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 スーパーコンピュータと事業仕分け  11.29.2009
      



 「あらたにす」にコラムを書くために、スーパーコンピュータのことを調べていたら、結構面白いので、環境問題との関係性は少ないが、このHPにさらに色々と書いてみることにした。

 それにしても、この世界はまだまだ進歩が早い。しかしよくよく見ると、頑張っている企業は、なんとCray、IBM、SGI、Sunマイクロなどの古豪、すなわち、かつての有力メーカーである。

 これに対して、日本の有力メーカーの凋落が目立つのが現状ではある。



C先生:スーパーコンピュータの事業が「事業仕分け」の俎上に乗った。その結論が、「次世代スーパーコンピューター開発予算(267億円)大幅削減」。

A君:その後、この仕分けのやり方は相当な批判を招いたのも事実。曰く、「スーパーコンピュータを自国で生産できない国は科学技術の一流国ではない」。野依理研理事長は、「科学をコストでとらえるのはあまりに不見識」。若手の研究者グループは、「このままでは日本の将来は危うい」と強調した、などなどの報道がありました。

B君:しかし、自国生産のスパコンが世界一になるということと、それで商売になるということ。さらには、そのスパコンが算出する結果が世界一になるということは意味が違うように思う。

C先生:2002年に作られたNEC製の地球シミュレータが今年引退したが、ベクトル型として、かなり長期間世界一の座を守っていた。2005年でも、まだ4位とかなり健闘していた。

A君:ところが、世界の潮流はベクトル型とは別のクラスタ型に向かってしまった。
 ところで、クラスタ型を日本ではスカラ型ともいうようだが、なぜなのだろう。クラスタ型に使うCPUは普通のパソコン用で、たしかにベクトルプロセッサではない。ベクトル型がスパコンの正統派で、ベクトル型の反対の概念だからスカラ型ということだったのかもしれない。この発想がどこかおかしい。世界ではクラスタ型だ。

B君:日本は、地球シミュレータでかなり長期間世界一の座を守ったことが逆に災いになったように思う。今、世界でベクトル型プロセッサを作っているのはNECだけなのではないか。

C先生:クラスタ型というのは、基板1枚のパソコンを多数作って、それを極めて高速な情報交換用の道(バス)で繋ぐようなもの。基本的には、それぞれのパソコンがメモリを個別に持って仕事をして、そして、結果をときどき情報交換をして統合するような考え方。

A君:それに対して、ベクトル型は、やはり複数のCPUを使うのだけど、CPUそのものを複数繋いで、メモリーは共有しつつ、ある計算を速く済ますことができるように特化する。そのため、かなり高価になるけど、大きなサイズの材料の物性を計算するときには有力な方法だった。

B君:そのあたりについては、
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20020905/1/
という記事でも読んで貰いたい。番号からも分かるように、2002年に書かれたもので、地球シミュレータ礼賛記事になっている。

A君:ベクトル型は2002年当時、世界最速で、このベクトル型でなければ世界制覇は難しいと関係者は考えた。しかし、国費を大量(恐らく600億円)に投下した地球シミュレータのお陰で、その後、日本のスパコンは国際競争力を失った。それは、世界に市場が無かったから。

B君:米国では、汎用のCPUを使ったクラスタ型の技術を進歩させた。特に、このタイプに特化したソフトウェアが発達した。そして、世界の主流になった。

C先生:その結果、結果的に、世界のTop500のランク
http://www.top500.org/list/2009/11/100

では、日本のメーカーは、31位にNEC製である2代目地球シミュレータとしてのSX−9でが、36位に富士通のクラスタ型が、45位に日立のクラスタ型が、47位にも富士通のクラスタ型が入っている。50〜100位までには、57位にNEC/Sunのクラスタ型、81位に日立、92位に日立、95位に富士通となっている。といった程度になってしまった。ベクトル型は1台だ。

A君:個別企業だと、100位までではIBM、Cray、SGI、Sunが圧勝。500位までだと、台数ベースでは、HPが209件も入っている。

B君:要するに、米国がやはりリードを保っていると言える。驚くべきことは、中国である。Dawning(曙光)という国産メーカーがある。また、日本にもノートパソコンを輸出しているLenovoの名前もある。

A君:今後中国の動向は注目が必要。すでに、スパコン保有台数では日本を抜いた。

C先生:ところで、今回の事業仕分けで、いくつかのコメントが出たとA君が紹介していたが、そのコメントは正しいのだろうか。

A君:まず「スーパーコンピュータを自国で生産できない国は科学技術の一流国ではない」ですが、ドイツを調べてみましょうか。
 500位までのスパコンの27台はドイツにありまして、数としては、日本の16台、中国の21台を上回っています。

B君:しかし、メーカーを見ると、IBM、SGI、HPといった米国勢が大部分。NECも1台ある。そこに、ヨーロッパ最大のスパコンメーカー、Bullが13位に1台だけある。ただし、SunのConstellationと書いてあるので、ひょっとしてSun製?

C先生:フランスは? イギリスは?

A君:フランスには26台ありますが、497位にBullが1台。残りは、すべて米国製。

B君:イギリスには45台もある。しかし、やはり遅いBullが1台だけで、残りはすべて米国製。

C先生:BullのCPUは?

A君:インテル製のXeonですね。

B君:CPUが何かとなると、最近はクラスタ型だから、やはり価格が問題で、汎用品に近いものになる。インテル製のXeonだけでなく、AMD製Opteronの6コアとかが主力。勿論、IBMのPower系のCPUなども主力だった。2009年のランキングのトップ10を調べてみると、なんとトップから3位までがAMD製のOpteronで占められている。

C先生:となると、CPUはいずれにしても米国製。ドイツにあるBullだってSun製かもしれない。
 自国でスパコンを作れない国が一流国でないのなら、米国以外は一流国ではないことになる。

A君:今回の事業仕分けになった理研のスパコンのスペックは、もともとはクラスタ型とベクトル型の混合系で、日本がかつて得意としていたベクトル型のCPUをはじめから開発をしようというものだった。そのために、総費用は1000億円を超すものだ。

B君:過去の栄光を再びという発想。それはそれで良いかもしれないが、古い独特な技術を磨くという発想は、携帯電話のi−modeで世界進出に失敗し、結果的にガラパゴス化を招いたことの繰り返しになりかねない。

A君:ところが、ベクトル型の雄だったNECが、撤退を表明し、日立もまた撤退。残るは富士通だけになった。

B君:富士通だと、クラスタ型。ここで問題は、CPUを高いコストを掛けても独自開発すべきかのか、という点。

C先生:次に行く。野依理研理事長の発言である「科学をコストでとらえるのはあまりに不見識」には、ある程度賛成だが、逆に、「コストを掛ければ良いというものでもない。科学的に優れた成果というものは、必ずしも多額の予算を掛けたところから出るというものでもない。さらに、先進技術というが、それが本当に先端技術なのか。むしろガラパゴス化を目指しているのではないのか」、と言いたい。

A君:計算結果の意味がどれぐらいあるかを競うならば意味が充分にあるのですが、単に、処理能力が世界一ということを目指すのはほとんど無意味。

B君:その話になると、最近注目を浴びている長崎大学の3800万円の手作りスパコンが国内最速を記録したという話がある。

A君:その話、パソコン用のグラフィックボードを計算用に使って作ったみたいですね。
http://accc.riken.go.jp/HPC/Symposium/2008/hamada.pdf

B君:なるほど。パソコンを自作する人なら良く知っているNvidiaのグラフィックボードを使ってコンピュータを作る。

A君:CとかFortranとか、開発言語もそれ用に用意されているようですね。

B君:そう言えば、日本には世界に誇るCPUがある。ゲーム機用に開発されたCell。ソニーのPS3に入っている。このCPUを使ったスパコンも海外では試作されている。

C先生:ソニーはPSで結局儲かったのか? あれだけ売れるマシンなのに。多分、ハードは原価割れで売ることになっているのではないか。そこに、数100億円を掛けてCPUを開発していたら、やはり儲からない。

A君:ソニー、東芝、IBMが共同して開発したCPUですが、そのグラフィックの性能は未だに大したものだと言われているようですが。

B君:やはり、新規のプロセッサーの開発にお金を掛けても、世界のマーケットに出て行ける訳では無い。恐らく、日本国内で数台分のスパコン用で終わり。

C先生:そもそも、CPU産業を新たに起こすとしても、インテル互換を目指す以外に、すでに方法は無いのではないか。Crayのスパコンに使われているCPUを製造するAMD社だって、インテルの互換CPUを作っていて、はじめこのころは、経営も難しかった。アップルのMacだって、IBMのPowerPCから今はインテル製のCPUになってしまった。

A君:IBMは、Powerで良く頑張っていますね。クラスタ型のスパコン用としてかなり需要があったのでしょうか。

B君:しかし、やはり標準化の動きはIBMでも避けがたい。OSは、IBM製のスパコンでもLinuxになっている。かつて独自のAIXというUnixを持っていたのだが。

C先生:ところで、海洋研究開発機構が2代目地球シミュレータとしてNECのSX−9を選択したのは、これまで開発したソフトをほぼそのまま使えるというソフト資産を継続することが目的だったのだろう。

A君:多分そうでしょう。クラスタ型にソフトを最適化するのは恐らく結構大変な作業。しかし、そろそろその作業も並行して行っていないと、世界の主流からますます離れてしまう。

B君:ということになると、日本の計算能力を高めるというためには、まず、日本におけるクラスタ型スパコンの設置台数を増やすことが先決か。かつて、日本のスパコンの台数はすごかった。米国に次いで2位だった。

C先生:世界最速ということは、金メダルやノーベル賞みたいなもので、国民受けは良いと思っているのだろうが、実は、世界最速自身に何の意味もない。

A君:長崎大のGPU(Graphic Processing Unit)によるスパコンが国内最速だといっても、これですべての計算ができるというものではない。用途としては、ご本人のプレゼンテーション資料にもあるように、計算速度が問題になるような用途には良いが、メモリーのアクセスが膨大な用途には不適当。地球シミュレータがやっているような長期気象を対象とした流体力学計算や、高速フーリエ変換のような計算は、この長崎大方式のスパコンは適さない。

B君:やはり、どれほど意味のある計算結果を得るかが最大の問題。

C先生:今回の先進スパコンの説明に、実際に計算に従事している研究者の声で、こんな計算結果が出せるから、これによって地球環境問題や新型太陽電池の設計にも大変に貢献できます、という発言が聞こえてこなかった。

A君:そういうチャンスが与えられていない。

B君:事業仕分けは1時間だからそれは無理。つね日頃、そういう発言が一般市民に対しても聞こえているようでないと。

A君:若手の研究者グループは、「このままでは日本の将来は危うい」と発言しましたが、もっとも危ういのは、国民に対する貢献、地球に対する貢献、あるいは、科学というものによる人類の発展への貢献、という観点から自らの研究を見直すことをしない若手研究者自身にあると思いますね。

B君:それも業績主義の行き過ぎだろう。インパクトファクターの大きな雑誌に年間何報出したかだけで業績が評価されてしまう。

C先生:若手だけではない。最近、大学の先生方の態度・マインドから、社会への貢献というキーワードが消滅しかかっているのではないか、と思う。

A君:今回の事業仕分けが良かったか悪かったかということではなくて、もしもこのレッスンから学ぶとしたら、研究者自身が、自らの声で自らの研究の意味を納税者に説明をしなければならない、ということなのではないでしょうか。

B君:国民目線で自らの研究を見直すということ。これをやらないと、今後研究費は来なくなるということ。

C先生:科学をコストだけで考えてはいけないのは恐らく事実。しかし、なぜそうなのか、という説明を国民目線からしっかりとした上でないと、説得力をもつことはない。
 中世では、科学は音楽や絵画と同じく、貴族の趣味だった。その後、科学は技術を生み出して、実用面でも世の中に貢献した。しかし、そろそろ限界が見え始めている。なぜならば、ハード系の科学が予測したことで、可能なことは、ほぼ実現されてしまったからだ。残っているのは、核融合の原理的検証と実用化ぐらいか。バイオやライフサイエンス関係は、まだまだ科学的に未熟だから、新たな発見があるだろうが、ハード系科学の代表である物理学関連の分野では、今後、実用に繋がるような大きな発見はかなり限定されたものでしかないと考えるべきだろう。化学・材料分野は、開発可能な部分が多少残っているようには思う。

A君:情報関係はどうですか。スパコンも、もしこのプロジェクトが再度認められたとしても、独自の売れないプロセッサの開発になるのでは。

B君:どうも、日本の情報関係には、国際的な標準になるような技術がでない。

C先生:実は、携帯電話を再度検討し、大幅変更に着手しつつある。これまで、NokiaN95を中心に使ってきた。その理由は、Googleカレンダーを多人数で共有すること、外国でも地図を無料(通信しない)で見ることができる、といった理由だった。
 ところが、Nokiaでは、Googleカレンダーを見るとき、いちいち同期しなければならない。それが結構めんどう。秘書が独自判断でスケジュールを入れるようにしているので、外出先でもこれを常時フォローしなければならないのだ。
 そこで、とうとうAndroid携帯にしてしまった。DocomoのHT−03Aだ。Bizホーダイダブルの通信料が高いが、現在所有の他の電話機、e−mobileデータカードとソフトバンク(Nokia)の料金を多少引き下げることでなんとかする予定。

A君:HT−03Aは遅いとか、トロイとかいう噂ですが。

C先生:それほどサクサクした感じではないが、OSが1.6にアップしたからなのかもしれないが、別に不自由は感じない。結構快適。

B君:iPhoneにしなかった理由は。

C先生:Googleカレンダーとの同期が今ひとつ不安だった。iPOD Touchは買ってみたのだが、うまく動作しなかったので。それに、これは毎回言っていることだが、電池が持たない。予備の電池を持てない。さらに、電池が寿命になっても自分で電池を変えられない。これは大々的な欠陥商品だ。毎日充電していたら、電池の寿命は1年しか持たない。

A君:Androidで何か不自由な点は。

C先生:別に。gmailがプッシュで入ってくるし、Googleマップは完璧だし。さらに、磁気センサーがあるので、ストリートビューのときには、携帯の向きまで反映されるし。文字入力もフリップ入力が可能なので、多少練習を必要とするが、効率が高いし。ただ、外国で地図を無料で見ることだけはどうしようもないので、Nokiaはしばらく併用だ。

B君:それでは欠点は無い?

C先生:NokiaN95から電話帳のデータをどうやって移すかを今考えているところだ。このあたり、日本の携帯同士だったら、赤外線ですぐさまできるのだが。

A君:やはり日本とは、特殊な標準が存在している国ですね。

B君:その特殊な標準のお陰で、世界市場とは異なった商売が行われてきた。現時点だとお財布携帯とメール用の絵文字か。

C先生:スパコンも、汎用コンピュータが儲かる間は、ベクトル用CPUの開発といった特別なことをやることもできた。しかし、それができなくなった。もしもやるとしたら国が費用を負担することになってしまった。そこから、今回の問題が始まった。
 だから、今回の問題を、単に来年度予算がどうのこうの、といった近視眼的な目だけで見てはいけない。日本における技術とその国際的な普及という観点、すなわち俯瞰的な視野をもって眺め、国が予算化することの妥当性を評価しなければならない。
 地デジのシステムが南米で採用されているらしい。新幹線も、少なくとも車体に関しては、海外に売れ始めた。英国には電車車両の輸出も行われる。今後、日本の優れたインフラを世界に売る時代になったのに、携帯はその大失敗の例だ。日本のIT関係は、どうも駄目なのかも知れない。
 やはり、Googleのような壮大なビジネスがベンチャーから育つ国である米国の凄さを、新しいAndroid携帯を使っていると感じざるを得ない。