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   入門シナリオ・プランニング  04.29.2018
        その2:実践方法はどのようなものか?

               



 前回の続きですが、取り扱う書籍は同一の著者によるもので、見た目はそっくりなのですが、中味は全く違います。こちらの本、「入門」シナリオ・プランニングです。キース・ヴァン・デル・ハイデンが筆頭著者ではありますが、加えて、ロン・ブラッドフィールド、ジョージ・バート、ジョージ・ケアンズ、ジョージ・ライトによる共著本です。
 「入門」シナリオ・プランニング
   −ゼロベース発想の意思決定ツール−
 著者 キース・ヴァン・デル・ハイデン、他4名。

2003年7月31日初版、訳者:西村行功、ダイヤモンド社、2800円+税。

 「アラビアのロレンス」がイントロとして使われているこの本をざっと紹介しましょう。
 
  
C先生:前著は、はっきり言って、ハイデン氏の実践哲学=「議論を何倍も頭を使って行うこと」を大量の文字数を使ってしつこいほどに表現したものだった。しかし、この本は違う、と最初から書いてある。本当に違うかどうか、それは、我々がこれから明らかにすべきことだ。まず、イントロが全く違う本であることを証明していると思う。。
 「アラビアのロレンス」。主人公のロレンスと連れの旅人が砂漠で休んでいると、地平線上にポツンとした点が現れる。それがだんだん大きくなる。地平線はまだはるか遠くだ。2人はまだその正体がわからず目を凝らす。接近してくる物陰にどう対処したらよいか分からないまま、ほとんど言葉を発せずに立ち尽くしている。その点の正体は、ラクダにまたがった一人の男だ。どこの誰なのか、不明で不確実なままだ。二人は不安になる。連れの旅人は不吉な予感を感じ、拳銃を取りに走る。だが、彼が狙いを定めるより一瞬早く、ラクダの男の銃が発射された。死体に近づきながら、男は言う。「死んだな」。ロレンスは問いかける。「・・・・・・なぜだ」。

A君:パリ協定による2050年像は、まあ、ラクダにまたがった人であることぐらいは、日本でも分かる企業が増えていますね。拳銃を持っているかどうか、に関しては、持っていると思う企業は、すでに対応をはじめていて、拳銃は持っていないとタカを括っている企業と、そのうち日本政府がなんとかすると思っている企業は、まだ行動を始めていない。日本政府は、最後にはパリ協定ぐらい守れと言って、何もしないのだけれど。

B君:しかし、パリ協定のもう一つの要求事項である今世紀後半に実現すべきNet Zero Emissionは、日本では、まだ「ポツンとした点」だな

A君:一応、定例行事として、目次のご紹介から。先週の記述を使えば、我々にとって「2003年版実践本」の目次は以下のようです。

序章 未来を探求する
第1部 シナリオ思考
 第1章:シナリオ思考の優位性
 第2章:意思決定の誤り
 第3章:組織における意思決定の誤り
 第4章:文化の影響
第2部 シナリオ経営
 第5章:シナリオ・プランニングの変遷
 第6章:シナリオ・プランニングの理論
 第7章:シナリオ・プランニングの実践
 第8章:シナリオ・プランニングの活用
おわりに

B君:明らかに第2章は非常に実用的な目次になっている。「2003年実践本」と言えそうだ。

A君:まずは序章の第1節ですが、「アラビアのロレンス」の記述から始まるのですが、C先生がすでに紹介してしまいました。

B君:第2節では、すごいことが書かれている。シナリオ・プランニングがある組織に普及しないのは、「その組織に、「自らのパフォーマンスが『実力以下』に停滞しているという認識が欠如しているから」である。

A君:具体的な記述もすごい。「業務遂行の前に横たわる制約を当たり前のように受け止め、もはやその存在にすら気づかない人が多い。マネージャーに染み込んでいる思考様式がフィルターの役目をして、彼らが認識できる情報に制限を加えている。しかし、彼らは自分たちがそうしたシステムの悪循環に陥っていることに気づいておらず、この状況は組織内の力学によって一層、悪化する。」

B君:まだ続く。「個々のマネージャーがバイアスや常套手段に縛られていると、処方箋や従来路線を前提とした世界から抜け出せなくなる。こうした状況は、人の心理と環境が相まって作り出されるのだ。本書は、人々が日常の課題に対処するのに用いている方法が、いかに惰性を生むかを明らかにしている。」

A君:ここまでの記述もすごいですが、次の結論がまさにその通り、と頷きます。
 「問題の核心は、このように成功の障害があるにもかかわらず、それにまったく気づいていない点にある。その原因の一つは、思考の罠が組織で起こった場合には、集団として影響を受けるから。そうなると、この状況から抜け出す方法を見出すのはきわめて難しい。だからこそ、『プロセス習得』によって問題に取り組み、組織内の支配的集団に働きかける必要があると筆者は考える」。

B君:どこの企業や組織でも多分同じ状況だと思う。「思考の罠」という言葉が何を意味するのか、それをどのように認識するのか、そのために、何らかの新しい方法論が不可欠だということなのだ。

A君:そこで、筆者は、「シナリオ手法が有効だ」という訳。確かにそうかもしれない。

B君:ここまでの記述で分かることは、多くの企業や組織がハマる罠というものは、色々とあるけれど、その原因は一つしかないということだろう。それは、マネージャー層の認識不足だ。そして、その罠にハマらないようにするために必要なことは、シナリオ・プランニングのような共同作業を実施している内に、次第に組織の運営に必要なスキルが身につき、組織に「プロセスの習得」という巨大なリターンがもたらされる、ということなのだろう。

A君:それには、とにかく始めなければ何も起きない。そして、何を始めるのか。シナリオ・プランニングこそが、「プロセスの習得」のもっとも単純、かつ、有効な手法だという主張ですね。

B君:「1998年版哲学本」との違いは大きい。先に、「2003年版実践本」が出版されて、その後、「1998年版哲学本」が出版されれば、良かったのだと思う。

C先生:ということで、この実践本の存在意義は良くわかった。しかし、何が何でもやれば良いという訳ではないのは、常に真理だと思うのだが。失敗しないで終わるためには、やはり相当の神経を使わなければならないだろう。

A君:それも、p5あたりに記述されています。「すべてのシナリオ・プランニングが上手く行くわけではない。実行の仕方に問題があれば、あまり効果はないだろう。よくある問題の一つは、シナリオそのものにとらわれすぎることだ。シナリオの効果は、検討のプロセスの過程での習得から得られるのであり、「戦略的対話」の質こそが重要なのである。つまり、シナリオは状況に即して生み出されるものなのだ」とあります。

B君:まあ、普通に考えても当然のこと。出来上がるシナリオが常に正しい訳ではない。それはまさに、「戦略的対話」というものの質が良くなければ、良いものになる訳はない。

A君:さらに筆者は言います。「お粗末なシナリオ・プランニングに共通する最大の問題点は、目的の欠如にある」。これが結論。要するに、目的意識を欠いたシナリオ・プランニングなどが行われても、何も出ない。

B君:多くの場合、シナリオ・プランニングの目的は、現在の企業の経営方針を根底から覆すような結論が欲しいから行うのだろう。しかし、そのような結論がでるということは、その企業の過去の経営層の責任が追求されることと、ほぼ同義になる。となると、どうしても、シナリオ・プランニングを防衛的な見地から否定的に見るのが、経営層だということになりかねない。

A君:それはそうなのです。しかし、シェルがシナリオ・プランニングをやったのは、アラビアのロレンスの例で言えば、砂漠の向こうになんらかの「点」が見えた。恐らく、オイルショックといった大々的な変化が起きることが「点」として見えた、と思った人がいたから。すなわち、企業全体のリスクをしっかり見ている人が、その層か分からないですが、存在していたからなんでしょうね。

B君:その「点」を見た人が、経営層であれば、問題はない。しかし、恐らく、シェルの場合であっても、ハイデン氏はシナリオ・プランニングの責任者であって、経営層ではなかったではないか。職歴を調べても出てこないのだけれど。その後は、大学教授になっているが。

A君:「点」を高性能な望遠鏡で見れば、ラクダに乗った人であることは分かるのですが。その望遠鏡という仕組みが果たして、シナリオ・プランニングだと言えるのか。それは、それこそ、徹底的な議論を行うという行為が望遠鏡なのであって、シナリオ・プランニングという方法論が望遠鏡ではないということをハイデン氏は言いたかったのでは。

B君:その可能性は強い。「2003年版実践本」だけ読んで、シナリオ・プランニングを行えば、確実になにか成果がでると思うのは、大間違いなのだろう。むしろ、そのシナリオ・プランニングの過程で、どのぐらい徹底的な議論が行われるか、これが鍵であることをハイデン氏は、最初の「1998年版哲学本」に書いた。

C先生:なんとなく、この2冊の本の構成が分かってきたな。最初にやはり、「1998年版哲学本」が出たことに意味があるのかもしれない。最初にHow To本がでると、それはその方法論にとって、かなり危険な兆候だということは確実なので。そこまで意識して、この2冊の本が書かれたのであれば、それは、シナリオ・プランニングをやって考えたという訳であるはずもないけれど、とんでもない偶然のなす大成功だったのかもしれない。なんとなく、ハイデン氏のキャラクターがイメージできるような気がする。

A君:という訳で、すでに文字数は相当な分量になっているのですが、まだ、書籍で言えばp12です。この本はp329まであるのですが。

B君:これから第1章で、シナリオ思考の優位性。具体的には、こんなことが書かれている。
 ある組織が成功するかどうか、それは紙一重である。一つの結論は、変化への察知や対応が余り得意ではない組織がハマりやすい罠があるから。そして、シナリオ思考を活用することで、「長期間機能する戦略思考プロセスを確立」することができれば、この罠にハマりにくくなる。

A君:という訳で、第1章は、いわゆるV字回復をした企業がなぜ回復できたかの調査などが記述されているのです。面白いので、皆さんにお読みいただく方が良さそうです。結論だけ書きますと、低迷した原因は、大体、次の5点になるそうです。
●市場の需要の低下と競争の激化
●高コスト構造
●財務管理の不備
●大型プロジェクトの失敗
●買収で生じた問題


B君:日本の場合には、未来を読まない短期主義的経営者の存在が最大の低迷原因になるのだけど。しかも、失敗すると、その失敗を短絡的に解決しようとして、場合によると虚偽記載などまで行う経営層の倫理観の無さがバレル事件が起きるとそれで終わり。

A君:この書籍での調査はV字回復した企業が対象として調査しているので、東芝のような例は、調査対象ではないのですよ。

B君:成程。となると、経営者の手腕には問題が無かったケースということなんだ。

A君:ついで、ビジネス・アイディアの話になります。これも当然なのだけれど、独自性がまず必要で、それに基づいて、「希少性の緩和」につなげているけれど、この翻訳は最適なのですかね。「希少性の緩和」という意味が良くわからない。独自性があるけれど、多くのユーザに受け入れられるには、コストが非常に高いといったことなどで製品の希少性が残存していてはならない。これが「希少性を緩和できれば」、ということなのだろうと思いますが。

B君:多分、そうだと思う。しかし、少なくとも、Googleで検索して、「希少性の緩和」という言葉はない。これは、もうちょっとだけ説明が必要だ。訳者として問題だと思うよ。

A君:そして、最後に「投資」ができれば、ループが回り始める。

B君:その先の記述では、成功した企業、失敗した企業の例が出てくる。レゴが成功した企業になっているが、現在、いささか落ち目だと思うけれど、2003年の本だから仕方ない。

C先生:今、レゴを孫のために買うと、最近のレゴは特殊部品ばかりなのだ。要するに、ある決まった形の模型を作り上げれば、それで終わり。それに飽きたとしても、パーツを活用して、別のモノを作るには、構造が複雑過ぎる。これは、レゴ本来のビジネス・モデルの否定なのではないか、とかなり疑問に思っていた。

A君:そのあたり、レゴはシナリオ・プランニングをやったのでしょうかね。

B君:ちょっと調べてみたが、どうもそうではないようだ。レゴ・シリアス・プレイ(Lego Serious Play)というなんらかの方法論の名前で、レゴが開発したもので、登録商標のようだ。参加者が、レゴのパーツを使って何かを作ることで、そのグループの問題解決を目指すというもののようだ。

C先生:それにしても進まないね。

A君:そうなんです。まだ、p31ですから。第一部は、いくつかの企業の実例ばかりなので、飛ばすのが最良だと思います。

B君:そうだな。第2部まで飛ぼう。第5章からだ。

A君:えーーと。第5章なんですが、シナリオ・プランニングの歴史みたなので、省略します。
 第6章ですが、「シナリオ・プランニングの理論」という章です。本当のことを言えば、シナリオ・プランニングに対して、「未来は予測できない」という自己否定的な意識が必要という妙な章ですから、これも省略で良いのでは。

B君:やっと第7章の「シナリオ・プランニングの実践」に来た。

A君:42ページしかないのです。ここに、C先生がかって使った2軸法の説明があります。

C先生:2軸法を使いながら思ったのだけれど、この方法だけなのか、あるいは、この2軸法がシナリオ・プランニングの全体像なのか、というのが最大の疑問だった。確かに、もっとも簡単な方法だけど、シナリオが結果的に4種類しかできない。それでは、不足する場合もあるだろう。

A君:軸を4本作れば、6種類の組合せの検討ができますから、まあ、2軸が基本形ではあると思うのですね。

B君:日本でのシナリオ・プランニングの実施例を探して見たら、こんなものが見つかったのだ。実施主体は経済産業省。パワポの説明資料がなんとなんと430ページもあるのだ。
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000280.pdf
 ここでは、どうやら、普通の2軸法を採用していたようだ。

A君:一般財団法人 日本エネルギー経済研究所IEEJは、2005年5月にシナリオ・プランニングの報告書を出しています。
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1050.pdf
これは、日本においては、先駆的な取り組みだったと思えるので、この報告書は勉強に値すると思いました。やはり、ハイデンの2冊の本を引用していますので、むしろ、これらの本を買うより、この23ページの報告書を読む方が、すべてを理解できれば、という条件付きですが、簡単なのかもしれないです。

B君:この報告書に出てくる次の図は、なかなか含蓄があると思うのだ。単なる二軸法にであっても、このような矢印を書き込むことで、もし、可能なら、その上に、未来の年次を書き足すことで、かなりダイナミックな結果を示すことも可能だと思える。



図1:一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 IEEJによる二軸法の図

C先生:そろそろ終わりにしよう。どうも、本日の議論で分かったことではあるが、シナリオ・プランニングというものの方法論自体は、それほど複雑なものではない。しかし、単なるツールに過ぎないので、それが効果のある成果を生み出すかどうか、それは、ファシリテータと参加者の努力に掛かっていると言える。それこそ、ハイデン氏が言うように、どのぐらい徹底的に考えるか、どのぐらい徹底的に議論できるか、これが最終的な結果が良いものになるか、いい加減なもので終わるかに強く影響しそうに思う。
 
その後は、その組織の特性次第。積極的に多くの人々がその組織を改善したいと思って取り組むことができるか、それが最大の鍵のように思う。いくら作業をしても、経営層が何も反応しないような組織では、シナリオ・プランニングをやっても何の意味はない。やはり、企業は、あるいは、団体は、シナリオ・プランニングを実施するなどして、その未来をしっかり読んで対処するようになるかどうか、それは組織の「実質的なトップの思い次第」ということになるのではないか。非常に簡単に結論を書けば、「企業トップの命令で、シナリオ・プランニングが実施されるような企業であれば、株を買っても間違いがない。しかも、株の長期保有が可能である。」