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  持続可能性とデカップリング 04.04.2004



 韓国Jeju島におけるUNEPの会議にでてみたが、そこでも持続可能性などについて若干の議論は行われている気配を感じたものの、特段、新しい動きは無いように思えた。持続可能性ということを余りにも厳密に議論すると、様々な対立関係が明確になることも事実であり、そのためいささかぼんやりさせたままにしておく方が良いという判断が働くことにも妥当性が無い訳ではない。
 さて、それはそれとして、持続可能性という言葉で語られることを、なにもかもデカップリングという言葉で語ることが可能であるのではないか。本日はその話。


C先生:本日の話題は、いささかマニアックかもしれない。持続可能性という言葉を、これまでは、全く別の表現をしてきた。しかし、今回、デカップリングという言葉によって持続可能性という内容を記述することが可能であることが分かってきた。そこで、その可能性について、議論をしてみたい。

A君:デカップリングの復習は、すでにHPに記述してあるので、そこを見て欲しいと思います。
Decoupling.htm

B君:通常の認識では、経済活動には、エネルギーの消費、したがって、二酸化炭素排出を伴う。すなわち、経済規模を拡大しようとすると、二酸化炭素排出の増大が起きるのが普通である。しかし、このような産業構造・社会構造のままでは持続可能型の社会・経済とは言えない。そこで、二酸化炭素の排出量を減らしながらも、経済成長を行うための方策が必要となる。二酸化炭素は減り、経済は増える。すなわち、ベクトルとして見たときに、これまで同じ方向を向いていたものが、異なった方向を向くようになる。これをデカップリングと呼ぶ。

C先生:今回、このデカップリング論を拡大することにした。それには、そもそも経済成長はどうやって起きるかということを再確認しておく必要がある。

A君:しかし、経済には多数の段階がある。全く経済的な基盤が無いところから、経済的な成長をするのは極めて難しい。

B君:日本の場合、第二次世界大戦終了後、経済の回復がかなり速やかに起きている。それは、一つには、教育レベルなどが高かったこと、また、市民の手に武器が無かったことによって、社会的な秩序の回復が早かったことなどの要因があるだろう。

A君:内戦状態に近い状態になるのが、やはり最悪ですからね。

B君:だから、第二次世界大戦以後の日本は、途上国のモデルとしては不十分だと思われる。

A君:全く経済の無い状態から、というと、大分前にちょっと計算してみたら、1997年ぐらいのデータだと、西アフリカのチャドという国が、二酸化炭素効率が最大でしたね。すなわち、工業がほとんど無いから、若干の農業のみによる経済活動で、となると、二酸化炭素発生量は極めて少ない。

B君:そんな状態から経済を立ち上げるには、やはり農業を中心とした段階がまず絶対的に必須。それによって、食糧を供給しなければならない。それには、土地が必要。水も必要。農業技術も必要。

C先生:農業がきちんと機能すれば、それはある意味で第2段階へ突入ということだろう。経済の最初は、自然から資源を収奪することによって始まる。これが、現時点で言えば、二酸化炭素発生に相当することだ。

A君:自然収奪と経済が並行状態にある。この段階を乗り越えるには、デカップリングが必要ということですか。

B君:そうだとすると、経済発展と並行になるいくつかの量を定義して、それとのデカップリングを議論するということになる。

A君:いくつかありますね。まずは、環境汚染。これは、環境クズネッツカーブについてすでに議論をしていますが。
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/EKuznetsCurve.htm  09.16.2001

C先生:そこでの議論は、環境汚染は、クズネッツ流のカーブになるが、二酸化炭素排出については、そうなるかどうか不明というのが結論。その結論は現時点でも正しいが。

B君:次にいくが、自然災害による被害というのはどうだ。

A君:そうですね。経済が発展すると、当然のことながら、居住地が都会などへ移る。そのとき、危険な場所などへの居住が開始されますから、まあ、正しいのでは。

B君:ただ、最初から経済との並行性が高いとは言えないかもしれない。

A君:開発と称して生態系を破壊する行為はどうですか。例えば、観光用の林道を作るとか、発電用と観光資源を兼ねてダムを作るとか。

B君:それはありそうだ。この生態系破壊は、経済発展初期段階における自然からの収奪とはいささか違うよう見えるが。

A君:生態系破壊タイプその2とでも。

C先生:ここいらへんまでの要素については、すでに、先進国ではデカップリングが行われつつあるようだ。日本でも、長野県のダム無用論、米国におけるダムを破壊しての生態系回復、などの動きがあるから。

A君:もう無いのでしょうか。

B君:個人のライフスタイルにバラエティーができるというのはどうだ。エコライフと多消費ライフの差で評価。

A君:その差で評価というのは、もともとクズネッツが議論していたのが所得格差ですから、ある意味で当然。差で評価するのは無しにしましょう。

B君:となると、さて。環境汚染がきて、自然災害による被害、そして、生態系の破壊か。一つありそうだ。生態系破壊と同じことなのかもしれないが、ごみの最終処分量というものはどうだ。

A君:それはYesですね。日本では、1991年に最終処分量が最大。それ以後、リサイクル法などの整備、最終処分料金の高騰などの理由によって、最終処分量は、12年間で半減しました。

B君:ごみ処分に関しては、生態系保全が半分、リサイクルと処理費が半分、といった感じ。ということで、生態系の破壊的利用その2に加えることにしたい。

A君:さて、まだあるでしょうが、見つかったら追加するということにしないと、次に行けない。

C先生:まあ次に行こう。となると、残りは今後の問題。最大の問題であり現実的な問題である二酸化炭素排出量と経済とのデカップリング。そして、その次に来るのが、エネルギー・資源使用量とのデカップリング。これで多分終わり。空間使用量といったものも考えられなくは無いのだが、自然改変を伴うものは、生態系の破壊に入れてしまったので、可能性が高くは無い。

A君:自然からの収奪、環境汚染、自然災害による被害、自然改変、二酸化炭素、エネルギー・資源。今のところ、全部で6種類。

C先生:とりあえず、その6種について、図を描いてみた。

図1:発展段階と6種類のデカップリングの図。多少整理して、4種類の問題領域を設定。

C先生:6種類のデカップリングのうち、多少似たものが隣にあるもので、まとめて4種類の問題として考えることにした。

A君:なるほど。なんとなく分かりやすいですね。

B君:イメージが掴みやすい。

C先生:次の仕事は、そのデカップリングを起こすためには、一体何が必要か、ということだ。

A君:その4種類によってかなり内容が違うでしょうね。必要となる要素が。

B君:それはそうだ。大体、最後のデカップリングを起こすために新たに追加する物などは、無い。

A君:物は無いけど、非物質は多数必要。

C先生:先走らないで、順番に。

A君:はいはい。それでは、自然収奪経済からのデカップリングに必要なものは。

B君:いくつかのジャンルに分ける必要があるのは事実だが、とりあえずフラットなリストから。
1.人間が制御できる空間があり、
2.そこに農作物を植えて、
3.技術的な情報を元に
4.周囲のバイオ資源を元に肥料を作成
5.若干の物質とエネルギーを投入し
6.なんとか農作物を作る
ただし、こんなことで経済が発展するためには、テロやゲリラ活動があってはだめだから、
7.安定な社会があり、
8.努力をすれば報われるという制度があり
9.その国に適した技術が使えることが重要
このようなことが実現するには、
10.教育・情報が必須であり
11.自立のためには、現地におけるいわゆる能力開発が必要不可欠

C先生:そんな感じだな。それを資源関係、社会制度・無形物、教育に分けて、図2に書き込んで見た。

図2: 発展初期段階のデカップリング。

A君:技術を無形物に分類するのは、いささか問題ではないですか。むしろ資源関係なのでは。

B君:技術は買える。だから資源と同様のものとも言える。しかし、情報も買える。となると、無形物として分類すべきかもしれない。

C先生:まあ、どちらと断定するのは困難だから、一応、どこかに書いてあればそれで良い程度の分類のつもりだ。同様に、図3、図4、図5を作って見た。

図3: 日本ではすでに起きたデカップリング。 

図4: 現時点で起きつつあるデカップリング。最終処分地なども含む。

図5: 最終のデカップリング。物質/エネルギーからのデカップリング。

A君:図3、図4は良いとして、図5になると、追加投入資源が無くなってしまうことが面白いですね。

C先生:むしろ投入資源は減らすので、△をつけて書くべきかもしれない。

B君:まあ、大体の感覚は分かったけど、この理論が本当に成立するのかどうか、それは極めて疑問だ。というのは、(1)もしもこのスキームに則って環境問題が解決するものだとしたら、地球上のすべての国において、平均所得5000ドルぐらいにならなければならない。そこまで行くだけのエネルギー・資源が地球上に存在しているだろうか。(2)先進国経済が資源・エネルギー消費からのデカップリングを果たすなどということが、本当にあるだろうか。二酸化炭素排出からのデカップリングは、多少なら可能だと思うが。

A君:その問題(1)は、大変むずかしい問題だと思いますが、誰かが明確に回答を出す必要があるでしょう。勿論設定条件が影響しますが、継続期間1000年、人口80億人では難しいような気がします。

B君:この問題に解答が無いとしたら、地球上における貧困の解消は、向こう1000年間に渡って、不可能だということになる。しかも、1000年以上先には、さらに条件は悪い。

A君:核融合技術でも完成すれば、話は別かもしれませんが。

C先生:今のままのような環境の状況だと、やはり解決は無いのかもしれない。最近、温暖化の影響で地球が寒冷化するというメカニズムがヨーロッパの一般社会にも多少浸透し始めた。北極海の氷が解けて北大西洋に流れ込み、冷たい海水が北大西洋の表層を覆うと、メキシコ湾岸流がノルウェーまで届かなくなる。英国でも6〜10℃気温が下がる。といったもの。

A君:米国へも被害が出るということになれば、次の大統領選挙の争点になって、米国の態度も変わるかもしれませんね。

B君:ケリー氏が、どんな政策を取るか、いささか不透明だが、ブッシュ大統領が辞めれば、多少長期的な見方をする人々が増えるかもしれない。

C先生:紛争を起こして自らの政治的な立場を強化すること、これは愚劣。ロンボルグに叱られるかもしれないが、地球環境の悪化を口実として、先進国の経済のデカップリングを実現する方が、良いだろう。地球への負荷は確実に減るだろうから。