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   「パリ協定対応の長期戦略(案)」その2  05.26.2019
        長期的なビジョン第2章以降

               



 先週の続きです。長期戦略の具体的な内容について、若干の議論をしたいと思います。
 今週は、第2章の各部門の長期的なビジョンというところからスタートしますが、1.エネルギー、2.産業、3.運輸、4.地域・くらし、ときて、第2節に吸収源対策ということになりますが、第2節は非常に短いものです。その後も、あまり決定的な記述はないように感じました。


C先生:ということで、第2章の1.エネルギーからスタートすることにしよう。当然、エネルギーが最大の問題点であることに関して、誰も異存はない。「過去300年間、文明の根幹を形成していた化石燃料が使えなくなる。それならどうする」、というとんでもない質問に真正面から答えなければならないのだから。

A君:現状認識は、このように書かれています。このところ、日本のCO排出量は低下傾向にあるけれど、2050年までに80%削減しなければならないことを考えると、低下の速度が決定的に不足している。しかも、先日の北海道の厚真火力発電所が地震で止まったことによって、大規模停電が起きてしまった。将来的には、このような状況が日常茶飯事になる可能性が高いのだけれど、どのような対策を考えれば良いのか。

B君:まあ、いきなり解決を目指すような対策を考えるといっても、無理なので、段階的に目指すべきビジョンを考えようという、かなり現実的なアプローチになっている。

A君:ここですね。「エネルギーの目指すべきビジョン」ということで、5項目が上がっています。
 最初が「再生可能エネルギー」でして、「経済的に自立した主力電源化を目指す」

B君:それは当然。日本の再生可能エネルギーは、FIT制度のおかげでなんとか普及をしたものの、結局のところ、非常に高い買上げ価格で誘導してしまったものだから、強欲事業者が多数参入したという結果を生んでしまった。ちょっとFITはやりすぎだった。

A君:まあ、現時点でもバイオマス発電に対するFITを考えると、まだ行き過ぎの観がないとも言えないですね。

B君:そうね。確かにそうとも言える。買い取り価格がちょっと魅力的過ぎるかもしれない。バイオマスエネルギーだと、例えば、ガス化して発電機を回し、熱も利用するといった方向性になるのだけれど、現時点だと、それに使えるガス化技術とか、その後の発電機だとか、ドイツ製あたりが使われることが多い。それは恐らくコストが理由なのだと思う。バイオマスが普及しているドイツ製の方が安価なのだ。しかし、バイオマスといっても、それが単なる木材の場合であっても、実は、ドイツの材と日本の材では違うということもあるらしくて、ドイツ製の機械との相性がよくないということが発生してしまうことも多いらしい。タールが発生したり、燃焼灰が固まったり、様々な不具合が起きることが多い。

A君:ディーゼル燃料とかガソリンのように、ある程度の規格化ができていると、日本企業は頑張ることができるが、バイオマスでは、それほどの機器へのニーズが日本国内だけであるとは思えない。そのために、機器の開発をやろうというメーカーは日本国内ではそれほど多くないために、機器のコストが高くなっているように思います。

B君:次が「原子力」か。記述としては、安全性最優先、原発依存度の低減

A君:安全性最優先は当然のこととしても、原発依存度の低減は、現行の原発は、再稼働すら難しいサイトが多いこともあって、当然のことながら、わざわざ書かなくても、依存度が下がる以外にないですね。

B君:産業界は、高温ガス炉が必要だという主張をしている。たしかに、製鉄をコークスを使った炭素還元でやる訳には行かなくなると、水素還元しか不可能という状況になる。他に方法論があれば良いのだけれど、残念ながら、宇宙の元素構成を考えれば、これ以外には無いので。水素還元の最大の問題は、還元反応が吸熱反応だということだ。炭素還元だと発熱反応なので、自然に進むのだけれど、吸熱反応だと熱を外部から供給しつづけないと、反応が止まってしまう。

A君:三番目が「火力発電のCO2削減」ということは、石炭発電は少なくとも国内では止めるという方向性だと読めますね。石炭発電所の輸出も止めるのか。これは、日本政府にとってはなかなかの難題で、現時点だと原子力の輸出はほぼ不可能になって、エネルギー関係の技術輸出というと、現時点では、高効率な石炭発電になってしまう。確かに、発電装置のコストは高いけれど、高効率であるために、発電コストはまずまず。途上国がこれを欲しいと言い出したら、どうするのか。

B君:まあ、CCSと組み合わせて、CO排出を下げるとしか言いようが無いのが本筋。ただし、途上国経済の発展のために、CO排出をどこまで許容すべきか。これは答えの無い質問なので、大変に難しい。

A君:早急に、日本という国としての大方針を決めなければならない。例えば、国際的に認められるような途上国の排出戦略が出てくれば、その国際的同意に沿っていることを条件として、支援するとか。

C先生:その通り。しかし、内閣府の懇談会でも、そこまで議論が進展しなかったので、結論を書けなかった。途上国が経済発展を実現することはまさに『正義』だし、地球全体でCO排出削減をすることも『正義』。どちらの正義がより本物の正義なのか、などという議論は、余りにも難しくて誰もできないし、どこまで、そして、いつまで、途上国からのCO排出を認めるか。これは、国際社会としての合意形成が必須。

A君:四番目が水素社会で、これは日常生活、産業活動で必須。物質として考えると、水素以外にチョイスが無さそうな感触。そして、最後の五番目が、熱の効率的利用。省エネ推進。これも誰も文句は言えない。

B君:エネルギー関係の将来重要になる用語を若干説明するか。「再エネのFIT制度からの自立化」これは、再エネ導入に際して、余りにも買い取り価格を高価にしてしまったという歴史的失敗に基づいている。FIT無しで普及するようでないと、本物の未来エネルギーだとはとても言えない。

A君:洋上風力が長期的に重要になることは明らかなのですが、日本には、風車メーカーが無くなってしまったので、海外からの導入しかない。これが寂しいところ。しかも、日本の海は、急激に深くなるので、なかなか大変です。浮体型のような洋上風力が本当に実用になるのか。

B君:浮体型だと台風が来たときには、風が強すぎると倒れて風をやり過ごすので、良いのだけれど。

A君:ほぼすべてに関係することなのだけれど、「電力の調整力」は、なかなか難しい概念だけれど、極めて重要。現時点だと、要するに、余った電力を一時的に貯めたりして、有効活用を目指すこと。

B君:そこで、言葉としては、VPP(バーチャル・パワー・プラント)という言葉が一つの新概念になる。これまでの集中型の電源=発電所と違って、太陽光発電とか、風力発電とか、地熱発電のような比較的小型の発電装置をまとめて、一つの発電施設とみなすことで、リソースとして有用になる、という考え方。

A君:勿論、分散的に存在することになるであろう蓄電池も、VPPの一部になる。

B君:当然のことながら、省エネは、常時極めて重要で、ある工場で、「本日のこの時間からこの時間までは、電力をほとんど使わない」、というような情報があれば、その使われない電気をどこかに回して有効活用する、といった考え方は、通常「デマンドレスポンス」と呼ばれて、VPPの一部の要素になる。そして、電力を使わなかった企業には、もし、それが電力のピークの解消に有用であったら、それなりの経済的なメリットが付与される。

A君:「ネガワット」などという言い方もありますね。このような社会を実現するには、当然のことながら、重要なのは情報技術。すなち、ITや通信技術が重要。電力の取引にも、仮想通貨の技術であるブロックチェーンというものが使われる可能性が現時点では高いですし。

B君:四番目の水素の活用も、省エネに対しても非常に重要で、水素はエネルギー蓄積という貴重な役割をも果たすことにもなる。水素燃料電池による発電能力をもつ燃料電池自動車も、VPPの重要要素になりうる。

C先生:最終的には、電力がエネルギーの供給手段のほぼ100%になる社会なので、これまでのような石油とか天然ガスと違って、貯めるというプロセスが最大のコストになってしまうので、電池は重要ではあるものの、できるだけ、電池に頼らないで、合理的な電力の配分ができることが重要なのだ。

A君:第2章の1.エネルギーが終了。次が、2.産業になります。最初に必要な理解としては、「大部分のCOは、エネルギー起源である」ということ。すなわち、産業活動に絶対に必要なエネルギーを得る際に排出されてしまう。例えば、熱というエネルギーが欲しいときに、天然ガスや石油や石炭が燃焼されて、結果としてCOがでる。勿論、発電するときにも、現状の火力発電だと熱を電力に変換しているシステムなので、COが出る。

B君:現在の産業で高温の熱が必要な産業として代表的なものが、金属精錬・セメント製造と窯業・化学品生産。金属精錬の代表例が製鉄業。鉄鉱石という鉄と酸素が結合している鉱石を、高温の空気とコークスからできる一酸化炭素で還元して、溶けた鉄を作る。

A君:日本で排出するのが嫌だとなっても、鉄鋼を輸入をすると、製鉄業のエネルギー効率は、日本が世界最高なので、世界全体のCO排出量を増やす結果になる可能性が高いですね。

B君:繰り返し述べてきたけれど、極めて長期的に鉄鋼の製造方法を考えれば、鉄を炭素で還元する現在の高炉法ではなくて、水素で還元する新しい方法論を開発することになる。

A君:日本の製鉄業界も、懇談会の最後には、とうとう、水素還元を今世紀末までには開発する、と発言したようですが、これは、日本の企業としては、極めて珍しい発言で、いつも主張しているように、日本で「何かをやります」というと、それは目標だと理解されるのが普通ですが、海外で「何かをやります」といっても、それには2種類の解釈があって、一つは、「目標」だから、どうやるか、ということまで説明しなければならないと言われる場合と、それは、現時点の科学技術ではかなり難しいので、目標ではなく、「ゴール」だなと理解される場合がある。

B君:欧米の製鉄メーカーは、水素還元は未来の姿だ、として、それをなんとか実現します、という言い方をしてきた。それを、今回、日本の鉄鋼メーカーも、ある意味で、真似をすることにしたとも言える。すなわち、目標ではなくて、ゴールだという言い方だ。ただ、「ゴールだからやらなくても良い」というのは、日本的解釈で、英語でゴールだと言えば、「最善を尽くしてその実現を目指す。しかし、それでも結果的にできないという状況にならないとは言えない。最善を尽くしたというところを自ら証明するので、それを検討して、最終的な評価して欲しい」、という意味なので、もし、できなかった場合でも、どのぐらい最善を尽くしたのか、という説明ができなければならない。

A君:加えて重要な対応が以下の通り記述されています。
(a)COの鉱物化:マグネシウム・カルシウムで固定し、鉱物へ。
(b)水素とCOを原料とした合成プロセス
(c)バイオマス利用の技術 微細藻類・植物原料のプラ等の開発
(d)フロン類の廃絶 2036年までに85%の削減
手法としては、
  *フロン類の漏洩をIoTなどによって監視
  *機器の管理状態もIoTによって監視
  *具体策
    ・グリーン冷媒技術の開発・導入
    ・漏洩防止技術
    ・フロン類の回収・適正処理


B君:これら4つも非常に実行が難しい。特に、(c)のバイオマス利用は、地球レベルでの最適な利用形態はなにか、といった地球バイオマス総合戦略を作る必要がある。しかし、他に方法がすぐに見つかるという状況でもなさそうなので、先程と同じ、ゴールだと考えて、取り組む以外に方法はない。

A君:これらに加えて、企業経営の脱炭素化を促進するとなっています。

B君:そして、次が、「3.運輸」となる。自動車産業は、すでに必要な産業構造の変化を認識していて、CASEと呼ばれる4つの項目が重要だとされている。

A君:CASE=Connected、Autonomous、Shared&Service、Electricの略です。Connectedの一つの例は、高速道路をトラックが走るときには、数台をIT技術で連結して、運転手は先頭の1台のみ、といった考え方。

B君:一番難しいのは、航空機の燃料。電気で商用になるような飛行機を飛ばすのは難しい。燃費を毎年2%改善することで、2020年以降、総排出量を増加させないということが目標だけれど、「減らすと言えない」ところが辛いところ

A君:国際海事機関は、2050年までに2008年比で半減を目指しているが、航空機は、半減など不可能。それに、飛行機の機数は増加の一方になるのでは。その分、航空券の総額に占める炭素税が相当高くなると思っていないと。まあ、AIやIoTが進化して、実際に現地に行かなくても、行ったのと同じような感覚で楽しめる、というようなことになれば、話は別。でも、本当に満足できるのかは、大きな疑問。

B君:トランプ大統領が相当の時間を掛けて、日本に来るというのは、ネットでは、秘密の話ができないからかもね。しかし、実際には、合って、自分の主張を相手に強く印象付けるためかもしれない。そのお陰か、首都高速はかなり渋滞しているみたいだけど。

A君:やはり、人に会うために飛行機に乗るというケースがもっとも減らないのでは、と思う。

B君:飛行機に比べれば、自動車は、比較的楽な方だ。鉄道も、電気で動くので、なんとか大幅削減が見込めることだろう。

A君:以上述べたこととは別に、超小型モビリティー、例えば、ドローンがどのぐらい物流革命に効くのか。なんでも空中から品物が配達されるということにはならないような気もするのだけれど。現状のままだと、電線に引っかかって、大変なことが起きそうだし。

B君:電線を確実に検知することができれば、不可能でもないかもしれない。それには、やはり電線ビッグデータが作られないと。

A君:ここから、「4.地域・くらし」になる。もっとも問題になるのは、明らかに「人口減少」の社会の持続可能性への悪影響でしょう。

B君:人口が減るから、税収が減る。これが、ふるさと納税に懸命になってしまう自治体の思いなのだが、東京都ですら、人口のピークは、2025年に1417万人という予測。ただし、区部は、2030年にピークを、そして、多摩・島嶼は2020年にピークを迎える。区部については、山手線の内側はもっと後ろ倒しになるという予測もあり得る。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.jp/basic-plan/pdf/1_siryo_2.pdf

A君:しかし、世帯数については、東京は夫婦のみと単身世帯が多いので、2035年724万世帯がピークとなる。しかし、夫婦のみの世帯数は2045年で127万世帯でピーク。夫婦に加え子供の居る世帯数は、2025年161万世帯でピーク。

B君:人口減少の県別ランキングは、2015年の人口を100としたとき、2045年予測だと、以下が、トップ5。
 秋田県 58.8
 青森県 63.0
 山形県 68.4
 高知県 68.4
 福島県 68.7

http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/1kouhyo/gaiyo.pdf

A君:エネルギー代金の収支では、8割の自治体で5%の総生産額が地域外へ。379自治体では、10%相当額が地域外へ。

B君:となると、地域の様々な資源を活用して、再生可能エネルギーをしっかり導入しないと、そして、なんとか産業を維持して人口減少を回避しないと、地域における経済とエネルギー供給が成立しなくなる。

A君:この文書には出てこないのだけれど、実は、電力以外にも水道水の供給もどうなるか、かなり分からない状況。これは重大な問題になる。

B君:という訳で、目指すべき地域ビジョンとしては、「持続的な共生」の概念を基本とすべきという記述になっている。それが、「地域循環共生圏」というものが、環境基本計画に書かれた理由でもある。

A君:例えば、営農型太陽光発電を実現することや、荒廃農地に太陽光発電設備を設置することで、2050年に向けて、カーボンニュートラルを実現するといった考え方に繋がっている。

B君:しかし、もしも大規模停電が発生したとすると、その際の電力をどうするのか。これを地域で担保することができるのか。それとも、全国的なグリッドを強化することが必要なのか。

A君:そのあたりの実像がよく分からないですね。おそらく、全国的なしっかりしたグリッドがないと、エネルギー=電力の売買ができなくなって、困るのでは。いずれにしても、さらなる検討が必要なのでは。

B君:戦略では、都市と農山漁村を分けて、カーボンニュートラル化を実現する方策が書かれている。これで第2章を終わりにするか。

A君:そうですね。まあ、簡単な結論ですから。都市地域において、カーボンニュートラル化をするには、多数の建築物による、電気・熱の共有化が必要であるとか、農山漁村でカーボンニュートラル化をするには、当然、再生可能エネルギーを最大限の活用をすることは必須ですね。それでも、実現できるかどうか、よく分からない。特に、都市におけるエネルギー供給の総量が本当に確保できるのか、これもよく分からない。

B君:食品供給量の確保についても、実は、世界的な状況次第ではあるけれど、よく分からない。しかし、産業構造が大幅に変わって、再度、農業の重要性が上がるという可能性がかなり高いとも考えられるので、どうなるやら。

A君:むしろ、都市生活者が困る可能性の方が高いかもしれませんね。特に、東京に大地震が来ると、その復興が可能なのかどうか、むしろ、首都移転の必要性が議論されるような気もします。できたとしても、オーストラリアのキャンベラ、ブラジルのブラジリアみたいなものでしょうけど。

C先生:まあ、これで第2章を終わろう。日本という国は、本当に課題満載の国なのだけれど、課題を解決をするという合意形成ができれば、かなり頑張ることができるはず。ただ、エネルギー資源にも恵まれていない国だから、人口減少をうまく活用して、より持続可能性を高めるにはどうしたらよいか、という観点での検討が必要不可欠のように思える。これだと、経済成長という考え方とはいささかずれてしまうので、そもそも、例の懇談会のタイトルにもあったように、現政権にとっては、経済成長が最重要事項なのだけれど、これを、どのような言葉に変えるべきなのか、そろそろ政治の方向性も変えないと将来の日本は無いのかもしれない。
 確かに、日本という国は、経済成長が難しい国になったことは、厳然たる事実だけれど。一つは、継続性、利便性、効率性、そして、安心という、日本で重視される4つの言葉を、政策面からも全面的に見直すということが不可欠なような気がしている。
 実は、第2章で終わりということではなくて、第3章が「重点的に取り組む横断的施策」で、その第1節がイノベーションの推進なのだけれど、「一貫した気候変動政策」と「投資環境の整備」が重要となっているが、このサイトとしては、「当然」としか言いようがない。第2節が「グリーンファイナンス」の推進だけれど、これは、TCFDなどへの対応ということを意味していると思えば良いようにも思える。
 そして、第4章その他の部門横断的な施策の方向性だ。その(1)が人材育成。しかし、学校教育はESDとユネスコスクール、そして、イノベーション人材をOJTで育成となっているが、これだけでは人材育成戦略が不足のように思える。それは、次回以降、今年のEcoLeadサマースクールにおける参加院生の挑戦課題と、その結果を公表するとき(今年は、挑戦課題を事前に開示しない予定なので、サマースクール終了後になりそう)にでも、述べてみたい。