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  環境偽装の再発を防止できるか 04.06.2008
     



 ガソリン価格が値下がりしたり、後期高齢者医療保険など、違和感の強い事態が次々と起きている。こんな状態が続くと、古紙偽装も、かなり早い時期に忘れ去られる可能性がある。
 今回のHPでは、環境偽装の再発を防止できるような仕組みはあり得るか、ということを検討してみたい。


C先生:今年1月に発覚した古紙偽装だが、その後、再生プラスチック偽装も起きていたことが分かり、環境偽装という新語も生まれた。これの再発を防止できるかどうか、それは、結構本質的な問題なのだ。

A君:偽装といっても、今回はグリーン購入法に関係する事件でしたが、そもそも環境ラベル、たとえば、エコマークというものがあるけど、メーカーははたしてその環境ラベルの基準を守っているのか、と言われると、それこそなんとも言い難い、ということになってしまいますね。

B君:測定できるものであれば、仕様に合わないとクレームを出すことも可能だけど、環境性能は製品そのものの性能と違って、別のスペックだともいえるので、その測定方法についても確立した方法は無い。となると、製造した企業が言いたい放題ということになりかねない。

C先生:環境ラベルには3種類あるが、タイプTは、エコマークのように公的な基準があるものを言う。これに対する問題点は指摘の通り。タイプUは自主ラベルなので、それこそ性善説に立脚しているので、これを偽装したからといって、大きな問題にはなりえない。もちろん、良いということではないし、万一バレたら痛い。タイプVは、ライフサイクルアセスメントのデータを開示するもので、産業環境管理協会のエコリーフのように、一定の基準もあるが、その基準を守ってライフサイクルアセスメントを行っているかどうかなど、その企業のみぞ知る

A君:そうでなくても、ライフサイクルアセスメント(LCA)のデータは疑問に思う場合もある古紙偽装に関して、さまざまなLCAデータがあることについては、すでに本HPにおいても検討しましたが。
http://www.yasuienv.net/R100PaperLCA.htm

B君:なにを対象にしている場合でも、LCAがきちんと行われているかどうか、これを実証するのはかなり難しいことだ。どの範囲内をどのように解析するか、その枠組みを決めることをスコーピングと呼ぶが、そのあたりを十分に説明していないLCAデータだと公表されても、何がなんだか分からない。

A君:LCAデータで自らの製品の優位性を主張しようとする企業の場合には、LCAのデータに作為的な操作を行うことが十分に考えられること。使用エネルギーなどのデータは、そもそもデータを取ることが難しい。そんなデータだから、外部からみておかしいということも難しい。

C先生:まあ、あまりにもかけ離れたデータというものが分かる場合もある。しかし、その場合だって、十分に比較できるようなデータがある場合に限られる。さて、本日はLCAの話は、実は、どうでもよくて、それ以外の環境偽装を見抜くことが可能かどうか、ということが最初の問題だ。

A君:まず、犯罪には動機があるかどうか。これが重要。これまでに出てきた偽装が古紙偽装、それに再生プラスチック偽装。この両者は、いささか状況が違うように思えますね。

B君:確かに。コスト低減が目的の偽装ではなく、仕様を満たすことができないという技術的な問題をクリアーするために偽装をやらざるを得なかった、と言っていた両者だが、実は、古紙偽装の場合には、そうではないことが明らか。一方、再生プラスチック偽装の場合には、コストは確かに無関係かもしれない

C先生:その違いは、再生材料の市場の構造が違うことから発生する。古紙の場合は、古紙市場がある。これは常識的に良く知られたことだ。一方、再生プラスチックの市場は、容リ法からの廃プラだと、処理費用を取って処理しているが、プラスチック成形をやっている企業からみると、再生プラスチックは、廃プラではなく、樹脂ペレットという形で入手することになる。

A君:なるほど。製紙業界は、古紙を市場から買い込む。再生パルプを買い込むことは例外的。すなわち、古紙を古紙パルプにすることも自らの工場内で行っている。そのプロセスは一般には、水への分散(まあ溶かすこと)、不純物の除去、脱墨、漂白、場合によるとパルプを叩くなどの処理、短いパルプの除去、といったプロセスを経て、紙漉きを行う。ということは、どのような品質の古紙を買い込むかによって、工場内で行うプロセスのコストが決まる

B君:質の悪い古紙を買い込めば、それなりに手間がかかるし、薬品類も大量に使うことになる。

A君:しかし、逆に言えば、高級な古紙を買い込めば、いくらでも良質な再生紙を作ることはできる。たとえば、牛乳パックになっている紙繊維は最高品質ですからね。もっとも表面コーティングをしているポリエチレン膜を取り除くのが面倒ですが。

B君:だから、古紙偽装はコストの問題ではないといことはあり得ないいかに中国が高い値段で古紙を持っていてしまっても、それ以上の金額を払えば、良質な古紙を購入することは可能だったはず。

C先生:バブル経済がはじけてから、日本はデフレ社会が継続していた。今年の4月になって、国際的な価格高騰、特に、穀物などが高くなったために、さまざまな食料品が値上がりになった。しかし、デフレによって低下した価格の調整段階に入っただけだと見ることもできる。また海外での価格はすでに非常に高くなっているから、多少値上がりしても、日本という国は品物の価格が安い国だとも言える。要するに、これまでのデフレ社会では、紙の値段を上げることは不可能だと考えられてきた。また日本という狭い地域に多数の企業が潰れることもなく共存しているのが日本という国。したがって、価格競争がきわめて厳しい国ではあった。ということで、価格転嫁などを考えない業界としては、古紙原料の高騰という事態を認めることすらできなかったと言うべきだろう。

A君:製紙業界は、しばらく前までは、熱帯林を消滅させている張本人という濡れ衣を着せられて苦労していますよね。そして、自らの手で植林もしている優良企業という、今となっては仮面としか思えないが、そんな態度をとり続けてきた。しかし、中国などには、北欧からの最新鋭の製紙装置が入って、製造の原単位でも、日本の製紙業界は世界トップとは言い難い状況になってしまった。そのため、廃タイヤや廃木材を買い集めて、カーボンニュートラルの燃料だとして、LCAデータの改善を目指して努力していた。

B君:そんな細かい努力を一気に無に帰したのが、古紙価格の暴騰ということだったのだろう。環境省の委員会資料にも添付されていたように、それでも、古紙利用率を向上させると言い続けてきて、実際、設備投資などもある程度進めてはいた。

C先生:もしも品質の悪い古紙から再生パルプ100%の紙を作ろうとしたら、新たな設備投資も必要だっただろう。すなわち、高い古紙を買っても良いがコストが掛かる悪い古紙からR100を作ろうとしたら設備投資でコストが掛かる。だから、古紙偽装は、コストの問題だったというのがこのHPの推測だといことになる。

A君:ところが、再生プラスチック偽装の場合には、再生樹脂のペレットを買ってきて成形品を作ることになるけど、再生ペレットの価格は、どんな場合でも、必ず新品のペレットよりも安い。もっとも何をもって再生プラスチック使用の製品と主張できるか、については、多少疑問。

B君:その件は、後ほどということか。しかし、再生樹脂ペレットはおそらく不純物も多くて、製品の品質も一定しないかったりする。だから、高い新品のペレットを使って偽装再生品を作らざるを得なかった、ということになる。

C先生:再生プラスチック製品を偽装すると、これは明らかにコストの高い製品、性能の良い製品を安く売ることになる。こちらは、あきらかにコスト低減の問題ではない。契約があって、どうしようもない場合にのみ行われる。もし偽装すると儲けは減るだろうから。

A君:再生プラスチック製品とは何か、ということも議論しますか。

B君:というよりは、再生原料というものがどのように定義されるか、という話だ。

A君:確かに。ただし、再生プラスチックについては、グリーン購入法の特定調達品目の基本方針
http://www.env.go.jp/policy/hozen/green/g-law/archive/bp/h20bp.pdf
で次のように定義されていますからまあ分かりやすい。

備考 「再生プラスチック」とは、使用された後に廃棄されたプラスチック製品の全部若しくは一部又は製品の製造工程の廃棄ルートから発生するプラスチック端材若しくは不良品を再生利用したものをいう(ただし、原料として同一工程内で再生利用されるものは除く。)。


B君:古紙については、この基本方針の中でも定義はされていない。

A君:そこで、Webで見つけたのが、丸石製紙のもの。Webページで非常にクリアーに解説している。
http://www.mpf.co.jp/koshi200802.htm

B君:なるほど。「統計及び資源再利用促進目的の古紙」「商品品質表示上の古紙」とに分けて議論し、自らの定義を公開しているか。これが必要な議論だということだ。

C先生:リサイクル材については、例のISO14021で決められていて、日本語では、JIS Q 14021にこんな2つの定義がある。

JIS Q 14021 プレコンシューマ材料 の定義
製造工程における廃棄物の流れから取り出された材料。その発生と同一の工程で再利用できる加工不適合品、研磨不適合品、スクラップなどの再利用を除く。

JIS Q 14021 ポストコンシューマ材料 の定義
 家庭から排出される材料、または製品のエンドユーザとしての商業施設、工業施設および各種施設から本来の目的のためにはもはや使用できなくなった製品として発生する材料。これは、流通経路から戻される材料を含む。


この両者を合体させたものが再生プラスチックの場合の定義だと言えるだろう。

A君:なるほど。そろそろ次の話題でしょうか。今回の偽装事件にしても、実は、内部告発がかなり前からあったらしいのですが、証拠がなくて、企業側に否定されると、内部告発をした人にとっても不利になる。だから、証拠がでるまではしばらく様子を見る以外に方法は無かったとか。

B君:古紙の場合には、東京農工大学の岡山隆之先生が、さまざまな方法を組み合わせれば、古紙配合率をある程度見極めることができるという方法を開発したとされている

C先生:その内容の詳細は知らない。Webページもあるのだが、
http://www.tuat.ac.jp/~recycle/
最終更新日が昨年の5月18日なので、最近のニュースの中身が出ていない。
 噂話レベルだが、恐らく、漂白剤の蛍光をディテクトするか、残ったインクの残渣を検出したものではないか、と思われるのだが。

A君:いずれにしても、再生材料とはいっても、もとの材料ではある訳で、そんな目的の分析法は確立されている訳もなし。

B君:再生プラスチックのように、高分子の混合したものは、NMRとかIRとかを使って分析することになる。そして、通常はありえない組み合わせ、たとえば、ポリエチレンに塩化ビニルとかPETが混じっていたら、それは、再生プラスチックということになる。

A君:いずれも、わざわざ偽装をすれば、誤魔化すことが十分に可能なので、絶対的に再生材料を原料としたものだということにはならない。

B君:ただし、わざわざ偽装するには、それなりの追加コストが掛かるから、まあ普通ならやらない

C先生:再生プラスチックの偽装のように、発注者と製造者が契約を交わしている場合以外には、意図的な偽装が起きる可能性は低い。

A君:このような場合であれば、訴訟を起こすことが可能だし、損害賠償を起こすことも可能。

B君:ということは、今回の古紙偽装のように、たとえば、政府がOA紙をある販売業者から納入したとして、そのOA紙が偽装したものだったとしても、政府が訴えることができるとしてもそれはその販売業者まで。しかも、契約書に古紙配合率が100%であることを確認の上納品のこと、とでも書いていないかぎり、それすら不可能。

A君:政府としては、偽装した紙を製造したメーカーに対して訴訟を起こすことも不可能ということになるのか。

C先生:そこは今後勉強を要するが、おそらく、その通り。ところが、RoHS規制に対応するために電気製品に関して行われたサプライチェーンマネジメントのような場合には、川下川上にあるそれぞれの企業が契約書を交わしているから、ちゃんと、部品メーカーや、化学品メーカーまで責任体系が繋がっている。しかも、たとえば、鉛の含有量はこの数値以下といった分析可能だし明確な基準が書かれているから検証も簡単。

A君:環境偽装の話になると、契約も不明確だったし、分析も難しい。

B君:食品偽装の場合だと、契約は不明確だったかもしれないが、それを明らかにして、生物だから、DNA解析でもやれば、ある程度の分析も可能ということ。

C先生:そんな訳だから、なんらかの偽装対策を社会的な仕組みとして組み立てることが必要。たとえば、中立的な委員会でも設立して、偽装を行った製造者に対して、ISO14000の認証を受けていた場合には、それを返上するように勧告をするとか、CSR報告書に偽装を行った理由を明確に記述し、それを今後10年間は継続することを勧告するとかいった仕組みを作り、そして、その勧告を公開するといった間接的な方法がまずは必要だろう。

A君:今回の場合、政府が被害を受けたのだから、環境大臣が類似した勧告を出すということが必要なのでは。

B君:環境大臣にはそんな勧告権限があるのかないのか、といった法律論争が起きるだけではないか。

C先生:環境偽装は、これまで、予想されていなかった事態なだけに、まだまだ体制が未整備だ。しかし、基本的に性悪説に則って体制を作ることは不可能に近い。となると、なんとか性善説を最大限活かしながら、最低限の枠組みを設定して再発を防止する必要があるだろう。
 同時に、これまでも述べてきたように、さまざまな基準に対して、本当に環境負荷を下げているのかどうか、という検証を再度行うべきではないだろうか。
 もう一つは、企業行動を冷静に見つめることだ。「環境にやさしい製品を作っている環境にやさしい企業である」というイメージ戦略のためにISO14000を取得したり、といったことが現実であることが同時にバレてしまった。
 利潤拡大のために特定の商品の環境イメージを追及しているのか、それとも企業的な価値を高めるために環境イメージを追及しているのか。この前者である限り、またまた偽装は行われるだろう。しかし、一旦偽装に手を染めたら、それによって、企業の価値が大幅に下落するような社会になれば、偽装も回避できるようになるだろう。