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    持続可能な循環型社会とは 
   06.13.2015
        その本質は何か その1




 これは毎年のことなのですが、東工大の社会人講座で、「リサイクル」という題目で2時間の講義を行います。今年は、6月20日です。

 COP21が開催される年でもあり、そのための日本の約束草案も海外に向けて発表されました。その目標年である2030年は、決してゴールではなく、2050年に中間ゴールが来て、世界全体での温室効果ガスの排出量を40〜70%削減、先進国は、80%以上削減。そして、2080年頃までには、世界全体からの排出量をほぼゼロにするような、最終的なゴールの設定がなされることでしょう。

 このような長期的な枠組みの中で、現在のリサイクルを見直し、今後、長期に渡って有効な対応をするには、どのような根本的原理に則ってリサイクルを設計し直すことが必要なのではないか、と思って、もう一度考えてみることにしました。

 本記事にも、「持続可能な」という訳の分からない形容詞が付いていますが、先日、学術会議におけるFuture Earthの講演会で示した、階層構造をもった持続可能性という意味ですので、その枠組みに沿った議論をするとどうなるか、を考えてみたいと思います。



C先生:リサイクルは、日本人にとって、一つの習慣になってしまった。新しい法律に基づいて、小型家電のリサイクルが平成25年ぐらいから各自治体で動き出しているけれど、これまでのリサイクルの法的枠組みを、今後どのような基本原則で見直すべきなのか、なども見通してみたい。

A君:この話題は、1回では終わりませんね。この手の議論を行うときには、いつもは歴史を振り返ることから議論を始めるのだけれど、今回は、持続可能性の階層構造に則って議論をするということなので、こちらから行きますか。

B君:持続可能性の階層構造といっても別に特別なことではなくて、次の図に示される。最終的な目的は、個人とか家族の生活が持続可能になるような環境条件が成立すること。それには、その下部にあるように、そもそもその居住する地域が持続可能でなければならず、地域といっても、国ぐらいのサイズまでを含むと考えるべきで、すなわち、その国も持続可能でなければならない。それには、地球上の人類社会が持続可能でなければならず、人類の生活を支えている生態系も持続可能でなければならない。そのためには、地球全体の気候など、物理的な条件が大きく変化しないように、地球そのものが平衡系であることが大条件である。


図1 持続可能性の階層構造

A君:これを循環型社会の実現が必要という論点から語ろうということになっているけれど、そもそも循環型社会とは何か、というところがあまりはっきりしていないのです。

B君:循環型社会形成推進基本法では、「循環型社会とは、製品等が廃棄物となることが抑制され、並びに製品等が循環資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われることが促進され、及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分が確保され、もって天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会をいう」、となっている。

A君:その「もって」以下が目的なので、これが実現すれば循環型社会になると考えるのでしょう。となると、
(1)天然資源の消費を抑制した社会
(2)環境への負荷ができるだけ低減される社会
を目的し、その結果として成立するような社会なのでしょう。

B君:(1)天然資源の消費を抑制した社会ということは、「資源をできるだけ掘るな・採取するな」ということだと思えばよいか。そして、(2)環境への負荷をできるだけ低減せよ、ということは、全く資源を使うなとは言えないので、循環使用になるのだけれど、できるだけ「地球への負荷が少ない循環手法」を採用することによって、長期持続性というより上位の目的を達成せよ、と読むべきなのだろう。

A君:要するに、できるだけ、
(1)「資源を掘るな・採取するな」
(2)「地球への負荷が少ない循環手法を使え」

ということ。
 しかし、この両者は、厳密に言えば、並立の関係にはないですね。(2)が完璧になれば、(1)は自動的に成立すると考えるべきで、そうなれば、(2)の目的が完成する、言い換えれば、理想的循環手法が完成すれば、それで目的達成ということになるのでしょうね。しかし、現実を見るとそうはいかないので、二つ条件を提示することになるのでしょうね。

B君:図1の持続可能性の階層化を考えたときに、第一層(最下層)の地球の持続可能性は、ほぼ気候変動防止と同義であるとし、温室効果ガスの排出量をゼロにすることがゴールだとした。一方、第二層の人類社会の持続可能性は、主としてHerman DalyのSteady Stateの実現を拡張して、それをゴールだとした。この場合だって、全く違うことを言っているのか、それとも、同じことを違う表現で述べているのか、といった検証が必要になる。

A君:それは、実例を考えるということになるのではないですか。何を循環させるかによって、ケースが違うかもしれないので。

B君:お得意の実証主義。まあ、良いだろう。どう分類する?

A君:それは、まず第二層の人類社会の持続可能性は、実際には、人類と地球資源との関係を記述するものですが、前回Future Earthの発表において使った分類で良いと思います。

表1 定常状態と言える人間活動 
Herman DalyのSteady State Economyを大幅に改変


1.再生可能資源(漁業・林業等)は:
 再生速度の範囲内での採取に留める
2.非再生可能資源は、
2−1.化石燃料であれば:
 一部を再生可能資源に転換する
2−2.鉱物資源であれば:
 自然エネルギーを用いて再生する
3.環境汚染や廃棄物であれば:
 地球の処理速度の範囲内でのみ排出する


B君:漁業・林業資源の循環ということになると、漁業の場合には、確かに再生速度の範囲内での捕獲に限れば、まずは良さそうではある。これが資源獲得面での重要な結論。
 しかし、廃棄物をどう考えるか、になると、中国におけるサメ漁のように、高価なヒレだけを切り取って、他の部分は海に捨てるという方法論が良いのか、サメ肉を蒲鉾の原料とし、残った部分もとことん使うという日本流の使用法がより良いのか。

A君:簡単に「日本流がベスト」とは言い難い部分はありますね。中国流に捨てられたサメの一部は、当然、小魚などに食べられて、最終的にはサメとして再生しているけれど、日本流だと、最終的に不要部分が産業廃棄物として焼却され、焼却灰が埋立られているとしたら、さて、どちらが本当の循環に近いのか。

B君:かなり人間社会内部の問題になる。そもそも、漁業廃棄物をその場で海に捨てるという方法論は、ロンドン条約ではどういう解釈になっているんだろう。

A君:海洋投棄を規制する国際条約であるロンドン条約では、漁業の残渣は、投棄を検討してもよい対象になっています。条文レベルで言えば、「投棄することを検討することができる廃棄物その他の物(リバースリスト)」の一つというものになります。

B君:物質が地球レベルで循環することを考えると、海から採取した元素を陸上に埋め立てるということは、循環の輪を切る可能性が高いと言えそうだ。もっとも、川を経由して、最終的には、また海には戻るかもしれないのだが。

A君:まあそうですよね。特に、廃棄物として埋め立てると、そこに元素を貯めこむイメージが強いですね。焼却灰だと最終的に不溶化される、あるいは、溶出物も処理される感触なので。


再生可能エネルギー関係のリサイクルが重要に

B君:表1の定常状態と言える人間活動を考えるとき、その資源の特性によって、1か2を考え、いずれの資源についても、一旦、人間界に入れば、かならず廃棄されるので、3は常時考えるということになる、ということのようだ。

A君:2.の化石燃料の場合を考えると、ある量の化石燃料を採取した場合には、その一部を使って、再生可能なエネルギー獲得のために使うべきというのが中身です。

B君:太陽電池とか風力発電とか、その他の再生可能資源の設備を建設には、そのための資源の獲得時にも、組み立て時にも、そして、最終的な廃棄時にも、必ずエネルギーが必要になるので、そのためのエネルギーとして使用するべき、ということを意味する。

A君:これは正しいでしょうね。しかし、循環型社会にするには、太陽電池とか風力発電とかの設備・装置が寿命になったことを考え、それを無駄なく再生し、できれば、再度太陽電池とか風力発電に使えるようにするということが重要だということを意味しますね。

B君:循環の理想は、やはりクローズドループリサイクルなので、元の製品に戻るのが資源の非劣化的な利用法だと考えられるから、当然だ。

A君:太陽電池の構成物としては、太陽電池の本体は、シリコンがもっとも多く、その他、薄膜型が何種類かあります。アルミなどの金属は確実にリサイクルされるので、現時点で循環への配慮が必要なものは、むしろガラスです。その他の金属による構造物もリサイクルが可能。ガラスは、高級品向けには、鉄分を少なくして光吸収を減らした組成のガラスが使われます。強度を高めるために、熱処理による強化が行われる場合もあります。いずれにしても、ビルに使われるガラスよりも、組成的に高品位ですから、これを再利用しない手はないですね。

B君:窓用のガラスは、若干、光吸収があっても、性能面での影響があるとは言えないが、太陽電池の場合であれば、光吸収があると、発電量に直接影響するので、当たり前だけれど、機能的に優れたガラスを使う必要がある。組成を高度に制御した製品を、捨てるのはもったいない。もっとも良いのは、また、同じ用途に使うこと。

A君:最近、太陽電池のリサイクルは話題になっているようなので、もう少々寄り道をしましょうか。
 報告書が、平成26年3月に環境省と経済産業省の共著で発行されています。
http://www.env.go.jp/recycle/report/h26-02.pdf

B君:太陽光発電協会というところもリサイクルについて情報発信をしている。
http://www.jpea.gr.jp/document/handout/q_a/index.html
 これによれば、使用済み太陽電池モジュールの処理処分で一般的なフローは、次のようだ。「当協会が見聞した事例では、次のような処理をされたものがあります。
アルミ枠を外す → 残りの部分を細かく破砕する → 非鉄製錬所の炉に、他の物と混ぜ合わせて投入 → 金属で回収できるものは回収し、燃え残りのスラグはセメント材として活用する → 埋立物はない

A君:これだと、ガラスがリサイクルされていない。これはもったいない。

B君:しかし、同じサイトでの記述によれば、「ガラスとセル、バックシートが固着したものについては、これらを分離できれば、それぞれの物性にしたがった適正処理・リサイクルを行うことになります。」とあるが、これができないので、非鉄精錬所の炉にすべてを投げ込む。金属として回収できるものはが何か、といえば、そのデータが、上記の環境省と経産省の報告書のp36の表3−6にあって、単結晶、多結晶、薄膜系などの多くの種類の太陽電池の製造年別のデータがでている。
 それによれば、共通してある元素が、銅、スズ、銀で、年代によって大きく異なるのが、鉛だ。

A君:鉛は、ハンダ成分でしょうね。ハンダが無鉛になったのは、EUのRoHS指令の影響ですね。鉛は、2006年の7月1日から電子・電気機器に使えなくなった。といっても、含有量は0.1wt%以下が基準なので、完全にゼロではないですが。

B君:0.1wt%とは、ppmにすると1000ppmか。2010年以降に作られた製品にも電極に5500ppmという製品があって、これは何だろう。
 まあ、EUへの輸出はされないということなのかもしれない。そもそもRoHS指令というものが何か、という議論とも関係することでもあるが。

A君:RoHS指令は、「鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル、ポリ臭化ジフェニルエーテルの電子・電気機器への使用が原則として禁止」というものですが、その根拠に、なんらかのリスク評価が行われているというものではないですね。

B君:RoHS指令とは、むしろ、電子電気製品の解体が、途上国で行われるとしたときに、仮想的なリスクに対して対応したという考え方だと思えば良いのかもしれない。もちろん、非関税障壁ではあったというのは事実なのだけれど、比較的簡単に対応できてしまったので、実際の障壁にはならなかった。むしろ、RoHS指令以前の話なのだが、ソニーのPlayStationの初期モデルPS Oneが、オランダの重金属規制のCdの基準に引っ掛かって、かなりの経済的なダメージを受けたという歴史的事実だけが残っているような状況だ。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120118/203709/

A君:それは、規制値がどうのこうのというよりも、サプライヤーからの報告書にCdはゼロと書かれたいて、それをそのまま信用したという管理体制の問題だとされているのでは。

C先生:放っておくと、どんどんと脱線するな。太陽電池のリサイクル、特に、ガラスのリサイクルが重要だという話を終わると、次の話題は何なのだ。

A君:はいはい。元に戻ると、再生可能エネルギー関係の機器のリサイクルが重要という話でしたので、「風力発電関係のリサイクルが重要か」、これが次の話題でした。

B君:この話も、前出の報告書のp73からに記述されている。
 部品、部材のリユースが重要とのこと。例えば、タワー、ナセル、ブレード、電機機器など。中古品の発生時期と需要側のニーズが合致すれば、市場ができるのではないか、という予測になっている。
 あるいは、車のパーツのように、リビルトヒン市場といったものもできるかもしれない。

A君:タワー+基礎は建築物だと思う。それ以外は、電機機器は重電用のものだと思えば良いし、ブレードは複合材料なので、なんとか修理。というように、どうやらリユースを優先した取組が良いみたいです。

B君:そのためにもしもエネルギーが必要になれば、それは再生可能エネルギーを使うこと、という条件は、いつでも生きている、という理解が必要不可欠。


地球温暖化と人間活動の限界との重なりと原理的な相違

C先生:ということで、第二層を終わって、最下層の話に行きたい。この最下層の地球温暖化は、第二層とはやはりかなり性格が違うと思うのだけど、どこがもっとも違うのだろうか。

A君:それは、太陽という恒星からのエネルギーのフローがもっとも重要だということですね。

B君:第二層の話ならば、その根底に存在する物理量として考えなければならないものがエントロピー。少なくとも、物質・材料などを使っているうちに廃棄物になる。それを集めると不純物がいつのまにか混じる。すなわち、エントロピーが増大する。それを通常の化石燃料のようなエントロピー増大を伴うエネルギーを使って再生していたら、何がなんだか分からない。そこで、再生可能エネルギーのようなエネルギーを使って再生をすれば、エントロピーを純粋に減らすことが不可能ではない、という理論になるか。

A君:最下層では、温室効果ガスが問題になりますが、この問題の熱力学的な解釈は、エントロピーではなくて、むしろ、エンタルピー項で説明すべきことだとなるのではないですか。

B君:このような議論は、真面目にやったことが無いけど、正しい理解だ。

A君:エンタルピーといっても、多くの人にとっては、聞いたことのない量でしょうが、そのうち、チャンスをみて詳しく議論したいと思いますが、熱量(=エネルギー量)とほぼ同じだと考えてください。地球は、莫大な太陽からの光エネルギーを受けていますが、その量は、人類が消費しているエネルギー量の12000倍ぐらい。
 そして、地球が、太陽から受け取った熱量と同じ量の熱量を、赤外線の形で宇宙に向かって放出していたのが、人類が温室効果ガスを大気に放出する以前の話。当然、温度は上がりません。なぜなら、地球が溜め込むエネルギーがゼロだったから。
 ところが、温室効果ガスを放出することによって、大気が地球が放出している赤外線を吸収するようになってしまった。大気中の温室効果ガスが熱を吸収すれば、温度が上昇すると同時に、当然、同じ量の熱を、あらゆる方向に向かって放出するようになる。ということは、放出された熱の一部が、地球方向に戻ることになる。これによって、地球がエネルギーを貯めこむという現象が起きて、上昇してしまう原因。

C先生:本日の議論は、かなり偏っているし、これですべてという訳ではないことが分かった。まだ、議論を続ける必要があるだろう。
 一つ、議論を要することとしては、最下層と、第二層を支配している物理量が、それぞれエンタルピーとエントロピーと違うものだという指摘か。
 そして、その上の第三層になると、はじめて、人間という要素が入ってくる。層の厚みとしては、この第三層が持続可能性の大部分を占めるほどなのだけれど、その内容が上手く整理できていない。
 この第三層をより細かい分類をして、合理的な方法で何層かに分けることが、今後、持続可能性のより詳細な議論にとって必要不可欠だと思う。本日の議論は、ここで止めるが、すべての持続可能性に関わる研究者がチャレンジすべきことは、この第三層を支配している物理量と人間的ファクターを基礎として分析し、なんらかの多層構造であることを明らかにすることのように思える。