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  二酸化炭素排出抑制をめぐる西岡秀三先生との対談 06.01.2008
     



 環境新聞の記事作成のための対談を行って、実際のところ非常に面白かったので、その内容について、若干の記述を行ってみたい。
 ただし、録音をしたわけではなくて、極めて感覚的な話である。むしろ、西岡先生の話に触発されて、自分が何を話したか、というスタンスでの記述とご理解いただきたい。


C先生:今回のHPは変わった試みをやってみたいと思う。実は、西岡先生と2時間近くに渡って対談を行った。環境新聞の堀内さんが同席されて、6月には同紙の記事になるということだ。

A君:これまでそんなに長い対談を西岡先生としたという機会はあったのですか。

C先生:いや、はじめてだ。様々な会議で同席する機会はそれこそ数えられないぐらいあったのだが、こんなにもゆっくりと話をしたことはない。

B君:ということだと、何か新しい刺激が得られたといことで。

C先生:その通り。

A君:どんな順番で議論をしたのですか。

C先生:まずは、(1)洞爺湖サミットへの期待、(2)二酸化炭素排出を最大限考慮した場合の産業論、(3)セクター別アプローチというもの、(4)途上国の発展、(5)結論。まあ、こんな感じだった。

B君:しかし、当然のことながら、上下左右にあるいは、4次元に話題が飛ぶ。

C先生:その通りだが、まあ、始めたい。
(1)洞爺湖サミットへの期待

C先生:これについては、まず何を語るべきか、大変に困った。なぜならば、ほとんど何も期待できないからだ。あのような国際的な場で、何か大きな成果を得ようとしたら、日本というものが1本の非常に強い意志をもって交渉に臨む必要がある。ところが、現在の日本の状況はそれから程遠い。
 政府内でも、内閣府、経済産業省、環境省と思いがばらばらであり、そして、産業界でも、経団連の主力メンバーの思いと、それ以外の一般企業の感覚とでは、大きく異なっている。

A君:まあ、そうですね。鉄鋼、電力が日本の企業群のすべてを代表している訳ではないですから。

C先生:その通りなのだ。しかも、ポスト京都の枠組みについては、来年の暮のデンマークでのCOPで決めることが決まっているが、本当にそこで決まるのか、と疑問にも思っている。最悪、追加的COPを開催しないと、すなわち、2年後ぐらいにならないと決まらないのではないだろうか。

B君:G8サミットでポスト京都の枠組みが決まることはありえない。今回、プラス5の国々も来ることになっていますが、それでも本当の意味での途上国の意見は反映できないのだから、あたり前。

C先生:だから、何か決めようということにもならないものと思われる。ただ、ひとつだけ起きるとしたら、外圧に弱い日本が、かなり攻撃を受けて、そして、日本の内部的なメンタリティーが変わるという効果があるかどうか。これは大きな成果になる可能性がある。

A君:西岡先生も同様だったのですか。

C先生:いやいや。西岡先生は、もっと積極的に洞爺湖サミットへの期待と、こんなことができれば、高く評価すべきだという意見だった。

B君:福田首相が言っていることは、実は、国立環境研の低炭素社会2050のシナリオとほぼ同一の方向性だから、西岡先生としては、福田首相に期待するところ大とも言える。

C先生:それよりも、世界的にみても、また、日本でも、IPCCの報告書以来、底流としては、枠組み強化という気になっている、との観測だった。

A君:一方で、抵抗勢力も多いですが。

C先生:ただし、その気にはなっているが、抵抗勢力を含めて、さまざまなイナーシャがあるから、決意ができないのが現状で、それがなんらかの決意を示すことができれば、それで大成功。具体的には、(あ)中国、インドが枠組み参加の意思の表明を行うこと、(い)全体的な枠組みとして、先進国は総量規制、そして、中国、インドは、何年頃から総量を減らす、といった方向性がでれば良い、という判断だそうだ。

B君:そこまで行くか、それはかなり難しい。中国は特にそうだと思うが、それなら、削減技術は先進国がタダで出せ、というメンタリティー。これを含んだ形での原則合意なのか、それとも、自らもかなり努力をするという含みでの原則合意なのか、これが非常に大きな問題だ。

C先生:インドは、やはり中国とは違う、という点でも意見が一致した。中国は、後の議論でも出てくるのだが、基本的に、西欧文明の道を自ら歩きたいと思っている国だと思う。

A君:しかし、これも後での議論ですが、本当に可能なんですかね。

C先生:それに対して、インドは、全くとまでは言えないが、いきなりソフトウェア技術の専門国家に変身できたように、エネルギー大量消費型ではない、別の文明を目指しうる国なのかもしれない、ということで意見が一致した。

B君:インドは、自らの文化を信じているところがあるように思える。中国の場合、何が中国全土に共通の中国文化か、と言われるとなかなか難しい。インドも当然難しいのだけど、その多様性がインドの文化か、といった感触は理解できる。

C先生:まあ、かなり意見が同じだったのだが、成果がでるかどうか、については、西岡先生の方が積極的に期待するというスタンスだった。

A君:ということは、C先生はあまり期待できないという態度。

B君:まあ、福田首相がいつまで続けるのか、これが大きな問題。洞爺湖で大きな成果が出たということを日本のメディアが褒めそやせば、多少長い寿命を持ちうるかもしれないが、もしそうでないとすると、洞爺湖が引退の花道になりかねない。となると、結局、日本の外にしか成果は残らないことになりかねない。

C先生:まあ、悲観的な議論は止めて、次に行く。
(2)二酸化炭素排出を最大限考慮した場合の産業論

A君:これも結構難しい話。

C先生:この話の着陸地点は、やはり2050年に世界の温室効果ガスの半減、という長期目標になる。これを実現するのは、本当に難しい。

A君:それも当然ですよね。現在、先進国と途上国の出す二酸化炭素量は1+1ぐらい。それが、2050年には、1+2あるいは1+2.5になると予測されている。ということは、先進国が排出量をゼロにしても、目標値である1には到達できない。2倍になってしまう。

B君:だから、2050年には、日本の排出量は最低でも70%カットというのが、国立環境研の試算。

C先生:だから、よほど腹を括って取り組まないと、どの国も不可能。それでも先進国はまだ可能性がある。途上国に現在の日本が持っている程度の技術を移転して、それでも、難しい。先進国は人口が減るから比較的簡単なのだが、人口が大きく伸び続ける途上国は、特に難しいのだ。

A君:2050年には、ミレニアム開発計画などの国連プロジェクトが非常にうまくいったとしても、人口は80億人近く。人口の増加が抑えられないと、すなわち、貧困が解消できないと、90億人になる。一方、先進国の人口は、米国を除くと、ほとんど増えない。

C先生:しかも、途上国には日本のような先進国とは違って、鉄・セメントといった基礎資材の蓄積もない。今後、その面でも充実させる必要がある。

A君:すべての途上国が基礎資材を必要とするのか、言いかえれば、西欧文明を目指すのかどうか、それが大きな問題になりますね。
C先生:その話は、後ほどやるとして、日本がこの70%カットシナリオを実現することは、まあ、不可能だとは思わない。むしろ、日本全体としての産業構造は、その方が強靭なものになって、かえって日本という国にとっては有利なのではないかと思う。しかし、個々の企業にとっては、困難だろう。なぜならば、二酸化炭素の排出を大幅削減するということは、産業構造の大幅な転換を意味する。そして、大幅な転換ということは、実は、収益構造が大幅に変わることを意味する。たとえば、石油精製業は、それこそ70%カットになる。もしも石油精製が生き残ろうとするのであれば、水素などのエネルギー供給を手掛けることによって、大幅な構造変換を実現する必要がある。英国のBPなどは、そんなことを目指しているように思えるが、日本の石油精製業は、かなり保守的で、対応をしようとする気があるようにも思えない。

A君:いつでも最初の攻撃は石油精製。余程、相性が悪い。

C先生:そう言われるのも不愉快だが、例のバイオエタノールのガソリンへの直接混合にこれほど反対する理由が分からないので、大変不愉快。ETBEにして混合すれば、現在遊休のMTBE製造装置が活用できるのは事実で、企業収益の改善にはなるだろう。それにしても、温室効果ガス排出の効果も大幅削減になるし、さらにETBEの毒性は、MTBEと変わらない。毒性や臭気が問題になって止めたことを、再度繰り返そうという気が知れない。

B君:次のターゲットは鉄鋼業。

C先生:鉄鋼業については、世界の需要は今後増えるに決まっている。自動車の台数だって、インドの30万円の自動車などはほぼ鉄で作るに決まっているから、需要は急増する。となれば、生産地をインドやブラジルに移すのが妥当で、日本で作る鉄は、高品位のものだけにすれば良い。

A君:鉄鋼業は、インドのミッタルに乗っ取られるという恐怖があるとの話。

C先生:それはそうだが、後で述べるセクター別アプローチのところで若干説明するが、鉄鋼業の先行きが、地球の未来を握っているとも言える。

B君:残りは電力。

C先生:電力は、国際商品ではないので、なかなか難しい。ただ、化石燃料が無くなったことを想定すると、自然エネルギーと原子力だけのコンビになる。そのためにも、自然エネルギーを最大限活用する技術開発をいつかはやらなければならない。

A君:原子力ならば、独占的に電力を作ることができるけど、自然エネルギーを導入すると、さまざまな主体が勝手に発電をやりはじめて、特に、分散型やマイクログリッドといった話になると、ガス業界が有利になるというアレルギー反応があるのでは。

C先生:2050年には、電力業、ガス業、といった個別的な企業は存在していないと思う。理由は簡単で、総合エネルギー企業以外は生き残れないからだ。

B君:自然エネルギーをかなり多く導入するとすると、なんらかの平滑化が必要になる。他のエネルギー源と並立した形にして、いわゆるマイクログリッドを組んで、電力中心ではありながら、ガス、場合によっては水素になっている可能性もあるが、燃料電池によるコジェネを組み合わせる。燃料電池が可逆型のものになれば、大きく揺らぐ風力とか太陽光発電で電力が余っているときには、水素に変換して貯め、電力が不足したら、逆に、水素を燃やして電力を作るといったシステムが比較的簡単に構築できる。こんなマイクログリッドになれば、大量の自然エネルギーが導入できる。

C先生:大量の自然エネルギーを導入すること自体、現在の電力業界にとっては逆風に見えるのだろうが、まあ、そんな訳だ。

A君:いずれにしても、日本の産業構造は大幅に変わってしまう。現時点で、かなり成功している企業群は、マイナスの効果が多い可能性もある。

B君:いままでの継続を望むのなら、環境対応などを考えない方が良い。しかし、それも怖い。なぜならば、現在のままを維持しようとすると、2020年ごろには、日本経済が急に大減速して、それこそ回復不能な壊滅状態になる。当然、その企業も壊滅状態になる。となると、2020年頃を考えて対策を取り始めるか、現状を維持しつつ2020年頃の破滅を覚悟するか。厳しい選択を迫られていると見ることができるだろう。

C先生:そろそろ次。
(3)セクター別アプローチというもの

A君:これは洞爺湖サミットでも中心的話題になることが確実。

C先生:西岡先生によれば、セクター別アプローチには、4種類あるという。

レベル1:同じ業種同士が、省エネということで知恵の共有を図ること。知恵の提供は、ほぼタダで、麗しい関係を持つ。

レベル2:各国についてざっとした積み上げを行い、国別の削減目標を設定するときに合理的な配分を行う。

レベル3:これは減らせる。これは減らせないという議論を細かく行うことによって、各国が納得できるような削減目標値を作る。

レベル4:鉄鋼エンパイヤーを作るから、我々の分は別勘定にしろ、という主張を受け入れる。


A君:これまで、本HPでやってきた究極のセクター別アプローチはレベル4までの定義に入っていない。

C先生:その通り。我々のものは、レベル5だ。

レベル5:鉄鋼エンパイヤーは、世界に対して、以下のような宣言を行い、セクター別アプローチの導入を始める。「原単位ベースでトップランナー制を導入し、かつ鉄鋼エンパイヤー内部での排出量取引によって、急速な原単位向上を目指す。ただし、鉄鋼エンパイヤー内部での情報の完全開示を含めて、公正に行うことを条件とする」。場合によっては、鉄鋼エンパイヤーだけでなく、セメント、エネルギー変換、石油精製などにもエンパイヤーの設立を認める。

B君:これは途上国のことを考え、21世紀内での基礎資材の製造を考えると、もっとも開発が進展する可能性が高い。

C先生:西岡先生も、レベル5が実現できるなら、それもよし。西岡先生はレベル1を推進し、当方は、レベル5で迫るという作戦で行くことにした。

A君:どちらも日本の企業にとっては厳しい。

C先生:次へ。
(4)途上国の発展
 これは重大な問題だ。21世紀末、ラオスという国やカンボジアという国がどのような状況になっていると想像する?

A君:中国は、西欧文明をフォローする。インドは必ずしもそうではない。さて、ラオスねえ。

B君:行ったことが無い国は分からない。

C先生:西欧文明というものは、グリッド型文明だと定義している。電力供給網を作り、高速道路網を作り、そして、高速鉄道網も作る。中国は、こんな道筋を歩き始めている。しかし、これらのグリッド型の文明には、非常に大きな弱点が存在する。それは、テロに弱いことだ。グリッドは、線で構成されているから、その線を全長に渡って防御することは容易ではない。テロ分子にとって、こんなに簡単な攻撃目標はない。中国は、国土の広さを考えると、また、他民族国家であるという現実を考えると、グリッド型文明は途中で挫折しそうな気がする。むしろ、それぞれの地域で自律的な社会を構築し、それを情報網で結合するといったタイプの方が中国の実情に有っているのではないだろうか。これを自律ネットワーク型と呼ぶ。

A君:なるほど。有線型の電話システムがグリッド型だとしたら、携帯電話型が自律ネットワーク型に近いかもしれない。

B君:確かに。自然エネルギーを大量に導入しようとすると、大都市は難しい。たとえば、都市生活からでるバイオ系廃棄物を有効活用しようとすると中都市までが良い。その周囲に十分な森林なり草原を用意することが理想的。そして、中都市間の人間の輸送は飛行機になる。物資の輸送はなるべく行わない。できるだけ、その地域に適した素材を使った社会インフラを構築する。

C先生:そんなイメージだ。
(5)結論

 これは、これまでの総括。洞爺湖サミットが成功と言えるようになるかどうか。その判定基準の再確認を行ったり、雑談をしたり。以前の日本であれば、業界がわがままを言うと、通産省のおえら方が、ガツンとパンチを入れるというのが通例だったが、最近の経済産業省は、むしろ環境省への対抗心をむき出しにして、業界のわがままを容認する方向になっている。これは劣化である。
 福田さんは、独特のニュアンスで頑張っているが、メディアには全く受けない。だからいくら頑張っても、洞爺湖が引退の花道になるというのが、私の説で、西岡先生の見解は、洞爺湖を無事に乗り切ると、福田政権は復活するとの予想だった。

A君:掛けごとやるのは良くないとしても、これは掛けに値するような。

B君:メディアに受けないというよりも、どうも、小泉さんのような一見強い主張する政治家をどうも今の日本人は好む。福田さんだが、実際には、なんだかんだと言いながら、小泉さんでもできなかった、道路特定財源の一般財源化をしてしまったのに、まったく評価されないのは、福田さんにとってみれば不本意だろう。

C先生:福田さんは、選挙民の質が下がっていることを言外に匂わせるから受けないのではないか、と思うのだ。

A君:国会議員の質が選挙民の質を反映して下がっている。

B君:元公務員がしばしば候補者になるが、局長級になれるような人材は、政界には転向しない。

C先生:まあ、雑談がかなり多かったが、それだけに非常に楽しい2時間だった。