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     このところの気候災害と地球温暖化   09.23.2018
        両者に深い関係があると主張できるか

      



 このところ日本では、気候災害が猛威をふるっています。アイルランドにいたもので、Webでチェックして見るだけでしたが、9月4日に関西地方を襲った台風21号の風は本当にすごかったようですね。強風の記録は、関空島で58.1mとは驚き。もっとも堺市堺区でも43.6mということで、これはすごい。40m超えといった風は、経験がありません。東京での記録を調べてみると、日最大瞬間風速が、1938年9月1日で、46.7m。生まれる前ですから、知らないもの当然。2位が40.2mで、2004年12月5日。これは経験したかもしれないですが、台風のためではなく、実に、冬の強風だったのですね。
 このようなランキング・データは、次のサイトにあります。1875年から数日前(?)までのデータが掲載されています。
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rank_s.php?prec_no=44&prec_ch=%93%8C%8B%9E%93s&block_no
=47662&block_ch=%93%8C%8B%9E&year=&month=&day=&elm=rank&view=

 別の項目をちょっと見るだけでも、なかなか面白いです。日最低気温が0度未満の日数を見ると、トップ6件が、1800年代です。日最高気温が35度以上の年間日数では、2010年13日、1995年13日、そして、今年が12日です。日平均気温が0℃未満の年間日数は、トップが1885年、2位が1945年で、これ以降の年でベスト10に入る年はありません。明らかに、1945年ぐらいまでは、今よりも寒かったとは言えるでしょう。
 要するに、明らかに気温は上がっているというデータはあると言えます。しかし、東京の「日最高気温の高い方から」、のリストをチェックしてみると、
 ℃  年月日
 39.5 (2004/7/20)
 39.1 (1994/8/3)
 39.0 (2018/7/23)
 38.7 (1996/8/15)
 38.4 (1953/8/21)
 38.3 (2013/8/11)
 38.1 (2004/7/21)
 38.1 (2001/7/24)
 38.1 (1984/9/3)
 38.1 (1942/8/16)

となります。このようなデータをどのように解釈するか。これが本日の話題です。要するに、「気候変動、あるいは、地球温暖化が起きていることは確実か」、さらに、一歩進めて、「昨今の気候災害の増大は地球温暖化が原因だと言えるかどうか」、ということです。
 このような記事を書くことになったのは、9月8日の日経新聞の朝刊に、東京大学特任教授の住明正教授による記事が掲載されましたが、その記述が、どうもスッキリしないという印象だったからなのです。


C先生:今日は、序文が長かった。我々の意見だと思われない形で、気象庁のデータを見ていただきたかったからなのだけど、この気象庁のデータはなかなか面白い。要するに、地球は熱くなっているということを東京都の気象データだけで説明することは、その揺らぎから見ても、そう簡単ではないと言うことはできても、データをじっと睨むと、どうみても、このところ気温は、1900年以前の日本とは全く違う。これが、地球の気候変動のためだということは正しいのか。かなり正しいとは思うが、それだけが原因という証明はできない。その通り。だから、このようなデータだけで何かを明確に結論付けるというのは不可能だということだ。

A君:その通りなのです。そもそも人生80年ぐらいですからね。気象庁のそのデータだって、1875年からでしかない、と言いながら、すでに、人間の一生よりは長いデータ集積です。しかし、人間の直感というものは、意外と本質を突いているというところもあって、無視はできないですね。証明はできないとしても。

B君:住特任教授の記事の紹介からやるか。

C先生:そうだな。住教授とはかなり長い知り合いだけれど、さすが理学部の教授と思うが、簡単な結論に落とし込むことには、非常に慎重な人だ。常に、理学的な結論には、不確実性があるというスタンスを外さない

A君:それでは紹介します。まずは、見出しから。
 異常気象は温暖化のせい?
  東京大学特任教授 住 明正 社会のあり方 問い直す

B君:「社会のあり方 問い直す」というサブタイトルと思われる言葉が気になる

A君:それはそれとして、まずは、今年の梅雨の様子、猛暑の様子を記述し、鬼頭昭雄著「異常気象と地球温暖化」を読めということから始まりますね。最近の気候変動に関する知見がカバーされているらしいです。

B君:この本、3人とも手に取ったことがないみたいだな。本日の結論次第で、買うことになるかもね。

A君:そして、いきなり、結論。「今年の異常気象は地球温暖化のせいなのだろうか。筆者も同じような質問をよく受ける。残念ながら、この問いにはっきり答えを出すことは難しい。確かに地球は今、温暖化の傾向にある。だが、日々起こる異常気象の原因を温暖化「のみ」に求めることはできない。なぜなら、このところの気候現象は、偏西風の蛇行など、様々な要素が複雑に絡んで起こるものだからである。

B君:ちょっとチェックしたいが、偏西風の蛇行は、ブロッキング高気圧という高気圧が偏西風の領域である北緯30度から60度に発生すると、偏西風がブロックされるのではなかったけ。

A君:その通り。そして、ブロックされる結果として、蛇行します。ブロッキング高気圧の発生に、赤道の海水の温度分布が影響しているということは無いのでしょうか。

B君:住先生のこの記事を読んでも、そのような記述は無い。ブロッキング高気圧の発生は、赤道域の温度上昇と論理的に1:1の関係にあるというほど単純ではないという主張かもしれない。

A君:ちょっと、文献を探します。NHKのコラムのページに、異常気象・猛暑というものがあって、
https://www.nhk.or.jp/sonae/column/mosho.html
そこに、中村 尚という東大の先端研の教授が、異常気象のコラムを書いています。
 その第1回が「異常気象と地球温暖化」というもので、
https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20130828.html
慎重に真意を読み解く必要があるようです。

B君:目次を見たら、同じNHKのコラムに。なんと木本昌秀・東大大気海洋研究所・教授がやはり3編の記事を書いている。

A君:木本先生の書いた記事をちょっと読んだら、「偏西風の蛇行が異常気象の原因の一つだけれど、どうして、偏西風が蛇行するのか、と問われても、『よく分からない』、が率直の答えだ」。と書いてあります。

B君:ということは、どうして、偏西風が蛇行するか、それは、ブロッキング高気圧がどうしてできるか、という謎を解明しなければならない。これが、木本先生の真意か。

A君:一方、中村先生の説明はこのような感じです。
 「ジェット気流」は、時として毎年のものとは異なった蛇行を示し、それが持続すると異常気象が発生しやすくなります。その要因はさまざまですが、最も顕著な要因の一つは、赤道太平洋で海洋と大気が結合して変動する「エルニーニョ現象」です。数年に一度、この海行くを吹く貿易風がなんらかの原因で弱まって水温が異常に上昇し、積乱雲の発達する海域が平年より東に偏る現象です。この逆が「ラニーニャ現象」で「エルニーニョ現象」と交代で起こります。貿易風が異常に強まり、赤道太平洋の東側で水温が低く西側で水温が高いという東西差が例年異常に拡大して、熱帯西太平洋でが著しく発達します。

B君:なるほど、エルニーニョとラニーニャが原因だと断定しているような感じだ。一方、木本先生は、細かいメカニズムについては、良くはわからないと言いつつも、実は、「よく見たら何かありそうだ。日々地点ごとの天気予報は無理でも、天候の傾向を地域的に説明したり予測したりは、ある程度できそうだ」と考えているようだ。

A君:ということで、もし研究するとしたら、こんな考えでやりたいという意思ではないか、と思うのですが、木本先生は、このように述べています。「日本の猛暑でいうと、台風がよく生まれる南海上のフィリピン付近の大量の積乱雲が活発になると、気流の変化を通して小笠原高気圧の勢力を増すことが知られています。これは、日本人研究者が発見したもので、PJ(Pcific-Japan)パターンと呼ばれています。そして、フィリピン付近の雲は、その近辺や、遠く離れたペルー沖でエルニーニョ現象を伴って生じる海水温の工程に大きく左右されています」。

B君:そのPJパターンの発見者は誰だろう。

A君:チェックします。分かりました。国立研究開発法人の海洋研究開発気候の久保田尚之研究員東大先端科学技術研究センター(先端研)の気候変動科学分野の小坂優准教授カルフォルニア大学の謝尚平教授の共同研究グループの業績ですね。

B君:なるほど、中村教授は、先端研の所属。小坂優准教授は、今、中村研究室所属

A君:先端研に気候変動科学分野はいつできたのでしょうか。

C先生:知らないなあ。生産研の隣ではあるのだけど。

A君:中村教授の研究室のWebを見ると、過去の歴史があって、それによれば、2011年4月に本郷の理学部から引っ越した、と記述されています。

B君:このところ、東大での気候変動というと、これまでは、どうも海洋研が主導してきた。その前は、住先生の理学部だった。しかし、今は、東大の気候変動は、先端研の中村教授と海洋研の木本教授という時代になっていて、どうも中村研究室の准教授のエルニーニョ、ラニーニャ説が有力になっているという理解はどうだ

A君:中村教授は様々な研究対象を明らかにしていますね。そして、次のように結論しています。「異常気象のメカニズムは研究のホットトピックスであり、日本の気候に影響を及ぼすさまざまな要因が次々と解明されつつあります。特に、大気運動に比べてゆっくり変化する海水温やリク面の状態(雲の多さ、土壌の湿り具合、海氷など)の影響が、持続性のある異常天候の重要な要因と考えられています」。

B君:まあ、それは当然とも言えるのでは。

A君:住先生の中盤以降の記述が、なぜか、よく分からないのですが。
 特に、この文章。『地球温暖化に伴う気候変化も、確率密度分布が変化していくことと捉えられる。だが、現実は確率統計だけで割り切れるものではない。「余生もかぎられているときに、いかに行動すべきか?」という問題が出てくる。個々の人間はそれぞれ欲があり、非合理的であり、有限の存在だからである。』

B君:うーん。

A君:まあ、最後の結論は、それほど妙なところはないのです。「温暖化問題は、産業革命以降の人間社会のあり方を根源的に問い直している」という文章には、100%賛同ですし。

B君:最後の結論は、「高齢化、国土強靭化、財政破綻など様々な課題があり、施策が求められている。その中に、地球温暖化という環境変化も位置づけるべきなのである」だ。これは、その通り

A君:そして、最後の最後の結論は、「こうした課題は個別ではなく、総合的に対応すべきものだ。国連が提唱したSDGsが旗印になる。具体的には、地域開発、都市再開発が重要になるだろう。いずれにせよ、『前に向かっている』という感覚が人を元気づける。必要なのは、未来に対する新しい挑戦を継続する覚悟なのであろう」、となっています。

B君:最後の結論と最後の最後の結論が、住先生の記事のサブタイトル「社会のあり方 問い直す」ということなのかな。

A君:まあ、そのように解釈する以外には無いのでは。

B君:うーん。やはり、「異常気象に地球温暖化の影響はないと言うことは不可能である」、ぐらいのことは言って欲しかった。一方、中村教授の結論は、「もし温暖化が主因であれば毎年高温の記録を更新するでしょうが、実際はそうではありません。それでも近年暑い夏が起こりやすいのは、以前と同じように「亜熱帯ジェット気流」が蛇行して同じだけ気温上昇がもたらされても、温暖化が徐々に進行しつつあるため、気温自体は以前の同様なケースに比べてより高くなるというわけです。また、以前にはめったに観測されなかった1時間80mm超の豪雨も今日では珍しくなくなってきており、集中豪雨の被害も深刻化しています。これは温暖化によって大気下層の水蒸気量が増えていることに関連しています」、と極めて明確

C先生:住先生とのお付き合いも非常に長いのだけれど、住先生は、結論が100%確かでないと、それを明確に主張しないという、理学者らしい極めて慎重な信条の持ち主だと思う。それに対して、工学者は、割合と簡単に結論を導きすぎるところがある。しかし、あの当時の日本のように、武田邦彦によって温暖化懐疑論があれほどバラまかれ、それを信じる人が相当の割合になったという状況では、できるだけ単純な結論を主張するしかない、という判断をするのが、工学系の学者の本能でもある。勿論、武田邦彦路線に乗った主張をする工学系の学者もいたが、彼らは問題の解決は不可能に近いのだ、ということを前提とした、理学的なマインドに近い人々だったかもしれない。ちなみに、武田邦彦は東大教養学部基礎科学科出身なので、明確ではないが、理学系色が強いか。
 住先生の慎重さに関してだが、パリ協定をその通り遵守することが、人類にとって可能なのかどうか。これは、極めて重大な問題だ。余りにも問題が大きすぎる。問題が困難すぎる。これまでの人類の300年余りの歴史、産業革命以降の全てを否定する必要がある。
 それには、「異常気象に地球温暖化の影響は無いとは言えない」、といった理解がなければ、さらに、「温暖化を放置して置けば、異常気象によって相当の被害がでる」、「場合によっては、海面上昇で国土を失う国も出る」、といったことも理解していなければ、本気で取り組む人が減るだろう。ここにSDGsの考え方を適用すれば、「全ての人が考え方を変えることによって、世界をTransformし、地球温暖化の実害を防止するのだ」、と考える以外に真の解は無さそうだ。
 住先生の100%理学者的慎重な態度には敬服するものの、やはり、我々としては、現状であれば、気候学者としての中村尚教授の発言を歓迎することになりそうだ。