki/Hurricane_Sandy
サンディの規模は、最低気圧が940hPa、最大風速175km/h(48.6m/秒)であった。これは米国流の強さの表現では、カテゴリー2に属するもので、
http://en.wikipedia.org/wiki/Saffir-Simpson_hurricane_scale
2005年にニューオリンズを襲ったカトリーナ(Katrina)がカテゴリー5で、最大風速280km/h(77.8m/秒)、最低気圧902hPaであったことを考えると、それほど強いものであったとは言いがたい。

 しかし、その被害総額は500億ドル(4兆円)になると推測されているが、これは、カトリーナの被害総額1134億ドルの半分に迫る金額である。

 人的被害は、死者は253名とされている。相当な数に上っているが、カトリーナ1833名に比べると明らかに少ない。

 被害総額が大きかった理由は何か。それは大都会だったから、ということ以外には考えられない。今後、このような被害は、大都会で増えると予測すべきなのか。さらに、対策を行うことは可能なのか。これが本日の検討課題である。


地球温暖化が原因だったのか?

 NCAR(National Center for Atmospheric Research)の Kevin E. Trenberth氏は、「この質問自体が間違っている」と述べている。(やはり英語版Wikipediaの記事からである。)

 と書くと、「地球温暖化が原因ではない」、とTrenberth氏は言いたいのだと思うかもしれない。しかし、同氏が本当に言いたいことは、「すべての気候現象は、地球温暖化の影響を受けている(現在形!)。すでに、気温は上昇し、大気はより湿度の高い状態になっているから、ハリケーンが巨大化し、多くの雨をもたらすのは当然だ、と言いたいのである。

 このような質問がでることに関して、UCバークレーの言語学者 George Lakoff氏は、一般市民にとっては、「直接的な原因」「システム的原因」の区別が難しいことが原因だと指摘している。

 しばしば本HPでも指摘しているように地球温暖化というと、気温が高くなることだと思っている日本人が大部分だと思うが、気温が上昇することによって、気候システムに影響がでて、気候の変動幅が大きくなることだと考えるべきなのである。

 すなわち、地球温暖化ではなく、気候変動という言葉で表現して、どのようなことが起きやすくなるかを、より詳しく知ることが必要である。

 気象の極端現象である台風やハリケーンなどの大型低気圧は、さらに強大なものになる。しかし、数は減ると予測されている。

 NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)のMartin Hoerling氏によれば、今回の気象状況になった直接的な原因は、「熱帯性の低気圧と、温帯性の低気圧がたまたま出会ったこと」だとしているが、このような偶発的な確率も、地球温暖化によって増大するとTrenberth氏は述べている。

 大西洋のハリケーンは、通常、ジェット気流によって東に流される。今回のサンディのように、西向きに方向を変えて、ニュージャージー州に上陸することが起きることは稀であった。

 今回のサンディの動きが起きたのは、グリーンランドにあった高気圧に阻まれて、ジェット気流の向きが急激に変わっていたためであり、このような現象は、「North Atlantic Oscillation=NAO=北大西洋振動が負であったため」と説明されている。

 通常アイスランド付近は低圧帯でアイスランド低気圧が存在する海域になっており、一方、アゾレス(大西洋のアフリカ沖部分)付近は高圧帯であって、アゾレス高気圧がいつでも存在している。この低気圧と高気圧の差が変動しているが、それがNAO=北大西洋振動と呼ばれる。

 NAOが負とは、気圧差が通常よりも少ない状態を言う。すなわち、アイスランド低圧帯の気圧がやや高い状態を言う。北大西洋振動の振幅が、地球温暖化によってより大きくなったため、今回の事態が起きたと、Trenberth氏は言いたいのである。


地下鉄への浸水による不通

 ニューヨークの地下鉄(New York City Subway)は、
http://en.wikipedia.org/wiki/New_York_City_Subway
34路線、468駅からなるという。

 東京の地下鉄は路線数が様々でどの数値が本当なのだろう。駅の数は、東京メトロが179駅、都営地下鉄が106駅。やはりニューヨークの地下鉄の方が規模が大きいようだ。

 ハリケーン・サンディが来襲するため、10月29日に、全線の営業を停止し、入り口をこのようにして対策を施した。


図 Wikipedia英語版より

 しかし、浸水を防ぐことができず、一週間後でも、未開通部分が20%あった。
http://www.huffingtonpost.com/2012/11/05/sandy-new-york-subway_n_2078984.html


大停電

 停電は、単にハリケーン・サンディだけによって起きた訳ではなく、11月7日以降、北東の強風が吹き込んで、大量の雨と雪をもたらしたことも影響を与えた。

 米国エネルギー省の報告によれば、
http://energy.gov/articles/hurricane-sandy-noreaster-situation-reports
ハリケーン・サンディによると判断される停電の総数(契約者数)は851万件であった。そして、そのすべての停電が解消したのは、11月26日であった。

 11月19日段階でも、ニューヨークのブルックリン地域の2700件の顧客が電力を受けることができなかった。その理由は、電力そのものと言うよりも、そのビルの内部にある設備の修理が必要だったからである。

 同様に、フロリダ州では、3万件の顧客が電力を受電できていなかった。

 ニューヨークのLong Island Power Authority(LIPA)によれば、修理全体には1万5千名が関わった。そのうち6400名が電線、3700名が樹木切断・剪定であった。

 LIPAは、結果的に4500本の電柱、2100台の柱上トランス、400マイルの電線、44ヶ所のサブ変電所の設備を取り替えた。

 復帰にはやはり相当の日時を要するようだ。

表 停電件数の推移

11月26日         0件
11月19日     1、000件以下
11月16日     2、129件
11月13日    25、061件
11月12日    88、882件
11月11日   166、499件
11月10日   289、239件
11月 9日夕  434、140件
11月 9日朝  492.080件
11月 8日夕  761、418件
11月 8日朝  715、205件
11月 7日   672、572件
10月30日
  総停電件数 8、511、251件


全く想定外の事態だったのか

地下鉄の場合

 2011年にニューヨーク州は巨大ハリケーンが来襲した場合の被害の想定を行った。これは、気候変動のリスクを明らかにする目的で行われた大レポートの第九章である。(リンクが余りにも長いので、ClimAIDで検索をして下さい。最初に出ます)

 「このレポートは警告だらけであった。いや、今考えれば、このレポートは、予言的だったと言うべきだろう」、とハリケーン・サンディの被害を振り返って、Janell Rossという記者が書いている。

 「カテゴリー1のハリケーンでも、一つのトンネルを例外として、すべてのトンネルを水浸しにするだろう。24時間体制で排水しても、一週間が必要で、最悪のシナリオでは、21日もしくは数ヶ月を要するだろう」。これが予測であった。

 実際には、1週間以内に80%を開通させたので、ニューヨークのMetropolitan Transit Authorityは、予測を上回る勝利を収めたことになる。

 このようなことは東京の地下鉄にも起きるのだろうか。

 実際、余り知られていないかもしれないが、東京の地下鉄についても、同様のレポートがある。内閣府の防災担当が作成したサマリーが、
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/suigai/090123/090123_kisya.pdf
にあるが、中央防災会議「大規模水害対策に関する専門調査会」が取りまとめた荒川堤防決壊時における地下鉄などの浸水想定が元になっている。

 その結論は、以下のようなものである。
○堤防決壊後約 10 分で南北線赤羽岩淵駅、約 4 時間で千代田線町屋駅、約 8 時間で日比谷線入谷駅から、はん濫した水が地下の線路部へ流れ込み始める。
○堤防決壊後、6 時間で西日暮里(千代田線)など 6 駅、9 時間で上野(日比谷線・銀座線)など 23 駅、12 時間で東京(丸の内線、JR横須賀線・総武本線、京葉線)・大手町など 66 駅、15 時間で銀座・霞ヶ関・赤坂・六本木(大江戸線)など 89 駅が浸水
するものと見込まれる。
○地表よりも早くトンネル経由ではん濫水が到達する駅は 35 駅。東京駅と銀座駅では
約 6 時間、大手町駅では約 7 時間早く水が到達するものと見込まれる。
○霞ヶ関・赤坂・六本木など 44 駅では、地表のはん濫水は到達しないが線路部は浸水するものと見込まれる。
○最終的には、17 路線の 97 駅、延長約 147km が浸水するものと見込まれる。このと
き、17 路線の 81 駅、延長約 121km でトンネルや駅の改札フロア等の部分が水で一杯
となる水没状態(改札階のフロアの天井まで)になるものと見込まれる。


 このサマリーの元となる報告書は、
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/suigai/100402/100402_shiryo_2.pdf
にあるが、ハリケーン・カトリーナの記述から始まる。「地球温暖化による大雨の頻度の増加や海面推移の上昇など、防災面から懸念される予測が出されている」との記述もある。

 ニューヨーク州の報告書が、「予言の書」になったように、この報告書も予言の書になるのだろうか。

 対策についても記述がされている。トンネルの坑口や地下鉄駅の出入り口の大部分を塞げば、都心部の主要な地下鉄駅などは浸水しないものと見込まれる、との記述もある。

 このようなリスクに対して対応をするかどうか。それはかなり難しい問題である。

 東京電力の福島第一発電所の場合でも、貞観地震と同様の地震が起きれば、津波の高さは、それまで想定していた高さではない、との予測がなされていた。しかし、東京電力は、利益を優先したためか、それとも安全神話の呪縛が有って動けなかったためか、対策を取ることは無かった。

 上述の地下鉄水没の発生は、200年に1度と想定されている。このぐらいの発生確率のリスクにどのように対応するのか。それは経営者としての哲学が決めることである。

 大阪、名古屋、博多などの都市の地下鉄についても、同様の検討を行うべきであろう。


停電の場合

 ニューヨーク州のレポートの第8章には、気候変動によるエネルギー関連の脆弱性があることは、三つの項目に記述されている。

・ Energy infrastructure in coastal areas of southern New York State is vulnerable to flooding as a result of sea level rise and severe storms.
 海面上昇や嵐による洪水が危ない
・ Transformers and distribution lines for both electric and gas supply are vulnerable to extreme weather events, temperature, and flooding.
 トランスや配線は極端現象によるリスクが大きい
・ The indirect financial impacts of climate change may be greater than the direct impacts of climate change. These indirect impacts include those to investors and insurance companies as infrastructure becomes more vulnerable and those borne by consumers due to changing energy prices and the need to use more energy.

 この項は、今回の話題には直接関係ないが、重要かもしれないので掲載。

 報告書この部分も、どうやら「予言の書」の役割を果たしたようだ。

 ニューヨーク州などの米国の大都会には、インフラが老朽化しているという別の危険要因がある。電力も自由競争だ、という状態になると、送電設備の投資を控える傾向になるから、当然のことである。

 東日本大震災以前の日本の電力網は、米国に比べれば、かなり良い保守が行われていたと思う。しかし、現時点のような経営状態になると、当然、予算不足で手抜き状態になるだろうから、今後、10年以内に台風などによって、停電が増える可能性は増大することだろう。

 最後に、ニューヨーク州による気候変動に対する脆弱性の報告書が、東京など大都市についてがあるかどうか、ちょっと調べてみたが、残念ながら、見つからなかった。米国のように連邦としては気候変動を無視している国でも、個々の地域や都市での意識は、日本の平均的な自治体よりもかなり高いように思う。

 気候変動が起きることを前提として、何かが起きたときの対策、これを適応策と呼ぶが、この検討を真面目にすべき時期になっていることは確実だろう。


本日の結論

 常に未来を確実に読むというマインドが重要である。これは、気候変動に関わることだけではない。しかし、未来を読んだ報告書を作っても、それに対する対応が行われるとは限らない。

 未来を読まないまま、成り行きに任せるのはまだ許せるとして、責任あるポジションにある人々が、未来をどう変えるか、その宣言だけをすることだけは許しがたい。

 原発をいつまでに止める、あるいは、原則的に継続するといった政治的な宣言をするだけでは、全くナンセンスである。いやしくも政党を名乗るからには、エネルギー源の将来のコストや確保の難易度、設備の保守の状態、さらには、気候変動によるリスクなどを含めて、総合的にどのような状態になるのか、科学的に解析した結果を、同時に示さなければならない

 こういう要求をしない選挙民が多いから、政治家に舐められてしまう。もっと要求しよう。