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昨年12月28日の記事「理系と文系の溝 追補」では、朝日新聞の12月22日の記事を引用しました。それをまず、再掲します。 23日の朝日新聞社会面(22面)に、福島の子どもの甲状腺がんと被爆との関係の記事が載っています。 これは、環境省と福島県が主催する「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会 〜第3回“甲状腺”を考える」(2013年12月21日開催)の講演会に基づく記事です。 朝日新聞の記事の概要 観察されたことは、「甲状腺検査は事故当時18歳以下を対象に行われ、9月30日現在で、約23万9千人のうち、59人ががんやがんの疑いと診断され、1人は良性だった」。 県立医大の鈴木真一教授は、これまで見つかったがんやがんの疑いのある例について、「被爆の影響とは考えられない」と講演した。 岡山大学の津田敏秀教授は、国内のがん登録の結果から、10代後半から20代前半の甲状腺がんの年間推定発生率は、「平均(1975年〜08年)は100万人あたり5〜11人」と指摘し、「福島の子どもの甲状腺がんの発生は数倍〜数十倍高く、多発と言える。今後さらに増える可能性もあり、今のうちに対策をとるべきだ」。 津田さんの指摘に対し、県立大学の大平哲也教授らから、福島の検査と「がん登録」と比較するのは科学的に不適切などと批判がでた。 以上、朝日新聞の引用 さて、この調査結果と3つの異なる意見(認識)をどのように評価したら良いのでしょうか。 ところで、「がん登録」は、病院を受診した人を対象とする統計で、同一人物の同一腫瘍が複数の病院を受診したことによって重複登録されることを避ける仕組み。要するに、なんらかの自覚症状があって、病院を受診した人が対象。一方、福島の検査は、全員が検査対象になっている。すなわち、統計の母集団が全く違う。 ということで、以下、個人的見解です。 津田教授は、疫学者としては考えられないほどの超々基本的な過ちを犯していることになります。それでも教授というポジションがあることは、恐らく、上記の認識の態度の分類では、タイプ3の人だろうという推測が成り立つように思います。このタイプ3の人には科学者は無理で、本来、政治家が適しているのでは。 ちなみに、タイプ3の人とは、先に結論があって、それ以外の結論に至る認識法を採用しない人のこと。 以上が、本Webサイトからの再掲 朝日新聞の記事を読んで以来、この津田教授とはどのような人なのか、かなり気になっていた。あるいは興味を持っていたというべきかもしれない。 2014年2月7日の「科学」岩波書店の3月号に、津田教授が、「2014年2月7日福島県県民健康管理調査検討委員会発表データによる甲状腺検診分のまとめ」という記事を書いた。 この3月号の他の目次については、 https://www.iwanami.co.jp/kagaku/ からご覧頂くことができる。 この文書における分析の概要は、専門家意見交換会と完全に同じといっても良い。すなわち、使用されている発症数データは、福島県県民健康管理調査検討委員会の2014年2月7日のデータである。 http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/260207siryou2.pdf 文章としての出来は、なにか非常に乱雑で、何を検討して何が言いたいのか、かなり分かりにくい文章である。岩波の「科学」だから掲載された原稿、とも言えるように思える。 かなり前になるが、一般財団法人サイエンス・メディア・センターの2011年4月1日号にも、津田教授の寄稿が掲載されている。 http://smc-japan.org/?p=1382 この文章は、内容も記述もほぼ常識的で、突っ込みどころがある訳ではない。4月1日号なので、実際の執筆は、東日本大震災以前になされたものと考えられる。やはり、東日本大震災によって、津田教授の中で何かが大きく変わったのだろう。すでに述べたように、現時点では、タイプ3の人になってしまったように思える。 以下、環境省と福島県が主催する「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会 〜第3回“甲状腺”を考える」(2013年12月21日開催)の講演会について記述する。 この講演会のビデオがUSTREAMにあるのだが、次のページから間接的に見ていただくのが良いように思う。このページそのものの評価は別として、ビデオの品質が本家のUSTREAMよりも良い。 http://momsrevo.blogspot.jp/2014/01/3.html 鈴木真一教授の講演 極々まともな講演なので、コメントは省略。申し訳ない。 津田敏秀教授の講演を聞きながらの感想 講演の前半部分が、100mSv以下の被曝量であれば、がんは発症しないという理解は過ちであるということを切々と述べている。ICRPの理論に基いて、それが証明できると主張している。 だれも、そんな当たり前ことに反対を唱えている人はいないと思うのだが、なぜなのだろうか。 津田教授が根拠として使用しているICRPの文書が述べているように、100mSv以下は、統計的な限界があって結果はぼんやりしている、ということが正しい理解である。何を考えて、貴重な講演時間をこのような内容に費やすのか、全く理解できない。 100mSv以下の議論のために、原点に向かって外挿する理論でLNT仮説に従えば、10mSvを被曝したときには、0.055%の人ががんを発症する確率だということになる。 CTスキャンを受診した人のデータが世界最大のデータで、68万人分のデータがある。これは、広島・長崎の被爆者のデータ数86611名のうち、100mSv以下のデータが68470名であるので、その10倍近い。 CTスキャンの受診回数1回から3回の人の発がんのデータが、受診回数0回の人とほぼ直線関係にある。ちなみに、CTスキャンを一回受診すると被曝する放射線量は、5〜50mSvと述べている。縦軸はIRR(発症率比=暴露した人の発生率/暴露しなかった人の発生率)で、引用されているデータは、これ。 ![]() 図1 CTスキャンの受診回数と発がんとの関係。 http://kaigyoi.blogspot.jp/2013/05/ct11.html 「内科開業医のお勉強日記」に解説あり。 この解説によれば、CTスキャン暴露超過発症は608で、脳腫瘍147、固形腫瘍356、白血病・骨髄異形性49、他のリンパ系疾患57。固形腫瘍に甲状腺がんは含まれるのだろう。 ちなみに、「内科開業医」からのメッセージは次の通りである。 「原発や原爆の放射線被曝による身体的影響には厳しいくせに、より日常性のある、医療用放射線の身体的影響には寛容な日本国民。腹部の脂の量を測定するためだけのCTスキャン風景をテレビでよく見る。よろこんでCTをうけすぎる国民は、まか不思議。 大人は自己責任が通じるのだろうが・・・子供は特に自らのリスクを自分で判断できないのだから、周囲がそのリスクベネフィットを慎重に判断すべきなはず。 2歳未満の軽症と思える頭部外傷に関するCT検査適応・・・様々議論されているので、検索して参考のこと」 このグラフはそれなりに直線性があるようにも見えるが、CTスキャンを受けたことがない人と、CTスキャンを受けることになった人は、同じ対照群=母集団だと言えるのだろうか。日本であれば、この開業医が言うように不必要なCTを受けたがる人が多い国だから、同じような母集団かもしれないが、他の国でもそうなのだろうか。 このデータを、ICRPなどの根拠である100mSvの被曝で、発がん確率が0.55%増加するという値に比べると、格段に高い。CTスキャンの被曝量は、最近は5mSv以下だが、このグラフの元データでは、1回あたり50mSvだったとしても、2回の受診で100mSvしか増えない。発がんのバックグラウンドは、30%なので、それが30.55%になるだけ。IRRは、1.02ぐらいになるだけである。すなわち、この結果を健康人に適応するのは不適当だということにはならないか。 話を元に戻す。津田教授が行った福島での甲状腺がんの発生件数の分析で使われた対照群は、国立がん研究センターがん対策情報センター発表の甲状腺がん発生率の推計値(1975〜2008)であった。 ところで、朝日新聞が報道した「がん登録」のデータに基づいたという記述は誤報だった。なぜならば、「がん登録」が始まったのは、2013年のことだからである。1976〜2008年のデータが「がん登録」のデータである訳がない。 「がん登録」以前だと、がん発生数は重複があるデータだということになって、もし、「がん登録」以後に同じことをやったら、発生数は若干少なくなるはず。ということは、津田教授の主張である「アウトブレーク」がますます強調できるデータになったのかもしれない。 津田教授が無視していることは、やはり、対照群との同等性の議論のように思える。過去、岡山大学などでも甲状腺がんの疫学を行っているというデータがでているが、その方法は、触診のみであって、福島県で用いられた超音波法とは違う。 超音波のエコーによる診察法の分解能は、かつて数ミリと言われたものが、現時点では1ミリになったらしい。かなり進化している。 スクリーニング効果という用語がある。それは、成人になり、40歳代、50歳代になると甲状腺がんは増えてくるが、10代の検査をすると比較的多くの甲状腺がん、もしくは、その前駆症状が見つかるが、これは、その状態のままかなり時間が経過して、中年になってから発症するということを意味している、という主張を意味する言葉である。 津田教授は、今回みつかった59件もの福島県の調査結果は、件数として多すぎて、スクリーニング効果などで説明できない、と主張している。しかし、対照群が違っていては、どんな議論も無価値である。 そして、今後確実にアウトブレークが起きることを前提として、その準備をするのが行政の役割であると主張。その理由として、アウトブレークが起きないということは、誰も証明できないからだ、という。 しかし、考えてみなくても分かることだが、アウトブレークが今後起きないという証明は「悪魔の証明」なので、もともとできないことである。悪魔の証明に類する対応を考えることが行政の責務であるという結論は、余りにも暴論である。 ついでに、「100mSv以下でがんがでないという論文はない」ことも、悪魔の証明にかかわる問題。悪魔の証明を自分の論理の正当化のために使いはじめたら、その人にタイプ3症候群が起きはじめていることの判断材料になる。 質疑応答 鈴木: 外部被曝は もちろん 参考になるが、それ以上に重要なのは 甲状腺の等価線量。チェルノブイリに比べると 極めて低い。 津田:等価線量については、WHOが2012年4月に推定値を出している。 細井:甲状腺がんということを考えるならば、やはり等価線量で評価しなくてはならない。甲状腺の等価線量への寄与は、初期のプルームをどれだけ吸ったかによる。この解析は、2013年の鈴木先生の発表がある。 ??:パブリケーションバイアスというものがある。差がないといった否定的な結論は論文になりにくい。 津田:「差はないという論文はいくらでもある」(具体的に述べないので、意味不明だった) ??:「対照群の違い」を指摘してみたい。有病期間の設定も意味がある。直径3〜4cmの人も見つかっている。このような人は、事故以前から存在していたはずだ。 津田:「発生率と有病期間を繋ぐ式で補正しているから」、分からないというような状況ではない。アウトブレークは分からないような状況だったら対策を取るべき。スクリーニングをすれば多くのがんが見つかる(これも理解不能)。 津田:チェルノブイルの検査で、非暴露者の検査で甲状腺がんが見つかっていないという事実が否定できない。 ??:そのときに超音波では、5mm以下の検出はできなかったからではないか。 津田「.....」 柴田?:自分のチェルノブイリに関する論文が引用のされたが、そのされ方に驚いている。91〜95年間16万人検診した。影響はあると推定されたがが、どのように表現するかが問題だった。なぜなら線量のデータが分からなかった。甲状腺がんだから、放射性ヨウ素が重要だろう。8日間という半減期を仮定しても、87年にはもう事実上無くなっている。もしも検診効果であるのなら、87年以降に生まれた子供を検診すれば、差が出ると考えた。 事故前出生群9720人で31名、事故後出生群2409人中1人、1987年以降出生群9472人中0人と大差があった。セシウム137による被曝は継続していたから、ヨウ素131の影響で説明できると考えた。 すなわち、セシウムを主とする空間線量率は、甲状腺がんの発症に影響していないようにしか見えない。したがって、津田教授の主張のような、空間線量率で対策を取るべしという理由が分からない。 津田:空間線量とヨウ素131の影響は分離できていない。 津田:2年目に検査をした中通り地区の甲状腺がんの検出割合が高かった。放射線量が多い1年目の検査地域よりも、多く見つかるのはありうるにしても、思ったよりもさらに多かった。その説明のために、チェルノブイルのデータだけを見ていてはいけない。3年目がどうなるのか。空間線量率のある程度高いところに住み続けている人々が多いので、これを突き詰めばならない。空間線量の高さか、あるいは、ヨウ素かもしれないが、いずれにしても因果関係があると考えなければならない。 ??:空間線量が高くて大丈夫とは言わない。しかし、空間線量と甲状腺がんの関係はあると確実に言えるのか。 津田:WHOの報告書がある。 大平?:有病率と発症率を比較してしまったために、多発と結論したのではないか。今回の検査結果を、100万人に5人とか100万人に11人とかいった発症率と比較してはいけない。 それに100mSvでのリスクを数値で示して欲しい。 津田:「アウトブレーク疫学」は違う立場だ。現時点で、使っている100万人に5人といったデータは、そのうち、使わないようになるだろう。 大平?:地域の平均被曝量を個人の被曝量として表現してよいのか。これは、疫学の常識ではない。 津田:それで、良いのです。私は疫学の専門家なので、信じてもらう以外にない。 大平?:もう一度言う。今の福島の空間線量の数値で、どのぐらいのリスクになるのか、その数値を言って欲しい。 津田:リスク比が30.98倍だと何回も言っている。あなたは分かっていない。リスクとリスク比をごちゃごちゃにしている。 ??:柴田先生へ。同じ母集団を検査したのか。 柴田?:93年ごろから増えたというデータが出はじめた。当時、子供であった人が甲状腺がんを発症していた。ということが分かった。14歳までは、96年にピークになったことを証明。今は、大人のところが増え続けている。被曝の実態は、とてもひどい状態だった。まず事故が隠されていた。そのため自家製の牛乳を飲み続けていた。結果的にヨウ素131の被曝量が莫大であった。 早野?:鈴木先生のスライドにある福島とチェルノブイリの等価線量の比較が余り議論になっていない。チェルノブイリと福島では被曝のレベルが余りにも違う。最終的に、線量のレベルが全然違うという結論になると思うのですが。 津田:「.....」 中西?:津田先生のリスク評価で中通りが高くなっていることは、再度チェックが必要である。今後、検証を続けていくなかで、甲状腺がんが出たときに対策ができるのか、という点が問題であるので、自治体のアドバイザーが考えることが建設的である。 馬場?:チェルノブイリに比較して非常に少ない線量で、甲状腺がん多発しているという主張が津田先生によってなされているが、その機序はどうなのか。 津田:「.....」 鈴木:今回の調査結果は、想定の範囲内でしかない。すなわち、日本全国で精密検査をすれば、この程度の数値が出るということで、放射線への被曝とは無関係。 津田:もともとアウトブレーク疫学とは原因すら分からないというところから始まる。今回は、原因の見当が付いている。降下した線量も分かっている。正確な多発数のデータは20年後に出せば良い話。今、考えるべきことは、アウトブレークはまだ本格的に始まっていないが、端緒が見えているのかもしれないということ。だから対策が重要だ。 ??:北海道などの甲状腺がんの発生の詳細を調査したデータがある。知っているのか。 津田:「.....」 新井?:鈴木先生。判定基準で、A1、A2が二年後の検診で良いのか。その後、いつまで追いかけるのか。 鈴木:何回もシミュレーションしている。その結果、さらに間隔が伸びる。結論的には、2年後の検診で十分。本格検査が来年に終わるので、その結果をまとめるので良い。」 津田:「.....」 ??:聴衆の皆さまも、鈴木先生と津田先生の立場が違うことを感じたと思うが、はっきり言って、その当時のエコーと現在のエコーの感度は違う。福島の外、特に、西日本の検査をきっちりとやれば良い。それをやれば1年間で決着がつく。スクリーニング効果も説明ができるだろう。 という訳で、質疑応答は、ほぼ津田バッシングの様相であったが、それも当然のことだろう。疫学者としては、ポアソン分布のかなり端に存在している人だからである。 C先生:さて、ビデオをみて、どのような感想だっただろうか。なんとも長いビデオだったが。 A君:津田教授が「自分は疫学の専門家であるから、信じてもらいたい」という発言があったが、その相手の大平教授も実は疫学の専門家だということを知っていたのだろうか、と思いましたね。その相手である大平教授がリスクがどのぐらいになるのか、ご本人の口から聞きたいと要求したが、結局、誤魔化したと思います。 B君:津田教授は自分を「アウトブレーク疫学」の専門家だと主張しているけれど、並の疫学者ではない、ということを言いたいのだろう、というのが個人的な結論。すなわち、津田教授は、福島の住民の味方という立場を取ることは考えていないのではないだろうか、というのが、その結論の先にある推測。 A君:ということは、自分自身の「アウトブレーク疫学」の普及のために現在のような講演をやっている。あるいは、自分の主張が認められて、福島中通りの住民への避難を勧告出す(誰が出すかは別?)事態になることを望んでいる団体からの支援を受けてやっている。これが結論ではないでしょうか。 B君:そう言えば、アウトブレーク疫学に関する自分の本の広告を相当やっていた。広告する訳ではないですが、という言い訳は付いていたが。 A君:「アウトブレーク」という言葉は感染症の用語なので、放射線のように伝染性が全くない場合に使用するのは、もともと不適切ですよね。ということは、いくら「アウトブレーク疫学」を福島に適用したといっても、誰も支持をするとは思えない。最初から、間違った名前を付けて、福島の人々をますます苦しめることにしかならないのは分かっているはず。決して、福島県民の味方ではない。 B君:福島県民も一色ではないので、場合によると、津田派が存在しているのかもしれない。 A君:さて、次の問題点が、疫学者としては決してやらないであろう対照群(あるいは母集団)の選択に間違いがあることは、指摘されていましたね。 B君:これは確かに基本的な間違いだと思う。そこに誤魔化しがあることがもともとバレている。このような素人にも見破られる理屈で闘うのは、相当な覚悟があるとしか言えない。要するに、最初から無理は承知の議論なのではないだろうか。 A君:今回のようにプロ的な人々から質問を受けることを想定していなかった。あるいは、困ったら訳の分からない解答をしてとぼける戦略だった。 B君:余りの追求に、疫学者のプロに向かって、「あなたは疫学が分かっていない」というのでは、その本性が分かる人には分かってしまった。 A君:もう一つ、今回、ほとんど指摘する人が居なかったのだけれど、疫学のもう一つの基礎である原理原則が無視されていると思いました。それは、Dose-Responseの関係。日本語で言えば、用量反応の関係。有害物を大量に体内に取り込めば、その悪影響も大きいという常識的な関係です。 B君:確かに余り話題にならなかったが、津田教授が解析に使ったデータは、すでに記述してある福島県県民健康管理調査検討委員会の2014年2月7日のデータである。 http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/260207siryou2.pdf(再出) ![]() 表1 避難区域など放射線のレベルが高い地域を対象に行われた結果 かなりばらつきが大きい。 ![]() 表2 中通りを中心として行われた平成24年の結果。二本松市、本宮市、大玉村、泉崎村などで悪性ないし悪性の疑いの割合が高い ![]() 表3 いわきなどを中心に行われた平成25年の結果。悪性ないし悪性の疑いの割合が低い。 B君:このデータを良く良くみると、どうも妙なことに気付く。それは、24年に行った検査での異常の発見数が非常に多く、もっとも放射線が強いはずの23年の検査よりも高い。25年に行った検査は、残留している放射線量が低い地域なので、異常の発見数は0に近い。 ということは、残留放射線の強さを用量だとすれば、異常の発生である反応とが比例関係にはないことになる。このようなデータを疫学のデータとして使用することは、何か間違った結論を導く可能性が高いということを意味する。 A君:もっとも基礎的な条件を満たしていないと思われるデータだということ。 B君:多分。残留放射線の強さが主たる説明変数になっていない可能性が高いデータだということ。 A君:これは、福島県の関係者にとっては、発言してはイケないことなのかもしれない。 B君:そうかもしれない。しかし、何か分からないけれども、中通りには、何か別の因子、あるいは、交絡因子があると考えなければならないのではないだろうか。 A君:ということは、本データを説明する変数として、津田教授のように、残留放射線量だけを考えるのは、全くダメだということを意味しますね。 B君:こんなことがあるかどうか。まあ、単なる推測なのだけれど。津田教授は認めないけれど、甲状腺がんと言えば、当然ヨウ素131の摂取量で多くが決まると思われる。ヨウ素131も、セシウムと同様に、プルームとして空中を漂って、そして、次の図に示す例のパターンで地面に落ちたとする。雪や雨の影響もあったが、雨で洗い落とされるのは、セシウム134、137の方が水への溶解度から考えると多かった。一方、ヨウ素は分子状あるいは微粒子状で存在していて、その水への溶解度は、0.34g/100g水ぐらいなので、大きいとは言えない。 ![]() 図1 文部科学省による残留放射線量 A君:ということは、福島第一原発から北西方向に伸びている赤い帯は、雨と雪がセシウムを主として落としたことでできたが、そのとき、ヨウ素131は余り落ちなかった。そして、福島市と伊達市の境目から南南西に向かったプルームには、相対的にヨウ素13が多かった。中通りには、したがって、大量のヨウ素が落ちた。 B君:しかし、細かく調べ出すと、どうも本当だと言う自信はない。 A君:ちょっと調べてみると、3月14日から15日に2号機の事故で、ヨウ素131が大量に放出されたとのことです。最初は、海側に流れていたが、3月15日から南への風にのって、茨城県、栃木県を通過したという内容のNHKの番組が流れたとのことです。 B君:そうだとすると、いわき市あたりで大量に甲状腺がんが発生しなければならないことになる。 A君:ヨウ素131の沈着シミュレーンがここにありました。そのデータの最終段階のものを示します。 ![]() 図 国立環境研によるヨウ素131沈着シミュレーションの最終段階のもの、沈着積算量を示す。いわき市あたりの沈着積算量が非常に多い。中通りではむしろ少な目。 http://www.nies.go.jp/shinsai/radioactive.html B君:これが住民による摂取量に比例するとしたら、どうみても、いわき市付近でもかなり大量のヨウ素を吸引摂取したことにならないか。 A君:そうでしょう。だとすると、今回の中通りでの甲状腺の異常は、ヨウ素131とは関係が低い上に、残留放射線量とも関係が薄そうだということになりますね。 B君:こんなことを議論してみると、やはり中通りで甲状腺異常が多いという理由が見つからない。なんらかの交絡因子を別途探すことが必要というのが結論で良いのではないだろうか。 A君:交絡因子として考えられなくもないのが、23年度の検査がまだ1年目であったこととの関係。 B君:なるほど。甲状腺が放射線で異常になるとしても、普通は4〜5年後と言われているのが、津田教授のいうように1〜2年後から異常が起きるという仮定をする。しかも、空間線量の高い地域で多くの甲状腺異常が発生するものと仮定する。となれば、23年度に検査を行った地域は、まだ早すぎた。24年度に検査を行った地域では、甲状腺異常が始まった。25年度に行った地域では、空間線量が低いから異常が少なかった。 A君:空間線量だけで甲状腺異常の発生率が決まるとしたら、世界的に有名な自然放射線が高い地域で、多くの甲状腺異常が報告されるはず。 B君:確かに不十分かもしれない。しかし、津田教授の理論はどうにも単純すぎることは分かった。 C先生:推論を色々とするよりも、来年度の福島県の調査が終了して、会津などの地域での甲状腺異常の結果が出ると、この地域では、ヨウ素131も、セシウムも沈着量が少ないので、ある結論に到達できるだろう。 津田教授は、「パンデミック疫学」が今回有効だという主張のようだが、パンデミックは諸君らも言うように、感染症のような伝染性疾病の場合には指数関数的に患者が増加するので、時間との勝負になるのだが、放射線による甲状腺異常は、いくら想像力をたくましくしても、指数関数的に被害が増えるというものではない。福島県民としては、そんな心配をして精神的に不安定になるのは損だ。津田教授の発言は無視して、落ち着いて検査が完了するのを待つのが、トータルには発がんが減ることだろう。 A君:どのような意図をもって発言しているか、その見分け方を述べれば、福島県民の心理的なストレスの重大性を無視するのが自己都合型。今回の津田教授の場合であれば、自己の主張する「パンデミック疫学」の宣伝をしたいという自己都合。 B君:福島県民をどうしても避難させたいのも、別の自己都合型で、社会的な不安を増大したいという政治的意図型。 C先生:型の議論はどうでもよいが、津田教授の発言は、予防原則というものが何を意味するか分かっていない人の発言のように思える。一人で危険性があると主張して、対策を取れと言っているが、これは予防原則の悪い使い方だ。予防原則とは、科学的に見た上で、リスクの存在について合意形成ができることが第一。その合意に基いて、他のリスクを増大させないで実施できるかどうかを科学的に判断し、それを実施する。その際、必要なコストも考慮に入れた合理的な判断をするということだ。これがEUなどが言う予防原則だ。コストを考えるなどとんでもない、という人もいるかもしれないが、コストも適性な範囲内で考えなければならない。コストを全く無視した対策を行うと、結果的に多くの不幸を引き起こすといことが、経験的に分かっていることなのだ。 ![]() ![]() |
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