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  超長期ビジョン  03.02.2008
     
 その2 鉄・セメント製造の影響



 先週に引き続き、超長期ビジョンである。前回は、人口と経済という考察を行ったが、これは、次のURL
http://www.env.go.jp/policy/info/ult_vision/
から落とせる本文のp4までに主として関係し、p7までにも若干関連する事項であった。
 本文では、その後、ライフスタイルの検討、といってもどのような環境観をもっているか、ではなくて、時間をどのように使っているか、どのような学歴になっているか、住む家の大きさはなどといった検討をしている。
 その後、国土・社会資本に関する検討があり、これは実に大変な話で、日本のような右肩下がりの経済の中では、社会資本のメンテナンスができないということを主張している。この件、残念ながら、詳細を議論するデータを持ち合わせない。メンテナンスだけで、年間20兆円もの予算が必要になる。メンテナンスに追われて、道路の新設などは不可能になるだろう。ガソリン暫定税率どころの話ではない。
 その後、自給率の議論を行い、そして、3.持続可能性へのリスクの章になる。
 そして、今回のHPは、3・2物質循環に関する問題として、どのぐらいのリサイクルなどを考慮すべきか、という記述に対する追加的記述である。


C先生:3.2は、物質循環に関する問題とはなっているが、実際には、物質資源の減少・枯渇製造に係わる二酸化炭素の排出、さらには、資源採掘に伴う環境破壊が深刻だ。

A君:物質生産としては、鉄鋼、セメントが二大巨頭。まず、ここからでしょう。

B君:最新(2006)での生産量は、鉄鋼が12.4億トン、セメントが25億トン

A君:生産量最大がいずれも中国。鉄鋼は4億トンを超して、セメントが11億トンも作っている。日本は鉄鋼1.16億トン、セメント7300万トン。

B君:普通だと、鉄鋼1に対してセメント2程度なのだが、それを大幅に超しているということは、鉄が不足しているために、セメントを多めにつかった構造物を作っていることになるのだろう。

A君:インドもなかなか。鉄鋼はインド国内の生産量は、4400万トンと日本の半分以下なのだけど、インド企業であるArcelor Mittalの生産量は、日本全体の生産量よりもほんの少しだけど多い。凄いのがセメント。今や、世界2位の生産国で、1.6億トンを生産。鉄の4倍近くを作っていることが凄い。

B君:やはり無鉄筋のコンクリート構造物を作っているのだろうか。

C先生:先日、インドのアッサムに行ったとき、いくつかの建築現場の写真を撮ってきた。まさに、無鉄筋だとは言わないが、地震地帯のアッサムとしては、こんな構造ではもたない。
http://www.yasuienv.net/IndiaAssam.htm
 資源枯渇が確かに問題ではあるのだが、鉄に関しては、まだ枯渇という段階ではない。セメントも同様。まだ資源問題ではない。むしろ、両素材とも、二酸化炭素排出量が多いことが、当面の問題。

A君:鉄の場合、二酸化炭素排出原単位は、大体次のようなもの。ただし、これは日本の場合。



表1 鉄鋼製品の二酸化炭素排出原単位


B君:鉄鋼製品1kg製造するのに、1.5kgのCO2ぐらいの感じでよいのでは。

A君:セメントの場合には、0.8kgぐらいで良さそう。

B君:世界的に鉄鋼が12.4億トン、セメントが25億トンだとすると、この二種類の素材を製造するだけで、40億トンといった二酸化炭素を排出している。

C先生:世界の二酸化炭素排出総量は、260億トンぐらいだろうから、鉄とセメントだけで、15%ぐらいを排出していることになる。問題は、今後、鉄・セメントによる温室効果ガス排出をどのように考えるべきか、ということだ。

A君:今後の問題となると、そもそもどのぐらいの鉄・セメントを作らなければならないか、が議論できないと結論がでない。

B君:大体、鉄というものは、どのぐらあれば、充分だと言えるのだろうか。

C先生:日本のように、環境データが充実している国だと、鉄の蓄積量のデータがある。



図1 鉄の蓄積量推計 日本鉄源協会のデータをグラフ化
http://www.tetsugen.gol.com/kiso/5chikujapan.htm

A君:一人当たりにすると、大体10トンといったところです。

C先生:同じく鉄源協会に、韓国の蓄積量のデータ
http://www.tetsugen.gol.com/kiso/5chikukorea.htm
があって、それによれば、韓国だと2005年で一人当たり8.8トン。まあ、10トンの蓄積量があれば、かなりの社会インフラが作れると理解できるのではないだろうか。

A君:2100年ぐらいまでに、世界全体がまずまずの社会インフラを持つことは、果たして期待できるのだろうか。

B君:日本などの先進国でのエネルギー消費と二酸化炭素排出量が大幅に低下すれば、例えば、エネルギー消費量で50%以上の削減、二酸化炭素排出量で80%程度の削減が実現できれば、技術移転によって、問題の解決が可能という判断も、あながちウソとは言えない。

A君:2100年になると、人口がどのぐらいになっているか、これも難しくなる。しかし、いずれにしても、人口は2050年程度でピークになりそうな気配なので、多くとも80億人と見てよいのではないでしょうか。

B君:となると、地球上のすべての地域が成熟した社会になるためには、800億トンもの鉄を蓄積する必要があることになるか。

A君:鉄は、これまでどのぐらい蓄積されているのでしょうか。調べないと。

B君:蓄積量のデータは、まず無い。20世紀にどのぐらいの鉄が作られたかを推定することだろうか。

A君:International Iron and Steel Instituteにこんな報告書がありました。
http://www.worldsteel.org/pictures/storyfiles/WSIF07web%20v6.pdf
 1950年以降の鉄の製造データがあります。1950年に2億トンだったものが、1970年には3倍の6億トンに、そして、それからそれほど急激には伸びなかった生産量が、2000年に8億トンを超えてから実に垂直に近い伸びを示し、2005年時点で、12億4千万トンぐらい。



図2:International Iron and Steel Instituteによる1950年以降の鉄鋼の生産量データ


B君:なるほど、先ほど、2005年で12億4千万トンといったが、こんなに急激に伸びているとは思わなかった。

A君:この図を簡単に積分してみると、1950年以降で大体400億トン生産されているようですね。

B君:日本の場合、1970年代なると毎年1億トン製造したようだが、1960年には、2千万トンしか作っていない。日本では、これまでに合計40億トンは製造したのでは。

A君:しかし、蓄積量としては、13億トン程度。1/3しか残っていない

B君:まあ輸出量が多いということだろう。

A君:世界の蓄積量は、データが無いので、難しいですが、有効に蓄積されているものが1/2はあるとして、200億トンの蓄積量ということではいかが。

B君:現時点で一人当たり3トンか。まあ、良いところかもしれない。

A君:となると、今後、まだ600億トンの鉄を作らないと、社会が成熟した状態にはならない

B君:もしもセメントが鉄の2倍必要だとしたら、1200億トン

C先生:大変なことだ。そのために必要な二酸化炭素の排出量は、鉄で900億トン、セメントで1000億トン。まあ、有効数字を1桁だとすれば、2000億トンの二酸化炭素を排出しなければならない。

A君:2050年には、温室効果ガスの半減、ということが実現したとすると、現在の世界での排出量が260億トンぐらい。それを130億トンにする。2010年から2020年ぐらいは多少増えて、その付近でピークになって、320億トンぐらい。そして、2050年までには半減するとしても、年間平均排出量は250億トンぐらいと仮定するのが精一杯。となると、2050年まででの総排出量は約1兆トン。もしも、2050年までに、鉄・セメントの蓄積量を現在の日本程度にすると、そのうち、2000億トン(20%)は、鉄・セメントを作ることに使うことになる。これは、現在の15%よりも多くなる。

B君:その計算はおかしい。なぜならば、二酸化炭素の排出原単位として、日本の値を使っているからだ。セメントも鉄鋼も、小型の炉を使って作ったら、エネルギー効率が極めて悪い。日本の2倍ぐらいになる可能性がある。

A君:となると、二酸化炭素全排出量の40%を鉄とセメントの製造に使うことになる。これは有り得ないのでは。

C先生:どうも有り得ない話のように見える。もしも、2050年以後に作るということになったとしても、2050年以後は、世界の排出量が年間100億トン程度に削減されているのが「Cool Earth 50」のシナリオなので、2100年までの許容される二酸化炭素総排出量は1.5兆トン程度。まだ、27%ぐらいの排出量を鉄とセメントの製造に振り向ける必要があることになる。

B君:だから、鉄の製造は相当高効率な方法論で作らないと、気候変動とは矛盾したことになる。

A君:だからといって、鉄を余り使わない社会の像を描くことは難しい。高層住宅は確かに不要かもしれないけど。

C先生:現在のシナリオとしては、鉄鋼の製造にも、CCS(二酸化炭素の回収・隔離)装置を義務化しないと駄目だろうという話にはなってくる。ただし、コスト的に相当高いので、これをどうやって途上国などの鉄鋼生産に強制的につけるのか。

A君:しかし、セメント製造には、石灰石を使うので、石灰石は炭酸カルシウムですから、化石燃料を使わないエネルギーで加熱したとしても原料から二酸化炭素が出てしまう。これを何とかしないと。

C先生:鉄鋼製造の際に、鉄鉱石に含まれているシリカ分やアルミナ分などを取り除くのに、どうせ石灰石が必要だから、高炉から出るスラグをセメントにすれば、その分の二酸化炭素の排出は不要になる。これで多少は改善が可能。もっとも今でもすでにやっていることだが。

B君:高炉の操業では、1トンの銑鉄を製造するのに、30%ぐらいの高炉スラグが出るとなっている。しかし、これまでの議論では、鉄の2倍のセメントが必要だから、まあ、不足

A君:セメント製造プロセスでも、CCSをつけることになるのでしょうか。

C先生:やはり、そんな方向性かもしれない。セメントキルンにCCSをつけるのは、大変かもしれないが。コスト的にも、こんなに価格の低い材料は無いので大変。

A君:少なくとも、鉄にしてもセメントにしても、小型の熱効率の悪い炉を使って、しかも、CCSが不可能な状態で製造することは、なんとしても避ける必要がある。となると、やはり、先進国で作るか、あるいは、排出原単位を下げるインセンティブが効く国際的な仕組みの中で製造を考える必要があることになりますね。

C先生:まあそんなことだろう。

B君:しかし、それでもまだまだ問題は解決しない。大体、蓄積量が一定になったとしても、やはりリサイクルは必要で、電炉を使って鉄を作り直したとしても、また二酸化炭素の排出は必要になる。

A君:若干調べてみたのですが、電炉によるリサイクルでの鉄の製造プロセスは、高炉+転炉によるプロセスの1/3ぐらい二酸化炭素排出量で済むといった感じでは。

C先生:しかも、電気であれば、水力とか原発とか、二酸化炭素の出ない方式もあり得る。発電装置にCCSをつけることは、まあ、非常事態になれば、当然だということになるだろうから、なんとか、対応が可能なのではないだろうか。

A君:そろそろ本日の結論でしょうか。途上国が発展するためには、現在のような文明の形態を続ける限り、鉄とセメントは必須。となると、これを製造するには、大量の資源とエネルギーが必要で、二酸化炭素の排出量も相当に多い。

B君:しかも、鉄もセメントも、資源的な枯渇に至るのは、まあ、22世紀になってからかもしれない。

A君:むしろ、二酸化炭素排出の削減という必要性の方が高いかもしれない。

B君:勿論、資源を採取すれば、様々な問題が出る。したがって、鉄もセメントも量が多いだけに、むしろ、自然破壊が重大かもしれない。他の金属資源だと、資源枯渇の方がずっと深刻だろうが。

C先生:その通りだろう。より大きな結論としては、現在の文明の形態をいつまで続けるのか。これがまず問題。続けることを前提とすると、鉄・セメントの大量使用によって派生する問題だが、まずは、二酸化炭素排出、次が、恐らく資源採取時の環境破壊、という形態で起きる。これを充分に警戒する必要がある。途上国が全く別の文明の形を目指すという別の解決方法があるのかどうか。これは、さらに大きな問題だが。