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 25%削減に向けた技術と社会   10.04.2009
      その1
 既存技術と社会システム




 9月20日の本HP http://www.yasuienv.net/GHG25Reduction.htm で、麻生首相の諮問機関であった「中期目標検討委員会」の15%削減シナリオを検討した。また、日経エコロミーにも同様の記事を書いた。

 その結論は、日本エネルギー経済研究所のシナリオは、太陽電池に偏重しており、これではコストが高くなっても当然。国立環境研のシナリオも、現実的なスタンスを保っており、現状で使える技術に限定している。そのため、日本エネルギー経済研究所シナリオよりは低いものの、コストが高くなりすぎる。

 それでは、それ以外の技術は無いのか。昨年の11月に、本HPでご紹介したが、
 http://www.yasuienv.net/CRESTKickOff.htm 
筆者は、JSTのCREST研究領域「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」の研究総括を務めている。そのため新規技術の発見と開発研究を進める立場にある。

 先日、本年度採択分についての発表がJSTから行われているが、
http://www.jst.go.jp/pr/info/info670/shiryou2-09.html 
今年は、バイオというキーワードが入った研究が3件も採択されている。

 ただし、バイオだけが本命ということでは無さそうにも思う。むしろバイオは本命なのか、その問いに答えて欲しいという思いを込めたラインアップになっていると言うべきだろう。

 それなら、これまでのラインアップ以外に、一体どのような候補があるのか。検討の目的は本来これである。

 しかし、技術が存在しているだけでは何も変わらない。それが普及することによってやっと効果が出る。普及には、様々な条件がある。特に、これまで面々と続いてきた社会的な枠組が妨害要因になってはいないか。

 今回は「その1 既存技術と社会システム」として、国立環境研がシナリオに組み込んだ技術リストを元に、社会的な視点から検討を行ってみたい。しかし、これらが改善されれば、25%削減が可能だということを主張する訳では無い。むしろ、様々な課題があることを主張するためである。



C先生:本来の目的は、新たな可能性の高い技術を発見し、その議論をすることだ。それには、まず検討の範囲を決めなければならない。新しい技術の定義としては、現時点で存在する技術を除外するということなのだから、基本的に国立環境研のシナリオに含まれているもの以外、というのがその範囲になるだろう。

A君:となると、まずは、前回も出したリストを再度掲載ですか。無駄のようにも思います。

C先生:しかし、今回のHPでは、別の立場からの検討も行ってみたい。
 そのリストに含まれていても、社会的なシステムが不十分なために、技術のより効果的な活用ができないものがある。そのような例を洗い出して、社会システムの改善によって使える状態にすることが極めて重要。

A君:社会的なシステムが不十分かどうかを検討するのなら、産業系の技術については、再度掲載する必要はないと思うのですが。

C先生:それはそうなのだが、ついでに、と言っては怒られそうだが、技術の本質をもう一度検討することも、一部目的にしたい。そのために、スペースの無駄は承知で、もう一度すべて出そう。

B君:色分けにして、社会システムの改善に関係しそうな技術は分かるようにしよう。

A君:了解。まずは、再掲。赤字が社会的システムに関連する項目


国立環境研による「2020年中期目標に向けた検討」で用いられた技術のリスト

鉄鋼
石炭調湿装置 次世代コークス炉 乾式コークス消火設備 焼結主排風顕熱回収 焼結クーラー廃熱回収 乾式高炉炉頂圧発電 転炉ガス顕熱回収 スクラップ予熱 直流式電気炉 蓄熱式バーナー加熱炉 自家用火力発電の高効率化 廃プラスチック利用拡大

セメント

原料竪型ミル 原料石炭ミル エアビーム式クーラー導入 ローラーミル予備粉砕器 高効率セパレータ スラグ粉砕用竪型ミル 廃熱発電 エネルギー代替廃棄物の利用拡大

石油化学
エチレンプラントガスタービン併設 低温排熱回収システム 内部熱交換型蒸留塔 ナフサ接触分解 熱併給発電の効率化 高効率熱併給発電技術 バイオマスプロピレン 膜蒸留プロセス

紙パルプ
高効率古紙パルプ製造技術 高温無臭型回収ボイラ 廃材パーク利用拡大

その他製造業
高性能工業炉 ボイラ効率改善 産業用ヒートポンプ 高効率空調

農林水産業
高効率乾燥機器 高効率農機具 省エネ型温室 高性能林業機械 高効率漁船

家庭部門
高効率エアコン 高効率電気ヒートポンプ給湯器 潜熱回収式給湯器(石油・ガス) 住宅用太陽熱温水器 高効率電球型蛍光灯 高効率蛍光灯 高効率家電製品 太陽光発電 省エネナビ 高断熱住宅(H4 / H11 基準)

業務部門
高効率電気ヒートポンプ 高効率電気ヒートポンプ給湯器 潜熱回収式給湯器(石油・ガス) 非住宅用太陽熱温水器 高効率照明機器 高効率動力等機器 高断熱建築物(H5 / H11 基準)ビルエネルギー管理システム(BEMS)非住宅用太陽光発電

運輸部門
高効率ガソリン・ディーゼル乗用車(軽・小型・普通、軽はガソリンのみ以下同様) ハイブリッド(HV)ガソリン・ディーゼル乗用車(軽・小型・普通) 電気乗用車(軽・小型・普通) 高効率ガソリン貨物車(軽・小型) 高効率ディーゼル貨物車(小型・自家用・営業用普通) HV ガソリン・ディーゼル貨物車(軽・小型・自家用・営業用普通) 電気貨物車(軽・小型) 高効率船舶・鉄道・航空(旅客・貨物) 高度道路交通システム

発電部門
高効率石炭火力発電(先進USC・IGCC) 高効率ガス火力発電(ACC・MACC) 原子力発電 一般水力発電 地熱発電 風力発電 大型太陽光発電 廃棄物・バイオマス発電 小水力発電

非エネルギー部門
家畜排せつ物処理方法転換 施肥量削減 循環計画推進等による活動量削減・循環利用促進 燃焼の高度化 バイオマスプラスチック導入推進 F ガス製造ラインにおける除去装置の設置 マグネシウム製造時における代替ガス導入 冷媒ガスの使用時漏洩量の改善 冷媒ガスの回収量増加 半導体・液晶製造ラインにおける除外装置の設置


C先生:まずは、技術の本質がどこにあるかを探ってみよう。

A君:本質とは、どう分類すれば良いか、という問題意識ですか。

C先生:まあそんなところだ。

B君:どの産業分野も、結局のところ、高効率化と廃熱利用が主な省エネ手法。これは、当然でもあって、もともと、それ以外に方法は無いのだ。

A君:二酸化炭素排出削減には、自然エネルギーの活用、省エネ、原子力、CCS(二酸化炭素分離貯留)の基本的に4つ。廃熱利用も、あるいは、リサイクルなどの循環利用も結局のところ高効率化なので、省エネに含めれるとすれば、当然のことで。

B君:強いて言えば、他の材料を使わないという軽量化、循環活用(3R)といった方法もないとは言えない。

A君:それにバイオ起源の材料の活用ぐらいですか。これは、自然エネルギーの活用と実は同じこと。

B君:まとめ直せば、
1.自然エネルギー/自然材料
2.高効率利用(省エネ、省資源、小型化・軽量化、循環利用(3R)、
3.CCS(二酸化炭素分離貯留)
4.原子力

C先生:それでは、本題に戻って、社会的なシステムが関連する項目、すなわち、赤い太字を検討するか。まずは、鉄鋼分野の「廃プラスチック利用拡大」だ。現在、容リ法で収集したその他プラスチックは、鉄鋼分野に若干回ってはいる。

A君:東京23区のその他プラスチックの回収・リサイクルについては、完全に2つに割れました。ペットボトルを除く廃プラスチック、いわゆるその他プラを全量焼却する区、若干量回収する区が11:11。中央区が拠点回収のようなやや変わったことをやっていたが、2009年4月1日から、後者に確定して11:12になった。

C先生:先週、フランスのリサイクルシステムを担当しているエコアンバラージュ社のジスレ氏とかなり長時間に渡って話をする機会があったが、これはすでに良く知られた話だとは思うものの、ヨーロッパでプラスチックのリサイクルをやっているのは、”ボトル”だけ。

B君:その理由は重さだろう。ポリ袋などのフィルム類の厚さは0.02mmといったものだ。ボトルになれば、30倍ぐらいは厚い。

A君:もっとも、ペットボトルはどんどんと軽くなっていて、日本コカコーラの”いろはす”のボトルは12gしかない。かなりペラペラの状態まで軽くなった。

C先生:鉄鋼としてみれば、廃プラスチックを使えば、CO2排出原単位が下がるということなのだろうが、実排出量が下がるという訳でもない。むしろリユース的なリサイクルとでも言える技術が使われることが必要。
 現時点のマテリアルリサイクルは、輸送用のパレットという製品になっていて、確かに使われるのだが2サイクル、すなわち、ゴミになる前にもう一度使われるに過ぎない。鉄鋼での廃プラスチックの利用は、コークス原料、高炉吹き込みといった方法だが、これらはケミカルリサイクルだとされているが、本当のケミカルリサイクル、すなわち、帝人ファイバーのように、ペットボトルをモノマーまで戻して再度同じPET樹脂に戻るものとの差は極めて大きい。むしろ、鉄鋼のケミカルリサイクルは熱利用と言うべきだろう。

A君:現時点の廃プラのリサイクルは、廃棄物処理の一部としてのリサイクルなので、現状のような形になっていますが、将来、これを二酸化炭素排出削減と資源利用効率を考えたリサイクルシステムに根底から変える必要があります。

B君:それには、容リ法を根底から変えることが必要なのだが、それへの抵抗は大きい。あと2回程度の改正が必要不可欠だろう。

C先生:現時点で目安にしているプラマークを2種類に分けることから始めるか。フィルムなど軟材料プラマーク、硬質材料プラマーク。フィルム類は、今で言うケミカルリサイクルか、汚れすぎていたら焼却。硬質材料は、プラスチックの材質を赤外線スペクトルなどを使って判別後に自動分別して、マテリアルリサイクルへ。

A君:港区は、HPを調べてみると、「プラマークが目安になります」、と言いながら、CDケースを資源用として回収するようです。

B君:CDケースでプラマークが付いているものは無いはずなのだが。

A君:CDそのものは、さすがに、可燃ゴミのようですが。

C先生:CDケースはポリスチレン。これは、材質を赤外線などで判別して再度樹脂のまま使うということが可能な一例だろう。

A君:となると、容リ法の改正だけでは無理で、プラ用品リサイクルが新設されないと。

B君:今のままだと、永久に変わらないような気がする。

C先生:これが、今回の話題の一つ、法制度などの社会システムが変わらないと、二酸化炭素排出量が減ることにはならないだろうという実例だ。

A君:話変わって、結構、熱回収というものが多いですね。その典型が、化学工業の「低温排熱回収システム」

B君:熱をどうやって回収するか。これが問題。廃熱も、300℃ぐらいあれば、確実に有効活用される。しかし、200℃を切ると難しい。

A君:スターリングエンジンなど用に使うということもあるようですが、低温の廃熱を回収しても、まあ、効率、特に、コスト面が余り良くない。

B君:200℃以下の廃熱を蓄熱剤に貯めて、どこかに運ぶという考え方は昔からあるのだが、なかなかコスト面では合わない。

A君:神戸製鋼と関係企業が、エリスリトールという人口甘味剤を蓄熱剤に応用して、熱を輸送できないか、という検討を行った例がありますね。 http://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/56_2/010-014.pdf

B君:この熱を吸収式の冷温水システムを用いて冷房用に使おうという試みだった。要するに、風呂用ぐらいでは、200℃という温度は、まだもったいない。

A君:問題はコストでしょうね。となると、これをサポートするような社会システムが必要だということになる。

B君:どのぐらいのCO2排出量が削減できたか、ということが、経済的なメリットに直結するということが、環境税の根本的な考え方なのだが、実際には、そこまで重い環境税を掛けることは非現実的。むしろ、「省エネは国内に油田をもつことと同じだ」、というエネルギー安全保障問題だと理解して、多少の投資は必要と考えざるを得ないだろう。

C先生:セメント産業の「エネルギー代替廃棄物の利用拡大」に行くか。

A君:これはすでにほぼ実現できていて、というよりも、現状でこれ以上頑張っても燃やす廃棄物が無いというのが現状では。

B君:廃タイヤがその最たるもの。不法投棄の現場の写真などで、多くの廃タイヤが見られるが、あれは山奥まで持っていてしまったために、コスト的にも合わない状態になっている。通常の排出形態であれば、引っ張りだこ。

A君:タイヤには、合成ゴムと天然ゴムが使用されるが、ダンロップのエナセーブ97は、石油外天然資源比率97%と称している。
B君:標準タイヤは、石油外天然資源比率が44%だそうだ。しかし、スチールコード、ビードワイヤーが含まれる。

A君:通常の廃タイヤだと、当然、合成ゴムや鉱物油、カーボンなどが燃えてCO2を発生するのですが、セメントプロセスなどに転用された廃タイヤからのCO2発生量はゼロと計算することが行われているようで。

B君:製紙業でも廃タイヤは奪い合い状態。新日鐵は、廃タイヤのガス化をやっている。

A君:本来なら、マテリアルリサイクルがなされて、元のタイヤに戻るのが理想。しかし、製品の品質などの点から難しいのだろうか。

B君:昔は再生タイヤというものがあった。新しいトレッド(接地部)を貼り付けて、再生品として販売する。リトレッドとも呼ばれる。しかし、廃タイヤの3%程度が使われているだけ。

A君:最近、トレッドの厚みを多少増やして、再度溝だけ深めに切り直して、寿命を延ばすという提案はあるようです。トラック・バス用だけのようですが。 http://www.michelin.co.jp/tires/others/tb/care/cost.html

C先生:リトレッド、リグルーブなどが今後の方向性のようにも思える。そのために安全性が損なわれてはいけないが、現在の技術なら、なんとかなる。

A君:しかし、問題は乗用車用ですね。走行距離の短い乗用車だとトレッドが減るまでに、相当時間がかかる。そのため、リトレッド、リグルーブには、ゴムの劣化の問題が残るように思えます。

B君:いずれにしても、今後、リユース的な対応が求められるという傾向に変わりはないだろう。

C先生:さきほど、エネルギー安全保障を重視すべきという話があったが、発電部門の「水力」などをもっと普及すべきだ、あるいは、地熱だって、もっと力を入れるべきだ。それは、エネルギー自給率を高めるという意味で、すなわち、エネルギー安全保障という観点が欠落しているこの国の考え方を変えさせるという意味で重要という主張はすでに前回に行っている。

A君:これこそ、社会システムの整備が重要。水利権をどうするか、あるいは、国立公園とエネルギー安全保障をどのように両立させるか。

B君:洋上風力と漁業権、あるいは、潮力発電と漁業権といった問題もありそう。ちなみに、潮力発電は、国立環境研の技術リストからは欠落しているが。

C先生:家庭部門の「省エネナビ」は、本来、もっと推進すべき項目だと思う。なんらかの社会システムが必要なのではないかと思われる。

A君:東芝、三菱電機などのエアコンには、CO2排出量がでるようになりました。

B君:エアコンは、最近、お掃除エアコンという自動的に掃除までするモデルもあって、余り効率が落ちなくなったのだろう。

A君:メーカーにとって、もっとも怖いのは、製品の劣化がメーター上で分かってしまうこと。

B君:冷蔵庫などだと、断熱性能の劣化がバレてしまう可能性がある。

A君:液晶テレビでも、冷陰極管の発光効率の低下がバレル可能性があるので、「見える化」には熱心でないように思える。

B君:そう言う意味では、太陽電池の経時変化だって、見える化すべき。

C先生:我が家の多結晶型シリコンだと、それほど劣化が分からない。他のシステムだと劣化の可能性はあるが、太陽電池の発電量は、見える化が進んでいる。

A君:付属の表示器で、昨年の同時期の発電量が出るものもある。

B君:なるほど。

C先生:ハイブリッド車は、当然のことながら、国立環境研の技術リストの主力なのだが、このハイブリッド車にだって、社会的問題がある。
 現在、4月に発注して購入した3代目プリウスは、やや希少種で、ソーラーパネルが屋根に乗っているGモデルだ。たった50W程度の太陽電池ではあるが、我が家の車のように、休日にしか動かないものだと、1週間の通算の発電量は、まあそこそこにはなるのだ。それが夏の間の換気にしか使えないのはもったいない。太陽電池から充電することが技術的にはもちろん可能なのだけど、形式審査時に承認されなかったらしい。その理由はなんだったのだろう。

A君:前例が無いこと。

B君:運転者が居ないときに、動力に関連する部分がアクティブになっていては行けないとかいうつまらないルールがあった、という推測はどうだ。

A君:盗難防止は運転者が居なくても動いていますから、オプション的なものならば、良いとされて、換気用だけという制約になった、というのが正解かもしれませんね。

C先生:あらゆる技術が必要になる二酸化炭素排出抑制だが、つまらない規制や社会的枠組が、技術の普及を妨げることは全力を投入して排除すべきだ。
 本日はここまでにして、次回は、国立環境研の技術リストには無い技術で、今後期待できると思われるものを検討しよう。