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   安心と活断層
     11.18.2012



 今回は、「安心を得るにはどうするか」、特に、「日本のように活断層だらけの国で、どうすれば安心が得られるか」、これが課題です。

 前回の記事は大飯の活断層を取り上げました。皆さんはお読みになって、大飯の活断層が危険だと思われましたか? 個人的な印象としては、9.8万年間目立った活動をしなかった活断層でも危険に思えて安心できないとしたら、それは、多分、他の本当に怖い活断層の状況をご存じないからでは、と思います。そんな話をしていたら、某氏が、その最大の例が丹那断層の話だ、との情報提供がありました。

 そこで、今回は、「安心と活断層」というテーマで、丹那断層を取り上げたいと思います。



1.丹那活断層はどこにあるのか

 前回ご紹介した産総研のデータベース
http://riodb02.ibase.aist.go.jp/activefault/index.html
の検索結果を示します。


図1 場所 A:丹那断層 B:修善寺断層 GoogleMap


図2 同データ

 丹那断層と修善寺断層は地理的に連続しているようですが、データを見ると、平均活動間隔などは違うようです。

 丹那断層の最近の活動は、1930年の北伊豆地震です。この地震は1930年、昭和5年11月26日午前4時2分に発生、マグニチュード7.5、最大震度6の地震でした。

 左横ずれ型の断層で、この地震で2mずれたとされています。データを見ると、平均変位速度が3.5m/千年で、平均活動間隔が800年ですので、1回の地震で3m近くのずれが生ずるということになります。

 その左横ずれ証拠は、丹那断層公園に残っています。その様子は、次のページに詳しい解説と写真が載っています。
http://homepage3.nifty.com/kunihiko/earth/fault/tannna/tanna.htm

 公園以外にも、火雷神社の鳥居と階段の間がずれてしまった証拠が見事に残っている写真などがあって、一度、現場探索に行こうかと思わせるのに十分なインパクトがあります。ということで、本日11月18日に、現地に行って来ました。付録に写真を掲載しますので、是非御覧ください。

 防災情報新聞の記述によれば、
http://www.bosaijoho.jp/reading/item_1423.html
50万年前に湯河原火山(現在、最高峰が玄岳)が噴出した溶岩流が、この断層によって、南北に1000mずれているとのこと。

 さらに、現在の地形からも、このズレは明らかであるとのことです。防災情報新聞の図では分かりにくいので、本記事の書くにあたって、Googleマップを加工して、ズレを示す図を作りました。


図3 丹那断層を挟んだ左右のズレの大きさ。

 この地図からだと1000mは無さそうで、800m程度ではないかと思われますが、いずれにしても、50万年間とは言え、この活断層によって、800mもずれているということは、衝撃的な事実です。

 話を戻して、大飯原発のF6破砕層が活断層だとして、9.8万年間で動いた形跡がないから絶対に安心だということは有りません。大飯原発の寿命内に動かないという確証は無いのです。なぜなら、科学は、絶対に無いことは証明できないのです。それなら、どのぐらい怖いと思うべきなのか。

 一方、丹那断層は、平均的には800年に1回動き、最後に動いたのが1930年だったということです。こちらは、どのぐらい怖いでしょうか。

 どちらが安心できますか? 場合によっては、丹那断層なのかもしれませんし、人によっては、大飯のF6断層なのかもしれません。大変に、難しい問題です。


2.北伊豆地震の被害

 丹那断層の最後の活動である1930年の北伊豆地震ですが、記録によれば、被害は伊豆半島北部から箱根にかけて、全壊家屋2165戸、死者272名だそうです。

 もう一つ被害がありました。それは、1918年から着工していた丹那トンネルでした。初代の丹那トンネルは、死者が何人も出ている超難工事でした。その理由は丹那断層の破砕帯から大量の水を吹き出すからで、予定を遥かに上回る苦戦の連続でした。北伊豆地震が発生した時、丹那断層の部分約1kmがまだ堀り残された状態でした。その様子は、先ほどご紹介したWebサイトの別項に記述されています。
http://homepage3.nifty.com/kunihiko/earth/fault/tannna/tanna_news.htm

 この状態で起きた地震のために、色々と議論がされたようです。鉄道省は、次のように述べたと記述されています。

 丹那トンネルの工事継続について、「議論が出ているが、要点は、工事継続の将来に関する不安ということである」。

 「このトンネルの地震に対する抵抗については、激震地である丹那の真下でさえ被害は僅少であり、トンネルの煉瓦を巻き終わった部分において、断層箇所に二三の亀裂は生じたのみで、他に何等の異常もなかった。この煉瓦巻は現在では五尺の厚みに巻いているが、今後は、七、八尺という厚みにすれば、更に抵抗は強くなるはずである。断層箇所はトンネルに継ぎ目を作っておけば、断層が動いても崩壊はしないであろう、と楽観している」。

 この記述が本当なのか、残念ながら確証はありません。トンネルの本坑の部分は、断層部分はまだ掘られていなかったからです。

 先ほどの記事の最後の写真のキャプションにあるのが、水抜き用の坑道に「断層による食い違い八尺」という言葉です。その写真を見れば、坑道を支えている材木などが壊れていますが、これの壁が何を意味する写真なのか、今ひとつ、明らかでないのが残念なところです。

 もしも水抜き用トンネルが八尺ずれたというのなら、2.4mです。トンネルの本坑も同じだけずれても不思議ではないはずです。
 先に引用した防災情報新聞によれば、「トンネル内のずれた部分を、あとからS字状につないで東海道線を開通させた」となっています。

 これが本当なら、本坑も同じだけズレていたのではないでしょうか。


3.丹那断層と新幹線

 現在、丹那トンネルの隣にある新丹那トンネルの中を、東海道新幹線が時速270kmぐらいで毎日通過しています。新幹線が止まるのには、非常ブレーキを掛けても、1分半の時間が必要です。

 海溝型地震への対応では、P波を検知して非常ブレーキを掛ければ、新幹線は十分に止まりますが、それは、S波が来るまでに時間的余裕があるからです。丹那断層活を震源とする地震であれば、新丹那トンネルにはP波とS波が同時に来ます。直下型の震源の場合には、非常ブレーキは絶対に間に合いません。

 すなわち、地震発生のなんらかの予兆を検知することができなければ、大事故になることはほぼ確実です。

 このような問題は、東海道新幹線の建設が計画されたときに、当然起きました。そこで、国鉄からの相談を受けたのが、火山学者である久野久東京大学教授でした。久野教授は、「次に丹那断層が活動するのは、恐らく数100年後であろう」と答えたので、計画は実行に移されたそうです。

 その科学的根拠は以下の通りです。

 50万年前に湯河原火山から噴出した溶岩流が、1000mずれているとして、北伊豆地震でのズレである2mが断層の活動であれば、1000m/2m=500回の活動があったことになる。50万年間で500回の活動であれば、間隔は1000年と計算できる。

 産総研のデータでは、恐らく最新の解析結果を加味し、一回のズレが2.7m、平均活動間隔が800年になっています。


4.活断層のリスクをどう取り扱うか

 さて、日本の国土のように、破砕帯だらけの場所で、活断層のリスクをどのように考えるべきなのか。ここから先は、個人的な見解です。

 まず、我々は何を知っているのか。科学的事実をいくつか列挙します。

★日本に破砕帯はほぼ無限にあるが、そのすべてが活断層だとは限らない。
★そのうち、大地震を引き起こしそうな長さ10km以上の活断層だと分かっているものは、産総研のデータベースに、ほぼもれなく記述されている。
★すなわち、現時点で活断層だと断定されていない破砕帯は、大地震を起こすようなものではない。
★活断層の平均周期、平均ずれ量、最終活動時期なども、データベース化されている。
★そして、今後30年位内に起きる確率の高いTOP20が掲載されている。
★東日本大震災を引き起こした海溝型の震源は、活断層型地震のものとは異なる。南海トラフも活断層型ではない。
★どちらのタイプにしても、予測はほぼ不可能である。


 さて、地震のリスクとは何でしょうか。それこそ、様々なものがありますが、ここでは、新幹線に乗っているときに活断層型地震に遭遇したら、何かが起きることを考えることにしましょう。

 新幹線を横切っている断層は多数ありますが、産総研データベースで、今後30年位内に発生する確率ランキングでトップ40に入っているものは、第13位の富士川河口付近の入山瀬断層、第20位の小田原付近の国府津−松田断層、第37位で新大阪の駅のちょっと京都寄りにある上町断層の3ヶ所だけです。

 30年以内で活動する確率は、入山瀬断層が5%、国府津−松田断層が4%、上町断層が1%となっています。丹那断層は、1930年の活動後まだ82年ですので、30年位内に動く確率はゼロとなっていて、ランク外です。

 さて、これからリスクを考えるのですが、やはり、新幹線の場合には、脱線転覆でしょう。このような最終的な結末を、リスク屋はエンドポイントと呼びます。そのエンドポイントの被害の大きさをハザードと呼びます。

 リスクの定義は、普通、次式で表現します。

 リスク=ハザード × 発生確率

 起きる確率は、すでに求まっていますから、ハザードを推定すれば、リスクが求まることになります。ハザードを脱線転覆確率とすれば、地震の強さがもっとも重要な要素になります。

 地震の強さは、断層がどのぐらい動くか、動く断層の長さで決まると考えられますが、地震動だけでは脱線しないと仮定し、新幹線の線路が活断層によってずれることによってのみ脱線するとすれば、動く断層の長さは無視できて、断層がどのぐらい動くかで表現できると仮定できます。

 産総研のデータベースでは、単位変位量[m]という数値がありますが、この数値は、断層が活動したとき、どのぐらい動くかを示している数値です。

 単位変位量は、入山瀬断層が逆断層で9.2m、国府津−松田断層が逆断層で3.9m、上町断層が5.0m。

 しかし、良く考えると、断層を突切ったときの新幹線の速度も重要な要素です。上町断層は、新大阪駅の東側200mぐらいのところを通っているので、新幹線は徐行状態ではないかと考えられます。これなら、例え脱線しても、被害はでないのではないでしょうか。すなわち、新幹線に限ればですが、次のようにリスクはゼロになります。もっとも上町断層が活動して地震が起きると、大阪の破壊は相当なものになると予測されていて、数万人レベルの死者が出るとされています。

上町断層のリスク=0

 もしもリスクが断層の変位量と比例するとすれば、

入山瀬断層のリスク=9.2 × 0.05=0.46

国府津−松田断層のリスク=3.9 × 0.04=0.16

 これを信じれば、入山瀬断層のリスクが国府津−松田断層よりも3倍ぐらい大きいことになります。

 9.2mの段差のある逆断層に突っ込めば、絶対に脱線転覆だと思われますが、実は、3.9mだって余り変わらないかもしれません。そうなれば、リスクは、結局、発生確率だけで決まると考えるべきものなのかもしれません。

 いずれのリスク評価の方法を取るにしても、よく考えてみると、新幹線に乗って富士駅付近を通過することは、相当なリスクなのかもしれません。


5.どうしたら安心できるか

 もしもこのような考察をした上でも、なおかつ安心して新幹線に乗ることができれば、それは、相当な悟りを開いている人のみではないか、と思われます。

 やはり、簡単に悟るわけにはいかないのでしょう。この記事を読んでしまったら、新幹線に乗ることが不安になるのが普通だと思います。

 ここで一つの結論が出ます。もしも悟りを開くことが不可能な人の場合、安心をする最大のコツは、余分なことは「知らない」ままにしておくことです。

 それなら大飯原発のF6破砕帯の場合も、「知らない」ままにしておくべきなのでしょうか。こちらは違います。なぜならば、リスクには、別の項を付け加えることが可能だからです。

 リスク=ハザード × 発生確率 × リスク削減対策

 リスク削減対策は、新幹線の場合には、スピードを落とすぐらいです。新幹線を常に50km/hで走らせることも可能ですが、これを常時行うことは現実的ではありません。

 原発の場合であれば、その破砕帯が活断層であったとしても、動いたときに何が起きるかを推定し、その対策を取ることが可能です。

 大飯原発の設備で、F6破砕帯を横切っているのは、緊急用海水取水路とされていますので、別の経路で海水を汲み上げる対策を行えば良いことになります。

 リスク削減のための科学的に合理性のある議論が行われない場合には、何らかの意図を持った人々が議論をしているということになります。

 最後に、どうしたら悟りを開くことができるのか。これは重大な課題です。リスクに関しては、すでに述べたように、最善の対応は「知らないままにしておくこと」、ですが、もしも知ってしまったら、徹底的に知識を増やすことによって対応する以外に方法はありません。中途半端な知識をもっていると、不安は高まる一方です。


5.結論

 リスクを考察することが有効と考えられる場合は多くあって、リスクをベースとした考え方をすることが安心を獲得する基本です。すなわち、リスク思考は生活の知恵の一部だと思います。

 日本全体が「リスクゼロ以外は認めない」状況になっていることは誰しも認めるところでしょう。これがあらゆる不安が増大してしまった最大の原因だと言えるでしょう。

 そういえば、ALARA(As Low As Reasonably Available)の法則というリスク対応による不安解消の最高の生活の知恵を主張していたはずのICRPが、最近、何を主張しているのか見えなくなっているのが気になるところです。



付録
11月18日(本日) 現地で写真撮影をしてきました。




 トレンチが掘ってあるので、断面を観察できます。


 普通に撮った写真を無理やり変形して、できるだけ上から見た感じになるように加工しました。


 上の写真は、この説明図では、塵捨場と水路の部分です。地下観察室の壁も写っています。


 プリウスが4台目になってプラグインHVになりましたが、本日は、最初のドライブでした。どんなモノかはそのうちご報告を。この色(ボルドーマイカ)のプリウスは未だ見たことがないので、選んでみました。


 火雷神社の壊れた鳥居です。立っているのは、かなり小さな鳥居でした。鳥居の左の柱で、水平の部分も一部残っています。右の柱も50cmぐらいが見えます。左の柱の向うにあるのが、今は使われていないもともとの石段。石段は不思議と崩れていませんが、鳥居との関係は明らかに可怪しく、石段が左に2mほどズレています。


 石段の下にある断層線を示す木製の矢印。断層が階段からわずかにズレていたために、石段の右縁の石が多少向きを変えただけで、あとは無傷です。