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    ICEF2019のご報告  10.14.2019
       今年のTop 10 Innvationsについて

               



 先週の8日火曜日の夜、Steering Committeeの会議から始まり、10月10日の夕刻の閉会式まで、いつもの長丁場でしたが、無事に終了しました。
 今年の印象などをご報告します。


C先生:毎年の恒例行事になっているICEF。結構準備も大変で、今年は、特に、Top10イノベーションの候補課題の選択を担当したある組織が全くダメで、余りの常識の無さ(イノベーションなので、常識を超していないものはダメなことは事実ですが、ここでの指摘は、「基本原則を理解していない」という意味)に呆れ果てて、結果として個人的に大修整を行ったので、時間的にもほぼ2日間を事前の準備に費やす羽目になってしまった。

A君:そもそもイノベーションとは何かが分かっていないと、何もできないという部分はありますが、実は、何を取り扱っても、その本質を理解していないとダメという点では同じなのでは。

B君:イノベーションには、色々な定義があると思っている可能性があるけれど、このICEF2019で取り上げているイノベーションには一定の枠組みがある。

A君:それは当然。ICEFでは夢を語ってもだめで、COの早期Net Zero Emissionを実現するためには、あらゆる分野での排出削減を実現する必要があると理解することが、まずは、必須条件。その技術の芽のようなものが提案されば、それがイノベーションのタネだと言える。タネの状態では、実は、まだイノベーションではなくて、その後のポリッシュアップで試作品が出た段階で、初めてイノベーション候補技術の完成。その後の検討によって、市場規模が大きいということが判明すれば、それが「本当のイノベーションと言えるだろう」ということになるという話。

B君:日本でもムーンショット研究なる枠組みが設定されて何か新しいことができるような雰囲気を出そうとしている。その実態がまだまだ不明なもので、まだ、本記事では取り上げていない。現時点では、ビジョナリー会議が多少動いていただけなので、いわば、まだ夢物語状態。これから現実的なゴールを設定して、それに対するアプローチが具体化されて、初めて、イノベーション創出のための活動になる。

A君:本年度の補正予算で、1000億円がこのムーンショットに振り当てられている。800億円をJSTが、200億円をNEDOが担当するようですが、そこで行われる具体的な研究テーマが決まるのが、これからなのでしょう。

B君:ムーンショットの話は、そのうちしっかりと記述しなければならない。しかし、もともと、ムーンショットの例は、「月面着陸」だった。1969年の話だから、まあ、「本当に良くできたね」、という話。このぐらいのスコープで何かをやるとなれば、NASAのようなしっかりした組織が担当する必要があるのだけれど、日本の場合、宇宙関係のテーマが今回のムーショットで選択される可能性は、担当組織の特性から考えると、無さそうな気がする。

A君:そのあたりの枠組みも、確定するでしょうから、そのうちに、ということで良いのではないですか。

B君:そうも言えるけれど、何か、「AIでごちょごちょ」といったテーマが採択されてもね。

A君:AIは必須だと思われていますが、これが、人類にとって本当にムーンショット研究だったのか、という疑問が数10年後にはでている可能性もゼロではないでしょう。

B君:ということで、ICEF2019の報告に戻る。

C先生:実は、担当した組織の無責任さには呆れ果てたままで、まだ、腹の虫が収まっていない。これまで担当してくれていたところと比較すると、余りにもひどい状況だったので。「来年、この組織がまた採択されたら、Top10イノベーションの担当を降りるので」、という発言をすでにしている。これだけは、言って置きたいことだったので。

A君:しかし、入札で指名停止ができるとも思いにくいですね。

B君:相手方のトップと直接交渉するのがベストなのでは。

C先生:この話はもう止めよう。不愉快になるだけだから。

A君:了解です。

B君:現時点(10月14日)では、ICEFのWebサイトにあるのは、リストだけ。これを若干解説して終わりということか。そのうち、説明用のPDFがアップされる予定にはなっているので、詳細は、またご覧いただきたい、ということで。

A君:それでは、リストのあるICEFのサイトを取りあえずご紹介。
https://www.icef-forum.org/top10/

B君:まずは、2種類のジャンルがあることがから。
 Research&Development(研究開発)というジャンルがあって、これは、かなり長期を見据えた研究開発が対象で、まあ、エイヤと表現すれば、2050年にはこのぐらいのことができて欲しいという感じのもの。
 もう一つのジャンルがAdaption&Implementationというもので、こちらは、2030年頃には、普及していると良いのではないか。

A君:それでは、最初に、長期的な開発対象のResearch&Developmentから。4件あります。

1.Carbon-neutral fuel made from sunlight and air.
ETH Zurich


 空気中の二酸化炭素COと水H0を原料として、炭化水素燃料を合成するというもの。相当に先進的なスタンスで装置が設計されている。まずは、COと水を採取。そして、放物面反射鏡の焦点に集めると、ここはかなり高温になっているので、熱化学反応によって炭化水素が合成される。冷却して完成。現時点で、1日で100ml程度の炭化水素が得られている。当然、晴れの日に限られるのは当然のこと。

2.A new chemical catalyst based on indium oxide that converts CO2 and hydrogen into methanol.
ETH Zurich


 COと水素からメタノールを作る触媒を開発した。酸化インジウムと少量パラジウムが原料。エネルギー源についての記述が無いが、図を見ると、風力発電による電力を使用しているものと思われる。これらの図は、まもなく、ICEFのサイトでも公開される予定。

3.New minerals for carbon capture
University of Alberta, University of British Columbia and University of Queenland


 ハイドロタルサイトという粘土のような鉱物が、COを吸収することを発見。ここからは筆者の推測であるが、この種の粘土のような層状鉱物は、層と層の間に空隙があるので、そこに、外部からなんらかの物質を取り込んで固定する能力がある。これが実用になるかどうか、それは、この鉱物の存在量に依存するので、詳細不明。

4.Solar energy bcomes biofuel without solar cells
 Uppsala University


 太陽電池を使わないで、COを原料として、太陽エネルギーを使用して、ブタノール(アルコールの一種)を効率的に産出する微生物を増殖させることに成功。これが実用になるかどうか、それは、微生物も生命なので、外部から与える栄養が必要だけれど、それが何かということかもしれない。

B君:以上が、研究開発で、2050年頃には実用になっている可能性があると投票者が判断したもの。

A君:この4件に限るのですが、いずれも、COを原料として、何か有用なものを作る。あるいは、COを吸収して、当分の間固定するような鉱物を利用する、といった発想ですね。

B君:CO処理・利用などが、今後の長期的な課題になるのは、当然のこと。現在我々が便利につかっている人工物質は、圧倒的に石油が原料。これは化石燃料なので、億年レベルで空気中のCOが固定されたもの。

A君:COを大気中から固定して、それでエネルギーを得ることができれば、それは、人間による植物機能の発現であると理解することが可能で、いわゆるカーボンニュートラルな状況が実現できると言えます。

B君:COを大気中から固定して、地下に埋設する方法、これは、DAC=direct air captureなどと言われているが、DACの場合だと、何か別の化合物にするのではなくて、単に地面に埋めることが前提。そうしなければ、大気中のCO濃度は下がらないので。

A君:3番目のハイドロタルサイトにCOを吸収させるということでも、大気中のCOを減らすことはできますが、ちょっと心配なのは、温度が上がったときにも、COをしっかりと鉱物の内部に保持することができるかどうか、ということですね。もし、温度上昇によって放出してしまうようだと、実用にはならないので。

B君:気体が固体に吸収されている状態は、その気体が常温でも気体であるようなら、やはり、本当の意味で安定状態ではない。もしも、その固体の温度が上昇したら、折角吸収したCOを放出する可能性が無いとは言えない。

A君:やはり、COは、がっちりと地下に埋蔵することが必要のように思えますね。

B君:それには、元々天然ガス田であったような地下構造が必要なのだ。地球全体で、どのぐらいの量を地下に隔離保存できるのか、といった研究があるかどうか、知らないが。

A君:このような調査は、多分、進んではいないように思いますが。こんな調査を非常に高精度で実行した、といった発表があれば、Top10の有力候補になりそうですね。

C先生:それでは、別のカテゴリーであるAdoption&Developmentに移ろう。こちらは6件あるし、かなり現実に近いテーマだ。

A君:最初の課題、全体では5番目が、

5.A sharing service using battery-replaceable electric smart scooter and a charging station for replaceable batteries
 e-SHARE Ishigaki Co., Ltd and Gogoro Inc.

 これは、バッテリー交換可能な電動スクーターをシェアリングサービスに使うという石垣島での試み。

B君:充電ステーションの一部では、太陽電池パネルと日産リーフからのリサイクルバッテリーが使用されているとのこと。

A君:かなり現実的ですね。

B君:ヨーロッパでは、スクーターではなくて、電動キックボードのようなものが結構見られるけどね。

A君:2番目・全体で6番目の課題。

6.Commercialization of alcohol-to-jet, sustainable aviation fuel
 Lanza Tech

 排ガス中のCOを原料として、微生物によってエタノールを製造し、それをジェット燃料やディーゼル燃料に変換している。ANAとも持続可能なジェット燃料の購入について合意された。

B君:通常、微生物というと、緑藻のようなものを考えるのがこれまでの動向だった。しかし、この場合、原料は、大気中の二酸化炭素なので、なんといっても濃度が薄い。光エネルギーの利用率が低い

A君:排ガス中のCOが原料となるのなら、空気中の酸素を完全に使うようなシステムができれば、これまでよりも光合成効率は相当高まるでしょうね。内容の詳細をチェックしたいところです。

B君:3番目・全体で7番目の課題。

7.Megawatt-scale solid polymer hydrogen generation system enclosed in a 40-foot container
 Hitachi Zosen Corporation


A君:水素製造装置をすでに納入している日立造船が、40フィートというから、海上用のコンテナとして規格が決まっているコンテナに、水素発生装置を組み込んだということ。実際にはノーマルとハイキューブという背の高いものの2種類があるが、どうも、ノーマルのようなプロポーションですね。

B君:このまま必要となる場所に設置すれば、設置コストが安くて済むということが、メリットと理解して良いのだと思う。

A君:4番目の課題。全体で8番目。

8.Electrothermal energy storage system can store up to 130 megawatt-hours of electricity for a week in volcanic rock
  Siemens Gamesa


A君:これは、例の余剰電力を岩石でできた人工の丘に熱として備蓄し、必要なときには、電気に戻すというもの。

B君:これは、Siemensが数年前から絵で提案していたのだけれど、その実証用ができたということのようだ。この方法では、エネルギー効率は低いのだけれど、とにかく、コストが安いということのようだ。エネルギー関連のデバイスは、最後はコスト競争に勝てるか、ということが重要なので、、以前から注目をしているものだ。

A君:やっと実物ができたということのようですね。付属の写真だと、絵のバージョンとかなり違うようですが。

B君:5番目の課題。全体で9番目の課題。

9. Floating offshore wind power generation system in shallow water area
NEDO (Marubeni Corporation, Hitachi Zosen Corporation , GLOCAL corporation, Cosmo Eco Power Co., Ltd., The University of Tokyo, Kyuden Mirai Energy Company, Incorporated)


A君:絵から判断すると、かなり安定した浮体型の風車ように見えますね。水深50メートルぐりあのところでの設置を考えているようです。乗っている風車は、3MWの二枚羽根のもの。係留システムが鍵だったようです。

B君:このタイプだと、かなり海岸から遠いところに設置することが可能。実際、海岸から15kmのところに設置したみたい。となると、送電線をどうするか、これが最大の問題になるのかもしれない。

A君:6番目の課題。全体で10番目の課題。

10.Fully-integrated flow battery
  Avalon Battery Corporation

 パナジウムを使ったレドックス・フロー型の電池を開発。このタイプの電池は、日本でも研究が行われていると思うけれど、電池の劣化部分が少ないので、かなり長寿命のものが製造可能なのだと思う。しかも、事故を起こす可能性はかなり低い。バナジウムの価数が変わることで蓄電する。

B君:フロー電池は、一つの本命のようには思う。写真を見ると、小型の装置がずらっと並んでいるようだけれど、このような方式の方が、恐らく電池の製造コストは安価にできるように思う。最低容量が10kWということなので、新しいタイプのフロー電池のようだ。



C先生:これで一応Top10になった。全体的な感想でもどうだ。

A君:まあ、新規性がすごい、という感じのものが今回は少ない印象ですね。

C先生:実際、候補を選択しているときでも、これは画期的なアイディアだ、と叫ぶようなものは無かった。候補の選び方が悪かったとも言えるかもしれないが、実際のところ,恐らく、かなりの検討がすでに多くの企業などで進められていて、完全に新しいネタが次々とできているという感じではないように思う。

B君:まあ、実用時期が近いので、そうなると、どうしても、実現可能なものは限られている。

A君:電池一つとっても、現状のリチウム電池が、ノーベル賞を取ったから言うのではないですが、この電池を超す新しい電池ができるとも思えないのです。その理由ですが、それは、電池の活物質を構成できるのは、周期律表的には1価の陽イオンになるもの以外には無理。サイズを考えると、小さい方が良いので、ほぼLiに限られることになります。このあたりの細かい理由は述べませんので、原子の特性上そうなのだ、と考えていただいてよろしいかと思います。

B君:全く新しい発想で何かをやるということが、すぐ品切れになるのが、まあ、エネルギー分野の特徴だとも言える。エネルギーを作る、貯める、運ぶ、使う、となると、将来は、電気を考える以外に方法はないのもこの地球の元素構成から生ずる限界みたいなもの。

A君:という訳で、全く新しいイノベーションが今後出るとしたら、むしろ、技術というよりも、商売としての新規性のようなものが増えてくるのではないですか。

B君:それは寂しいとも言える。しかし、現実は、地球の、あるいは、宇宙の元素構成上しかたがない限界がそろそろ見えるようになってきたと考えることも一つの見方。

C先生:しかし、ETHの二つの提案のように、COを活用して、なんらかのエネルギーを作るといった話は、まだまだ未開分野だと思う。しばらく前までは、光合成という言葉が結構重要なイノベーションを生み出すのではないか、と考えられ、期待されてきたけれど、どうも、実用化される可能性は下がってきたように思える。またまた大発見がでてくれば、話は別なのだけれど。現状を表現すれば、太陽電池とそれを電源とする水の電気分解に、効率的にも装置的にも叶わないのでは、という感じなのだ。
 同じ研究を5年から10年近くやっていると、まあ、進化が止まる。となると、次のネタを探すことが重要なのだけれど、それが、このところ、ちょっと見えないのが残念なところだ。
 しかし、Top10 Innovationのような行事は、将来のイノベーションの可能性や方向性を議論するための基礎情報として、非常に重要なのではないか、と思う。これが今年の結論としたい。