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  海面上昇のスイッチはもう入ったか?
  10.08.2012



  やっと、執筆中の本の作業を一段落させることができました。完成したという訳ではないですが、まず、原稿として提出してしまおうということになりました。

 その著書のなかで、もし「地球の破綻」が起きるとしてら、何がもっとも危険性が高いか、という非常に不確実な検討をしていますが、現時点で考えられる最悪の事態はやはり海面上昇なのではないか。そして、すでに、そのスイッチを人類はすでに入れてしまったのではないか、と思います。ただし、それが起きるのは、「ザ・デイ・アフター・トゥモロー」のように突然ではなく、ジワジワと始まり、確実に上昇を続け、1000年後には海面が現在よりも5〜7m高くなっている。

 東京のゼロメートル地帯は、500年後には海に戻っていることになるだろう。まあ江戸時代だって、海面は江戸城の先ぐらいにあったのだから、別にそれでも構わないと思えば、海面上昇を無視して、土地の所有権の在り方を再度考えなおすという手も無いとは言えない。

 海面上昇の機構を少々述べれば、最初の段階は海水の膨張による海面上昇で、その影響は2300年まででは1mを超さない程度。しかし、それ以後グリーンランドの氷や西南極の氷が少しずつ溶けることによって、100年あたり1mぐらいの割合で海面は上昇し続ける可能性が高い。


図 実際に起きてしまいそうな海面上昇の速度 RCP4.5シナリオが実現すれば、2300年で65cmぐらい。

 こう考えると、本日の日本経済新聞の社説、「現在と将来を見据えたCO2削減を」には、将来なにが起きるかの記述が無いので、「何を心配してそんなことを言っているのだ」、と批判されかねない。

 しかし、現在の日本の状況は、原発を天然ガスで置き換えるという対策を進めていて、温暖化が重要だという主張は、かなり珍しくなっている。その意味では、本日の日経の社説は貴重品である。

 現在のような場当たり的なエネルギー政策が許されるのは、あと2年もないと予測する。それは、2020年からの気候変動の交渉が始まると、やはり社会全体が慌て始めることになるだろうから。

 さて、2300年以降の1m/の海面上昇をなんとか0.5m/100年に抑えるためには、どのような対策を取れば良いのか。やはり、2050年に先進国からの二酸化炭素排出量は大幅削減。日本の公約の80%削減は無理にしても、67%削減ぐらいは当然なのではないだろうか。

 世界全体では、どのぐらいなのか。その具体的な値が、「21世紀気候変動予測革新プログラム」の報告書には掲載されている。
http://www.jamstec.go.jp/kakushin21/jp/reports.html

 そこで、以下、執筆を一応終えた原稿からの流用です。



 『革新』によって検討された大気中の二酸化炭素の濃度の上昇に関するモデルはIPCCの第5次報告書用に作られた共通の4種類で、RCP2.6、RCP4.5、RCP6.0、RCP8.5と命名されている。
 RCPは、Representative Concentration Pathwaysの略であり、2100年までに、「放射強制力」と呼ばれる変数がその値に到達するというモデルである。これは気候学における用語で、温室効果ガスが地球から出て行こうとする熱(赤外線)を妨害しようとする力であり、IPCCは1994年に「対流圏の上端における平均的な正味の放射の変化」と定義した。数値が大きいほど、地球の気温は高くなる。
 つぎの図に、RCP2.6〜RCP8.5のモデルの定義が示されている。大気中の二酸化炭素の濃度の上昇が、RCP2.6ではもっとも少なく、2040年頃から低下していく。そのピーク濃度は450ppmを越さない。


図2−17 各種RCP(Representative Concentration Pathways)モデルでの大気中の二酸化炭素濃度

 RCP4.5であれば、2070年頃から二酸化炭素の濃度は増加傾向を止めて、2100年にはほぼ550ppmになる。RCP6.0だと、2100年まで上昇を止めることはない。RCP8.5は、二酸化炭素の排出を全く制御しない場合、すなわち、好きなだけ化石燃料を使うというシナリオに近く、2100年での二酸化炭素濃度は、現在の2倍以上の900ppmを超した数値になっている。この4種の共通のシナリオを決めて、これまで、世界各国の気候モデリングの研究者達が、検討をおこなってきた。日本では、ご紹介した『革新』において検討された。
 さて、それぞれに対して、平均気温の変化はどのようになるのだろうか。


図2−18 各種RCPモデルの温度変化

 2.6シナリオでは、1980〜1990年比で、2℃以内の上昇に留まる。4.5シナリオだと2.5℃ぐらいまでである。2.6シナリオが実現できれば、まず問題なく安定的であり、4.5シナリオでも、まあまあ安全と言えるシナリオだと思うが、それは、温度の上昇が今世紀中に止まることが期待できるからである。そして反して、6.0シナリオだと飽和の傾向を示すことなく直線状に上昇し、2100年には3℃を超す温度上昇になる。6.5シナリオだと、2100年に5℃の上昇となるが、それ以後も上昇が継続する。
 それぞれのシナリオに対して、どのぐらいまでの二酸化炭素排出が許されることになるのか。それをグラフにしたものをつぎの図に示す。



図2−19 許容される二酸化炭素の排出量。

 まず、2.6シナリオの時には、2070年以降には、ネガティブエミッション、すなわち、温室効果ガスを大気から吸収して、なんらかの形で隔離しなければならないが、こんなことは実現できるのだろうか。理論的にはやってやれないことはない。植林を徹底的に行い、育った木は燃やさないで、炭にするか、紙にして、永久に保存する。年間2ギガトンの二酸化炭素に相当する炭(約0.5ギガトン)や紙を作ることになるが、炭や紙を作るときに、二酸化炭素を発生しては何もならない。もし製造技術の開発でこれが実現したとしても、0.5ギガトンの炭をどこかに蓄積しなければならない。かつて、日本は廃棄物を大量に埋め立てていた。最大であった埋め立て量は、1991年のことで、年間1億1千万トンであった。この5倍の固形物=炭を、毎年毎年、世界のどこかに埋めることになる。日本のような狭い国土でも、何年間かは1億トン程度の最終処分を行なっていたのだから、やってやれないことはない、とも言える。それができないと思えば、燃やしたときに発生する二酸化炭素を分離して地中に埋める。やはり、相当なコストが掛かる。しかも、分離するのに、余分なエネルギーが必要になるので、化石燃料の使用量が1.3倍になる。
 こう考えれば、2.6シナリオは、かなり非現実的だということになる。すなわち、気温変化を2℃上昇までに抑えることは、すでに不可能になったと言えるだろう。となると、4.5シナリオが、今となっては、最大限の努力をしたときのもの、ということになるが、4.5シナリオであっても、2050年頃から急速に排出量を下げるシナリオなので、これでも実現は難しいかもしれない。とりあえず、この実現のために、多くのチャンジを行うべきシナリオであるように思える。この場合の気温上昇を2300年まで予測すると、つぎの図に示すように、1980〜1990年との比較で、プラス3℃に限りなく近い温度上昇になる。


図2−20 4.5シナリオの2300年までの温度上昇予測

 つぎの図は4.5シナリオを実現するための、二酸化炭素排出量の長期的な推移を示す。


図2−21 4.5シナリオで許される二酸化炭素排出量

 4.5シナリオを実現するためには、二酸化炭素の排出のピークを遅くとも2050年までに実現し、それから50年、すなわち、2100年には1975年程度の排出量に戻すことが必要だということになる。これも、相当にきついシナリオである。人口のピークが2080年頃に来るようでは、不可能に見えるシナリオである。以上のような前提に基づいて、様々な影響について、検討をしていきたい。