________________

  超低炭素化で技術マインドを蘇生  08.16.2008
     



 伊豆の天城で、「激動する世界『日本は今何をすべきか』」という題目で、20人程度で議論をする会合があり、基調講演を行う3名の一人として、参加する機会を得た。他の2名の講演者は、政策大学院大学副学長の白石隆氏、(株)日本総合研究所副理事長の高橋進氏であった。

 3名が3名とも述べた日本の立国戦略は、「衰退しはじめた日本にわずかに残る唯一の武器が技術であり、ものづくりである」、という主張を含んでいた。

 しかし、単なる技術では、中国などにマネをされて、すぐ競争力を失う。本当に必要なのは、付加価値の高い技術力、言い換えれば、第三次産業との深く結合した技術力が必要不可欠。ところで、技術力というと、これまでしばらくの間、日本の技術力は、正しい方向に使われてこなかった、と思う。

 今回提案する超低炭素化技術の中身は、「超省エネ、超省資源、長寿命、高付加価値」、である。技術の向うべき正当なターゲットとして、として久々に出てきたものが「超低炭素化」なのではないだろうか。

 「超低炭素化」技術で日本の技術と技術者マインドを蘇生させたい。


C先生:しばらく前までは、日本の民間企業は、箱根や伊豆に社員用の保養所というものを持っていた。しかし、最近になって、株主に文句を言われるためだろうか、保養所などの資産は売却してしまったようだ。今回、この研究会が借りたのは、外資系企業の保養所で、純粋な日本企業でなくて、外資系企業がこのようなシステムを維持していることに感心した。

A君:最近、日本社会、なににつけても自由度が無い。本当は、社員を優遇するような企業の業績が伸びるので、株主にとっても長期的にはメリットのはず。

B君:短期的なメリットを追求するのが株主の本性。

C先生:ということで、今回の話題は、「超低炭素化」社会というものが、日本の技術にとって、久々に出てきた本物のターゲットだろう、という議論を進めてみたい。

A君:それには、やはり、歴史的な検討をするのでしょうか。

B君:日本の技術が本物であった時代があるかどうか。そのあたりから検討をするか。

C先生:それなら、こんなロジックが成立するかどうか、それを検証して欲しい。まず、1979年に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という本が日本でベストセラーになった。米国の社会学者で、日本など東アジアを研究していたヴォーゲルが書いたもので、日本という社会のもつ倫理性のようなものが、日本を世界のナンバーワンに導いたという論旨。

A君:1979年前後の年、日本というものが歴史的にどんな状態だったかをなんらかの方法で記述し、できれば欧米諸国と比較をする、といったことですか。

B君:まあ、そんなところだろうが、これまでもデータをかなり揃えてあるし、超低炭素化ということで関連性が深いエネルギー消費量のようなものでの比較が良いだろう。

A君:それなら比較的簡単。しかし、その前に、世界全体の目標のようなものを設定しなくて良いのですか。

B君:今回は細かい検討をする暇はないだろうから、取りあえず、一人当たりのエネルギーの消費量で、2トン/年。そして、二酸化炭素の排出量では、日本だと現在の70%削減ぐらいで良いのでは。

C先生:エネルギー消費量は2トン/人・年を切るのはなかなか大変だろう。しかし、CO2排出量であれば、むしろ、ノルウェーなどの国のように、排出量ゼロを目標とすべきだと思う。当然、排出量ゼロは、実現不可能な目標値なのだが、そんな状況はノルウェーだって同じ。オフセットという方法論、いささか誤魔化し的ではあるが、それを使うのだ。

A君:どこまでオフセットの範囲を拡張できるか、ということですが、ノルウェーは、再生可能エネルギーなどを途上国に無償で提供して、その分をオフセットするという方針のようですが。

B君:日本はノルウェー流は難しい。日本流だと、日本の特許を使った省エネ機器の普及を途上国で行って、その分をオフセットとして勘定するのが、妥当なのではないか。

C先生:まあ、そんなところだ。それには、京都議定書期間内における排出権取引はCDMに限って、ホットエアをハンガリーなどから買うのを止めて、日本企業のもつ省エネ技術の古くなりかかった技術を国有化する。そして、それを無償提供するか、場合によっては、機器をODAで提供する。こんな雰囲気で今回はやることにする。勿論、こんな方針で何をどのぐらいのことまでできるのか、その検討をそのうち行う必要があるが。

A君:その検討は、途上国の社会的なニーズを読みこまなければならないから、大変でしょう。例えば、ヒートポンプ技術のようなものを使うとしたら、先進国に近いような国でしか受け入れる可能性は無いでしょう。まあ、電気自動車技術でしょうかね。かなり効果がでそうなのは。

B君:例えば、インドネシアのような国における個人の消費エネルギーの内訳などと、今後の経済成長による変化などのデータが無いと、確かに何もできない。

C先生:石炭ガス化の高効率火力発電などならば、どの国でもニーズはあるのだろうが。いずれにしても、今回検討できるという問題ではない。

A君:となると、ここまでで決まったことは、2トン/年・人がエネルギー消費量の目標値、CO2排出量は、基本的にゼロ

B君:まあそれで行こう。まず、日本の一人当たりのエネルギー消費とGDPの関係の復習からやろう。

A君:ついでですから、日本だけでなく、日本と韓国の比較図を示します。個人のエネルギー消費量と個人のGDPの関係です。



図1 日本と韓国のエネルギー消費量の推移。日本は1960年から

A君:この図から読み取れることはいくつもあるのですが、韓国のように、一人当たりのエネルギー消費とGDPが、ほぼ原点を通る直線で示すことができる国は多いのです。これは、単純な経済発展パターンと考えられ、多くの途上国では、こんなパターンで経済成長をしていきます。

B君:韓国は、1997年にIMFが介入するほどの経済的危機に陥った。そのため、1998年には、経済規模が縮小している。エネルギー消費量も減っていて、原点を通る直線上から余りずれなかった。

A君:韓国は1994年に一人当たりのエネルギー消費量が3トン/人・年を超すのですが、1995年、1996年あたりの経済成長が非常に速いのが特徴。その反動を食らったのが1998年で、まさに反動だったので、ドンと元に戻った感じだったのではないでしょうか。

B君:それに比べると、日本のエネルギー消費量は、3トン/人・年にほぼ到達するのが、1972年。ところが、1973年には、第一次石油ショックがあって、若干エネルギー消費量は減るのだが、目立った経済的な減速は起きていない。そこから、エネルギー消費量を増やさないで、GDPだけがユルユルと増えていく。

A君:この傾向は、1987年まで継続するのですが、少なくとも1983年ぐらいまでの10年間ほどやっていたのが、省エネ技術の開発で、エネルギー消費量を増やすことなく、GDPだけを増やすことができた。

B君:この間、第二次産業から第三次産業への転換も行われているもののまだ主流というほどのものではない。省エネというマインドの影響が大きかったのではないか、という主張をしたい。

C先生:今回は、図を示さないが、エアコンの効率係数が、1973年の1.5〜1.7ぐらいから10年間で倍増していて、3に近い値になっている。実は、その後1994年ぐらいまで、エネルギー効率の向上は見られない。バブル景気で踊っていて、技術的な進歩が止まった、と見ている。

A君:バブル景気が日本の技術マインドに悪影響を与えたことは、容易に想像できますね。不動産などを買い込めば、苦労をしないで金儲けができるという幻想に陥った。

C先生:バブルが1992年にはじけても、世の中のマインドには慣性があって、1994年まで消費エネルギーは増える。しかし、1995年ぐらいから、エアコンの効率はまたもや急上昇を始める。

B君:それが自然に起きた訳ではなくて、経済産業省のトップランナー方式が企業間の競争心を刺激し、再度省エネ戦争が始まった。

C先生:その後、競争はまだ続いていて、効率係数が6を超すような状況になった。まだ多少伸びる余地があるかどうか、というところに来ている。

A君:このトップランナー制度のお陰で、日本のヒートポンプ技術は世界最高水準になった。

B君:韓国の状況に続く日本についての復習はこんなところか。ちなみに、右の方に緑の丸があるのが、一人当たり2トン/人・年というエネルギー消費量のとりあえずのターゲット。

C先生:それでは、英国、ドイツ、アメリカの状況を見てみよう。

A君:それでは、まず英国と日本の比較から。



図2 一人当たりのエネルギー消費量とGDPの推移。英国と日本。


A君:英国のエネルギー消費量は、1979年にほぼ4トン/人・年に到達。しかし、その後、第二次石油ショックのために、3.5トンまで低下すると同時に、GDPも若干減速。しかし、韓国のIMFショックのように、反動という感じではなくて、エネルギー消費が減少した割には、GDPの減少は大きくない。3年間ほどそのような状況が続いた後に、再びエネルギー消費量は上昇傾向を続け、現時点では、再び4トンのレベルになっている。これを目標値の2トンに持って行くのは大変につらそう。かなり大胆な対策を考えないとだめかもしれない。

B君:日本は、1979年からの第二次石油ショックの影響があまり明確には見えない程度だ。理由は、恐らく2つあって、それは第一次石油ショックで開始された省エネ技術がある程度有効に機能したこと。もう一つは、為替レートだろう。1971年に固定レートだった360円/ドルが変動相場になって、1973年には、290円台。それが、1979年には160円台になっている。そのため、原油価格の上昇があまりこたえなかった。

C先生:イギリスというところは、割合とエネルギー効率が高い国だとも言える。昔から、車は小さい。気候も冬はそれほど寒くない。夏も暑くない。ロンドンの冬の気温は、東京と同じぐらいだが、夏になると、東京の最低気温がロンドンの最高気温より高い。

A君:次に、ドイツとの比較をやりますか。



図3 ドイツと日本の経済成長パターン。ドイツも、1979年からの影響が大きい。しかし、英国ほどのGDP減少は見せていない。

B君:英国よりもドイツの影響が少ないことは、ひょっとすると、もともと、5トン/人・年に近いエネルギー消費量があったためかもしれない。英国よりも多少余裕があったのかも。

C先生:そうかもしれないが、最近のドイツは、東ドイツと再統一したこともあるが、段々と日本と同じ程度の4トン/人・年になっている。ドイツの気温は、冬季には日本よりも寒いので、健闘しているとも言える。

A君:しかし、ドイツの気候ならば、冬のために、断熱を強化するという方法で対処が可能。日本の建築物の断熱技術は、どうも西欧的アプローチで、本来であれば、夏の冷房、冬の暖房用に断熱を進めると同時に、春・秋には、外気導入をするのが当然だと思うのですが。

C先生:国連大学のビルは、丹下健三氏が設計したのだが、窓が1mmも開かなかった。日本向けの設計とはとても言えない。

A君:いずれにしても、日本の1973年から始まった省エネを進めつつの経済成長をしたお陰で、1979年からの第二次石油ショックの影響が比較的軽微だった。そんなことも「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を世界に実感させた。

B君:まあ、そういうことだろう。

A君:最後に、アメリカとの比較図も出しますか。



図4 米国の大量エネルギー消費が分かる図。

A君:まだ、8トン/人・年といった消費エネルギーで、この国が、世界標準とも言える2トン/人・年になるのは不可能かもしれませんね。

B君:それでも第二次石油ショックのときには、かなりエネルギー消費が落ちている。これから、第三次石油ショックでどこまで、エネルギー消費が落ちるか、それがある意味で楽しみ。
 
C先生:さて、先日、洞爺湖サミット用に、IEAが出した図というものがある。原油価格が経済にどのぐらいの負荷を与えているか、という指標の推移なのだが、明らかに、これから第三次石油ショックに向かっている様子が分かる。



図5 IEAが洞爺湖サミット用に用意した図に、いくつかの書き込みを行ったもの。

A君:第三次石油ショックが来るのであれば、真面目に超省エネ技術に取り組む意義がある。

B君:石油のピークアウトが現実的になっているので、まず、確実に第三次石油ショックになるだろう。

C先生:加えて、鉱物資源にも限界が見えることだろう。となると、超省資源も重要。そのひとつの方法が、長寿命商品の開発で、しかし、そうなると、経済的な価値の創出量が落ちるので、高付加価値品を作るしかないことになる。

A君:とは言っても、携帯電話のように、今後、縮小均衡へ向かう日本国内のみの視点を、海外の巨大市場へ向けることも重要。

B君:自動車もそうかもしれない。特に、途上国向けの自動車は、台数としては、成長市場であることに間違いは無い。

C先生:先進国向けに高付加価値品を、途上国向けには、機能限定の普及品をというのが確かに本当のところだ。ただし、長寿命であることは必要条件だ。

A君:日本のこれまでの技術は、どうみても、市場主義に支配されすぎていて、「売れる商品が良い商品だ」ということで開発を進めてきた。しかし、本当のところは、「売れれば良い」ではダメで、「もう一度買ってくれる商品」を開発しなければならない。

B君:カタログ上の無意味なスペックの向上を目指すような技術開発は無駄なだけ。デジカメの画素数、最高感度は、1/2インチ以下のCCDを使っているカメラでは全く無意味。

C先生:1200万画素ということは、A2に印刷しても十分見られる絵になる。素人はいくらなんでも、A4までの印刷もしない。

A君:初心者向けのカメラ、たとえば、最近の例だと、HOYAのペンタックスE60の1000万画素、最高感度6400というものがどんな意味があるのか。

B君:この機種を日本経済新聞は、こんな風に紹介している。
従来機では約800万だった有効画素数は約1010万に高めた。ISO6400までの高感度撮影を可能にし、暗い場所でもフラッシュを使用しなくてもきれいに撮影できる

A君:結構犯罪的なコメント。初心者にこんな難しいカメラを買わせては行けない。こんなカメラは、上級者だって使うのが難しい。初心者に買わせたら、メーカーの評判を落とすだけだ。

B君:携帯もにたような状況。

A君:液晶テレビも、視野角のようなものでは、スペック至上主義。178度も視野角があってどうするの。

C先生:技術者の立場からすると、こんなつまらない商品開発に従事させられて、どんなやりがいがあるというのだろう。今後「超低炭素化」がターゲットになれば、これは、意味のあるターゲットなので、やりがいも出てくることだろ。

A君:あらゆる新規のアイディアで、これに取り組んでほしい。

B君:そうなれば、1979年の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」なる本が出るような時代を再度作ることができるかもしれない。

C先生:同じデジカメでも、中級機以上の一眼デジカメになると、結構良い線を行っているように思える。きっと、開発している技術者は、やりがいを感じていることだろう。こんな取り組みターゲットが、「超低炭素化」だと思う。しかも、ほぼあらゆる商品がこの対象になり得る。これで、日本の技術マインドの蘇生が実現できることを切望する。

追加:最後に、総論の議論をしたが、官僚機構の低炭素化(=効率化)も、同様に重要だという結論にはなったが、はるかに重要なことが、国会議員の低炭素化なのではないか。衆議院、参議員とも、議員数半減が「超低炭素化」時代には必要不可欠だ。