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   シナリオ・プランニング 04.22.2018
       その1:なぜ未来に対する意識決定ツール?

               



  先週も述べましたように、このところ、シナリオ・プランニングなる手法が注目を集めています。しかし、この手法、実は、かなり古いものでして、先週の記事にも書きましたように、2014年に自分自身も、当時理事長であった(独)製品評価技術基盤機構の将来ビジョンの作成ツールとして使用しています。
 どうやら、「おおもと」となる書籍は、
「シナリオ・プランニング『戦略的思考と意思決定』」著者 キース・ヴァン・デル・ハイデン1998年9月10日初版、訳者:西村行功、ダイヤモンド社、2800円+税、のようです。
 同一の著者によるもう一冊があります。「入門 シナリオ・プランニング」著者 キース・ヴァン・デル・ハイデン2003年7月31日初版、訳者:西村行功、ダイヤモンド社、2800円+税。
 環境屋として考えてみれば、1998年に初版であることは、1997年の京都議定書の影響があるはずだと思ってしまうのだけれど、実際、ハイデンの著書を手にしてみても、そのような記述はありません。それも当然なのです。シナリオ・プランニングの実施企業と言えば、「シェル」と答えるのが常識的な答え。すなわち、石油会社である「シェル」がこの手法を用いて、1973年の石油ショックの対応方法を考えたということなのです。地球環境問題の起源が、リオのサミットのあった1992年だとすれば、それよりも遥かに古い手法なのです。
 現時点では、企業の「パリ協定」対応が一つの動機になっていることは確実ですが、パリ協定のインパクトは、京都議定書と同じ程度だと思うのは、日本人ぐらいなもので、西欧人にとっては、「パリ協定」は、1973年の石油ショックぐらいのインパクトだということなのだろうと思います。日本人にとっては、「石油ショック」は思い出したくもない事件(なぜかトイレットペーパーが完全に品切れになった! 銀座のネオンが全部消えた!)なのです。パリ協定も日本人にとっては、「受け入れたくない国際的枠組み」なのかもしれませんが、その深刻さに、気づいているかどうか疑問です。
 さて、今回ですが、シナリオ・プランニングとは、歴史的にどのようにして作り上げられたのか、そして、どのような意味を持つものなのか、恐らく、もっとも古い「教科書」であると思われる、1998年の著書を参照しつつ、何か書いてみたいと思います。


C先生:2014年にシナリオ・プランニングを実施してみたということを述べたが、実は、このハイデンの分厚い2冊を個人的に入手したのは、ここ2ヶ月ぐらいのこと。2014年には、関連図書を見ていたのだが、今思うと、「中身が無い、何か、ノウハウ本的な軽薄な感じの本」だった。今回、HPに記事を書くとなったら、「これではいけない、正確な歴史などもフォローすべきだろう」、ということで、本家本元のハイデン氏の本を購入したということで、いささかお恥ずかしい次第。

A君:ということで、やはり、目次あたりからご紹介しますか。2冊のハイデンの著書なのですが、どうしましょう。「1998年のシナリオ」、「2003年の実践本」と表記したいのですが。というのは、日本語題目は、1998年の本の表題が「シナリオ・プランニング」で、副題が「戦略的思考と意思決定」、次の2003年の本の表題が「入門 シナリオ・プランニング」で、副題が「ゼロベース発想の意思決定ツール」、と非常に分かり難いのです。そこで、調べてみると、1998年の本の英語の題名が「Scenarios」、2003年の英語の題名が「The Sixth Sense:Accelerating Organizational Learning with Senarios」。
 なぜ2003年の本に「入門」という言葉が付いたか、実は、現時点では、良くわからないままなのですが、推測すれば、第二部が「シナリオ経営」になっていて、特に第7章に「シナリオ・プランニングの実践」、第8章に「シナリオ・プランニングの活用」という章があるために、訳者がより実用的なニュアンスを付加するために、「入門」という言葉を追加したのではないか、と思うのです。

B君:まあ、「1998年版哲学本」「2003年版実践本」とでもしたら。

C先生:どちらでも良い。ただ、ハイデン氏は、シナリオ・プランニングでは実績のある企業、シェルのこの手法の責任者だったということなので、その経歴に敬意を評して、1998年版を「哲学」とするのは良いかもね。

A君:それでは、そのような形で進めます。
 「1998年版哲学本」の目次のご紹介から。

第1部 背景編
 第1章:シェルの5つの発見
 第2章:経営戦略論の3学派
第2部 基礎編
 第3章:ビジネス・モデルを効果的に機能させる
 第4章:不確実性に対処する
 第5章:シナリオとビジネス・モデルの適合を図る
 第6章:組織におけるシナリオ・プランニング
第3部 実践編
 第7章:シナリオ・アジェンダを設定する
 第8章:ビジネス・モデルを議論する
 第9章:競合ポジション分析
 第10章:シナリオを策定する
 第11章:戦略オプションを表出させる
第4部 制度編
 第12章:変化のマネジメント
 第13章:プランニング・プロセス
 第14章:戦略的対話の手引き

以上です。

B君:この目次では、まあ、何も分からないな。進むしかないのでは。

A君:その通りです。ということで、第1章は、シェルという企業がシナリオ・プランニングを通して、何を発見し、どのような対応をしたか。歴史的な実例ということです。
 シナリオ・プランニングの起源は、第二次世界大戦中のアメリカ軍の作戦演習から始まったとのこと。日本軍がこのシナリオ・プランニングをやれるような組織であったら、どうなったのか、興味深いですが。まあ、無理ですね。日本軍にとっては、「勝ちシナリオを固定する」ことが最重要、そして、「結果的には大失敗だった」のですが、どのようなリスクがあるかについては、「目をつぶる」戦略でしたから。

B君:ハイデン氏はこれを初期の古典的なシナリオ・プランニングだと定義しているけれど、「予測をたて、それに基いて管理する」。しかし、1960年代になって、シナリオ・プランニングを活用する企業が増えた。そして、方法論そのものも進化した。どう進化したのか、と言えば、古典的なプランニング手法では、ただ1つの予測しか導きださなかったのに対して、新シナリオ・プランニングでは、複数の予測と確率を創出し、その解析から、「最も起こりそうな」未来図を描こうとしたところ。

A君:「複数の予測と確率を出し」と簡単に書いていますが、未来を読んで予測し、かつ発生確率を考えること自体は良いのですが、その結果は、大変に不確実なことですよね。

B君:それを意識していか、1970年代の終わり頃になると、シナリオ・プランニングのアプローチには欠陥があることが知られるようになった、と書かれている。

A君:そして、ハイデン氏の自信満々なところが、次のような文章で明らかになります。「本書で解説するシナリオ・プランニングは従来のシナリオ・プランニングとは根本的に異なっている。ここで述べるシナリオ・プランニングは、確率で未来を考えるのではなく、未来がどうなるか、その未来がなぜ起きるのかを突き詰めて考え、最終的にストーリー化するものである。そのために、より迅速に意思決定を下すことができる」。

B君:確かに、すごい自信満々だ。要するに、確率といったより数理的な結論を簡単に導くのは不可能だ、という意思の表明かとも思う。

A君:なぜその自信満々なのか、その正当化が、次の節から始まります。それが1973年の石油ショックにシェルという企業が、シナリオ・プランニングによって、どのように的確に対応できたか。これが自己宣伝と言えば、その通りですが、なんと言っても、世界最初の、しかも、ほぼ唯一の成功例ですからね。

B君:シェル以外の石油精製企業は、年間6〜7%の成長が起きることは、当然だと思っていた。したがって、この割合で石油精製のためのプラントの能力を増加させることが当然という考え方であった。

A君:1973年の石油ショックによって、需要は下降し始めた。その後、一旦は、若干回復したが、その後、また下降傾向になった。しかし、多くの石油精製企業は、石油ショックにもかかわらず、年間6%の設備増強を続けた。すなわち、石油危機の本当の意味が分かるまでに、5,6年の年月を要した。

B君:もう一つの例が、原油タンカーの発注に関するもの。驚くべきことに、1973年から4年間、発注数はむしろ増加した。そして、1978年になって、やっと30%以下に低下

A君:ここで、その時点でのシナリオ・プランニングの説明になるのですが、「1960年代にすでに実施されていたのだが、シナリオ・プランニングはことごとく失敗をした」。その根本的な理由が、シナリオ・プランニングは当初、「だれもが予測できないとわかっている事象は、予測する必要はない」のだと紹介された。しかし、今回のシナリオ・プランニングは、「予測できない」というジャンルに分類されていたとしても、いくつかの予測可能な事象もあるという仮定に基いている。もしも、100%不確実なら、時間の無駄。そこで、予測可能なこと(=確定要素)と、確定していないこと(=不確定要素)を分けた。

B君:どうやらカーン(1967年に出版された未来予測書『The Year 2000』、Herman Kahn, Anthony J.Wiener, Macmillan)の考え方を採用したらしい。

A君:アメリカでは、「西暦2000年の地球」という未来予測本が、政府主導によって作成されていますが、1980年のことで、これも、石油ショックの影響がキッカケの一つになったと思います。この書籍について、シナリオ・プランニングが主要な予測手法だったという記述は、見つかりませんが。

B君:西暦2000年の地球は、むしろ、動向を精密に解析して、連続的変化を仮定して書かれた本のように思える。シナリオ・プランニングは、むしろ、何か危機的な不連続的変化がある状況での手法として適しているのでは。

A君:となると、パリ協定は、極めて危機的&不連続な要求なので、やはり、シナリオ・プランニングが適しているという結論になりますね。米国の現政権は、どうやって、気候変動のリスクを評価して、現在の政策を決めたのでしょうか。答えは分かっていて、トランプ大統領個人の「好き嫌い」で決めた。この一点を見ても、トランプ大統領は、未来を全く読まないタイプで、自分への投票者に対するポピュリズム政策が最大の決定要因になっている。その意味では、現在しか、より正確には最大でも2年後程度までしか関心が無い人なのでしょうね。まずは、中間選挙、そして次は、大統領の留任。

B君:気候変動へのシナリオ・プランニングのような日本語の論文を発見。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iappmjour/8/2/8_KJ00009359953/_pdf
 同時に、この論文の著者の博士論文を発見。
https://ynu.repo.nii.ac.jp/
index.php?active_action=repository_view_main_item_detail&page_id=59&block_id=74&item_id=4974&item_no=1


A君:チェックしてみました。なんと、なんと、気候変動懐疑論の正当化で博士論文が書けるのですね。

B君:社会人で大学院に入ったのだから、熱心なことだ。これは、指導教官に責任があるのではないか。

A君:こうやって遠回りをしながら、色々と情報を集めてみたのですが、そのような行為を行った理由ですが、ざっと読んでみると、この1998年版哲学本の内容が余りにも散文的で、実用的なガイドブックとしては、ほとんど訳に立たないことが分かって、どこかにシナリオ・プランニングを実施した実例が欲しかったからなのですね。

B君:この本に対して、そして、かなり実用的な記述になっている続巻に対して、我々が付けた題名が、ぞれぞれ「1998年版哲学本」「2003年版実践本」で、実際その通りなのだ。訳者まえがきにも、すごい記述がある。その記述をさらに本音レベルに書き直すとこんな感じなのだ。「前著は、日本でも好評を得て、シナリオ・プランニングに取り組む者にとっては定番となった。しかし、前著を読んで、具体的な方法論が分かる人は、まず居ないだろうと思われる。ハイデン氏の強い思いが、片っ端から書かれているけれど、どのような方法論でそれを実現したのか、その詳細が何も書かれていないに等しいからだ」。

A君:すごい「まえがき」ですね。考えてみれば、実は、この本の副題は、「戦略的思考と意思決定」であって、もともと、シナリオ・プランニングの実践でもなければ、ツールの説明でもない本なのですね。

B君:その通りで、日本語版への株式会社グロービスの嶋田氏と東方氏が書いた序文には、こんな記述になっている。
「一般に日本人は、既存のフレームワークを応用し、高い成果を上げることが得意である。学校の授業では、公式に正しい数を代入して「正解」を導き出すことがよしとされる。スーパーやコンビニエンスストアでは、POSデータを読み取って消費者の購買動向に合わせた仕入れが推奨されている。
 しかし、確たるフレームワークが存在しない現在の企業のマネジメントに必要なのは、「試行錯誤を繰り返しながら、わが社が進んでいくべき方向を決める」ことである。言い換えれば、既存のフレームワークに頼らず、これまでの何倍も頭を使ってビジネス環境の変化を分析し、その行く末を見つめ、そこから戦略を作りださなければならない。」

A君:まあ、当たり前のことですね。しかし、その先の文章でボールドで書かれている文書が、これまたなんとも。
 「『シナリオ・プランニング』は、成功のためのフレームワークを提供するものではなく、不確実な時代に対応できる『能力』を企業組織が身につけることにより、成功を勝ち取る方法を提供するものである。」

B君:これも当たり前の話。ということは、こう考えれば良いのではないか。要するに、『シナリオ・プランニング』には、決まった方法論はない。要するに、「考えるとは何か、そして、どうやって考えるのか」を学ぶことができる方法論に過ぎない。
 具体的なシナリオの作成方法にはいくつかあるけれど、最終的にはビジネス環境を動かす根本的な要因=『ビジネスの構造』が何かを突き止め、その要因がどう動くかを基本にして、ストーリーを作る。その過程で、何が本当の自社の『ビジネスの構造』であるか、その解にたどり着く。

A君:加えてその『ビジネスの構造』に影響を与える原因がリスト化されて、その原因が変化したときに、起きるであろう結果の推論が必要であることが分かる。最終的には、原因と結果の因果関係を徹底的に考えるというプロセスが不可欠で、どの因果関係が重要であるか、あるいは、それほど重要でないか、といった議論を何倍も頭を使って行うことによって、ある種の判断ができるようになる。

B君:その結果、因果関係が身につく。その良い効果として、もしも何らかの兆候が現れたときに、その意味や背景を考えることができるだけの材料を持っていることに気付く。

A君:すなわち、シナリオ・プランニングの最大の目的は、『考える手順』に関する議論を進める過程で身につけることであって、何か定型的な作業を進めると何か結論がでるというものとは、大きく異なるものである。

B君:そのためには、徹底的に考えるというプロセスの過程でもって置くべき心得としては、
◯より多くの変化を感じ取る
◯変化に耐えうる戦略を考える

A君:そして、その最終的な成果として、個人個人によって異なる不統一な思考の枠組みや世界観が、ある程度統一できるようになる。これが「メンタル・モデルが統一される」、と表現されていて、このような検討チームが出来上がれば、いかなる状況においても、将来に渡って通用するビジネスモデルの構築ができるようになる。

C先生:まあ、ご苦労だった。最後の結論は、納得できる。個々のプロセスについては、一つだけ共通事項があって、それは、どうやら『徹底的に考える』ということ。そして、これが、シナリオ・プランニングという知的作業の根幹にあるということが良くわかった。
 ということは、最近のシナリオプ・ランニングのHow To本を買い込んで何かをやれば、それこそ、何かは出るだろうけれど、シナリオ・プランニング本来の目的である『徹底的に考える』ことで、将来の『ビジネス・モデル』を作り出すことということの実現は難しい。
 どうやら、本書を買い込んで読んだとしても、分かることは、まず、最大の結論として、「ハイデン氏が言いたいことは、この最後のまとめ=『徹底的に考える』だけ」だ、ということ。言い換えれば、具体的にどのようなプロセスで何をやるか、ではなくて、『徹底的に考える』ことを実現するためには、どのようなプロセスを用い、どのようなことに注意を払って『考えるべき』か、これに関するハイデン氏の経験が書かれているだけの本なのだ。
 ということは、どうすれば良いのか。シナリオ・プランニングを何かを出力するツールとして使いたいのであれば、この本は不用。しかし、どうやら、ハイデン氏が本当に言いたいことは、シナリオ・プランニングを単なるツールとして考えて、定型的な作業をいくら行ったところで、その企業になんら進化は見られないぞ、『徹底的に考える』ことこそが重要なのだ、という警告なのではないか。
 次回、同じハイデン氏による”「入門」シナリオ・プランニング”を取り上げる。実に、「入門」が付いた2003年の本だが、我々の命名では「2003年版実践本」を取り上げて、実践といっても、何が書かれているか、その真意は何かを探ってみたい。この本はハイデン氏の単著ではなくて、シェルの同僚との共著だし、今回ご紹介した前著が余りにも難しかったことを反省した雰囲気があるので、実用面では、期待できるかもしれない。