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   台湾2025年までに原子力離脱
     
問題は、2030〜2050年 10.29.2016
               



  10月23日の朝日新聞は、以下のように報じました。
1)原発ゼロを公約として就任した蔡氏が政策のかじを切った。
2)台湾の原発は2025年までに40年の稼働期間が満了となる。
3)台湾の電力は、公営企業である台湾電力が独占していた。
4)再生可能エネルギーについては、発電と売電事業を民間に開放する。
5)台湾電力を発電会社と送売電会社に分割。その後、法改正を行い、発電については、民間へ解放。
6)2025年における電力の内訳を、石炭発電30%、天然ガス発電50%、再生可能エネルギーを20%とする。(2015年には、石炭30%、天然ガス50%、原子力14%、再エネ4%、その他2%)といった割合である。
7)再生可能エネルギーについては、電力購入価格の20年間保証や融資優遇策などで民間投資を呼び込む。


 このような政策は、2025年に不可能とは言えませんが、問題はそれ以後でして、それが解決可能かどうか、と言われれば、相当な覚悟と予算と電力料金の値上げが必要なのではないか、という結論になりそうです。


C先生:台湾は、蔡氏という脱原発政権に変わったので、原子力政策も当然変わると考えられていたが、それが現実の政策になりつつあるということだろう。

A君:まずは、台湾の場合の問題点ですが、以下のようにまとめてみました。

 1.発電を民間に開放したとしても、投資リスクが高いので、日本のように、今さら石炭発電が増えてしまう結果になるか、あるいは、かなりの価格優遇(やはりFIT?)をしないと参入者がいないのではないか。
 2.価格優遇をすれば、その分、電力価格は確実に増大する。
 3.台湾は国連加盟国ではないので、パリ協定の枠の外であるが、それでも、「気候正義」に対応しない国であると判断されれば、島嶼諸国や海岸線が脆弱な国などとの経済的な関係が壊れる。どのぐらい、対応することを考えるのか。
 4.3.と関係して、2050年の低炭素化対応へのビジョンがどのようになっているのか。
 5.その後の対応は、かなり先であるが、やはり、長期的な予測が不可欠。
 6.ちなみに、日本の2030年度における電力のエネルギー源による構成は、石炭26%、石油2%、LNG27%、原子力22〜20%、再エネ22〜24%を目指している。そのため、2025年の台湾の電力構成は、日本の2030年よりも安定な電源構成だと言えるが、問題は、その後である。


B君:そもそも、台湾という国がどのような地理的な条件を持っている国であるのか、その検証からはじめないと、再生可能エネルギーというものの議論ができないのだ。

A君:まあ、いつもの話ですが、ヨーロッパが国を越えた電力の輸出入をやっていて、そのための電力網が整備されています。台湾は、日本と似たような地政学的な状況にある国なので、ヨーロッパと同じことができる訳ではないです。

B君:再エネ電力は、基本的に不安定。この重大な問題を解消する仕組みが(1)広域電力網、(2)電力貯蔵、(3)エネルギー貯蔵。2030年ぐらいまでだと、(2)と(3)を分けて考える必要はないけれど、エネルギーインフラを整備するには、すぐ20年ぐらいたってしまうので、そろそろ考えておかないとダメだろう。

A君:それでは、基本的なことですが、台湾の地政学的な状況の再確認から行きますか。

 (1)位置:台湾は、北端が北緯25.30度、南端が北緯21.97度、北回帰線は23.26℃なので、台湾の真ん中あたりを通っている。すなわち、南部は熱帯だと言える。
 (2)面積:36193km2
≒九州(除沖縄)の面積で、日本の10分の1
 (3)最高標高:玉山 3952m、全体的に山がち。西側には、若干の平野がある。
 (4)海は、東側が深く、西側が浅い。
 (5)日本と似て、かなり大きな地震がある。
 (6)中国本土への距離は、140kmぐらい。cf.伊豆半島の先端から八丈島の距離190km。


B君:しばしば言われることではあるが、「島嶼は将来自然エネルギーで自立することができる」。しかし、実は、小さな島嶼がエネルギー的に自立するのがもっとも難しい。このような文脈で、どのぐらいのサイズまでが「小さい島嶼」なのか、と言えば、それは、天気が全土で同じでない程度の大きさかどうか、これが判定基準。すなわち、台風が来たとき、雨で太陽電池がダメ、強風過ぎて風力がダメ、という状況になるけれど、もしも超大型の台風であれば、北端から南端が380kmしかない台湾全土がそのような状況になっても不思議ではない。

A君:日本列島は小さいとは言われながらも、宗谷岬から佐田岬まで1900kmぐらいある。だから、日本全国が雨ということは、希ではある。

B君:ヨーロッパの電力網の将来図を示した方が良くはないか。

A君:こんなものがあります。2006年ですから、10年前になりますが。この文書からの引用です。
http://www.trec-uk.org.uk/reports/TRANS-CSP_Full_Report_Final.pdf

B君:この報告書の題名は、「地中海を越えた太陽発電の相互接続」といったもので、最終報告書ということになっている。その中にあるものが、図1.


図1 EUMENAと呼ばれる将来ビジョン。

B君: 台湾の面積は、ポルトガルの面積が9万2千平方キロなので、その40%でしかない。

A君:この報告書のもともとの趣旨は、アフリカのサハラ砂漠に太陽電池を置いて、それを直流送電網でヨーロッパに給電するというもの。地理的には、南北5000km、東西4900kmという地域をカバーしています。だから、砂漠あり、森林地帯(バイオマス)あり、バルト海のように浅い海(洋上風力)あり、アイスランドの地熱もあり、北欧やアイスランドの水力発電あり、ということになります。しかも、天候もバラバラですから、どこかで、なんらかの再生可能エネルギーが発電できている状況だと言えますね。

B君:ヨーロッパは、将来、このような電力網を高圧直流送電網で結べば、この範囲内の国のすべての電力を自然エネルギーで賄うことができる、というシナリオを描いている。それもこれも、2500万平方キロにも及ぶ地域を送電線でつないているからだ。日本の面積は言うまでもないが、わずか37万平方キロ。台湾の面積は、日本の1/10に過ぎない。

A君:日本の場合については、機会を改めて、色々と記述したいと思いますが、台湾のようなサイズの国は、自然エネルギーですべてのエネルギーをカバーしようとするのは、まるで無理なのです。台湾の面積は未来のヨーロッパ電力網の面積の700分の1しかないので。

B君:しかも、面積だけで決まる訳ではなくて、多様な気象がある、多様な地下資源がある、多様な地形があるなども重要で、台湾が自然エネルギーだけで自給をするのは、ヨーロッパ全体が自然エネルギーだけで電力自給をすることと比べれば、優に数1000倍は難しい

C先生:さらに言えば、台湾人は、リスク感覚が日本人よりもゼロリスク主義者だと言える。福島事故の後、日本では極めて厳しい規制が行われていることを知りながら、ほとんどゼロである放射線のリスクのために、日本からの食料輸入を止めた。これも、原発を止めるということを無条件に支持している理由の一つであるように思える。

A君:最近、中国・ロシアは電力網を張ることを決め、これに韓国も加わったという話ですね。さらにソフトバンクの孫さんがこれを日本にも接続しようとしているとか。

B君:このニュースは、検索すれば、いくらでも見つかる。プサンと九州の200kmの海底直流送電を引くとか。さらにモンゴルも入れて連結をするとか。

A君:これは、日本から見れば、かなり甘い話だと思う。エネルギー網を作ったとき、どういう国が優位に立つことができるか。それは、エネルギー輸出国ですよね。過去の歴史がそれを語っています。最近の話であれば、ロシアとウクライナの関係。ロシアの天然ガスがウクライナを通って、ドイツなどまで売られていますが、エネルギーの無いウクライナが、それを使っているのに、代金の滞納が起きた、というもので、天然ガス供給を止めたということが、何回も行われている。

B君:実際には、ロシアのガスプロム社と、ウクライナのナフトハス・ウクライナ社の間の戦いなのだけれど、両方とも国営企業なので、結局は、二国間の争いだということになる。

A君:ウクライナ向けのガスの供給を止めると、その先にぶら下がっているスロバキアなどにもガスが供給されなくなってしまう。

B君:最後には、ウクライナがしぶしぶ代金を払うのだけれど、やはり経済的に厳しらしいくて、またまた同じことが起きる。

A君:将来、中国から日本に電力が送られてくるとは言っても、途中の韓国が電力代を払えないという状況になると、給電は止まるということになる。韓国の面積(=10万平方キロ)は、台湾の3倍ぐらいはあるけれど、自然エネルギーですべてを賄うには、面積が足らない。

C先生:この話は、また、別の機会にやることにしよう。孫さんがこの話に抵抗がないのは、何か確信があるのか、あるいは、別の理由があるのか。いずれにしても、そう簡単に推進できるような話だとは思えないのだ。

B君:ロシアと四島の話が決まってから、また、考えることにしたい。

A君:台湾に話を戻せば、もしものときには、アジア電力網があったとすれば、台湾は中国から電力を買うということになりますが、日本と中国との関係よりも、さらに難しい問題を含んでいますね。馬政権から蔡政権に変わっただけで、色々とありますから。

B君:距離的には確かに短くて、このぐらいの海底ケーブルを敷設することもできるし、高圧直流で送電も可能ではあるのだけれど。

A君:エネルギーの場合には、多くの場合に、供給能力がある国と無い国との接続になりますから、供給能力がない台湾が絶対的に不利になりますね。

B君:そろそろ、最終結論ということになるかもしれないけれど、台湾のように、現行の原子力が古くなったからという理由で止めるのも一案ではある。なぜなら、2030年ぐらいまでは、化石燃料のうち、天然ガスはまだまだしっかり使えるし、石炭も見逃して貰えるから問題はないからだ。しかし、それから先が大問題なのだ。2040年、2050年になると、いくらなんでも、すべて天然ガスという訳にもいかない。石炭を天然ガスに変えると、CO排出量はざっと半分にはなるけれど、だからといって、それを世界は許容してくれないかもしれない。となると、原発の電力を何で置換するのか、という計画をしっかりと建てることが、まず第一だ。

A君:台湾は、国連に加盟していないので、COP21にも参加していませんでした。しかし、台湾に関する日本語ニュースをチェックすると、以下のようです。
http://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/33378.html
 日本の環境省に相当する行政院環境保護署による「気候変動に対応するための低炭素・クリーンエネルギー実行戦略」という報告書が出て、その中で、林院長は、「地球温暖化によって引き起こされる気候変動は、台湾にとって正面から取り組まなければならない深刻な課題だ」とした上で、世界各国が一致した共通認識を持ち、省エネと低炭素のために努力するという「パリ協定」から見ても、低炭素とグリーンエネルギーは温暖化を食い止めるための唯一の方法だと指摘し、台湾は地球村の一員として、地球温暖化の防止と気候変動の議題において、蚊帳の外にいるわけにはいかないと述べた。
 行政院環境保護署によると、
台湾では2050年までに、温室効果ガスの排出量を2005年の50%以下に抑えることを目標としている。行政院が設置する「エネルギー及び温室効果ガス削減オフィス」は、各省庁が協調、協力して政策の進捗状況について検討していく。また、中央省庁と地方自治体がパートナー関係を確立し、共同で低炭素社会の実現に向けて取り組む。

B君:2050年に50%削減ということは、地球全体の削減量とほぼ一致している数値。いわば、中進国の目標値なので、工業的に先進国である台湾がその程度で良いのか、という議論はあり得る。基準年も2005年で良いのか、ということもある。

A君:確かに、国連の外であるとう利点は、十分活かすつもりだという数値のようですね。

B君:いずれにしても、石炭をすべて天然ガスに変えたくらいでは、50%目標でも達成できない。やはり再生可能エネルギーを2025年に再生可能エネルギー20%が目標のようだけれど、2040年頃には45%に増やすことが必要といった中間地点の目標値。当然、なんらかのエネルギー貯蔵かCCSを考えないと機能しない。水力発電にも恵まれていない国なので。いよいよ電気代が高くなりそうだ。

C先生:やはり他人事ではないな。台湾とエネルギーに関してもっと協力関係が持てないものだろうか。再生可能エネルギーについては、言葉は好きではないが、どう考えても、「同病相哀れむ」という関係のような気がするのだ。地形は似ているので、高温岩体発電が一つの共通課題かもしれない。その先を考えると、海洋エネルギーは、日本よりも熱帯にあるので、台湾東岸での温度差発電が多少有利だけれど、まず余り当てにならないので、究極の解決法はやはり核融合か。しかも、小型核融合装置の開発なのかもしれない。核融合というと、「核」だから危険だという人も居るだろうけれど、それは、理解不足。核分裂との決定的な違いは、核融合では、重水素と三重水素が燃料になるのだけれど、この燃料は、融合炉には、外から供給される仕組みになっている。だから、燃料供給を止めれば、火力発電で燃料の供給を止めれたらボイラーが止まるのと同じようなものなのだ。使用済み核燃料のような厄介なものはできない。勿論、炉体などが放射化して放射性廃棄物が全く出ないとは言えないのだが、比較的短寿命なので、数10年保存しておけば、また炉体として使える。一方、核分裂では、ご存じのように、燃料が原子炉の中に存在しているので、止めようと思っても簡単に止まらない。非常停止をしても、その後の冷却のために、水と電気が必要になる。せめて、第四世代の原子炉になれば、自動冷却システムを炉内に持つことになるので、非常スイッチを押せば、自動的に止まる設計にはなるのだけれど、安全性については、やはり核融合の優位は変わらない。これまで核融合というと、フランスで現在進行中のITERのような大型機器ばかりだと考えられていたのが、最近は、かなり小型の核融合装置ができるのではないか、という機運になっている。それも、米国のベンチャーや大学が、開発研究を盛んにやるようになったからだのだが。しかし、「実用化がいつできるのか」、という問いには、まだ答えられない状況だ。
 ということで、最終結論だ。再生可能エネルギー50%以上の電力システムは、台湾では実現が難しく、というよりもほぼ不可能。したがって、原子力のような安定な、かつ、COゼロの電源を持たないという決断をすることは、極めて危ない。やはり政治的な人気取り政策に過ぎないような気がする。新潟県で起きたことと同じだ。
 中国・ロシア・モンゴル・韓国の電力網ができたとして、これに参加すべきか、それとも別の技術を開発して、やはり自立自給の道を目指すべきか、なかなか難しい議論だ。
 実は、日本だって同じような状況だ。50%以上が再生可能エネルギーという構成は、かなり高価な洋上風力を導入し、さらに、広域の直流電力網ができていない限り難しい。今世紀の終わりごろまでには、これも整備しておかないとならない。
 加えて、個人的にも投資が不可欠。まず、超省エネ・COゼロ住宅が必要不可欠になるので、もしも、自宅の新築をお考えで、2050年にもまだ住む予定ならば、未来への対応を十二分に考えてZero Emission Home=ZEHを設計されることをお奨めしたい。さらに余分な一言として、超高層マンションは、ZEH路線のまさに逆を行く建設物なので、価値がゼロになる前に(中国人に)売却されることをお奨めしたい。特に、高層階の部屋は、固定資産税も高くなりそうなので、早めの売却を強くお奨めします。