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    今年のTop 10イノベーション その2  11.24.2019
       社会実装が進んでいる意味をどう解釈?

               



 先週の続きです。今回は、CO削減のイノベーションの社会実装の実例に関するジャンルです。今年は、以下の6件が選択されました。

 社会実装ですから、どの国のどこで何が行われたか、という記述が重要な評価の対象になります。

 この記事をご覧になる方は、次のICEFのWebサイトから、Top10のファイルを開いて、ご覧になりながら、お読みいただければ幸いです。
 以下、そのやり方です。まず、
https://www.icef-forum.org/top10/
をアクセスして下さい。5番目以降がAdoption & Implementation:でして、本日の対象ですので、それぞれの項目をご覧いただき、以下の文章をお読みいただければ幸いです。全部で6項目をご紹介します。



C先生:先週の続きだ。ただし、今週は、Adoption & Implementation:が対象なので、科学的に斬新だということは評価の対象外。CO削減の枠組みに属する社会的な仕組みが、どこで実装されたということが評価の対象になる。の際の評価基準としては、まあ、世界最初の仕組みだということ、また、その効果が大きいか、この二点なのではないか、と思う。実は、後者の「効果」については、まだ補完的であるという理解が良いかもしれない。
 さらには、未来社会にもこのような枠組みが継続的に実装される状況が継続するだろうという予感を感じさせるかどうか、これが第三のポイントぐらいだろうか。

A君:それでは早速ですが、第1番目から。
 「バッテリー交換式伝導スクーターと交換式バッテリー充電ステーションを活用したシェアリングサービスを開始」
 株式会社 e-SHARE石垣 2018年2月


B君:バッテリー交換式伝導スクーターを作ったのは、Gogoroという会社のようではあるけれど、ちょっと調べるとJapan Timesの英文の記事が出てきて、実体はヤマハ製の電動スクーターみたい。
https://www.japantimes.co.jp/n2u/2018/09/11/yamaha-motor-and-gogoro-begin-ev-business-collaborative-study/

A君:それによれば、Gogoroという会社は台湾の会社で、ヤマハと共同で、電動スクーターを開発し、日本では、その商用化を石垣島で始めたということみたいです。

B君:予約サイトがある。英語版はここ。
https://www.ridegoshare.jp/en/
日本語版はここ。
https://www.ridegoshare.jp/

A君:この日本語版を見ると、この運営企業は2017年12月に石垣市に設立されて、株主は100%住友商事

B君:料金も出ている。50cc級だと1時間1000円。24時間だと4000円。
 ちょっと待った。しっかり調べると長崎県の平戸島にも同じような電動バイク(電動自転車か?)を作った人が居る。
https://www.youtube.com/watch?v=wRaRtIGN7AU

A君:となると、電動バイクそのものは、これだけということではないので、このGogoroの売りは、バッテリー交換。石垣島の島内の6ヶ所所で可能で、しかも、無料であることか。その交換の仕組みは、YouTubeで見られます。ただし、右側通行のビデオなので、撮影場所は、石垣ではない。多分台湾。それにしても、この電動スクーターの加速はすごい。
https://www.youtube.com/watch?v=W34k0nrrDQA

B君:石垣島には、電動バイク貸出拠点が5ヵ所。バッテリー交換サイトが、貸出ステーションを含めて、前述のように6ヵ所。フル充電してあれば、50km走れるらしい。石垣島は、南の石垣市から、北端の平久保埼まで40kmぐらいなので、まあ、十分とも言える。

図1 Gogoro電動スクーターのレンタルサイト(赤)とバッテリー交換サイト(グリーン)

B君:ただし、北端に行きたいのであれば、そこにバッテリー交換ステーションはないので、途中でバッテリーを交換してから行くべし。

A君:石垣島も、道路について言えば、島の中央部を除けば、それほど高低差があるようなところではないので、まあ、大丈夫でしょう。中央部にしても、道路の標高がもっとも高いところでも85mぐらいですから。

C先生:こんなバッテリーをシェアするようなスクーターであれば、もし、充電サイトが十分に設置されていれば、少なくとも島嶼に限るかもしれないかもしれないけれど、かなり実用的だと思える。本州でこれをやるか、となると、遠くまで乗っていて、そこで乗り捨てされると大変に面倒なことになる。

A君:一時期、北京ではレンタルサイクルがすごく普及していたのに、どうも、乗り捨ててしまう人が多くて、このところ、商売として成立しなくなって、消滅したみたいですね。東京にもレンタルサイクルがあるけれど、果たして、商売になっているのでしょうか。

B君:東京のレンタルサイクルは、クレジットカード払いか、Suica払いなどなので、大丈夫なのでは。乗り捨てて、それが帰ってこないと、少なくとも、その帰るまでの時間が課金の対象になるし、もし、本当に戻ってこなければ、自転車の新規購入代金が請求されるのでは。

C先生:日本でなくても、少なくとも、石垣島のような島嶼であれば、十分にビジネスになるように思われる。色々と、防犯対策には知恵と投資が必要不可欠のようではあるけれど。

A君:それでは2番目です。
 持続可能なジェット燃料 Lanza Tech 

B君:Webサイトはこれ
https://www.lanzatech.com/
とにかく、見ると、画面のスピード感に圧倒される。

A君:どうも元々はリサイクル業者でもあるような気配。そして、炭素もリサイクルしようということか。

B君:そうみたいだ。近い将来、すべての人が、COをリサイクルして、その放出をどのぐらい下げたかを自慢するようになる、という感じのWebサイトだ。

A君:プラスチック問題に象徴されるけれど、消費者は、常に、出所とリサイクルの選択肢を意識すべき。どの紙や紙袋を選ぶか、どのフェアトレードのコーヒーや有機牛乳を飲むべきか。紙のリサイクルはどれが正解か。

B君:Lanzaテックは、微生物によるガス化を利用した技術で、排気ガス中の炭素からエタノールを製造している。米国の施設で、稼働後初めて生産された4000ガロンのジェット燃料と600ガロンのディーゼル燃料が、Virgine Atlantic航空のフロリダ・ロンドン路線で2018年に使われた。ANAは、この会社から燃料の調達をすることで契約した。

A君:ニュースを検索すると三井物産がLanza Tech社と共同開発をするようで、2014年に出資をしたようですね。

C先生:航空燃料は、「化石燃料依存が最後の最後まで残ると思われる重大な課題」とも言える燃料なのだ。自動車なら電気でなんとか走るし、水素を使えばガソリンと同程度の時間で満タンにできるし、当然、普通に走れる。しかし、飛行機を水素で飛ばすことは多分できない。なぜなら、水素を貯める高圧タンクを飛行機に積むのか? 高度を上げると、僅かだけれどさらなる耐圧が必要になるし。そこで、バイオ燃料が本命という話はあるものの、まだ、それが確立したとはとても言えない。

A君:この会社は、排ガス中の炭素、というからには、COでしょうが、微生物を使って、それからエタノールを製造しているとのこと。

B君:CNBCというビジネスニュース専用の放送局が米国にはあるけれど、そこが、毎年、CNBC Disruptors 50 Companiesという企業表彰をやっている。そして、このLanza Techは、その常連みたいだ。さて、Disruptorsをどう訳すべきか。「良い意味での破壊者」と訳すべきではないか、と思うが。

A君:多分、それで良いと思いますね。これまでの「常識」の破壊者で、未来の「ビジネス」を創る。

B君:でも排ガス中のCOということは化石燃料起源。それからCOを作っても、排出量は半分だとみなすのが、まあ、LCA的なカーボン換算の常識であって、決して、ゼロカーボンにはならない。

A君:炭素フリーという点からいえば、まだ、これが本命という意味ではないと思うけど、現時点では、かなり革新的ということで良いのでは。

B君:三番目が、日立造船による水素発生装置
https://www.hitachizosen.co.jp/news/2018/06/003058.html
ただし、電力で駆動する必要があるので、再生可能エネルギーからの電力で駆動しないかぎり、ゼロカーボンとは言えない。将来的には、再生可能エネルギーが主力の時代が来るのは確実なので、これで十分

A君:これがイノベーションである理由は、40フィートのコンテナに固体高分子を使った水素発生装置を組み込んだこと。コンテナに内蔵された野外仕様なので、まあ、手軽に水素発生装置を設置し、使うことができる。勿論、再生可能エネルギーがあれば、ゼロカーボン水素を使うことができる。コンテナ1個なので、トレーラーがあれば運ぶのは簡単。

B君:図を無断で示す。


図2 日立の水素発生装置

B君:ゼロカーボン電源として、もっとも簡単に設置できるという意味で、新規性ありということで良いだろう。

A君:四番目が、Siemensによる電力を熱に変換して蓄積。最大130MWh/週の規模で火山岩に蓄積するというもの。これは、大分前にSiemensが次のような概念図を出して、こちらも過去にTop 10に選ばれた。



図3 以前にSiemensが出した概念図。 

B君:それをとうとう実物として作ってしまった。1000tonの岩石が蓄熱材になっている。写真から見ると、どこにそれがあるのか良く分からない。しかし、次のWebサイトを見ると、若干分かる。
https://www.siemensgamesa.com/products-and-services/hybrid-and-storage/thermal-energy-storage-with-etes

A君:今回は、何か建物の中に岩石をため込んだような気配ですね。

B君:熱を電力に再変換するときの効率は45%だということになっている。この数値は初めて見たかもしれない。以前は、総変換効率が25%ぐらいだと言っていた。これには、熱が失われる効率低下分を含んでいたのではないだろうか。

A君:Siemensの偉いところは、こんな発想を持つことがまずすごい。そして、それを実証システムまで実現してしまうことがさらにすごい。

B君:次に行こう。浮体式の洋上風力システム。NEDOが北九州の海岸から15kmの地点に3MW級の浮体式洋上風力システムを設置した。水深は50mまで設置可能だそうだ。
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101098.html

A君:このWebサイトによれば、こんな状況のようです。


 これは、まさに日本向けのイノベーションと言えるでしょうね。日本の風力は、北海道はまだ適地がありますが、北海道電力は風力発電が大嫌いみたいなので、風力を設置すると、電力網に接続するのに、NaS電池を設置しろと言われるみたいなことになる。まあ、人口が少なくて、産業もほとんどない地域に風力発電を作られて、電力網を整備せよと言われても困る、というのも現実的な問題ではあるのですが。

B君:風力の設置の最適な地域は秋田県。だけど、陸上のスペースで最低なところには、ほとんどに、すでに風力が建ってしまったと思うのだ。

A君:となると、洋上風力、最終的に残るのは浮体式、ということになる。まあ、金額的にかなり高いように思えるので、それが課題でしょうね。

B君:五番目は、フロー電池というもの。正式名称は、レドックスフロー電池という。バナジウムなどの溶液を使って、その価数を変えることで、電力をため込むタイプの電池。他のリチウム電池などと違って、寿命があるパーツを使わない。すなわち一旦電池として動き出せば、かなりの長期間にわたって電池としての役割を果たしてくれる。

A君:その一つのメーカーがAvalon Battery というところ。
https://www.avalonbattery.com/
 生産工場は、カナダ、アメリカ、中国にあって、これまでに、アメリカ、中国、オーストラリア、韓国、スペインで導入されたとのこと。

B君:まず、寿命が非常に長く25年はOKそして、コストも安い。というのが第1ページ目の主張。次のページが、安全性が高いし、異常状態にならない。極端な寒冷地でも熱帯でも使用可能。

A君:かなり小型の電池も構成することが可能で、太陽電池の脇に設置して、電気を貯めることも可能とのこと。



B君:日本でも住友電工がフロー電池を作っていたけれど、恐らく、個別設計だったのかもしれない。Avalonの主張によれば、工場から製品を出荷する最初のフロー電池製造企業であるとこのと。カタログにのっている製品は、継続的に生産しているということを意味するようだ。

C先生:さて、これで一通りの説明が終わった。先週分を含めて、全体としての感想はどうだ。

A君:やはり、基礎研究のネタが十分に拾い切れていないという感覚が残りますね。まあ、かなり難しい段階にすでに入っているのは事実なので、新ネタが大量に転がっているという状況ではないのですが。

B君:まあその通り。しかし、前回ご紹介した基礎研究で選ばれた課題を見ると、未来の方向性は、ある程度、見えるような気がする。要するに、積極的に大気中のCOを採取して、何かを作り、結果的に、大気中のCOを減らす。そのもっとも暴力的な方法が、DAC(Direct Air Capture)で大気からCOを捕まえ、それを地下に埋めてしまう。現時点では、折角、捕まえたCOなのだから、もう一度何かに使うことで、新たなCO発生は止めようという発想が、新しいイノベーションの方向性になっているように思える。このイノベーションの結果、大気中のCO濃度が下がるとは限らないのだけれど、当然、その評価を十二分にする必要があるのは事実なのだろう。

A君:DACの思想は何かと言えば、COは大気中に不法投棄された廃棄物扱い。だから、とにかく、捕獲して地下に埋めよう。これは、確実な方法論ではあるものの、お金がかかる。これまでの環境対応の歴史を見ると、廃棄物の不法投棄の対策は、まずは、この方法でやってきた。となると、COという廃棄物が大気に不法投棄されていると考えれば、その行為に罰金を設定して、その罰金を使用して、COを近くのどこかに埋めるという方法論が、最初に来る可能性はないとは言えない。別の言葉で言えば、CO排出の有料化。すなわち、カーボンプライシング

B君:廃棄物の歴史を見ると、少なくとも日本という国においては、まず起きたことは不法投棄。そして、その対策として罰金が非常に高くなった。しかし、その時点ですでに不法投棄されてしまったものは、相当なお金を出して、処理をするしかなかった。日本には、例えば、瀬戸内海の豊島のケースや、青森秋田県境のケースなど実に莫大な費用を公的に負担したという歴史がある。

A君:今年の特徴としては、それにしますか。ETHの提案のように、大気中のCOを活用するという新鮮な提案がでた。イノベーション関係でも、Lanza Techの発想は、大気中に出るはずのCOを活用して、2回使うことで、等価的に半減しようということ。

C先生:現時点を再評価すると、COを廃棄物だという見方をすべき時代であるということが、世界的な共通概念になりつつあるのかもしれないね。言い換えれば、「何も処理しないでCOを放出」すれば、「廃棄物の不法投棄だ」、という考え方だと思えば、当然とも言える日本は、その共通概念を積極的に普及すべき負の歴史をもった国だと言えるのかもしれないね。まあ、今年のTop10イノベーションの特徴としては、そんな共通的理解をしたことにしよう。しかし、「COを廃棄物にしないで利用する、あるいは、適切に処理する」ことが、最終的、かつ、本来の解決法であることは、大々的基本原則なので、その意識を持ち続けることが重要だ、ということを指摘しておくべきだろう。来年のTop10に期待したい。