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   地球温暖化対策計画の原案合意   03.06.2016
         2050年の環境税、FIT、排出権市場は?        




 3月4日に行われた環境省の地球環境部会と経産省の産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境省委員会との合同会合で、地球温暖化対策計画=略称『温対計画』の(案)が審議され、大筋の合意を見ました

 実は、私も委員の1人なのですが、最後の最後に合同会合の日程が、数カ月前からの先約がある日に変更されてしまったため欠席でした。広島大学たおやかプログラムの外部評価委員会に出席をしておりました。この『たおやか』プログラムは、なかなか面白いプログラムですし、日本人学生は本当に少数派で、海外からの留学生、しかも、一旦社会に出た経験のある学生が多いプログラムで、なかなか面白い試みなのです。彼らが、日本の山村や離島などの将来の開発の方向性などを考えるというのですから、まあ、時代も変わったものです。

 さて、地球温暖化対策計画(案)は、すでに、環境省のHPからダウンロードが可能になっています。
http://www.env.go.jp/council/06earth/y060-130.html

 2030年までの道筋はCOP21に提出した約束草案で決まっています。すなわち、争点にもならないのです。今回の争点は、『エルマウサミットで決まり、パリ協定でも追認された2050年世界で40〜70%削減の高い方を目標とするという合意を、どう表現するか』、だった訳です。実は、先進国として2050年80%削減は、2007年の第一次安倍内閣のときに、日本からの提案でサミットで合意されたことでもあり、かつ、閣議決定されている環境基本計画にも記述されているので、今回の温対計画に書かない理由はないのですが、電気新聞などによれば、産業界の一部は日本が提出した約束草案の範囲内の表現しか書くことを認めないというスタンスでした。

 さらに、環境省の「気候変動長期戦略懇談会」の報告書に対して、環境税と排出権取引とFITの3つは、じゃんけんみたいなもので、並立は不可能といった議論も、一部では行われていました。

 という訳で、今回大筋の合意を見たということは、当然のこととは言え、一つのハードルを越えたという見方をすべきなのかもしれません。

 今朝の日経では、第5面経済での取扱になっていて、トップ記事という訳ではないのは、12月3日の朝刊のトップ記事に、2050年80%が合意されるという記事を載せたからだと思われます。新聞は、自社だけが知っていることでトップ記事を飾るという習性が非常に強いのです。

 今回、この温対計画の詳しい説明をしません。それは、すでに公開されている上記の文書を読んでいただければ、それで充分だからです。敢えて加えれば、予想通りの記述になっているだけだからです。

 そのかわりに、環境税と排出権取引とFITの三制度並立はじゃんけんみたいなものなので、いつで「アイコ」になって成立しないという説は本当かどうか、を議論してみたいと思います。

 当然、この議論は2030年までに必要というよりも、2050年までをも含むかなり長い視点から、その時点での落とし所を議論し、その最終到達点を見据えたとき、いつごろ、どのような仕組みが必要になるか、という議論をすることになります。



C先生:まず、再確認から。パリ協定というものは、国連(具体的にはUNFCCC)の枠組みで決まったものなのだ。国連の場合、ほぼすべてそうなのだけれど、その決定の原則が、「ほぼ全会一致」。例外は、安保理事会。完全な全会一致などという決定はあり得ないので、「ほぼ」を付けておくけれど、『自分たちの意見がなんらかの形で最終文書に取り入れられた』、という満足感がすべての参加国が得ることができる、という程度の全会一致がない限り、審議が終わることはない。

A君:すでにこれまでも述べていますが、1.5℃という記述が最終文書に入ったことも、「ほぼ全会一致」というプロセスが働いた証拠だと言えるでしょう。満足感を得たのは、島嶼諸国と、バングラデシュのような低標高の国土が多い国。

B君:2℃目標すら認めないという日本産業界は、「地球上の人類にとって、正義とは何か」という命題が理解できない。「ビジネスに正義などは関係ない」という主張だと思える。こんなことでは、今後、途上国での企業活動に障害がでるだけだ、といった議論は、すでに本Webサイトで、何回もやってきた。

A君:その文脈で、2050年には、全世界の温室効果ガス排出量を40〜70%の上の方の削減とすること、日本流に言い換えれば、先進国は2050年に80%削減ということが必要になってくる。

C先生:やや説明が回りくどくなったが、環境税と排出権取引とFITの三制度の並立は、80%削減を意識したものだということ。問題の核心はいくつかあって、80%削減という枠組みになると、残りの20%を誰が使うのか、という話が重要。しかも、その時期、すなわち、2050年頃には、恐らく、多少のCCSが削減の手段として組み込まれないと、なかなかこの数値の実現はできない。

A君:CCSは、未来永劫やるような仕組みだとは思っていないことは、再度確認したいです。2050年前後の20年程度で止めたい。日本という地理的な条件を考えると、一種の廃棄物処理ですから、できればやりたくない。

B君:2050年頃になると、石油をそのまま燃焼することは難しくなっている。そこでCCSは、産油国で石油を水素とCO2に分離し、COはEOR(enhanced oil recovery)のために使うことが良いのではないか。勿論、水素は液化するか、エネルギーキャリアに変えられて輸出される。このやり方なら、廃棄物処理だけだということにはならない。

A君:それでは、議論の順番ですが、以下のようになりますか。
(1)2050年80%削減となったとき、残された排出可能量20%をどのように配分すべきか。
(2)2050年前後に、CCSという処理を、日本国内で20年間、年間1億トンぐらい行うとして、この方法による排出量削減がどのように割当てられるべきか。
(3)2030年から2050年の削減量は、この間に25%削減を4.3回行うようなものなので、全方位対応になるが、自然エネルギーの普及がやはり鍵。これをどうやって推進するか。
(4)ZEH、ZEB(Zero Energy Home、Zero Energy Building)が推進されることになるが、投資を支援するための、社会的な枠組みは何が良いか。
(5)これは、極めて現実的な問題になりますが、2030年の26%削減目標が達成が危うくなったとき、どのような対応をすべきか。


B君:それでは、(1)から。この問題は非常に面白い課題だ。80%削減だということは、20%分の排出はしてもよい。ただ、実はその先があって、今世紀中には、Net Zero Emissionと呼ばれるが、どこかでゼロにしなければならないのも事実。これを見込んで、どのような制度にするか。

A君:これこそ、排出権取引の対象でしょう。COの排出が避けられない人間活動で、上位のものが炭素の還元力と石灰石(炭酸ナトリウム)というを資源を使う産業。高熱が次のランクになりますか。電力は、その時点では、ほぼすべてが再生可能エネルギー+原子力になっている。

C先生:原子力の話をここでちょっと触れておこう。3月6日の日経の「日曜に考える」が取り上げている。英国、ドイツ、米国の3ヶ国が対照的な対応をしているという話。英国は、北海油田がそろそろ枯渇するので、自前のエネルギーが無くなる。となると、エネルギー安全保障(供給)上の理由で、原子力を残す。米国は、新しい原発を作るよりも、しばらくは、自国産のシェールガスで対応するのが圧倒的にコストが安いので、原発は廃炉が進行。ここまでしか記事には無いのだが、シェールガスからのCOが問題にされる2040年頃からは、天然ガスにもCCSが必要になったとき、果たしてどうするのか、ということが書かれていない。ドイツは、イデオロギー先行という意味で日本と似ていて、脱原発主義者が多いので、自然エネルギーへ。電力の価格上昇は容認。しかし、しばらくは自前の化石燃料である褐炭が使えるから良いのだが、それが使えなくなったら、ドイツはどこへいくか。これも書かれてない。

A君:自前のエネルギーのある国、米国とドイツ。それが無い国英国。日本はどちらなのか、という議論が抜けている。これも書いてないのですが、その英国では、ノルウェーから海底電線を引いて、電力を輸入しようとしている。日本も、韓国から電力を輸入するのか? あるいは、サハリンからパイプラインを引いて、天然ガスを輸入するのか

B君:自然エネルギーの最大導入可能量だって、英国の方が日本よりも多い。それは、洋上風力のポテンシャルの違いだとも言える。日本は、自然エネルギーの利用可能量でも、英国に及ばないのだ。

A君:日本の目指すべき道は、エネルギー自給型のZEH、ZEBということになるのですが、現在人気の高層マンションなどが、実は最悪。エネルギーを得る手段が無い。2100年において日本が有利な点があるか、と言われれば、一つだけある。それが、人口減少。2100年の予想人口は、C先生によれば、4500万人。エネルギー自給が原則となっているので、人口密度が平均化され、大都市に住む人は激減している。

B君:通常の仕事は人工知能が代行して行っていて、ネット関係以外の産業というと、エネルギー産業、輸入業、配送業、それに、伝統産業ぐらいになっている。

C先生:かなり脱線した。2050年までに80%削減として、排出可能と思われる20%分の配分方法に戻ろう。

B君:鉄鋼業=炭素の還元力と高熱+若干の石灰石。セメント製造業=石灰石+高熱。ガラス製造業=石灰石+炭酸ナトリウム+高熱。これらの産業からは、CO2の発生は不可欠だ。

A君:それなら20%分をこれらの産業に分けなければならない。さて、どうするか。やはり優先的に分けるのか。しかし、恐らく、その前に重要なことがあって、二酸化炭素が原料として活用できるという枠組みを作ることでしょう。排気ガスから二酸化炭素を分けて使えそうなことが炭酸ナトリウムの製造。このような方法が、CCUと呼ばれている。Carbon Capture and Utilization

B君:次に使えそうなことが、そのCOを自然エネルギーが余ったときに製造される水素と反応させて、メタンからプロパンガスぐらいの炭化水素、あるいは、これは窒素が原料になるけれど、アンモニアなどを製造すること。夏の間には太陽の高度が高いので自然エネルギーが豊富なのだけれど、冬には太陽電池は頼りにならない。そこで、夏の間に得たエネルギーを冬まで保存するには、こんなことをしなければならない。

A君:そこで、そろそろ結論。20%分の排出可能量は、入札制度で必要な企業に売るただし、発電事業者には売らない。鉄鋼業、セメント製造業、ガラス製造を含む窯業、その他、認められた産業、といったことにする。「認められた産業」の判定条件は、電力では実行不能な製造プロセスが必須であること。

B君:これが2050年における排出量取引の実態の一部で、この枠組への入札価格は、多分、もっとも安価なものになる。

A君:次が(2)です。再度記述しますが、(2)2050年前後に、CCSという処理を、日本国内で20年間、年間1億トンぐらい行うとして、この方法による排出量削減をどのように割当てるべきか。

B君:これはCCSという事業では、海底にCOをしまい込むことになる。この権利をどう考えるか。しかも、万一の事態、例えば、地震が起きると、COが再度放出されたりしないとも限らない。これを純粋に民間のリスクで行うのは難しい。となると、ある程度、自由競争の世界ではないようだ。公的な枠組みをもった特殊企業が行うことが無難。

A君:やはり、CCSによって得た排出権も、入札によって企業に売り出される。削減対象は問わない。何にでも使えるので、電力会社も買うことができる。しかし、その価格は、かなり高くなると思いますね。

B君:まあ、そんなところだろう。

A君:それでは次。再掲すれば、(3)2030年から2050年の削減量は、この間に25%削減を4.3回行うようなものなので、全方位対応になるが、自然エネルギーの普及がやはり鍵。自然エネルギーをどうやって推進するか。

B君:やはりある種のFITを活用することになるのでは。ただし、この時期には、かなり大量の自然エネルギーが電力網に入り込むことになるので、その発電特性に応じて、電力網の安定性維持のためのコスト増のようなものがFITの価格に反映されたものにならなければならない。ということは、太陽発電のメガソーラーによる電力がもっとも安価で、陸上風力がその次。そして、もっとも高く買われる自然エネルギー電力が地熱ということになるだろう。

C先生:原子力の電力は、英国ではCfD(contracts for difference)という方式で、35年程度一定価格の買い上げを保証した。ある種のFITだと思えば良い。原発の新設は自由競争では勝てないのだ。英国では、まず、エネルギー供給の安全保障というリスクを考えて、今後の低炭素社会を実現しない場合の地球の気候変動のリスク、さらに自然エネルギーのゆらぎによる不安定化のリスク合計したリスクは、原発事故が発生することによる放射線によるリスクを上回るという判断をして、それを国民が納得したのだ。まずは、シリアを中心とした中東の内戦とゲリラの状況、イランとサウジアラビアの対立、などを判断したのだ。気候変動については、英国は、石炭発電を2025年までに、そのすべて止めることを決めていて、それも国民が支持している。

A君:本来、日本という国が見習わなければならない国が英国なのですが、どうしても、日本人のマインドの合理性は、英国人とは非常に大きく違う。何が違うか、と言えば、これまで本Webサイトで述べてきたように、「地球上に暮らす人類にとって何が正義なのか」といった大きな視点を持てるかどうかが一つ。次に「全く異なった事象を、リスクという考え方で比較することができるかどうか」。この2点。

B君:それも、歴史が全く違う国だから、という理由で説明せざるをえない。日本という国は、世界で唯一の国なのだ。外部からの軍事的侵略者が支配者になったという歴史の無い国。いや、唯一ではないかもしれない、アイスランドがそうかもしれない。もっとも、アイスランドは、ヨーロッパ人から忘れられた土地だと言われていたので、比較する方が無理かもしれないのだが。

A君:それでは、次の項目。(4)ZEH、ZEB(Zero Energy Home、Zero Energy Building)が推進されることになるが、投資を支援するための、社会的な枠組みは何が良いか。

B君:これは、むしろ自由競争なのかもしれない。現在、東京などの大都市に人口が集中しているが、これは、エネルギー供給が自然エネルギー主体になると、そう長くは続かない。となると、地域に分散居住をするようになる。そのような地域では、それなりのエネルギー自給が目指されてるが、その仕組みは、地域の不安定電力網の構築になるのではないか。安定な電力の価格は非常に高いけれど、不安定電力網で供給される自然エネルギーによる余剰電力は、余っていれば非常に安価。ZEH、ZEBは、そのような不安定電力網も接続されていて、不安定な電力の売買が可能になる。そこから電力を買って、安定電力網に高く売ることができれば、それが商売になる。それには、電池を持つ、あるいは、水素燃料電池で電力を安定化してから売ることになる。すなわち、不安定電力で水を電気分解して水素を作り、電力網の安定化に使うという行為も商売になる可能性がでてくる。

A君:要するに、それぞれの地域で、不安定電力供給網が作られる。大都市には不安定電力供給量が確保できないので、安定電力だけが供給されている。そのために、その代わり、電力価格が非常に高くなる。コストを下げるためにガス管から水素が供給されているので、燃料電池によって、高層マンションなどの電力供給が行われる可能性は無いとは言えないのですが。

B君:要するに、不安定な電力をそのまま供給あるいは買い取るための電力網が別途構築されているから、それで、分散型居住が可能になる。地域にとって、エネルギー供給をどうするか、それが暮らし方の一つの重要な要素になる。

A君:それでは、最後の(5)これは、極めて現実的な問題になりますが、2030年の26%削減目標が達成が危うくなったとき、どのような対応をすべきか。

B君:これの答が環境税二酸化炭素排出量に比例した環境税の課税が2028年ぐらいから始まる。支払うのは、化石燃料の直接、間接の使用者全員。すべてを自然エネルギー、原子力でまかなっている消費者は、環境税が免除される。

A君:以上、何が主な論点かというと、環境税、排出量(権)取引、FITは、2050年ぐらいになると、全く対象が違う状況になっていて、決してじゃんけんのような状況にはなっていない。

C先生:これで結論が出たようだ。環境税、排出量取引、FITが同じ機能だから、並立できない、というのは、余りにも限られた条件下での議論に過ぎなくて、2050年にはそれぞれの役割が、くっきりと区分されて活用されているに違いないのだ。今回、その用途をざっと考えて記述してみたけれど、さらに別の区分の仕方もあるかもしれない。ということは、今後、徐々に議論を高めていけば良いのであって、現状で、並立不能などという主張をする人々は、未来を見通す力がないから、そんなイチャモンを付けているのだ、という理解で良いと思う。