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   石に熱貯蔵して発電
     シーメンス流の転換型イノベーション 10.15.2017

               



 今回の記事は、一般的な日本のイノベーションという概念と、ドイツの老舗であるシーメンスのイノベーションは、かなり違うのではないか、という話です。

 スウェーデンのトラック企業SCANIAがトロリートラックの実証実験を始めたことは、本サイトでもちょっとだけご紹介しました。
https://www.scania.com/group/en/electrification/


 このような技術は、考えてみれば、日本にも東京オリンピックぐらいまでは存在していたトロリーバスと原理的には全く同じ。技術的に可能なことは、何10年に渡って実証済みです。そう言えば、高校生のときには、自宅から、山手通りまで徒歩で行って、そこから、新宿区戸山まで、トロリーバスで通学をしていました。

 このSCANIAのトロリートラックの架線などの電気関係は、シーメンス(Siemens、ドイツ)の技術が使われているようです。一般的なトロリーバスと違って、前向きの集電装置が高速道路でのトラックには良いのでしょうか。

 このような枯れた技術を実用化する方向性が、これからの大転換時代には、良い結果を生み出すような気がしています。

 先日のICEFでのTOP TEN Innovationでは、日本の企業は、太陽電池の変換効率の世界新記録を出したといったものが多く、ある意味で、日本流のイノベーションを目指しているようでした。すなわち、「性能のカイゼン」=イノベーションなのです。

 ところが、シーメンスなどの欧州企業にとっては、「転換」=イノベーションでして、これまでの方法を、別の方法に切り替えることが、彼らにとってのイノベーションなのでしょう。

 この発想の違いは、実は、重要なことだと考えています。その一つの証明が、シーメンスの、「石で熱貯蔵をして発電」という新発想です。かなり古い感じがしますが、確かに、実用になったことは無いという意味で、斬新なアイディアのように思います。

 繰り返しになりますが、「カイゼン」=イノベーションでは、もはや勝てないのが大転換時代。そこを乗り切るには、「別の方法を見つける」という発想を持つことが必要不可欠です。是非とも、日本企業にも頑張って欲しいと思います。

 ということで、本日は、風力・熱貯蔵・発電のお話。

        
C先生:実は、この話を最初に伺ったのは、エネルギー総合工学研究所の岡崎徹主管研究員からだった。そのとき、正直、何か古い技術なのかな、と思った。しかし、その後、色々と考えてみると、日本のイノベーションに対する発想は、「ある装置の効率を上げたい」といった漸進的な発想は得意だけれど、全く新しい発想に切り替えることは、まあ、その企業にとっての既得権を放棄するようなものだから、苦手なのだ、ということを再認識した。しかし、この苦手を克服することが、大転換時代に対する対応方法のもっとも基本であることは、否定できないのだ。

A君:以前、オープンイノベーションという考え方をご紹介しました。、
http://www.yasuienv.net/OpenInove.htm
 大転換時代というものは、自社のビジネス上の競争力を高めるということだけが目的のイノベーションでは、実は、イノベーションを具現化するには不十分で、自社以外の他者、特に、社会的な要請を実現するためのイノベーションであって、それには、それまでその企業内にある技術を無視してでも、新しい発想をするということに取り組まなければならない、という議論をしました。

B君:それには、「これまで非効率的だから、という理由で見捨てられた技術」を上手く拾うということが、どうみても、シーメンス社の基本的発想法の一つであるように思えてきた。

A君:効率を1%高めることも、現時点で極限の挑戦ではあるけれど、太陽電池のような製品では、効率の僅かな優位性よりも、メガソーラーのように充分に広い土地が使えるのであれば、多少の効率の違いよりも、コストの違いが優先されてしまうのが、現実。日本のビルで、可能な受光面積が小さいビルをZEB化する場合であれば、多少とも効率の高い太陽電池が選択される可能性はあるのですが、世界的に見ると、それは余り大きな要素だとは思えない。

B君:大転換時代は、現在競争状態にある技術のさらなる向上、しかし、量的には僅かな向上よりも、他の人々が考えつかない技術の可能性を発見するというタイプのイノベーションが評価されるべきだということなのではないか。

A君:確かに階段を一段一段昇るというイノベーションは、いくら最終到達高度が高いとしても、大転換時代のイノベーションとは言えないでしょうね。

B君:まだ、階段の無いところに、最初の数段でしかないけけれど、階段を建設するというタイプのイノベーションが求められている。

A君:ところが、どうも、日本人にとっては、その手のイノベーションが苦手分野だというところが問題。

C先生:どうも導入部が長いが、発想法を「はじめて提案することが価値が高いイノベーション」という方向に変えないとならない。これは、実は相当大変な転換なのだ。今日も取り上げられているが、日本のイノベーションというと、その原点はトヨタの「カイゼン」にあり、と考えている人が多いのが現状だ。
 それに比べると、シーメンスは、これまで見捨てられていた古い技術を新しい技術に変えるという発想法を尊重しているように思えるのだ。具体的に、風力からの蓄熱発電の説明に移ろう。

A君:風力蓄熱の記事ですが、実は、これが良いと思います。
https://www.siemens.com/customer-magazine/en/home/energy/renewable-energy/shaping-the-future.html
 風力発電で、発電量が余ってしまう状況が発生したら、その電力を熱に変えて石を加熱する。ここで使われる装置は、ヘアドライヤーのようなものだと説明されています。熱を貯める蓄熱槽は、断熱された空間で、そこに、小さな石で満たされている。熱風が吹き込まれて、それが石を加熱。温度は600℃を超すまで上昇するけれど、石は、融けたり、割れたりはしない。

B君:蓄えられた600℃の熱を電気に戻すには、これまた単純な仕組みを使う。冷たい空気を吹き込んで、暑い空気をボイラーに供給する。ボイラーの蒸気で、タービンを回して発電する。

A君:何日間ぐらい熱エネルギーを貯めることができるか、それは、断熱性能次第ですが、シーメンスの技術者は、「1週間ぐらいは貯めることができる」と言っているようです。

B君:風が無くて、太陽も出ていないような状況で、連続して2〜3日程度、蓄積した熱を利用して発電ができるという設備を目指しているらしい。

A君:そのためには、かなり大量の石が必要で、フルサイズのものになると、2000立米になるという。この石に約36MWhの熱エネルギーを貯めて、小型蒸気タービンで電力にする。その最大出力は、1500kWという。

B君:その効率はどのぐらいのものなのか、というと、現状でも、すぐに25%程度が得られると想定されていて、将来は、さらに高効率を目指したいということだ。効率のアップを目指すには、断熱をどのぐらいやるかにほぼ依存すると思う。

A君:いずれにしても、この技術に関する日本語情報は、新エネルギー新聞の次の記事を参照されると良いのでは。
http://www.newenergy-news.com/%E7%8B%AC%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%BC
%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%81%8C%E4%BD%99%E5%89%B0%E9%9B%BB%E5%8A%9B
%E3%82%92%E7%86%B1%E3%81%A7%E8%B2%AF%E8%94%B5%E3%81%99%E3%82%8B%E6%8A%80
%E8%A1%93%E9%96%8B/


C先生:さて、この古くて新しい技術、日本ではどのような受け取り方がされているか。最初に述べたように、この技術をはじめて知ったのは、エネルギー総合工学研究所の岡崎徹主管研究員からだった。先日のICEFの懇親会でたまたまお会いしたので、状況を伺ったところ、新しい動きがあるようだ。

A君:そうなんです。やはり新エネルギー新聞に次のような記事が出ています。
http://www.newenergy-news.com/%E3%80%8C%E8%93%84%E7%86%B1%E7%99%BA%E9%9B
%BB%E3%80%8D%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E8%BB%A2%E6%A9%9F%E3%80%80%E3
%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E7%B7%8F%E5%90%88%E5%B7%A5
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 要するに、エネルギー総合工学研究所が、新しいプロジェクトを立ち上げるということのようです。

B君:この新エネルギー新聞の記事にはこのように書かれた。
 「NEDOの技術戦略研究レポートであるTSC Foresightでも電力貯蔵分野の技術戦略が取りまとめられたが、様々な技術と課題が整理されたにもかかわらず、蓄熱発電はこのレポートは触れていない。熱から動力を取り出す場合、原理的に変換効率には限度がある。エネルギー技術に詳しい人ほど、この印象から、技術としての評価を下げがちなのだろう」。

A君:たしかにその通りで、熱から電力を取り出すには、熱力学によってガリガリに縛られた変換効率の限界があるのは事実。

B君:できれば、エネルギー貯蔵は、位置エネルギーなどに変換して貯蔵したい。現在、存在しているもっとも合理的な方法は、どうしても、揚水発電になる。この方法は、貯蔵効率が70%ぐらいになるようだ。

A君:ところが、揚水発電は、大規模なダムが必要であるけど、日本の場合には、すでに適地が無いと思われる。これと同時に、小規模なものを作ってもコスト的に合わない。

B君:その「コスト的に合うか」という発想が、日本のイノベーションから抜け落ちているのかもしれない。

A君:それだけでなくて、大転換時代のエネルギー貯蔵には、すべての技術が、量的に可能な限界まで導入されてしまうので、あらゆる技術を導入しなければダメだという思いがまだ無いという可能性もあると思いますね。となると、効率が悪いからダメということは無くなって、それを決定するのは、設備導入コストと電力販売コストいうことになるのでは。

B君:そうとも言えそうだ。電力貯蔵だと、そこには恐らく、EVのバッテリーの有効活用という技術が入ってくる。この方法は、数日というオーダーでの電力貯蔵には、かなり効率も高いし、電力貯蔵用に自分のEVを貸して、グリッド側が電力不足状態になって、EVにある電力を売るときには、高く売れるというシステムになるはず。それも、今回のICEFの一つのコンカレントセッションの話題でもあった、ブロックチェーンが活用されて取引が行われる

A君:ブロックチェーンはビットコインのシステムそのもの。これを活用するという方法論で、多くの人々の間での、電力の取引が可能になる。

B君:となると、どのぐらいの電力量を提供できるか、すなわち、手持ちの販売可能電気量でも、価格が決まる可能性がある。非常事態だと電力料金は高くなるに決っているので、大量に売れる場合だと、徐々に販売価格が高くなる可能性が高いから。

C先生:まあ、そんなところで良いだろう。日本の電力網が将来どのようなものになるのか、その未来像はまだ確定しているとは思わない。しかし、日本の電力関係は、保守主義の塊みたいなものなので、どうしても、現時点でこの国に採用されそうな技術だけを検討する、という固定観念があるように思える。そして、日本人にとって、もっとも重要なことが、やはり、この国の特徴というものをしっかりと理解すること。他の国に比べれば、太陽電池の効率は高い方が良いに決っている。なぜなら、そもそも面積が不足している。建物の屋上面積も小さい。しかし、それがすべての用途ではない。世界の自然エネルギーの主役である風力だが、日本は、世界最悪の風況、すなわち、山があって風が乱れていることと、台風のような災害があり得ることを覚悟しなければならないので、やはり、「平地に太陽電池」という考え方を持たなければならない。となると、効率が若干悪くても、メンテ不要、すなわち、壊れないことなどの条件を満たしつつ、イニシャルコストが低い太陽電池が必要不可欠だと思う。このようなその国の状況にぴったり有った製品を作るという意識に基づいて、イノベーションとは何かを常に追求しなければならないと思う。