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     TCFDへの対応が広がる   10.21.2018
       投資家が温暖化対策をますます重視

     



 最近(2018年4月号から)、雑誌名を変えた日経ESG(元、日経エコロジー)が、このところ、企業の環境対応にとって重要な情報を掲載しはじめました。それは、2015年のSDGs、パリ協定、GPIFのPRIの調印、という3大変化にようやく対応する形になったと言える変化でしょう。

 最初にビジネス界に普及したこと、それはSDGsに取り組んでいる姿勢を示すことでした。SDGsが包含する課題は非常に広いので、自社に関係するところをいくつか選択して取り組むことは簡単なのです。しかし、それでは、本当の満足感が得られない可能性が高いと思っています。本気で取り組むには、SDGsが、実は、Transforming Our Worldを目指しているということを十分意識して、自らの組織もなんらかの変化ができるように、様々な対応をすることで、担当者などの満足感が高まることだろうと考えています。

 SDGsへの取り組みが普及し、今や、環境問題と言えば、その大部分がSDGsとパリ協定対応ということになりました。環境と言えば、企業が主に公害対応をしていた、などという時代がかつてあった、などと考えられないほどの変化ではあります。勿論、ベトナムでは、いくら経済発展が著しいとは言っても、まだまだ公害対策が重要な意味を持っています。しかし、先進国は、ほぼ公害問題から卒業したので、現時点での最大の問題は、気候変動問題のみだと言い切って良いのでしょうね。

 しかも、気候変動問題も、言い換えれば、その本質はCOゼロを目指す新産業革命なのですが、これは、サイエンスを身に着けたあらゆるエンジニアリングを動員して、それこそ新しいイノベーションを創出しなければ解決不能です。さらに言えば、気候変動がある程度は起きることを想定しなければならない時代になったとも言えるのです。

 ビジネス界で対応すべき気候変動対策と言えば、当然、COの排出削減であり、言い換えれば、パリ協定への対応であるのは事実でしょう。これには、これまでのビジネスの形態をかなり変化させなければならないし、場合によっては、続行不可能なビジネスも発生すると考えられるのですが、皆様は、その点をしっかり議論されているのでしょうか。そして、RE100や、SBTなどにも対応をすることを考慮しなければならなくなりましたが、こちらは大丈夫ですか。

 これらに加えて、今回の話題、TCFDの最終報告書が厳しい要求を掲げて登場したのが、1年以上前ですが、これを、これまでの延長線上、あるいは、これまでと同じ状況だと言って良いのでしょうか。それが投資を呼び込むための必須条件になったから、で済む問題とも思えないのです。

 まだ先が有ったのだ。これが、個人的には正直な感想です。TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の最終報告書によれば、金融関係者に、自らの企業を良い投資先だと判断してもらうには、気候変動が今後さらに進んだ場合でも、そのビジネスが消滅しないことを示すことが必要になったのです。例えば、河川が氾濫することが増えることは、最近の日本の自然災害を見れば、明らかです。となると、近くの河川が氾濫したとしても、ビジネスが継続できる体制を維持できるか、これが問われるのだ、という意味になります。これは、投資家にとって、確かに気になることでしょう。

 このTCFDという組織が、完全な民間団体であれば、特に問題はないと考えられなくもないのですが、後述するようなかなり公的な背景を有する組織なのです。

 投資家のこのような要求は勝手だと言うのは簡単でありますし、かなりの部分がその通りではあると思っています。これまで、本、WebサイトでTCFDのことを取り上げてこなかったのは、なんとなく、そのような感触を払拭できなかったからでもあるのです。しかし、投資家はリスクを判断するという本能を持っていると思うべきなのかもしれません。その本能に基づいて、要求されたなんらかの事項は、もし自分自身が企業経営者であったとしたら、自らの持続可能性を増強できると思うことを、隈なく実行した方が安全であることは、まぎれもない事実ではあるのですが。

 というやや矛盾する本音と理解に基づいて、今回は、TCFDの話題を初めて取り上げることにしました。なぜなら、ビジネスの世界では、強者が勝つのは当然。したがって、自ら強者になることを常に考えていないとならないのです。個人的には、そんな世界に生きなくて良かった、と本当に思いますが。もっとも、学者の世界も、最近は、強者が勝つのが当然ということでは、世間と同じになりました。もはや、象牙の塔などではないのです。象牙は、取引禁止物品ですし。。。


C先生:このところの地球全体での異常気象によって、かなりの国々が被害を受けているのが現状。日本の場合だと、今年7月の西日本豪雨(前線および台風7号)での総降雨量が四国の高知県馬路村で、日本人の平均身長をはるかに超す1852.5mm、1時間降雨量では沖縄県宮古郡での129mm、その前の年の九州北部豪雨など、考えられないほどの被害がある地域に集中した。台風による被害もこのところ連続している。今年は、台風による暴風と高潮の被害もすごかった。台風21号による暴風の記録だが、瞬間最大風速が関空島でなんと58.1m/s

A君:このところ、台風の勢力がほとんど弱まることなく、日本列島にぶつかってきます。これは、海面温度が高いためで、一般に27℃以上だと、台風は勢力を強めるとされています。この図が、台風21号のときの9月4日11時での海面温度。室戸岬のちょっと南の海面温度が28〜29℃ぐらいだったのでは。

★海面温度を知るには:
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/sst_HQ.html

B君:恐るべきことだ。近未来にはもっとひどいことになるだろう。C先生は9月4日には、まだアイルランドから帰国していなかったけど、大阪の風の強さのビデオは、見るだけでも本当に恐ろしかった。

A君:これが、今後、温暖化がさらに進むと、まさに、トンデモナイことになるという予測は完全に正しいでしょうね。

B君:その通りだろう。本ページでは、これまで取り上げてなかったのだけれど、TCFDという組織が各企業に、温暖化がさらに進展したときの、自社のビジネスに対するリスクをまとめて、開示するようにという推奨を行っている。

A君:TCFDを理解するには、Webの環境省サイトにあるパワポが分かりやすいですね。ただ、アドレスが妙なので、次をキーワードとして検索していただきたい。パワポのファイルがダウンロードできます。
 TCFD提言(最終報告書) - 環境省

B君:TCFDとは、フルスペルをすると、非常に長い組織。The Financial Stability Board Task Force on Climate-related Financial Disclosures で、TCFDは、おそらく、Task_force、Climate、Financial、Disclosuresの頭文字を並べたもの。

A君:経緯が説明されていて、G20の財務大臣・中央銀行総裁が金融安定理事会(FSB)に対して、金融セクターが気候関連課題をどのように考慮すべきか検討するように要請し、金融安定理事会が、COP21の開催期間中に民間主導によるTCFDを設置

B君:その設置目的は、投資家に適切な投資判断を促すため。これが最大の目的。お金を持っている人が強いのが、現実社会の実像。投資家にとって有用な、一貫性があって、比較可能、かつ高い信頼性と明確性をもった気候関連の財務情報開示を企業に促すことを目的としたのだ。そして、2017年6月、自主的な情報開示のあり方に関する提言(TCFD報告書)を公表した。

A君:実際には、3冊からなっているようで、最終報告書と呼ばれる本文、それに付属文書として、銀行、保険会社、アセットオーナー、アセットマネージャーの4種の金融関係向け文書と、エネルギー、運輸、原料・建築物、農業・食糧・林業製品の非金融関係向けの文書があるようです。さらに、”シナリオ分析”を活用すべきだということになっているようで。

B君:”シナリオ・プランニング”というものもあって、それは、Shellが石油ショックが来ることを予測して適切な対応ができたが、そのときに採用した方法として有名。シナリオ分析とシナリオ・プランニングはどこが違うのだろうか。

A君:確かに。似たものだとは思いますが、ちょっと調べましょうか。ああ、分かりました。英語版のWikipediaによれば、次のように記述されています。
 Scenario planning, also called scenario thinking or scenario analysis, is a strategic planning method that some organizations use to make flexible long-term plans.

B君:要するに、同じものだと考えて良いのだな。もっとも、シナリオ・プランニングにしても、決まった方法論があるというものでもないのだが。このあたりは、本Webサイトでも4回ほど取り上げた。
◆2018年4月5日〜5月5日
●シナリオ・プランニング人材の能力
●シナリオ・プランニングの哲学書?
●シナリオ・プランニングの実践書
●シナリオ・プランニング実践編


A君:TCFDの最終報告書によるシナリオ分析は、いささか条件を付けているのですね。まず、4つの基礎項目について検討せよ。それは、(1)ガバナンス、(2)戦略、(3)リスク管理、(4)指標と目標
 そして、当たり前なのですが、過去のトレンドに基づくのではなく、将来起こりうる変化への対応力重視、気候関連シナリオ分析の活用を低減。

B君:TCFDの発行による技術的補足書というものを読んで見れば確実だ。英語版しかないだろうな。

A君:検索しても出てきません。勿論、英文のTCFDによる文書は、次のサイトからダウンロード可能です。
https://www.fsb-tcfd.org/wp-content/uploads/2016/11/TCFD-Technical-Supplement-A4-14-Dec-2016.pdf

B君:割と短いな。Introductionから読み始めても、まあ29ページ読めば良いとも言えるね。

A君:ざっと見たところだと、シナリオ分析については、何も新しいものではないのですが、それに、IPCCのAR5にあるRCP(Representative Concentration Pathway)が出てきますが、むしろ、こちらの勉強はしないと

B君:もしも、パリ協定が本当に遵守されるとしたら、RCP2.6のように削減されるので、0.9℃から2.3℃ぐらいの気温上昇で止まるが、もし、パリ協定が全く効果を発揮しなければ、最高3.2℃から5.4℃の気温上昇が起きて、かなり多くの国で、海面上昇による国土の喪失が起きるね。これは最悪だ。

A君:当然、台風などの勢力ももっと大きくなって、どうやって地球上に住むのだろう、といった感触になるのでしょう。悪くても、RCP4.5を遥かに下回る削減が実現されないと、平和ではないと言えますね。常に、自然災害と戦うことになってしまうので。

B君:かなり多くの企業人にIPCCの第5次報告書の勉強をしてもらうのも、悪くはないかも。少なくとも、日本に相変わらず生存している「温暖化懐疑論」が、完全に消滅するだろうから。

A君:ただし、RCP8.5の3.2〜5.4℃上昇するシナリオでも、企業が安全に存在し操業できるような対策を求められると、多くの国で、投資対象から外れるという結果を生み出すでしょうね。それは不幸に繋がりそうですね。

C先生:このあたりで終わろう。今回の話題の最大の問題点は、TCFDのお陰で、投資先のリスクが分かるのは良いとして、すべての投資が、「我が社のリスクは低い」と書いた企業にだけに集中するという事態が起きることだろう。財務報告書の記述が本当に正しいのか、それを誰が検証するのか、という問題が残るという話だ。
 これを問題にする意味だけれど、TCFDの最終報告書が生み出した企業のリスクは、気候リスクを取り扱うコンサルなどにとっては、チャンスだということだ。しかしも、企業のリスクとしては、対策のやりにくい企業には致命的な状況を生み出す可能性が高いということだ。例えば、ある種の製造業のように、COの排出量を下げることができないところもある。あるいは、現在の工場の周辺の状況が、洪水などのリスクが高まることが当たり前のような状況であれば、ある意味で、救いようがないとも言える。
 そのような状況であることをその企業の経営者が自認している場合に、最終報告に従って、自社の未来に対して、シナリオ分析(シナリオ・プランニング)をやるだろうか。やったとしても、その結果を正直に書くだろうか。どうも、強い持てる者(投資家)が、弱い者(経営者)をいじめる新たな仕組みができたような気もするのだ。これって、一種のパワハラなのではないか
 TCFDへの対応をする企業に対しては、なんらかのメリットを作らない限り、実施するのは安全性が確保できている大企業に限られる、という結果にならなければ良いのだが。
 もっとも、ビジネスなどは、常時、パワハラの世界だという理解が不可欠なのかもしれないけれど。