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   シナリオ・プランニングの実施 05.05.2018
        どうやって実施?、二軸法?、それとも三角法?

               



 やっと実施編までたどり着きました。

 「思考の罠」から逃れること、これが未来の予測を可能にするための必須の条件である、ということを過去2回のシナリオ・プランニングの記事で、示してきたつもりです。「思考の罠」とは一体何を意味するのでしょうか。企業にとってみれば、それは、「マネージャー層が過去の経験からの延長線上に未来があると思っていること」が「思考の罠」の内容だと思えば良いようです。ハイデン氏の指摘をそのまま記述していますので、悪しからず。

 学者業の人間には、「研究テーマなど、好きに変えれば良いから、思考の罠が無い」と思ってきたのですが、実際には、そんなことは無いようです。現時点、研究費を獲得するのが大変で、そのためには、自分のテリトリーでの評価をキープすることがもっとも重要。すなわち、過去の経験の延長線上にのみ自分の未来があると考えざるを得ない状況にあるようです。日本では、どの世間でも同じということなのでしょう。

 さて、シナリオ・プランニングで、具体的に何をやるのか、となると、「思考の罠」から企業なり団体なりが逃れることが目的なのであるとしても、単に、「思考の罠」の根源的な原因であるマネージャーを吊るし上げれば、それで解がでるというものではないことは、ほぼ確実でしょう。

 シナリオ・プランニングだからといって、なにかシナリオを作れば、そこから唯一の解が出てくるというものでもないのです。そもそも、シナリオを作って、それに囚われ過ぎれば、逆効果だとしか言えないだろうと思われます。

 それを解消する手法が「戦略的」対話だと言われても、何について語るのか、それが決まらない限り、対話は成立しないのが普通でしょう。

 シェルのシナリオ・プランニングが、石油ショックのときに有効に機能したという話を書いてきていますが、現時点の「パリ協定合意」のビジネスに対する破壊力は、実は、ほぼすべての企業に関わるということで、石油ショックよりも強いかもしれないと思っています。その理由は、すでに300年間も継続してきた「化石燃料に全面依存する文明」が全否定されてしまっているのだから、と言えるのではないでしょうか。

 という訳で、現時点でシナリオ・プランニングを行うには、どのようなプロセスになるのか、を考えてみたいと思います。


C先生:いよいよどのように実践をするのか、それを考える段階に至った。と言いながら、実は、これは何遍も言っているように、NITEの理事長の最終年に、2030年将来ビジョンを作るプロセスとして、シナリオ・プランニングを実施した。しかし、なるべく多くの参加者を得るために、かなり簡易型であった。社会像の変化を探るために、もっとも簡単な二軸法を採用した。ということで、現時点の多くの企業が直面しているパリ協定という地球レベルの大問題と、過去の時点でのNITEの問題意識は大巾に違っていた。

A君:そう言えば、日経エコロジーが、日経ESGという雑誌に変わって、その2号である6月号のCover Story「30年先を語れない企業は滅びる−投資家が注視する気候変動リスク」というものです。ここ数年、日経エコロジーはかなり保守的な記述が多かったのだけれど、何か、編集方針が大きく変わったように読めますね。なぜでしょうか。

B君:一つは、経産省の態度が変わったからではないか。資源エネルギー庁の長官である日下部氏の基本的な認識は、「CO2はゼロ」なので、企業関係者がやっと日経エコロジー(ESG)を読もうと思い始めたので、編集方針もやっと後追いで変えた

A君:確かにそのあたりは、雑誌と新聞との違いかもしれませんね。日経エコロジー(ESG)のような雑誌は、個人が購読するケースはむしろ少数で、圧倒的に企業の環境部が購読しているのでは。となると、世間的に余りにも先導的な記事を書いても、「なんだこれ」ということにしかならない。要するに、環境部の先端的な人のマインドに合わせるのが丁度よい。

B君:なんでもそうだ。世間をちょっとリードするぐらい、が実はもっと受ける。その反対に、余りにリードすると無視されるのは、かなり昔からの真理だと思う。しかし、このHome Pageの記事は商売で作っているのではない。したがって、売れることを言う必要はない。雑誌も書かないような先端性を持っていない限り、存在意義はない。現在言っていることは、これで日本は世界から2周半遅れた。しかし、やっと何人かの経営者が、その遅れはまずいのではないか、と思い出した。

A君:そうですね。我々は突っ走っていないと、存在意義はない。この6月号のもう一つの注目記事が、Special Reportの「SDGsの17目標・169ターゲットへの紐付けの先へ」とうもので、これも企業からの社会的な要請への対応をどうやったら良いの、という反応が来るようになったからなのではないですかね。書かれている内容は、ごく普通のことですが。でも、待てよ、SDGsは、シナリオ・プランニングでも使えそう。また、考えることにしよう。

C先生:ということで、今後、色々な企業がシナリオ・プランニングに取り組むようになると思う。そこで、どのように実践したら良いのか、ということを考えてみよう。NITEでの経験は1回限りだったので、これからは、どこかで実験を続けなければならないのだけれど。

A君:これまでのハイデン氏の書籍などで分かることは何か、というと、まず、例えば、30年後の社会がどのような状態になるか、その社会像をいくつかのモデルを作ることで明らかにして、その可能性について、それこそ、死ぬほど議論をして、30年後の社会のイメージをいくつかに分けて、それぞれの内容を固めるのが、第一ステップ。

B君:そして、そのいくつか作った社会像に則って、その社会ができたときに、その企業なり団体は、どのような生存戦略を採用すれば、持続的に成長し、30年後を乗り切ることができるかを、これまた死ぬほど議論をして、そして、ストーリー化するということ。

A君:この最後の部分について、ストーリー化するのは、恐らく、誰でもできるという訳ではない。なぜならば、企業などでこれを実施すれば、過去の経営者の、そして、かなりの確率で、現経営者の否定にも繋がることがかなりの確率でYesですよね。

B君:となると、シナリオ・プランニングを実施するチームは潰される可能性が高い。

A君:それは努力がすべて無駄になるということなので、やらない方がまし。

C先生:その通りなのだ。NITEでのシナリオ・プランニングの実施については、どのような社会的ニーズがでるか、といったことを簡単な二軸法を用いて4種類の社会について、議論をしながら、現時点から準備しておくことを描くというだけの作業だったし、そもそも理事長自らやれと言って、なおかつ、先頭を切ってファシリテータをやった。経産省は、もともと、シナリオ・プランニングのようなことに対して、比較的相性が良い組織だと思うので、肯定的に見てくれていたと思う。

A君:しかし、それでも、一般の職員にとっては、極めて高いハードルだったでしょう。

C先生:それはその通りであることが分かっていたので、理事長権限で、技術戦略室というものを作って置いて、2年ほど活動をしてもらっていたので、その中で、どのような方法論を採用すべきなのか、といった議論もしてもらった。だから、比較的すんなりことは進み、400名の職員のうち、300名程度が参加してくれた。何が行われているか分からない人も、居たのだとはおもうけれど、付き合ってくれただけ偉い。なんといっても、その理事長は、「経産省に任せておいてもダメ。我々の未来は誰も真剣に考えてくれない」、という、とんでもない意見の持ち主だったのだから。

A君:いずれにしても、まずは、未来の社会像をいくつかの方法を用いて作る。もっとも基本的な方法は二軸法。そして、やや特殊な三角形法などがあるということですね。

B君:その三角形法は、シェルが2025年のイメージを検討する際に使用した方法論で、この情報は、実は、次のPDFファイルを読むのがもっとも理解が早い。公表されたのは、2006年。
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1177.pdf

A君:「エネ経研」の出版物ですね。正式名称は日本エネルギー経済研究所。1966年設立で、すぐさま通産省の認可する財団法人になった。現在職員数200名近い大組織。

B君:すでに引退されたようだけれど、エネ経研に所属していた角和(カクワ)昌浩氏がシナリオ・プランニングのプロだった。後から議論になるかもしれないけれど、ひょっとすると、ハイデン氏よりも中味が分かっていた人なのではないか、と推測したりしている。

A君:シェルが作成作業を行っていたのは、まだ京都議定書の第一約束期間のど真ん中。しかも、オイルピークが来るという予測があって、それが来るのは2006年だという予測もあった。今や、オイルピークなどということに誰も関心を持たないのだから、世の中変わったものですね。

B君:そういう意味では、大学の研究者の意識がもっとも遅れているのかもしれないね。

C先生:実際、そう思う。さる財団の研究提案などを審査していると、将来のエネルギー危機(=石油が枯渇することを意味している)に対応するためには、xxxxが必要。という導入部を書いて提出してくる大学人がかなり多い。パリ協定を全く知らないという感触を得るような記述の申請書の割合は、50%を超している。

A君:もっとも、日本で成人全体の何%が「パリ協定」を知っているか。「パリ協定」という言葉を知っている人の何%が、「気候正義」という言葉を知っているか。

B君:そう言えば、日刊工業新聞に掲載されたC先生のインタビュー記事に「気候正義」という言葉が出ていたね。珍しい現象。この言葉、日経の本紙に何回記述されたのだろうか。

C先生:そろそろ次の話題に行くが、今回は、未来の社会像をどうやって描くべきか、その方法論に関して、ちょっとだけ議論をしてみよう。

A君:了解。それでは、簡単な方法論として、最初に二軸法をご紹介。そして、シェルの三角法を次に。

B君:二軸法は、まず、横軸、縦軸を決める。ただし、横軸、縦軸は、理論的に独立変数でなければならない。

A君:なんかいきなり難しいのでは。例を挙げれば、横軸に、「経済の自由競争の重視」、としたとき、縦軸に、「3Rの進展」とすると、この二つの項目は独立ではなくて、自由競争を大原則とすれば、将来世代の資源不足の可能性を理由に作られる3R原則は、無視される傾向が明らか。

B君:3Rは、容器包装リサイクル法が先鞭を付けたのだけれど、今考えると、この法律ができた理由は、放置しておくと、そのころ市場に出現したペットボトルが大量の廃棄物になってしまうのではないか、そして、当時の廃棄物処理技術では、何か公害が増えてしまうのではないか、という懸念が強かったからだ、と個人的には理解している。実際、1997年頃には、プラスチック焼却でダイオキシンが発生するという、一大恐怖キャンペーンが久米さんのニュースステーションによって開始されて、大騒ぎ。このお陰で、焼却炉の廃ガス処理が高度化されて、メーカーは多大な利益を得た。今後、この法律をどうするかについては、経産省の自由競争主義と環境省の環境主義が常に戦っている状況。すなわち、「3Rの進展」と「自由競争経済」は逆相関が強いという理解が一般的。

A君:その通りなのですが、厳密に考えると、相関の無い変数などは皆無なのでは。社会的なシステムと経済は大体相関が強いので。

B君:まあ、そうも言えるけれど、外的要因で決まってしまうことがあれば、それは独立変数だと言える。シェルが最初に対応を迫られた「石油ショック」は、明らかに経済的な要素が強いのだけれど、先進国がコントロールできない石油生産国が、石油の価格をコントロールするという権利を行使したことが原因、と考えれば、これは、先進国からみれば、外的要因なので、まあ、独立変数だと考えることができる。

A君:現時点の状況だと、「パリ協定」の遵守は、国際的な義務になっているので、これは、外的要因だと言えるのでは、ということですね。まあ、その通りでしょう。となると、一方の軸を「パリ協定によるCO大幅削減」とでもすれば、他方の軸は経済活動に関する何か、例えば、その企業が影響を受けるなんらかの「投資額」とでもすれば、一応、直交関係が成立する。

B君:ちなみに直交関係とは、数学で言えば、内積がゼロを意味する。お互いの関係がゼロであることを意味する。

A君:C先生がしばしば冗談で言っているのが、「経産省における課長とその後任の課長の方針の内積はゼロ」。読まれている方々、意味不明でしょうか。

C先生:とうことで、二軸法は大体良いのでは。前回の記事の最後に示した、時間的変化を曲線で二軸の中に書き込む方法論も、経産省の報告書に出てくるのだけれど、これも先程ご紹介した角和氏の発案なのではないかと思う。チェックした訳ではないが。それでは、三軸法へ。これは実は相当に難しいのだ。

A君:シェルの三軸方の構造は次の図のようです。



図1 シェルのグローバルシナリオ2025における社会構造 http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1177.pdf

B君:次の3つの要素が表1のようになっている。

効率性=市場メカニズムの浸透
公平性=連帯感の醸成
安全と安心=国家強制力の発動

表1 それぞれの要素の説明

A君:さらに、それぞれについて、相反関係が仮定されています。例えば、ある社会が「効率性」と「公平性」を重視すれば、第三の頂点である「安全と安心」は無視される傾向が強くなる。そのような社会を、この図1では、”Open Doors"社会と命名しています。そのこころは、「ドアに鍵が無い社会」。泥棒にとって自由自在であることは確かですね。

B君:同様に「効率性」と「安全と安心」(国の権力による保証)が重視されれば、「連帯感の醸成」は無視される。

A君:この代表例は中国。共産主義という国家の強制力が発動されて、かつ市場メカニズムが浸透すれば、経済発展はする。しかし、公平な社会、特に、連帯感の醸成は無視されあらゆる格差社会になる。まさに、世界全体が現時点の中国になる。確かに、Low Trust Globalizationですね。

B君:そして、最後が、「安全と安心」、「公平な社会」が強調されると、当然ながら「効率性」、特に、経済的な効率性は下がるでしょうね。現時点でどの国がそうなのかと言えば、個人的見解としては、ベラルーシのような社会。GDP par capitaが、5千ドル弱ぐらい。それでも、ウクライナの2倍はあるけれど。ウクライナは、社会主義ではなく自由度を重視しているように見えるが、経済が機能していない。ちなみに、日本は約4万ドル。

A君:ベラルーシのような国を"Flags"と命名。"National Flags"という意味でしょうか。ベラルーシは、国が古典的な共産主義を目指しているように見えますね。

B君:この三角形は上手くできている。これを作るだけで、それこそ、死ぬほど真剣に議論されたのではないか。こんな三角形を全く新たに作ることが可能なのか、というと、これが、なかなか難しい。

A君:となると二軸法がなんと言っても、簡便で良いことに。

C先生:パリ協定対応ということならば、まず、最初に行う二軸の設定は、環境適合の実現軸と検討対象の成長軸。多分、現時点では、この二軸でやることが最初のトライアルになるのではないか。

A君:まあ、そうでしょうね。パリ協定に関しては、むしろ、環境適合の実現よりも、脱二酸化炭素軸とした方が良いのでは。

B君:分かった。簡単にやるなら、縦軸:脱二酸化炭素、横軸:経済成長軸、で良いと思う。

A君:そうなんですが、脱二酸化炭素よりは、SDGs対応を優先したいという企業もありますので、SDGs軸もあるのでは。ただし、その場合には、SDGsの各項目の縦軸への寄与割合を変えるといった方法論を採用することが必要のように思えますが。

B君:そういう複合軸がありだと言うのなら、ESG軸を縦軸にするという技もあり得るかもしれない。これは、さらに軸の構成要素に関しての議論が必要だと思われます。

C先生:分量オーバーだ。そろそろ止めよう。これまで検討してきたように、死ぬほど議論するためのツールであるシナリオ・プランニングというものは、もともと手段にすぎない。だから、これでなければならない、といった決まりは無い。どのような効果がでることを期待して行うのか、それによって、二軸法の軸を決めて良い。最後の方で議論された、複合軸という考え方も、きちんとした説明をすれば、それぞれの企業の特徴が出るので、面白いのではないだろうか。とにかく、本格的なシナリオ・プランニングの実験をしなければ。ということで、今回は、ここまで。