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    「パリ協定対応の長期戦略」案  
         5月16日にパブコメ終了 05.19.2019

               



 筆者が委員の一人として参画していた「パリ協定長期成長戦略懇談会」からの提言を踏まえ、「パリ協定に基づく我が国の長期戦略(仮称)(案)」が取りまとめられ、4月25日からパブコメの対象になっておりましたが、それが5月16日(木)に締め切られました。
https://www.env.go.jp/press/106752.html
 この状況から言って、今後、改訂版が作られることは必須ですが、全体としての方向性が大幅に変化することは、まず滅多にないことですので、個人的な評価を含めて、内容を少々検討してみたいと思います。ちなみに、個人としての意見はパブコメ用として出してはおりません。「パブコメ中に自分の意見を公表することは、公正を欠いた行為である」、という理解からです。
 本日ご紹介している長期戦略の案は、どうも環境省のWebサイトから消されてしまったようですが、現時点では、経産省のこのサイトには残っています。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/
chikyu_kankyo/chikyukankyo_godo/pdf/049_04_00.pdf
 76ページもある長大なものですが、今後の経済活動の方向性を示しているものですので、ご関心のある方々にとっては、必読かと思われます。


C先生:国連温暖化防止条約UNFCCCの枠組みには、「パリ協定に対応する長期戦略」という概念があって、これをぞれぞれの政府が作成し、そして、「通報」することが招請されている。G7の国では、あのアメリカすら長期戦略が策定されているが、日本とイタリアだけが、未通報状態だった。実は、その準備のために行われたのが例の懇談会であり、そして、その答申が元となって長期戦略(仮称)(案)ができ、そして、それがパブコメの対象になっていたという訳だ。これまで、本Webサイトで取り上げなかったのは、パブコメ期間中は、内容の可否に関するコメントの公表は不適切であるという判断があったからだ。

A君:一応、良心的な対応としてはそうなるでしょうね。

B君:この文書は、どうやら環境省と経産省が最終的な協議をして作ったものらしいね。それでは、内容からというよりも、根本的な対応戦略から順次行くけれど、最初に出てくることがこれ。すなわち、「CO2排出量の多い企業には、金融機関からの融資は行かない。なぜなら、排出削減ができない企業は、廃業を迫られる可能性が高いから」。勿論、そう明示的に書かれている訳ではないことは、要注意。

C先生:そのような状況になる可能性は極めて高い。しかも、ここで注意すべきことは、問題解決の唯一の手段が、「イノベーションを起こすこと」であって、これ以外には無さそうだということだ。

A君:となると、イノベーションを起こせない企業に未来はないという簡単な結論になる。

B君:それはその通り。ただし、イノベーションを今すぐ起こせ、と言われても、それがすぐにできるというものでもない。

A君:その通りなのですが、逆の表現もあり得ます。新たなイノベーションを創出することができる企業は、すでにCO排出量を下げはじめているような企業。

C先生:実際、このメッセージがもっとも重要なのだ。実際、現時点でのCO削減への企業姿勢によって、融資を行う金融側は、評価をしている

B君:さらに具体的に言えば、TCFD、SBT、RE100、CDPなどに対応をしている企業が候補になるけれど、これらが眼中にない企業は、まず、相手にもされない。

C先生:金融機関との関係ということになれば、TCFD対応がもっとも重要かもしれない。

A君:なぜならば、TCFD(Taskforce for Climate related Financial information Disclosure)は、各国の中央銀行や財務省などが中心になってパリ協定が合意されたCOP21で創立が決まった組織だから。

B君:最近の温暖化対策、具体的には、CO削減活動へのパワーについては完全に金融界が発電機の役割を果たしているね。

C先生:中小企業の現状だと、TCFDへの対応ができるかどうか、それが重要であるという情報を持っているか、持っていないか、それが現時点でもっとも重要な判定材料ことかもしれない。TCFDといったキーワードは、まだ、中小企業には広まっていない話ではあるけれど。勿論、大企業のピラミッドに入っている企業は、すでに動き出している。

A君:大企業だけですが、確かにTCFDのサインを行った企業が急激に増えています。しばらく前になりますが、5月7日にチェックした段階で、87社にもなっていて、Scienc Based Targetsをアットと言う間に抜いてしまいました。

C先生:そろそろ、記述の説明を。まずは、金融関係がどのような投資を優先すると考えられるか。これが最初の話題になるのかな。

A君:まずは、どんな投資が行われる可能性があるかですが、これは、IRENAという再生可能エネルギーの専門機関の見解ですが、省エネ対策、再エネ投資、CCSこの3項目は当たり前。具体的な対象としては、まず、これが日本だとなかなか実行されないのですが、既存建築物の改修、それに、当たり前の蓄電池。これらへの投資金額が2050年までに、29兆ドルになると予測しています。

B君:そのような投資をESG投資と呼ぶけれど、2016〜2018年の投資額を比較するデータを探し出してみるか。

A君:了解。日本にも、こんなサイトがあります。
https://sustainablejapan.jp/2019/04/02/gsir-gsia-2018/38613

B君:その表にはかなり意味がありそうだ。比較すべき対象は、その国のGDPだろう。GDPに対して、どのぐらいのESG投資があるか、ということが、その国に意識を評価していることになるだろうから。

A君:という訳で、図1で示しますが、GDPを表記の近い相対値で示しています。ESG投資額を各国のGDPで割った値を示しても良いのですが、余り細かい値は無意味ですし、ざっと、この図を見ただけでも分かります。



図1 ESG投資金額の国際比較。

B君:ヨーロッパが2016年でGDP相対値の69%、2018年で81%
米国が2016年でGDP相対値の45%、2018年で62%
日本が2016年でGDP相対値の10%、2018年で45%
カナダが2016年で66%、2018年で103%
オーストラリア/ニュージーランドが2016年で34%、2018年で48%

A君:これを見ると、EUがもっとも最初に伸びたけれど、カナダがそれを抜いた米国は中庸。トランプ大統領の割には悪くない豪州・NZは、最初の伸びは早かったが、その後、低迷気味日本は2016年にほとんど動いていないが、やっと2018年になると動き始めた

B君:この相対比というものはあくまでも傾向を見ているだけかので、数値そのものには全く意味はないので念の為。

A君:結論として、やはり日本はかなり遅れ気味だったということは間違いのない結論のように思いますね。

B君:パリ協定の「気候正義」の意味が分からない民族だから、当たり前。その割には、最近になって、やっとちょっとは動き出した。それは、金融が動くと、企業としては動かざるを得ないから。また、現在の状況をそのまま維持していても、自分達の企業に存在意義がなくなる可能性を経営者も感じ始めたのではないだろうか。

C先生:そろそろ準備完了で、第1章から若干の説明を試みよう。

B君:趣旨と目的として、「世界の脱炭素化を牽引するとの決意」である。「高い志をもって、脱炭素を積極的に進める」。という記述になっている。

A君:長期ビジョンの最終到達地点は、「脱炭素社会」ですね。既存の目標である2050年80%削減を目指す。ツールとしては、これまでの延長線上にないイノベーション、すなわち、非連続なイノベーションを実現する。

C先生:非常に威勢が良い。まさに、これまでの経産省と環境省の意見の相違が、具体的には、国際標準といった方が良いのかもしれないけれど、それに集約されてしまった。その意味で、この半年間は、かなり日本の意識改革が行われたと考えて良いのではないだろうか。

A君:鍵となる技術分野としては、「水素、CCS、CCU、再エネ、蓄電池、原子力などの脱炭素の鍵となる技術分野」としていますが、これは、当たり前のことですね。

B君:原子力となると、またまた、感情的な反応が起きるとは思うのだけれど、個人的にも、原子力がリスクの無い技術だとは思わない。だけれど、もしも再生エネだけで電力供給をしようとしたら、安定な電力供給などはほとんど不可能。水素、電池の活用ということになるけれど、これらのコストは現状非常に高い。今後下げるという目標はあるけれど、それが実現可能かどうか、現時点では見通すことができない。

A君:しかも、大きな問題がいくつもあります。日本の産業を全部潰しても良いのなら、不安定な電力でもなんとかなります。単に、市民社会が自分で相当な投資をすれば、なんとかなるかもしれないのですが、例えば、現在の都市ガスやプロパンガスなど、熱供給に使われている化石燃料の代替は水素では無理。となると、もっともありそうな解決策が、電力+電池なのですが、電池はときには空になる可能性がありますね。となると、本当に困るでしょう。電池が空になるということは、電力線に流れている電力がゼロということを意味するので。

B君:2050年頃になると、電池の電気が無くなったからヘルプ!、とネットで要求すれば、自動運転の給電車というものが存在していて、それが電気を配達してくれる、かもしれない。

A君:ほぼ停電時間がゼロという日本国民の大部分にとって、このようなことは考えたこともないでしょうけど。

B君:家庭であれば、長期停電時には、どこか他の地域に移動するということも可能だけれど、産業用のエネルギーが無くなったら、生産活動は何もできない。日本産業は壊滅する。もっとも、一部には、壊滅を意図している人々も居るようには思うけれど。

A君:長期ビジョンに向けた政策として、「将来に希望が持てる明るい社会」という言葉があるけれど、エネルギーが文明社会のもっとも重要な基盤であることは、認識しないと。停電するとスマホの充電ができないだけではないことを、まず、すべての日本国民は認識しなければならないでしょうね。

B君:スマホの充電ぐらいだったら、小型の太陽電池パネルを買い込めば良い。USBから充電ができるものが、アマゾンで2000円ぐらいで買えるけど、どうもいささか怪しい製品が多いみたい。車のバッテリーの充電はかなり大変だと思うけど。家庭用の電力消費を、自宅の太陽電池だけで実現することは不可能夜は太陽がでないので。

A君:話題を変えます。将来に希望が持てる明るい社会を実現することが重要だとしていて、そのために必要な項目として、
*SDGsの達成
*イノベーション基盤=「共創」
*Society5.0
*地域循環共生圏
*課題解決先進国

といったコンセプトが重要だとしています。

B君:総論として賛成できる。ただし、具体的に何をやるのか、ということが、SDGsの達成は分かりやすいが、それ以外だと、なかなか見えない

C先生:いずれにしても、多少の説明が必要なのではないか。こんな言葉は知らないと言われてしまいそうなので。

A君:まあ、そうですね。最初のSDGsは、このサイトの読者には不要でしょう。
 となると、イノベーション基盤=「共創」ですが、これは、多分、C先生の発言に基づいて、内閣府の懇談会の報告書にも書かれたのですが、イノベーションというとこれを「技術革新」と訳すのは間違いだという理解が必須。

B君:その通り。もともと、イノベーションという言葉の発明者であるシュンペーターの使ったドイツ語は、Neuer Kombinationenだった。これはNeuerは新しい、英語ならNew、そして、KombinationenはCombinationなのだ。New Combination。すなわち、初めて出会った何かと何かが、新しいものを作り出す。勿論、人と人でも良いし、技術と人でも良いし、技術と社会でも良い。なんでも新しいコンビネーションを作って、そこで何を新しく作るかを考えることが重要だという概念だ。共に何かを作るから、イノベーションの日本語訳としては、「共創」がふさわしい

A君:次は、Society5.0。これは、内閣府の科学技術政策のページでしょうか。
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

B君:なぜ5.0かというと、最初の人類社会はSoceity 1.0が狩猟社会、2.0が農耕社会、3.0が工業社会、4.0情報社会。そして、5.0が新たな社会。科学技術基本計画で提唱されたもので、基本計画が第5期だったから、という乗りでそれができたような感じも無いとは言えない。

A君:具体的には、これまでの社会では、知識・情報の共有、連携が不十分だったけど、これが5.0になると、IoTであらゆるモノ、人がつながるので、新たな価値が生まれ、AIによって、必要な情報やその分析が必要なときに提供され、ロボットや自動運転車などによって可能性が広がり、そして、イノベーションによって様々なニーズに対応できる社会。

B君:まあ、夢の社会ではあるけれど、IT技術の危うさを同時に持っている社会かもしれない。

A君:しかし、いずれにしても、地球温暖化のような地球レベルでの問題を解決しようとすると、個人が地球全体を見渡すことは不可能なので、情報をどれほど活用するか、これが鍵であることに間違いはない。そこから、人類として、ありとあらゆる社会的課題に対して、解析を行って解決法を見出して、そして、どのような戦略を作り上げて実施することができるのか。これが可能になれば、経済発展と社会的課題の解決が両立できるという、美しい絵にはなっている。

B君:予防検診とロボット介護によって、健康寿命が伸びるのが本当に良いのか。これについては、価値観の多様性がある=色々な考え方はある。しかし、農作業や自動生産などの産業活動が確実に行えるようになれば、確かに、人間的な社会になる可能性は秘めている

C先生:そろそろ一旦切り上げどころなのでは。Society5.0といっても、それを活用できるかできないか、まさしく人間次第だ。誰でも利益を享受できるかどうかは分からないが、未来の方向性は、大体のところそんなものだと思うので、それぞれの個人が、社会の構成員として何を創造するか、ということが重要な問題なのだと考え、そして、積極的に活動するということが、Society5.0を実現するためには必要不可欠だと思っている。
 すなわち、個人的利益や利権だけで動くような個人だけであれば、それが何人いても、実現すべき進化が実現できるとは思えないのだ。このあたりが最大の問題ではあるけれど、それ以外にも、未来像を自分で作るということも必要不可欠。さらに、その未来像に自分を適応させるということも必要不可欠で、それには、多様な価値観をもっていて、個人だけの利益を追求することも有っても良いのだけれど、それだけではなくて、社会全体をどうやったら進化させることができるか、そんな基本的発想をもった人材を育成しなければならない。これが実に重要なことなのだと思う。すべてがAIで解決できるような社会は、人間にとっては、生存する意義が分かりにくい社会なのだと思うのだ。
 まだ、終わってはいないけれど、このペースで、どこまで続けるべきか、それは、来週にでも考えてみたいと思う。