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     東京オリンピックの省エネ 
  08.31.2014
              使われる技術を予測する




 新聞各紙によれば、東京オリンピックのために新たに建設されるスタジアムなどには、色々な先端技術が採用されるとのこと。

読売オンラインから引用してみよう。

 2020年東京五輪・パラリンピックに向け、7月28日に建て替えの基本設計案が明らかになった新国立競技場(東京都新宿区)。グラウンドにせり出す可動式スタンドで試合の臨場感を高めるほか、環境配慮型の空調システムを採用するなど、先端技術を導入した競技場を目指す。
中略
 真夏に開催される20年五輪を考慮し、
座席の後ろから冷風が吹き出す空調設備も導入。水が蒸発する際の気化熱を利用するほか、温度の低い地下にパイプを通して空気を冷やすことで省エネ効果を高める。
後略



 環境省も、様々な提案し、実現を目指すようだ。石原環境相は「日本の技術で環境負荷をどれだけ抑えられるか、世界に発信することが重要だ」と述べた、と報道されている。

 これらの情報を元に、具体的にどのような設備が使われようとしているのか、それを発掘し、その解説を行ってみたい。



C先生:まずは、関連情報をインターネット上から探そう。まず、確実に言えることは、これだ。国立競技場を建設するのは、この組織である。独立行政法人 日本スポーツ振興センター。

A君:新国立競技場の基本設計(案)説明書(概要版)がアップされています。その3番目が次のもので、スタジアムの冷暖房、電気設備計画、水などについても、若干の記述がある。5.3MBと大きいので、ご注意。
資料1:
http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/Portals/0/yushikishakaigi/20140528_yushikisha5_shiryo1_3.pdf

B君:石原環境相が述べたことの基礎となっているものが、これではないか。次の2点であるが、最初が、文書。2番目がパワポ。
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=24949&hou_id=18532
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=24950&hou_id=18532

A君:東京都も、当然ながら、施設のいくつかを整備する。東京都財務局が発表した省エネ・再エネなどの仕様があるのが次の文書。資料3:省エネ・再エネ東京仕様
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2014/06/20o6u200.htm

B君:見つかるものは、この程度で、これ以上の情報がもし見つかったら、お知らせいただきたい。

A君:これらの情報から、具体的にどんな機器が使われようとしているかを分析しようというのが、今回の主たる目的。

B君:品目を大別すれば、やや特殊なのが、やはり新国立競技場関係のもの。そして、通常の建物関係に共通のもの、といった順序での記述になるのではないだろうか。

A君:それでは、まずは、新国立競技場から行きましょう。空調系の全体図が図1です。



図1 新国立競技場の空調関係全体図

B君:自然換気などを使って、できるだけ省エネで観客にとって快適な温度環境を作ろうとしているようだ。

A君:具体的には、空調の項目は、次の2つです。座席空調間接気化冷却空調機

B君:座席空調でネットを調べると出てくるのが、ノエビアスタジアム神戸。これと同じものなのだろうか。
http://www.noevir-stadium.jp/guide/summary/air/


図2 ノエビアスタジアム神戸の座席空調

A君:図1の下の方にある座席空調の絵が冷房の状況を示していると考えれば、同じものだということが分かるのではないでしょうか。

B君:確かに似ている。この方法は、風量で空気の流れをコントロールしている。風量が少なければ、スイングダンパーに働く力が弱いので、スイングダンパーが空気の流れを止める。そのため、吹出口1から空気が出てくる。これが前の座席との隙間から足元を通って、上がってくる。冷風の場合にはこのルート。温風の場合には、風量を大にして、スイングダンパーを開く。空気は、この場合には、温風だけれど、吹出口2から吹き出して、足元を暖める。

A君:冷房の方が風量が必要のようにも思えるのですが、暖房が大風量になっていますね。これは、エアコンの場合はいつでもそうなのですが、外気温との差は、暖房の方が常に大きい。すなわち、より多くの熱量を、言い換えれば、多くの風量を送り込む必要があるためでしょう。

B君:送られてくる空気の温度を検知して、ダンパーをコントロールしようなどと考えがちなのだけれど、可動部分をできるだけ少なくして、保守の容易さを考えないとならない場合には、できるだけシンプルな機構を採用すべきだとうことになる。

A君:確かにその通りで、スイングダンパーの軸の潤滑ぐらいを考えておけば、他に保守は不要のようです。

B君:次が、図3にある熱源システム


図3 夏季冷房負荷想定グラフと熱源システム

B君:もっとも特徴的なことが、1万トンもの水を使った蓄熱槽があること。もう一つは、温水ボイラーで加温、ターボ冷凍機で冷却は当然として、ガス焚きの冷温水発生機があって、それが蓄熱槽と熱のやりとりをしている。

A君:ところで、単位のRTとは何かというと、どうも冷凍トンということらしい。
http://www.jsrae.or.jp/annai/yougo/68.html
1RT = 3320 kcal/h ≒ 3.86kw
(1冷凍トン = 3320キロカロリー/時 ≒ 3.86キロワット)
(1冷凍トンとは0℃の水1トンを、24時間冷やし続ければ0℃の氷にできる冷凍能力である。これは1時間あたり3320kcalに相当する)

B君:ということは、ガス焚き冷温水発生機が能力的にはもっとも大きい。しかも、この機器は、冷房負荷が夏のピーク時に、空調対象が8万人になるような場合には、24時間運転で蓄熱槽に冷水を貯めて、それをピーク時に放出するような設計になっている。

A君:これは2重の意味があります。まずは、最大能力が非常に大きい冷水発生器を使って、ピーク時に対応するよりも、適切なサイズの冷水発生器を常時運転する方が、効率が高い。これが第一点。次が設備費用。当然、非常に大型の冷水発生装置を買えば、高くつく。

B君:ガス焚き冷温水発生機なら、暖房にも冷房にも使えるということも3番目の意味かもしれない。

A君:ガス焚きで温水を作ることができるのは当たり前。どうやってガスの熱で冷水を作ることができるのか。大体二種類の方法があって、一つは、ガスエンジン方式。もう一つは、吸収型冷凍機を使う方式。次の図4が吸収型冷凍機の原理図です。なんと仙台市のページ。
http://www.gas.city.sendai.jp/biz/air/


図4 吸収型冷凍機の仕組み

B君:間接気化冷却空調機というものも使われている。これは、実際のところ、聞いたことがなかった。

A君:本当ですね。その原理ですが、理論的には簡単です。コアというプラスチック製の部品が鍵のようです。
http://www.earthclean.co.jp/products/megacool/feature2.html

説明を引用
 メガクールには冷却を行う「コア」と呼ばれる心臓部があります。コアはプラスチックの板で格子状に仕切られており、ドライゾーン、ウェットゾーンが交互に積層されています。給気用の風路であるドライゾーンの壁面は乾いた状態ですが、排気用の風路であるウェットゾーンには給水され、壁面は湿った状態になっています。
 ウェットゾーンを通った空気は壁面から水分を奪い湿った空気になりますが、その際の気化現象で水分を奪われた壁面の温度が下がります。温度が下がったウェットゾーンの壁面は、プラスチックの板を通して隣り合うドライゾーンの壁面の温度を下げるため、ドライゾーンを通る給気用の空気が冷却されるのです。


B君:原理的にはできる。しかし、まずは、コアの設計と材質がまさにノウハウとして重要だろう。

A君:水の蒸発熱は、100℃で539cal/gですが、この条件は、25℃ぐらいでしょうか。となると、蒸発熱は、583cal/g。25℃の水1gが蒸発すれば、その熱で、583gの水の温度を1℃下げることができることになる。空気の熱容量は、同じ重さの水の1/4ぐらい。体積は800倍ぐらい。大体3000倍の体積の空気の温度を1℃下げることができる。ざっくり、1500Lぐらい。これは、1.5mの空気ということになる。

B君:すごい量に聞こえるかもしれないけれど、これをどんどんと空間に流す冷房には大量の空気が必要であることを忘れてはいけない。

A君:それに、この方法だと、コアに水コケが発生しないようにしないと。なんらかの除草剤のようなものを使うのだろうか。

B君:色々と工夫は必要だろうが、かなり省エネになるのかもしれない。

A君:さて、次の表が全体のまとめのようになっています。



表1 空調、熱源、換気用に使われる技術のまとめ

A君:それによれば、フィールドにも空調用の配管があるようですが、実は、芝生育成用のようなので、省略。そして、熱源の最後にあるのが、クールヒートチューブ。これは、クールヒートトレンチとも呼ばれるようです。

B君:”クールヒートトレンチ 応用例”というキーワードで検索すると、トップに出てくるのが、東京都立戸山高校。C先生の出身校。



図5 クールヒートトレンチの応用例 都立戸山高校の場合
http://www.toyama-h.metro.tokyo.jp/shisetu/coolheat.html

C先生:こんなものになっているとは知らなかった。向かいの早稲田理工学部には行くが、戸山高校には、最近、行ったことがない。

A君:新国立競技場であれば、かなり長いトレンチを作ることができそうです。換気もあるのですが、これは省略して、一応終わりにしましょう。

B君:最後にちょっとだけ。ここには出ていないけれど、照明のほとんどはLEDになるようだ。

A君:それも当然かもしれません。寿命が長いだけ、保守が不要ですし。

B君:岩崎電気のページで、野球場の設計例が見つかった。



図6 LED投光機の例

A君:なるほど。消費電力は53%の削減になる。このような用途だと、どのぐらいのルーメン/Wになっているのですかね。

B君:東芝ライテックの製品によれば、
http://saturn.tlt.co.jp/product/ImageFile.jsp?name=LEDS-70401NN-LJ2.jpg
どうやら81.0 lm/Wのようだ。当面の目標値は、100 lm/Wなのだが、家庭用ではいくつか突破したが、このような大消費電力のものでは、温度上昇が激しいので、なかなか100を超さないのではないか。

A君:東京都財務局・環境局のものにも、LED照明化などが記述されていますね。この文書は、新国立競技場以外の普通の建築物の整備の際に使われるものですが。

B君:電気機器を見ると、こんなリストになっている。全部を記述しないけれど。

 デマンド監視装置
 太陽光発電
 コジェネレーション
 トップランナー変圧器
 LED照明
 人感センサー
 待機電力制御システム

A君:まあ、普通か。最後の待機電力制御システムは、コンセント用というコメントがついている。

B君:テレビシステムについては、以前にここでも報告しているけど、複数の機器を組み合わせると、待機電力がすごかった。解決法は、それぞれの機器にスイッチを付けること、さらに、メインスイッチを付けること。
http://www.yasuienv.net/TV2014.htm

A君:このスイッチを自動的に行う制御をすれば良いだけだから簡単な仕組みで実現できる。

B君:製品化を期待しよう。

C先生:最後になるが、環境省の考え方も取り上げるか。

A君:環境省は、むしろ、ヒートアイランド対策のようなところに特徴があります。水素燃料電池車、電気自動車のいずれかがヒートアイランド対策として優れているのか、難しいところですが、まあ、ほぼ同程度なのではないですか。

B君:それまでに、環境省の公用車などをすべて燃料電池車にするのかな。

A君:以前、環境省も燃料電池車を公用車に使っていましたが、その当時のものでは、成田空港の往復ができない、ということで、大臣が同行者も一緒に乗れれば、台数が節約できるからということで、大きめのワンボックスを公用車にしていたことがあります。小池大臣のときだったと思いますが。

B君:最近の燃料電池車は、やはり性能が上がっていて、航続距離は500kmぐらいにはなった。主な高速道路、一級国道に水素ステーションができれば、実用になるレベルだ。

A君:ただし、環境面を本当に考えると、水素を何から作るかによって、全く違いますね。自然エネルギー起源の水素になれば、環境的にも意味が出てくるけれど、メタンなどから水素を作っているようでは、温室効果ガス排出という面で、ほとんど意味がない。

C先生:大体、これで終わりかな。このぐらいだと、むしろ、ゼロ・エネルギービルあたりの方が、インパクトが強いかもしれない。
 しかし、実際には、もっと重要な問題がある。それは、ここで示したような技術が一般に普及するかだが、それは全く別の問題だということ。その鍵は、省エネ技術のコストだ。1トンの二酸化炭素を削減するのに、いくら掛かるか。それが極めて重要な値で、削減費用と呼ばれる。もしも、この値が小さければ、省エネになるので、エネルギー価格分は経費が浮くので、設備の費用が少なければ、経済的にも成立する可能性がある。このところ、エネルギー効率の向上に投資をする事業者は、3年程度でその費用が回収できるようであれば、投資をするが、なかなかこのような有効な手段は無いのが現実なのだ。

A君:省エネは、第四の一次エネルギーという話もあるのですが、実際には、そうはならない場合も多い。

B君:もしも高価な装置を入れると、多くの場合、却って温室効果ガスの排出量を増大させている場合も多いのではないか。

C先生:このあたりの理解が不十分だと、間違った投資をすることになる。限界削減費用に関して、最近、余り新しいデータが出てこなくなった。それだけ、関心がないということなのだと思う。比較的新しいものと言えば、これぐらいか。
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100913bj08.pdf
 この報告の結論は、他の国に比べて、二酸化炭素1トンを削減するのに、50ドル以下で可能な省エネ手段は、米国の半分、EUやオーストラリアの1/3ぐらいしかない。ということは、すでに高効率になって国だということなのだ。
 一般家庭での省エネも難しいところ。我が家でも、11年もののテレビと、14年ものの冷蔵庫を入れ替えたために、テレビの消費電力は1/4以下になったし、新しい冷蔵庫の年間消費電力が180kWhしかない。
 冷蔵庫の年間消費電力量の進化は、次の図のようになっているようだ。
https://seihinjyoho.go.jp/frontguide/pdf/guide_refrigerator.pdf


図7 冷蔵庫の年間消費電力量の推移(目安)

C先生:となると、当時、620kWhぐらいの年間消費電力量が、やはり1/4に近くなっている。そのため、この冷蔵庫を10年間使うとして、年間、1万3千円電気代が節約できるが、もし、この冷蔵庫を15万円で買っていたら、12年目でやっと元が取れることになる。しかし、2006年製を置き換えるぐらいまでなら良いのだ。
 現時点のモデルでは、さらに進化して効率が2倍になったとしても、年間90kWh程度の電力が節約できるだけ。10年使っても、22500円の節約にしかならない。すなわち、限界削減費用は、どんどんと高くなっているのだ。「省エネのために」を考えて、新しい機器を買うというマインドは失われる。
 結論として、東京オリンピックの省エネは、日本の技術のショーケースとして極めて重要だ。こんな技術が自分の国にも欲しいと世界の人々に示すことの方が重要で、日本という国が省エネを進めるのは、経済面からの発想だけでは、他の国よりも数倍難しいということを理解すべきだろう。