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  温暖化防止技術のお値段 その1 07.07.2007
     



 本日のテーマは、温暖化防止技術にはお値段があるということ。
 1トンのCO2削減を行う場合に、いくらかかるか。安価な技術から先に導入し、徐々に高価な技術が導入されていく。これが経済原則である。
 IPCCのWG3の報告書のファイナルドラフトがネット上には存在している。引用するな、と書いてあるので、図などはそちらを見て貰うことになるが、この議論をしてみたい。
 本日は、第一回目ということで、輸送が対象。しかし、輸送だけでも1回では終わらない。

C先生:G8以来、政治と科学のポジションが逆転した。昨年の秋ごろまで、科学界は、人によって若干のニュアンスの差はあるものの、気候変動は科学的にもかなり確実になってきているので、政治はもっと真剣に取り組むべきだ、という主張をしてきた。ところが、状況が全く変わってしまった。政治が先行してしまった

A君:安部首相の「美しい地球50」、続いて、G8の合意によって、どうも、政治の世界では、詳細は別として、「2050年までに温室効果ガスの少なくとも半減」が当たり前になった。まだ、口先だけという評価もできない訳ではないが。いずれにしても、半減といっても科学的に実現できるかどうか、それが確実では無いのに。

B君:スターンレビューレポートによれば、GDPの1%程度の投資を行えば、温暖化は防止可能で、もしも、その投資を行わなければ、GDPで5〜20%の損失を招くだろう、となっている。
 そこで、産業界は、EUは当然として、米国もこの温暖化防止のためにGDPの1%が使われるということは、「これは商売になる」、と思い始めた。

A君:ところが、日本の産業界は、「やっと長い不景気から回復してきたのだから、しばらくそっとしておいてよ」、という感じである。

B君:しかし、本当のところは、もっと保守的なスタンス。温暖化対策に投資を行うということは、実は、産業構造のかなりの部分が変わるということを意味する。例えば、本日の話題である輸送についても、燃費の良い自動車を開発するということは、結果的に石油の消費は減ることを意味する。すなわち、これまで石油精製業に流れていた金が、自動車産業に流れるようになる。

A君:さらに、長期的に考えると、内燃機関は徐々に電気自動車に変わるだろう。そうなると、これまで自動車業界がエンジン技術でなんとか他者の算入を阻んできたが、そうもいかなくなる。電池やモーターなどを製造する電機産業が輸送機器産業の中心的存在になる。

B君:これは、産業構造に革命が起きるということだ。革命だが、マーケットがそれを選んだのならば仕方が無いが、「環境問題への対応」という「政治的な理由」でこんな大変なことが起きることを容認する訳にはいかない。これが、経団連などの中心的な考え方。

C先生:本来、「経団連というものが産業界全体の意見を反映している」、という考え方そのものがもはや破綻している。産業界といっても一体ではない。温暖化防止によって有利になる業界、不利になる業界があるので、それを産業界という言葉で一本化することなど、もはやできない。

A君:このような根本的な発想が変わらないと、日本産業界は置いていかれる。

B君:毎度毎度文句を言っている携帯電話の業界も、国内の需要という中途半端なサイズの市場(年間6000万台程度がピークか)、があるものだから、その範囲内だけで競争をしていて、近々10億台/年を超すと見込まれる世界の巨大市場での競争力を完全に失った。

A君:携帯電話で今起きていること、すなわち、世界の孤児になるということが、温暖化対策技術の世界でも起きないとは限らない

C先生:それには、今後、温暖化防止技術がどのように普及していくか、それを正しく予測することが大きな鍵を握る。しかし、実際のところ、2050年で温室効果ガスを半減できるだけの技術があるとは言い切れない。

A君:IPCCのWG3は、そんなことを議論するグループで、日本からもかなり多くの研究者が参加している。その予測がどのぐらい正しいと言えるか、これは大問題。

B君:学者が市場を予測して当たるか、という大きな問題はどうしても残る。

C先生:というところが、本日の議論を進める前提。かなり長い報告書が多いが、ここからダウンロードしていただきたい。もちろん、英語。本日使うのは、そのうち、第5章の輸送。
http://www.mnp.nl/ipcc/pages_media/AR4-chapters.html
 そして、議論の中心は、削減コスト。

A君:まず、サマリーに出ていることのさらなる概要ですが、当たり前のことも多いのですが、
(1)輸送は、世界の23%に相当する6.3GtCO2(2004年)を排出している。
(2)そのうち、74%が道路を使った輸送。
(3)非OECD国による割合が36%。しかし、2030年までに46%になるだろう。
(4)電気あるいは水素がエネルギー源になれば、直接的なCO2の放出は無くなるが、どうやって電気、水素を作るか、それが大問題。
(5)2030年までに、「新軽量車両」の導入によって50%の燃費向上は可能だろう。
(6)ハイブリッドは、トラック・バス向き。
(7)トラックは、空気抵抗の低減が必須。
(8)2030年での削減のポテンシャルは、
*軽量車両では、0.7〜0.8GtCO2($100/tCO2で)。
*重量級では、不明。
*バイオ燃料は、0.6〜1.5GtCO2($25/tCO2で)。
(7)鉄道は、もっともエネルギー効率が高いが、まだ削減の余地あり。
(8)船も同様にエネルギー効率が高いが、改善の余地あり。
(9)飛行機は、燃費改善が著しく、かつ継続的に向上が可能。特に、新しい翼の設計、ターボファンなど。
(10)バイオ燃料は、2030年で輸送用エネルギーの10%まで。
(11)公共交通の普及も鍵。
(12)総ポテンシャルとして、1.6〜2.55GtCO2(<$100/tCO2)があるが、これらの大部分は、北米とヨーロッパのOECD諸国にある。
(13)ガソリン税の課税が重要。
(14)技術的な開発が必要不可欠。


B君:次に序論があるのだけど、自動車に関しては、こんな記述がある。
 米国の軽量級自動車の燃費は、1987年に比較して平均(モデルでの平均)で2005年で24%も良くなった。しかし、実は、売れ筋の車が27%も重くなり、加速性能も30%向上したため、結果的に5%ほど燃費が悪くなった。

C先生:この話は深刻。カローラ初代が出たのが1966年のこと。車幅が1485mm、全長3845mmで、軽自動車を長くしたといったサイズで、排気量は1100cc60馬力(44kW)であったものの、車重も710kgと軽かった。
 最新モデルは、1695×4460mmと大きくなり、エンジンも1.5Lモデルでも車重が1150kg。エンジン出力81kW。
 重量で62%、エンジン出力84%(測定基準が変わっている?)も増加。いくら技術が進歩しても、実燃費で、今のモデルの方が良いとは思えない。

A君:車重が増加する主な理由は、安全性と高級感。これ以上、運転者の安全性を高めてもどうするの、というところまで来ているのに。むしろ、大型トラックあたりの衝突防止技術を開発し、かつ義務化して、乗用車は、軽量化を目指すべき。重い車になれば、歩行者、自転車、バイクなどへのインパクトは増大するのだから、自動車を運転する人は、軽量化によるリスクの若干の増大を負担しても当然という方向性ではないだろうか。

B君:輸送の将来像が議論されている。まず燃料について。燃料は多様化が進むとしている。オイルサンドなどからの油、天然ガス、石炭、バイオマス。ガス状の燃料や電気も使われるようになるだろう。そして、オイルサンド、超重質油からの液体燃料の製造には、多量のCO2排出を伴うだろう。

A君:ハイブリッド車が、日本、アメリカ市場では売れ始めているものの、どのぐらい普及するかは、コスト次第。ヨーロッパ発の軽量化したディーゼルエンジンも、CO2削減には貢献するだろう。

B君:このあたりは、22ページの駆動機構あたりのところで議論されている。

C先生:さて、このあたりで、一旦止めて、ハイブリッドなのか、ディーゼルなのか、という比較をコストの面からしてみよう。

A君:となると、それぞれの技術がどのぐらいの価格で、どのぐらいCO2を削減するか、という評価がまず必要になる。

B君:まとめると、
(1)コモンレール型直噴を使ったディーゼルは、
*通常のガソリンエンジンよりも35%効率が良い。
*ただし、排ガス規制が現行のEuro4から、Euro5Tier2(2010年ごろ??)になると、30%効率アップに留まる。
*コストは、$2000〜3000アップぐらいだろう。
(2)ハイブリッドは、
*プリウス型のようにストロングハイブリッドだと、40〜50%の効率向上。
*メリットは、4輪駆動が簡単に作れる。
*発電機としても使える(災害用)。
*信号機の多い都会用にはハイブリッドが適していて、ニューヨーク市のバスでは、45%のアップ、また、Fedexは、E700型ハイブリッドで57%効率がアップしたと主張している。
*コストは、$4000ぐらい。
(3)プラグインハイブリッドは、
*全米の30〜40%の走行距離を電力でカバーすることを可能にする。
*しかし、電力がどのような方法で作られているかによって、CO2削減効果は変化しうる。
*コストは、バッテリーの価格次第。


A君:ちなみに、米国におけるプラグインハイブリッドのページは、 
http://www.edrivesystems.com/
http://www.energycs.com/recentprojects.htm
あたりにあって、それによると、プリウスにオプションとして積むシステムを$12000ぐらいで提供したいとしている。

C先生:さて、最初から結論を述べれば、ガソリンあるいは軽油の価格をどう仮定するか、これで勝負が決まる話だが、少々、推定をしてみるか。

A君:了解。まあ、ガソリンも軽油も価格が低いと何もしないのがベストという結論になるので、まあ、高めの仮定をするのでしょうね。それに現状を加えて解析ですか。
仮定1:ガソリン200円/L、軽油200円/L。
仮定2:ガソリン200円/L、軽油150円/L。
現状:ガソリン140円/L、軽油100円/L。

B君:基準になる通常の車の燃費をどう定めるか、これも重要。
燃費仮定1:5km/L
燃費仮定2:8km/L
燃費仮定3:12km/L
こんなところで行くか。

A君:排出原単位だけど、
ガソリン:2.25kg−CO2/L
軽油:2.65kg−CO2/Lぐらいで行きますか。

B君:車を何キロ使うか、これも重要。地球全体のことを考えると、車を買うと、その車は15年程度は世界中を走り回る。しかし、まあ、個人が運転する距離も考慮にいれて、
総走行距離仮定1:5万キロ
総走行距離仮定2:10万キロ
総走行距離仮定3:20万キロ
総走行距離仮定4:30万キロ

A君:ハイブリッドの燃費向上ですが、50%と100%とをやりますか。都内のような状況だと、今のプリウスでも、エアコンを使わなければ、100%アップするでしょうから。

C先生:良いだろう。当然のことながら、今回の比較は、1トンのCO2を削減するために必要となるコストが基準。

A君:まず、ディーゼル車が30%燃費が良くなるという仮定の場合の結果。費用比較と1トンのCO2削減コストをドルで示したものです。



図 ディーゼル車の燃費が50%アップする場合の費用比較とCO2削減コスト

A君:こんな感じでして、もともと置き換える車の燃費が悪い場合には5万キロの走行であっても十分に所要費用が減ります。もちろん、軽油とガソリンの価格差が大きければ大きいほど、効果的。ただ、将来は、乗用車の場合には、軽油を安く買えるとは限らない。とすると、やはり、5万キロ程度の走行では元は取れない。

C先生:1トンのCO2を削減する費用ということになると、黒字で書かれたところは、費用的に見合うので、タダ。しかし、赤字のところが、削減に費用が掛かることになる。最悪のケースが、ガソリン200円、軽油200円、走行距離5万キロという場合で、1トンの削減に$1585掛かることになる。これは、採用されないぐらい効果な対策だということになる。

B君:しかし、それなら軽油の価格を安くして、ディーゼルに誘導すべきだという結論になってしまう。それもおかしい。やはり、ガソリン車、ディーゼル車の区別なく、燃料価格に燃費に比例する部分を含ませるべきだ。

C先生:課徴金型ね。20km/L以上のカタログ燃費の車だと課徴金はタダだが、例えば、20km/L以下だと30円/L、15km/L以下だと70円、そして、10km/L以下のような車だと、課徴金が100円/L、などという形。これが実際のところ、もっとも効果的な誘導策。大型の高級な車に乗りたい人は、ディーゼルなりハイブリッドなりの車に乗れば良い。

B君:メルセデスで言うと、C230が10.0km/L。2.5Lのエンジン。BMWだと、318tiが11.0km/L、エンジン2L。トヨタで言うと、マークXが11.0km/L、2.5Lのエンジン。VWのような小型車を作っているところでも、15km/Lを上回るモデルは無い。話題のVW ゴルフ GT TSIですら、14.0km/L。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/gjou.html

A君:次が、ハイブリッド車の場合で、燃費が50%アップするとい仮定の場合。



図 ハイブリッド車 燃費50%アップ


A君:この場合、走行距離が5万キロだと、ほとんど元は取れない。大型車のハイブリッドで、ガソリン価格が200円になるとやっと取れるという結果。

B君:10万キロ走行になっても、ガソリン価格が140円だと元は取れず、1トンのCO2削減コストとして、$121かかることになる。逆に言えば、1トンのCO2排出に、環境税が$121ドル掛かるとすれば、トントンになる。

C先生:それが環境税の考え方。コスト的にあうあわないの境目が動く。

B君:ハイブリッドの場合には、電池を交換する費用が入っているみたいだな。

A君:10万キロごとに15万円を計上しました。

B君:ニューヨーク市のブルームバーグ市長が市内のすべてのタクシーをハイブリッド車にすると宣言。タクシーなら、最低でも20万キロぐらいは走るだろうから、元を取るのも簡単。

C先生:ニューヨークのイエローキャブは、もともと燃費が悪そうだ。恐らく、5km/Lは行っていないぐらいだろう。米国のガソリン価格は、まだ100円/Lぐらいだが、それでも、十分に採算は合うだろう。

A君:問題は日本か。日本のタクシーはLPG車が多い。しかも、タクシー用車両の価格は、異様なまで安価。燃料も車両も安いもので、ハイブリッドタクシーへのインセンティブが沸かない。

B君:プリウスなら、50%アップではなくて、100%アップぐらいなのだろうから、なんとかコストも元が取れないか。

A君:次の表が、100%アップの場合。



表 ハイブリッドの燃費が2倍という仮定

A君:さすがに、かなり状況はよくなるのですが、それでも、総走行距離が短いと難しい。ただ、タクシーのように20万キロも走れば、もしもやはり相当利くでしょう。車がタダになるという訳には行きませんが。

C先生:燃費2倍になれば、1トンCO2あたり$113ドルの環境税で、5万キロぐらいの総走行距離の車でも、費用的に見合うようになる。このぐらいが妥当なところなのではないか。税額としては、30円/Lぐらいの環境税になるが。

B君:燃費2倍ね。ただ、エアコンを常時動かすとなると、やはり難しいかもしれない。

C先生:冬のヒーターは、タクシーの場合にはなんとかなるだろうが、渋滞に突入したときの冷房だと、いかにプリウスの電動エアコンであっても、燃費は相当落ちるだろう。しかし、通年で、70%アップぐらいは可能だと思うが。

A君:まだまだ輸送の議論があって、これからバイオ燃料、水素、燃料電池、といって、それから、CO2削減コストの話になるのですが、もう長くなりすぎた。

B君:さらには、航空機、船舶、物品輸送などの話になっているようだ。

C先生:まあ、こんなところにして、続きは後日ということで。