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       鉄の精錬方法はいつ変わるか 12.13.2020
            
12月11日日経トップ記事から
    



 菅首相の10月26日の所信表明演説が様々なところで影響を与えているようだ。国のトップが、未来について語ることの重要性を示しているようで、前首相ができなかったことができている点で、日本も世界の環境先進国に、まだ半歩以下ではあるが、近づいたと言えるのではないだろうか。

 12月11日の
日経の1面トップは、次のような見出しであった。
    「日鉄 50年に排出ゼロ    〜水素利用や電炉導入〜」


 そして、
3面には、「水素製鉄法」なるコラムによって、別途、水素還元がかなり難しいことの説明がなされている。しかし、言葉使いがいささか「ギコチナイ」のは、仕方がないことなのかもしれない。今回は、この方法を若干解明するための基礎情報を集めてみたい。

    
C先生:
水素製鉄法が日経のトップ記事になる時代になったようだ。これも、菅首相の2050年COゼロ演説が良い影響を与えているように思える。しかし、12月11日の日経の記事を読んでも、鉄の水素還元が非常に難しいという印象を得ることができない。これでは、読者が誤解をしてしまうだろう「簡単なことなのだから、こんなことをやらないのはおかしい」と思ってしまうのではないだろうか。

A君:確かに、その通りの印象ですね。他ではどうなのか、まず、ネットにある記事をチェックしてみました。いくつかの記事を見つけました。
(1)https://newswitch.jp/p/24646
  2020年11月16日
 
水素による還元とCOの分離回収によって、COの30%削減を目指すもの。
(2)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/course50.html
  発表日時不明
 
資源エネルギー庁のサイトで、「COURSE50」という水素還元技術を加味した高炉の説明があります。

B君:COURSE50のプロジェクトリーダーの野村氏は、次のように語っている。
 「試験高炉では、高炉内に吹き込む水素系ガスの量やその位置、刻々と変わる還元反応の制御など、
実験とシミュレーションモデルの組み合わせで徐々に精度を高め、ようやくCOの10%削減にこぎつけることができましたそもそも水素還元は反応が進むと高炉内の温度が下がってしまうことも大きな課題でした」。

A君:
「あれまあ、この程度の感想?」というのが、我々の感想。鉄鉱石、より化学的に言えば、酸化鉄を水素で還元する反応は吸熱反応であるという化学的常識を知らないでチャレンジしたのかな。

B君:
いくらなんでも、そんな訳は無いだろう。COを10%ぐらい削減するだけなら、それほどの量の水素が消費される訳でもないから、温度は余り下がらないかもしれない、と高を括っていた、という可能性がある。

A君:確かに、たったの10%削減ですからね。しかし、どのぐらい温度が下がるかは、条件によりますが、原理的に言えば、水素還元は吸熱反応なので、溶鉱炉の温度はどうしても多少下がります。

B君:したがって、
究極的には、外からなんらかの熱を供給しなければダメだと言われている。そのために炭素を燃やしたら元も子もないので、どうするのか。

A君:
その解の一つが原子力製鉄。要するに、原子炉で溶鉱炉に高熱を供給するタイプの技術。これが本当にできるのかどうかは、まだ若干疑問。

B君:一般には、
高温ガス炉という原子炉を使うことになるのだけれど、10%削減ぐらいで良いのだったら、確かに原子力製鉄の出番ではないのかもしれない。

A君:
原子力製鉄は、まあ、2050年以後にテスト開始ぐらいのイメージですかね。そして、今世紀中には完成。これが、世界の鉄鋼メーカーの共通のターゲットのようですよ。

B君:
鉄鋼業を脱炭素化することは極めて重要で、なぜなら、産業部門全体のCO排出量の約40%は、なんと鉄鋼業からの排出なので。

A君:しかし、それなら、水素還元で行けば良い、というだけではなく、外部からの熱の導入まで考えたプロセスをテストして欲しかった。

B君:どうも、2050年までの実用を目指すと言うことなのだけれど、それだと、こんなものなのかな。原子力製鉄は余りにも大変かもしれないので。

A君:確かに、高温ガス炉という原子力による炉は、現時点で日本に存在していないのではないでしょうか。

B君:調べてみたら、こんな記事が見つかった。「
次世代原子炉『高温ガス炉』の実用化に大きく前進! 燃料が量産化しやすく。原子力機構など技術確立
https://newswitch.jp/p/19226

A君:具体的には、
原子燃料工業という企業の研究グループが、高温ガス炉用の高品質な燃料の量産化技術を確立した。原子力機構が現時点で所有している高温ガス炉、正式名称「高温工学試験研究炉(HTTR)」に比べて、3倍のエネルギーを取り出せるとのこと。製造した燃料に中性子を照射し、安定性が高いことを確認した。

B君:具体的にやったことを推測すると、実用性の証明まで行ったとは思えない。ウランの球の大きさや被覆層の厚さを変えるだけで、被覆燃料粒子の破損をほぼゼロに抑えることができる設計技術を完成し、
実際に大量生産設備で、直径1ミリの被覆燃料粒子を製造することができた、とのこと。これが実態。

A君:こんなサイトを見つけました。
http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/htgr_report_tables&figures.pdf
 高温ガス炉の実用化開発の重要性について述べているサイトで、報告書がアップされています。

B君:
高温ガス炉は、すでに、米国、フランス、南ア、中国、インド、韓国で開発中らしい。日本は、残念ながら、まだその段階ではないようだ。

A君:多くの
高温技術の内、ガラス製造とセメント製造は、高温ガス炉が必要という状況には無いようだけれど、製鉄、石炭ガス化、水素製造、エチレン製造、重油改質、パルプ製造、海水脱塩などには、高温ガス炉が使えるという見通しがあるようです。要するに、利用範囲が広い。

B君:
水素製造ができれば、水素燃料のトヨタミライのような車の燃料が作れることになる。

A君:その場合には、
水素製造法としては、高温熱化学法、あるいは、高温水蒸気電解法などによるものと考えられているようですね。水素は、将来の車の動力としてやはり重要でしょうね。温室効果ガスを出さない技術ですから。

B君:水が分解されるぐらい高温にして、といっても具体的には水素製造には400℃、酸素製造には900℃ぐらいらしいが、水素と酸素を同時に発生させる。この
反応を進めるには、ヨウ素と酸化イオウが不可欠のようだ。

A君:要するに、高温の熱があれば、水を原料にして、水素と酸素を作ることは不可能ではない。まあ、当然なのですが。化合物は、高温にすれば、分解されますからね。勿論、高温と言っても、実は、その温度に依存するのですが。

B君:ただ、色々と厄介なことが起きることも事実。これも当然なのだけれど、ヨウ素は、温度が下がれば固体になる。となると、パイプが詰まったりする。さらに、ヨウ化水素や硫酸は、金属を腐食する。

A君:まあ、なんとか問題を解決しなければ、というのは、どのようなプロセスでも同じですね。今後の予定としては、実用化のために、長期間の安定した連続的水素生産を目指すということになるでしょうね。

B君:最後に、
このような目的に使う高温ガス炉と呼ばれる原子炉の特徴を。

A君:やはり、JAEA(日本原子力研究開発機構)のサイトがまともなのでは。
https://www.jaea.go.jp/02/press2018/p19012502/

B君:この記事は、
2018年にプレス発表されたものだ。「熱化学法ISプロセス」と呼ばれるものだが、水素製造のための高温ガス炉の使用が、国際的な競争になっているらしい。

A君:この記事によれば、まずは長時間運転の目安となる150時間をクリアーした。まだ高温ガス炉に繋がっている訳ではなかったようです。

B君:次の段階で高温ガス炉に接続して、実用化するから、まだ先は長い。

A君:ちなみに、「熱化学法ISプロセス」の
ISとは、元素記号のようです。I=ヨウ素、S=硫黄。目的は、水を分解して水素を製造する化学プロセスで、反応は3つの工程からなります。しかし、詳しいことは省略します。

B君:重要なことは、ISプロセスでは、
腐食性のある流体、例えば、硫酸、ヨウ素、ヨウ化水素、などなどが分解や反応を起こすこと。反応器をどのような材料で作るのか、それが大問題。特殊な耐腐食性のある金属か、一般的に耐腐食性のあるセラミックスで作ることになるのだろうね。

C先生:話がちょっとマニアックになってしまった。「水素で製鉄」に関する様々な情報をWebから探しだして,どのような記述になっているのか、チェックして欲しい。

A君:了解です。順不同、要するに見つかった順番で紹介ということで良いですよね。

B君:まず、これが見つかった。2020年11月16日の記事。
https://newswitch.jp/p/24646
そのタイトルが、
「鉄鋼業の悲願『水素で鉄を作る』、2100年を見据えた壮大な超革新技術」です。いささか大袈裟な、という感想を持ってしまった。。。

A君:しかし、
内容は、すでに説明した「COURSE50」ですね。この記事では、「超革新技術」といった言葉が躍っています。しかし、何が最も重大な検討課題であるかは、説明されていません

B君:確かにそうだ。「水素が社会共通基盤のエネルギーキャリアとして開発、整備されていることが前提となる」(日本鉄鋼連盟)、といった表現になっている。そのためなんでしょうが、
「鉄鋼に利用される水素は、安定した供給体制、経済合理性が欠かせない」という経済性が実現性を左右するという表現になっている。

A君:色々探していたら、次のような文書が見つかりました。今年2020年の7月20日更新のものです。
「水素還元等プロセス技術の開発」(フェーズU−STEP1)
 事業の目的は、
「製鉄プロセスから排出するCOを削減するために、高炉からのCO発生量を抑制し、かつ、発生したCOを効率的に分離・回収する。30%のCO削減を可能にする」というものです。これは、どうみても、COURSE50より現実的な対応だ。

B君:実は、フェーズTがすでに終了していて、そのSTEP2では、要素技術を組み合わせた総合実証試験を、パイロットレベルながら行ったとなっている。まさに、現実的プロセス。

A君:となると、やはり「COURSE50」の内容をきちんと解説しないと。

B君:分かった。上に紹介したhttps://newswitch.jp/p/24646この記事をご紹介しよう。 まず、これを実施していた場所は、日本製鉄の君津地区。そして、村上さんという方が紹介して成果は、次の通り。
 
「試験高炉では、高炉内に吹き込む水素系ガスの量やその位置、刻々と変わる還元反応の制御など、実験とシミュレーションモデルの組み合わせで徐々に精度を高め、ようやくCO2の10%削減にこぎつけることができました。そもそも水素還元は反応が進むと高炉内の温度がさがってしまうことも大きな課題でした」。

A君:そして、今後の計画としては、「すべて水素還元による新たな製鉄技術『CO
排出ゼロ』を2100年までに実現する」とのこと。

B君:これは、世界の製鉄メーカーに共通の達成目標時点であって、特に、日本が早いといものではないね。

A君:むしろ、2100年までにCO
ゼロが実現できないようでは、大問題という感じですよね。

B君:確かにそう思う。例えば、
セメント産業では、現在のプロセスでは、石灰岩が原料で、その化学式がCaCO。これが加熱されてCaOになり、他の鉱物と反応してセメントになるため、COが排出されることは必須である。すなわち、COゼロの実現は原理的に不可能なので、むしろ全く別の反応を用いて、COを吸収して硬化する新材料を開発しようとしていたりする。もっとも、それが現在のセメントのような低コストで供給できるかどうか、さらに、性能的にも同格のものができるかどうか、となると、大いに疑問なのだけど。

A君:現時点の世界の鉄鋼メーカーというと、多くの企業が苦境に陥っているようです。コロナ前の19年10月〜12月期では、9割が損益悪化。自動車・建設の需要減が大きかったからでしょうね。例えば、アルセロール・ミタルとUSスチールがともに、赤字転落。そして、中国の宝山製鉄と韓国のポスコがかなり稼いでいるのが例外的。

B君:その後、コロナで赤字が拡大した。国内鉄鋼メーカーは、3社がすべて赤字。回復するには、かなり時間がかかるのでは。

A君:となると、
COゼロの実現は遅くなる可能性もありますが、まあ、2100年をゴールとしているなら、なんとか、リカバーできるのではと期待しますが。

C先生:そんなところで結論に行こう。
結局のところ、首相の「2050年にCOゼロ」発言が、色々な影響を与えているということになるね。これは、ある意味で、大変良いことなのだと思う。何も考えないで、2050年に到達してしまったら、それこそ、大変なことになるからね。大変なことの実態だが、まだまだ全貌は分からない。しかし、すでにご存じのような森林火災などが、世界各地で起きているけれど、これも、気候変動の影響であるという可能性が高い。100%そうなのか、それ以外に、なんらかの人的な要素があるのか、それは国によって違うのも事実。例えば、「最悪の大統領」の様々な方針が大きな問題であるブラジルは、アマゾンの森林を人為的にすべて燃やしてしまうかもしれない。「自国の森林であるから、それをどのように変化させようが、それは自由である」、という考え方は、少なくとも、パリ協定ができた2015年以降は、「それは誤っている」と判定すべきなのだろう。なぜなら、森林は、気候変動に大きな影響を与える重要な要素だからだ。このようなことを国際的に合意するシステムを作ることの重要性も、菅首相には考えていただきたい。