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    今年のTop 10イノベーション  11.17.2019
       科学的進化がやや遅くなっているか?

               



 10月9日、10日の二日間、今年もICEFが椿山荘で開催された。800名程度の参加者があって、やっと日本人も増えてきているという状況になった。使用言語は、昨年までは英語オンリーだったのだけれど、それではやはり日本人参加者が増えないということで、同時通訳をある程度導入し、日本語だけでもなんとか情報の獲得が可能になったことで、今年は、日本人が増えた。
 Top10イノベーションの投票も増やさなければならないので、こちらにも日本語混じりの最終ポスターとして、それを見ながら、投票してもらえるようになった。そのため、若干、投票総数は増えたけれど、やはり、内容が難しいのだろうとは思うけれど、総数は、まだまだである。こんな状況はそのうち改善されることを望むけれど、ICEFに参加しようと思う人は、どちらかというと、例えば、TCFDの今後の動きを知りたいといった環境経営に関心のある方々が多いような気もする。となると、個々の技術に関する知識は必ずしも非常に強いという訳には行かないのだろう。昔からそうだけれど、やはり文武両道とか、文理両立とかいったタイプの日本人はなかなか育たない。現時点で文理両立になっている人は、理系の人間が、脱理系を試みた結果、そのようになっているケースがほとんどなのではないだろうか。極少数のケースとして、国際的イベントに引っ張り出されてるうちに、そうなったという人も居るかもしれない。これを書いている当人も、実用になる英単語の数が、実はこのところ不十分。理系の用語はなんとかカバーできるけれど、それ以外の分野になると、語彙が全く足らない。多分、現時点では年齢による劣化が原因で、徐々に脳から消えている単語が多いこともあって、多分、7000語ぐらいが語彙数。専門外の議論が実用レベルになるには、最低限、この2倍は欲しいところ。今更対応は不可能なので、どうするか考えたいとは思っている。というのも、今後、何年ICEF担当をやらなければならないのか、全く不明ながら、どうも次を育てるのに手間が掛かりそうだから。最近、インターネットで英会話をやるという方法もあるようなので、それかも知れない。

C先生:ということで、すでにICEF終了後1ヶ月以上が経過しているが、なぜ今頃、このような記事を書くのか、と言えば、やっとICEFの公式Webサイトに、Top10 Innovationの全貌を知ることができるファイルがアップされたからだ。と言っても、細かい解説がある訳ではないので、その難点を補うのが、今回の記事の目的。

A君:https://www.icef-forum.org/ 
 これが、ICEFの公式サイトです。これを開けていただいて、そのページに出てくる4つのNEWSから、右から2番目のThe List of ICEF 2019 Top 10 innovations has been uploaded. を開いていただきたい。すると、ICEF 2019という文字の右に(3598kB)とPDFマークがあるけれど、この行そのものにリンクが張られているので、そこをクリックしていただきたい。ダウンロードが始まります。

B君:すると、なんと日本語が混じった1課題1枚のPDFファイル構造になっている。これをお読みいただくことになる。

C先生:今年から、このような資料も、前述のように日本語・英語混じりにした。やっと日本でも関心を持つ方々が増えてきたのがその理由。やはり、今年は、4月に例の内閣府の懇談会が終結して、それに基づいた形で、日本の長期戦略が作られ、国連に提出された。ただ、日本全体でパリ協定の真意を本当に理解できている人は、まだまだ10%に到達していないと思うものの、やっとパリ協定合意後、まもなく4年のこの時期になって、その重大さが、一部の人々の間で理解されはじめたのかもしれない。

A君:パリ協定はこれまでの国際的枠組みと何が違うかという説明はこれまでも何回もやってきたのですが、やはり、「気候正義」という言葉がそれを代表していることは、全く変わりません。これを自分なりに解釈して、「気候正義を主張する企業」にならないと、金融からの融資も得られません。今年の5月頃から、日本企業のTCFDへのメンバーになる企業が急速に増えて200社に迫る勢いでした。しかし、さすがにこのところ増加数は頭打ち。それでも2019年10月に参加を表明した企業数が4社あって合計203社になり、とうとう200社を超しました。

B君:どのような企業がTCFDに同意しているか、そのリストは、
https://www.fsb-tcfd.org/tcfd-supporters/
このサイトを開けて、そこにLocationという選択肢があるので、Japanを選択すれば、日本企業のリストが出る。例えば、そこにChinaと入れると、まだ、6社しかないことが分かる。

A君:米国ですら、まだ121社なので、日本の突出具合が良く分かります。その理由は、経産省がかなり動いて圧力を掛けたから。

C先生:ちょっと話題がずれたので、本題に戻ろう。
先ほど述べた、https://www.icef-forum.org/ のページから、ICEF2019(3.598KB)を開けていただきたい。

A君:それでは、個々の題目について、多分、今週は、4件の説明をしたいと思います。いずれも、新技術に関する4件です。今回、日本語の解説はあるのですが、それに何を加えるか、若干、難しいのですが。何と言っても、説明文が短いので、かなり補填しないと理解いただけるはずもない。

B君:それでは、最初のファイル。タイトルは、
『太陽光と空気からカーボンニュートラル燃料を製造』 by ETH Zurich

A君:スイス工科大学Zurich校からの提案。ポイントは、燃料の原料となる化合物が、二酸化炭素と水であることです。この2つの化合物は、通常、燃料が燃焼後に出すものですから、なんらかのエネルギーを与えて、元の状態に戻す必要があります。COは酸化物ですから、酸素を取り除かないと。エネルギーとしては、そこにある写真のように、太陽の光を集めて、相当な高温を得ることが必要だと思われます。あらゆる化合物について言えることですが、非常に高温にすれば、化学結合は切れて、元素に戻ろうとしますので、COの酸素の一つを外してCOに、水HOは、酸素を外して、水素Hにできれば万々歳。多分そのぐらいの高温を太陽光をミラーで集光して出すのでしょう。

B君:とCOの混合物を主成分とするガスを実は合成ガスという固有名詞で呼んでいるのだ。ちょっと化学のローカルルールが出てきてしまう。合成ガスからは、メタノールが、メタノールからはディメチルエーテルなどの化合物が合成できるから、要するに、燃料にはなる。

C先生:何がこのETHの提案で新しいと言えるのか。

A君:それは、これまで合成ガスは、天然ガスや重質油、場合によっては石炭などから作られていましたが、これを空気中の二酸化炭素と水だけから作るということですね。石炭から作られたものを燃料にすれば、COを出すことになります。これを空気中のCOから作れば、燃やしてCOを出したとしても、差し引きゼロということなり、植物と同様ということに。しかも、エネルギーが必要ですが、それは、太陽光を熱源にしてなんとか実現している。

C先生:それでは、これがこれまで行われていなかった原因は何。

B君:それは、こんな方法で作った合成ガスは、非常に高いものにつく。しかも、お天気頼みなので、雨になったら作れない。

C先生:次の質問は、日本でこのような試みは行われていなかった理由は何? ちょっとだけ説明してみよう。

A君:それは、日本でも、同様な考え方は無い訳ではなかった。それは、人工光合成。植物がやっていることを真似して、太陽の光で有機物を合成することが人工光合成ですが、日本の人工光合成は、本多・藤島効果と呼ばれる先駆的な研究があったためか、水の光分解の工程の再現が中心になっていた

B君:本来、植物がやっている光合成は、最低でも二段階プロセスで、最初は水の分解。そして、第二段階が有機物合成なのだけれど、この第二段階を人工的に行うのは、非常に難しい。そのため、第一段階の水の光による分解。具体的には水を水素と酸素に分けることが当面の目標になった。現時点でもまだこの研究に取り組んでいる人が多い。

A君:人工光合成の研究は、光触媒によって行うという、何か、ローカルルールが日本ではできていて、その方向性でないと恐らく研究費が取れなかった。そこには、さまざまな裏事情があると思うのだけれど、日本の研究体制が、完全に自由な発想に基づいて構築されては居ないということを示しているのでは。

C先生:「日本と言う国の特異性だ」と結論しておくことが無難だから、そのあたりで止めよう。

A君:それでは、次の課題に。実は、やはりETH Zurichの研究で、前の課題の延長線上のようなものです。題名は、『COと水素からメタノールを製造する新たな酸化インジウム触媒』

B君:この「COと水素からメタノールを合成する反応は、高圧・低温が熱力学的には有利高温にしないと、反応速度が不十分。ということは、非常に優れた触媒があれば、反応速度はなんとかカバーできる可能性がある。

C先生:実は、日本でもこの手の報告は無限にあって、政府系だけでも内閣府、NEDO、特許庁などが発表をしている。その意味で、この点、ETH Zurichの研究に新規性があるという訳ではないのだけれど、それを太陽光の熱でやること、これが第一のイノベーション。そして、さらには、なんらかの触媒の新規性があって実現できたと言える。それが、この2番目のイノベーションということになる。

A君:酸化インジウムを触媒に使うということですね。当然、純粋なものではなく、これにも書かれているように、少量のパラジウムを混ぜている。これは特許になったようなので、新規性はあるでしょう。

B君:触媒だから消滅する訳ではないので、まあ良いのだけれど、インジウム、パラジウムはいずれも白金族の元素なので高価。ということなので、実用になるのかどうか、それは、触媒の寿命次第とも言えそうな感じ。

C先生:イノベーションが本当に斬新なもので、かつ、実用になるかどうか、それは、本当に多種多様な情報を推測した上で判断しなければならないので、なかなか難しい。ただ、ICEFのTop10を見ていただいて、ご自分の会社に関係がありそうかどうか、それで投票していただくことで十分だと思う。

A君:ご自分の会社に戻られて、専門部署の人に、「ICEFに行ったらこんな話が選ばれていたよ」と伝えて下されば、それなりに有用な情報だという評価をされるに違いないので。

B君:皮肉な言い方をすれば、専門部署の人が、なんだ、それなら我々の方が進んでいるよ、と言ってくれれば、それなりの情報伝達ができたことにもなる。

A君:イノベーションなどはそんなもので、自分達の方が進んでいるということを確認できれば、それなりに有用な情報伝達になる。自分達のレベルを知ることは、イノベーションを実現する過程として非常に重要なことだと思いますね。

C先生:もう一つ二つ行こう。

A君:了解です。三番目のイノベーションが、「二酸化炭素を吸収する新しい無機化合物」。実際には、ハイドロタルク石類の無機化合物がCOを捕捉し貯蔵することが確認された。

B君:さて、どのような組成なのか。それは、カナダのアルバータ大学をチェックしないと。

A君:これが候補でしょうか。
https://www.ualberta.ca/engineering/research/groups/clean-carbon/research

B君:C5MPTという研究グループがあるらしい。本名は、The Canadian Centre for Clean Coal/Carbon and Mineral Processing Technologies.

A君:まさにそれですね。COを吸収する鉱物を発見して、それを活用して、最終的にCOを地中処理をする方法論を確立する。

B君:日本でこのような研究をやっていることを聴いたことが無いね。

A君:総説的な論文は日本でも見つかります。例えば、これ。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mukimate2000/9/299/9_299_192/_pdf
実態はかなり古くて、2002年の論文です。しかも、その後、これをCOの処理方法として検討したということでもなさそう。地球環境問題という発想が、不足していたのかも。

B君:日本だと、この考え方だと、究極はCCSになって、地下にCOの水和物としてため込む。これは、完全に安定する訳ではないけれど、単位体積あたりにため込む量を稼ぐことが、場合によると、処理速度の面でも容易なのでは。

A君:さらに、特許については、特許庁がまとめた報告書を出しています。平成30年の報告書。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/29_09.pdf
 ただし、地中貯留だと、蛇紋岩層への貯留という言葉がありますね。

B君:しかし、蛇紋岩はHydrotalciteではないと思うよ。比較的新しいコンセプトであることに間違いはない。

A君:こんな論文を発見。なんと石膏石灰学会誌の1983年という古いモノ。宮田茂男著。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mukimate1953/1983/187/1983_187_333/_pdf
その最初の文章が、「hydrotalcite類は、5〜6年前までは比較的知名度の低い物質であった」

B君:それでは、研究開発に関わる最後のTop10は、「太陽電池を用いないバイオ燃料の製造」で、ウプサラ大学。

A君:ウプサラ大学は、スウェーデンの大学。文字通り、ウプサラにあって、1477年総説の北欧最古の大学。

B君:先ほどのETHの提案とも関連しますが、バイオ燃料を合成するとなると、なんらかのエネルギー源が必要になることが多いのですが、この研究は、すべてを微生物がやってくれるという話。

A君:また、原料となるバイオマスが必要なのが普通ですが、それも使わない。それでなぜできるの、と言われれば、それは微生物が頑張るから。

B君:いずれにしても、このページが、関連ページ。
https://www.uu.se/en/news/news-document/?id=12902&typ=artikel

A君:Pia Lindbergさんという女性が主人公。上席講師というポジションで、所属は、オングストロームラボ。

B君:使うのは、シアノバクテリアを活用すること。どうやらシアノバクテリアの遺伝子をいじったのではないだろうか。そして、COから様々な物質を生産することができるようにした。最後に、ブタノール生産効率の高いシアノバクテリアにたどり着いた。

A君:設計次第ですが、ブタノールを燃やして走る自動車は作れるでしょうね。

B君:タイヤもブタノールから作ると言っている。

A君:シアノバクテリアは、地球上でもっとも太陽光を有効活用できる存在だと主張していますね。

C先生:これで、自然科学系で選ばれた4件のTop10をご紹介したことになる
 3番目のアルバータ大学の主張を探して見ると、カナダと言う国は、石炭に依存することが経済的にも有利だから、その排ガス中のCOを処理する技術の開発が不可欠という記述が見え隠れしている。温暖化対応はなんとかしなければならない、というところまでは、すべての国で共通概念になっているが、その対応方法については、それぞれの国の特徴を活かして、いかに効果的かつ経済的な負担の少ない形で対応をするかを検討しているという感触だ。すなわち、その国の全体的な国益が議論の中心に存在している。
 日本という国が、そのレベルに到達しているかと言われれば、残念ながら、まだまだ、全くその気はない国にしか見えない。
 先週の火曜日の話になるけれど、JAEA(Japan Atomic Energy Agency)のシンポジウムが、有楽町の朝日ホールで開催されて、パネルの一つに参加した。JAEAだから当たり前だけど、原子力が専門の研究者集団。所属する研究者数は、なんと3000名。しかし、不思議なことに、文科省の研究開発法人なのだ。原子力を実用化するというマインドが文科省にあるのだろうか。そして、原子力規制庁は、環境省の統括。環境省は、原子力の未来像を決めることができるのだろうか。さらに、不肖私が、原子力小委員会委員長だが、これは、資源エネルギー庁のもの。要するに、バラバラに検討をしていて、日本全体として原子力をどうするか、という国家的な方向性を誰も決められないという構造になっている。止めるなら止める。進めるなら進める。これが実際のところバラバラなのだ。極めて行政効率の悪い仕組みだと思う。
 日本の国益を考えて、例えば、原子力はもう止めることが国益の観点から妥当だと言うのなら、そのような方針を決めれば良いし、まだ、続けるのならそれなりにどのような新規開発を行うのか、を考えなければならない。政治が本来それを決めなければならないが、政治家にとっては、「反原子力のスタンスを取ることが、選挙に勝てる条件だから」、といった極めて個人的なご都合主義で反原発のスタンスを取っている政治家ばかり。
 あれあれ!? 相当に、脱線した。ここで止めよう。 しかし、最後に一言。これまでと同様、Top10イノベーションは、技術的・科学的な進化と、2030年程度をゴールとした社会実装の進化の2つのジャンルに分けている。実は、今年、Top10のための準備を担当した組織(さる社団法人)の自然科学に関する理解能力が極限まで低くて、最後の最後まで、最終の形が決められなくて、大変な騒ぎになった。結局、個人的に相当時間を費やしてなんとか格好をつけたものの、やはり、検討の対象となった元々の件数が不足していた可能性がかなり高い。能力は、これまでの組織とは雲泥の差であった。このような事態が再現されないことを切に希望する。
 次回に続きます。。。。。。。。