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    世界の鉄鋼メーカーの環境方針
     
    日本と世界の状況の差 2017.12.10
               



 パリ協定の思想が、いかに「気候正義」という言葉で貫かれているとしても、人類の生存にとって、多種多様な材料の生産が必要不可欠です。なかでも、もっとも基礎的な材料は、鉄とセメントだと思われます。勿論、プラスチックも重要だという考え方もあるのですが、原料を何にするか、という工夫によって、プラはCOゼロの実現も不可能ではない材料であります。

 日本であれば、2050年には80%の削減、そして、世界的に今世紀後半のどこかで、Net Zero Emissionを実現するということが、パリ協定の合意事項ですが、どう考えても、鉄とセメントの生産については、Net Zero Emissionは無理だと思うのです。

 最後の手段としてはただ一つ。CCS(Carbon Capture and Storage)でしょう。しかし、日本という国土でCCSをやろうとすると、住民の反対などがあって困難が予想されることと、コストもかなり高く、$100/ton-CO2ぐらいは掛かるのではないでしょうか。

 今回の記事は、ちょっと力技になるのですが、鉄という材料の上記のような状況を踏まえて、世界の鉄鋼生産量ランキングTop 10に入る企業が、CO削減あるいはCOゼロについて、どのようなメッセージを出しているか。それをできるだけ簡単にチェックしてみようということです。


C先生:日本企業では、温暖化対策に反対している最右翼が鉄鋼系。CO削減について、余りにも全面的に反対しすぎていて、そこまで強く反対するのが、将来を考えると、企業として果たして有利な対応なのだろうか、と疑問になるぐらいだ。

A君:そうですね。「断固反対」といった言葉が普通に出てきますからね。

B君:反対の理由がもう少々理性的に語られれば、理解できる人は理解するのではないか、と思うのだけれど、今の状態だと、問題無用で反対。この態度だと、「本当は対応は可能なのだけど、経済的な理由で反対している」、と思われてしまうので、もったいない。

C先生:そこで、いささか嫌味だとは思ったのだけれど、審議会でちょっと聞いてみた。粗鋼生産ベースで世界トップのアルセロール・ミタルは、環境経営とかCO削減義務とかについて、どのような主張をしているのか、教えてください、と。答えは、「調べたことがないので、知らない」。本当か? 勉強不足ではないか。

A君:なるほど。本当に知らないのか、それとも知っているのに、不都合だから言わないのか。そのあたりをある程度分析するというのが、今回の記事の目的ですか。

B君:そうなるね。世界鉄鋼連盟という団体があるけれど、そのwebサイトの中に、”Climate Action Programme"ということが紹介されている。

A君:これですね。 世界鉄鋼連盟のClimate Action Programme
https://www.worldsteel.org/steel-by-topic/sustainability/environmental-sustainability/climate-change.html

B君:読んでみると、2008年からやっていて、年間のCO排出量をプログラム参加企業が把握して、報告する。そのデータが、各参加企業見ることができるので、自分たちの排出量が多いのか、少ないのか。減らしつつあるのか、なにもしていないか、それが分かる。実は、それだけのプログラムだ

A君:勿論、どうやってCO排出量を比較可能にするか、といった努力もしています。ISO14404:2013として文書を公開している。2013年に出来たということですね。この文書のタイトルは、「鉄と鉄鋼製造からのCO排出量の計算方法」

B君:ISO14000番台と言えば、環境マネジメントシステム。そして、14040がLCA。すなわち、Life Cycle Assessmentの規格。しかし、ISO14400番代は、様々な個別規格が書かれている。例えば、ISO14405は、GPSシステムに関するもの。ISO14404は、たまたまLCA的な記述になっていると理解すべきなのだろう。数字が似ているので、紛らわしいのだけれど。

A君:ということは、世界鉄鋼連盟も、COをどう減らすかの前段階として、様々な企業が発表するデータが比較可能でないと、妙なことになるぞ、という比較的初期段階にあるようにも思えますね。

B君:考察は後にして、まずは、世界のトップ10にどのような鉄鋼会社が入っているか、その表から見てもらうか。



表1 世界の鉄鋼会社トップ10(2015) https://www.sbbit.jp/article/cont1/32197

A君:アルセロール・ミタルが世界最大の鉄鋼企業。ルクセンブルグに本社があるけれど、CEOのミッタル氏は、インドの資産家で、資産額は世界6位?

B君:この企業は、世界中の鉄鋼企業を買収して、規模を確保し続けていて、現時点でも世界の鉄鋼の10%を生産している。

A君:さすが、世界最大の鉄鋼企業なので、そのWebサイトには、環境経営方針が掲載されています。
 アルセロール・ミタル http://corporate.arcelormittal.com/

B君:Strategic Materialityとして、こんな図がある。



図1 アルセロール・ミタルの「持続可能な開発の10の成果」の図

A君:そして、特徴的なことが、10種の持続可能な開発のために生み出す結果が図示されていることです。


図2 アルセロール・ミタルのマテリアリティー(重要度) 横軸がビジネスへのインパクト、縦軸がステークホルダーにとっての重要度。色合いから見ると、左下が重要度が高いようだ。

B君:流石に鉄鋼業だけあって、Energy and Carbonは、6番目だが、こんな説明になっている。
6. Responsible energy user that helps create a lower carbon future.

A君:これは、読んでいただいた方が良いと思いますね。例えば、何をすることが必要か? という問を出して、自分でそれに答えているので。

B君:本音がどこにあるのか、やや、他の業種に比べれば、苦しい感じがあるのは、それは製鉄という業が、当分の間、必要不可欠であり、それと同時に、CO排出が必須の事業であることを認識して貰いたいという強い思いを感じることができる。

A君:いきなり、「絶対反対」と叫ぶ日本鉄鋼連盟のやり方が正しくないことは、このアルセロール・ミタルのやり方を見れば明らか。

B君:待てよ。そう言えば、日本の製鉄企業も世界2位と9位(2015)に居るのだから、自社のWebを見れば、まともなことが書かれているのかもしれない。

A君:まずは、新日鉄住金。
 http://www.nssmc.com/index.html

B君:書いてあること自体は、アルセロール・ミタルとそれほど変わらないが、我々はやることはやっている、という裏の主張が、スケスケに見えてしまう。要するに、世間に理解して貰うという感覚が無い表現になっている。これでは損だ。
 それでは、JFEスチール。
 http://www.jfe-steel.co.jp/

A君:こちらの方は、やや事務的感覚でして、まず、PDFフォーマットの報告書を大量に出しているぞ、といった表現になっていて、これでは損だ。ところが、実際、開いて見ると、割合と丁寧に説明はしているのです。ただし、将来、どのような方向性を目指さなければならないのか、といった未来に関する記述がほとんどないのが、残念。

B君:何か書けと言われても難しいのは事実なのだけれどね。ただ、偉いのは、「CDPに対して、きっちり回答をしている」と主張していることか。

A君:調べてみましょう。2017年版の報告書には、出ていないと思うのですが。2016年版にも見つからない。何が起きているのでしょうね。もっと前ということなのか。

B君:それはそれとして、まずまず良心的な感じがする報告書なので、もう少々、未来を見つめる大局観が見える表現にすれば良いと思うが。

C先生:ちょっと中国の企業のWebサイトをチェックしてみないか。

A君:それでは、中国宝武鋼鉄集団の英語のWebサイト
 http://www.baowugroup.com/en/

B君:CSRレポートはあるのだけれど、ダウンロードができない。

A君:最近、二つの製鉄会社が合併した企業だからかもしれません。それでは、もう一つのトップ10企業である、ここはどうですかね。
 河鋼の英語のWebサイト
 http://www.hbisco.com/site/en/index.html

B君:Sustainable Managementというところをクリックすると、Clean production technologyという記述が最初にある。

A君:最初のClean Production Technologyですが、どうも公害防止的な感じでしょうか。COという文字が出てこないですね。これ以外にも、いくつも項目はあるのですが、例えば、Low CostとかAutomaticとか、Heavy Plateとかあるいは、Ultra-Thinと言ったキーワードで、先端技術を自慢しているような感じですね。

B君:COを削減するというマインドはまだ無さそうだ。

A君:やはり、中国の企業に比べれば、日本企業はまあまあCO削減を考慮していると言えそうです。

B君:ちなみに、世界鉄鋼連盟の参加企業は、次のサイトに示されている企業と企業団体。
 https://www.worldsteel.org/steel-by-topic/sustainability/environmental-sustainability/
climate-change/Members.html


A君:中国企業は、China Steel Corp.一社だけのようですね。このChina Steelとは、中国宝武鋼鉄集団のことでしょうか。この企業は、宝山鋼鉄と武漢鋼鉄が合併してできた企業なのですが。

B君:それは違う。リンクをクリックしてみると、China Steelという企業のWebサイトが出てくる。そして、環境ポリシーをチェックして、気候変動ポリシーという項目はあるのでクリックしてみると、世界鉄鋼連盟に参加していて、CDPのプログラムにも参加していると書かれている。法的なリスク、物理的リスク、名声リスクのようなことも議論されている。中々先進的なように見える。

A君:しかし、この企業、世界のトップ10ではないですし、しばらく前のトップ15にも入っていない。

C先生:これから先は、今回のラフな素人解析では、謎が解けない。誰か関係者からの情報を待つことにしよう。
 やや付録的ではあるが、中国鉄鋼業界の内実については、1年前の記事ではあるが、次の記事が参考になる。NewsWeek日本版で、丸川知雄氏が記述。
http://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2016/10/post-19.php
 いずれにしても、過剰生産能力を持つ中国企業は、今後、どのような存在になっていくのだろうか。とにかく、大量に安価な鉄鋼を供給するというポリシーだったが、明らかに過剰生産設備になっているものの、鉄鋼大手は、実は、中小メーカーよりも経営効率が悪いので、鉄鋼大手の生き残りには発想の転換が必要だと指摘している。まだSustainabilityという言葉も充分に理解しているとは思えない中国企業が、せめて日本の鉄鋼企業程度のレベルにならないと、世界各国から受容されることはなさそうだ。
 日本企業から見ても、途上国の発展のためには、もっと鉄鋼の需要があるのだ、と主張することは必須。
 そこで、『日本には、国民一人あたりビルの鉄骨などで、10tonを超す鉄製品が存在している。これを根拠にすると、途上国でも、恐らく、一人数tonの鉄が無いと、社会インフラの構築は無理だろう。そこで、今後、一人あたり5トンの追加生産が必要、途上国人口を2050年に80億人、と仮定すると、世界全体では、まだ数100億トンの鉄鋼の生産が不可欠なのではないだろうか。これをいかにして、CO排出量を減らしつつ生産するか。鉄鋼業は、このような社会的課題の解決を目指している。ちなみに、世界の粗鋼生産量は、年間16億トン余ぐらいである』。
 こんな言い方で、自らがオープンイノベーションを実践していくと宣言するといった方法があるのではないだろうか。
 炭素税というと「絶対反対」という反応が帰ってくるようでは、まだまだ信頼できるという雰囲気にはならない。オープンイノベーションを実現するには、未来に必須となる炭素税にも、様々な条件を満足したものにすることが不可欠。良質な鉄鋼を途上国に輸出するときには、国境調整をして、炭素税を払い戻すことも、恐らく必要な措置になるだろうから。どんな仕組みの炭素税が良いと思うのか、その発言がでてからが本物だと思う。