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   COP21後の主役企業     02.07.2016
           日経エコロジー2月号の記事から        



 本読者の中で、日経エコロジーを読んでおられる人は、恐らく、少数だと思っている。COP21で「パリ協定」ができて、どのような企業が主役に躍り出るのか。これが日経エコロジー2月号のトップ記事だという訳である。

 例示されている例は「そうかもしれない」とは思うものの、必ずしもパリ協定との関係が明らかでない企業も多い。さらに言えば、それなら自らの企業が何をやれは、主役になれるのか、その基本的な説明はないように思われた。



C先生:この記事であるが、日本企業は準備ができていないというトーンの、よくある記事ではある。しかも、なぜ、主役企業になると思われる企業が、主役になれる理由・要素は何なのか、その解析は十分だとは言えない。本記事は、したがって、なぜ主役になれるのか、というところを別途チェックしてみたいと思うのだ。

A君:まあ、それはそれとして、どのような企業がリストアップされているか、ですね。

B君:まずは、例その1:レゴ・グループ。社長はクヌッドストーブ氏。12年前に35再でCEOに就任し、当時低迷していたレゴを高収益企業に変貌させたことで有名。それが、ドイツ北部の洋上風力発電所、31万kWの発電能力があり、サイズは6km×6km。総投資額は1000億円を超すプロジェクトだったが、その31.5%をレゴ・グループが投資している。

A君:社長へのインタビューで語ったことが、「2020年までに事業活動で使うすべてのエネルギーを再エネで賄いたい」。これって、よくあるパターンですよね。トヨタのチャレンジ2050も似ている。

B君:カーボンフリーにするということだけが目的ならば、他社から再エネ電力を購入すれば良いが、社長は、「既存の発電所から買ったのでは、再エネの発電量は増えない。投資してこそ、新規の再エネ発電量を増やせる」。「今後、10億クローネ(180億円)を投資し、石油代替素材のプラスチックを開発し、ブロックに採用したい」。そのため、「2016年までにデンマークに、レゴ・サステナブル・マテリアル・センター」を作りたい。

A君:さて、このレゴ・グループは、どうして次の主役だと言われるのか。

B君:日経エコロジーの分析は、以下のように書かれている。

 レゴ・グループは、化学メーカーや研究機関などと幅広く連携することを念頭に置き、次のように話している。「この取り組みが自動車や家電業界に広がることを期待している」。同社が開発した石油代替素材が自動車業界などにも採用されれば、大きなインパクトを与えそうだ。

C先生:この分析は、いささか、本来の「主役」の主張から離れていて、かなり日本向けに書き直されているような気がする。

A君:そうですね。EUでレゴ・グループが評価されているのは、「レゴが、CO2排出量ゼロを宣言し、それを目指して様々な試みを実行しているから」。これが結論で、それ以上でもなく、それ以下でもない。

B君:簡単にまとめれば、「哲学の表明、そして、その実行」。この2つがあるから評価されている。

C先生:次の例2はドイツ・シーメンス

A君:シーメンスは、強電メーカーです。洋上風力発電所の追い風に乗っています。常に、時代を先読みして、エネルギー事業の取捨選択を行ってきた企業です。

B君:有名巨大企業だ。1969年には原子力に参入。しかし、福島第一原発事故の後に、ドイツ政府が国内の原発の停止を決定したことを受けて、いち早く原発事業から撤退したが、それは、”中長期での厳しい収益管理”をしていてるから、これが可能になったという褒め言葉を日経エコロジーは書いている。

A君:確かに、日本メーカーの収益管理は甘いとも言えるし、ぐだぐだとある事業を継続してしまう傾向はありますが、だからシーメンスを評価するというのは、どうなのでしょうか。

B君:ドイツ政府が原発の停止を決定した。ということは、明らかなのだけれど、そうなれば、撤退するのが当然ではないか。フランスのアレバとの合弁をしたり、ロシアのロスアトムとも合弁会社の設立を検討したりしていたので、その結論を早々に出せたのは偉いけれど。

A君:イギリスがHinkley Point Cに作る原発にしても、アレバと中国2社のジョイントベンチャーだということですよね。中国企業をかまさないと、コストが高すぎて、とても売れない。

B君:ドイツが単独で作る原発も恐らく非常に高くて、コスト競争に勝てないのではないか。ということは、国内に市場があれば、受注できる可能性はあったのだけれど、他国の市場では勝負をする気は無かった。

A君:いずれにしても、原発撤退がなぜ褒める対象なのか、論点が良く分からないですね。この次の褒める記述として、シーメンスは風力発電の技術開発、例えば、大型化、ギヤを使わないダイレクトドライブなどを行ったというけれど、他の風力発電企業だって、同じことをやっている。今、世界最大の風車を作っているのは、三菱重工−ヴェスタスの8MW。シーメンスの7MWを超えている。

B君:偉いと言える”本当の理由”は、やはり、「シーメンスは、ゼロカーボン技術に舵を切ったから」、というのが正しい評価なのではないかと思う。

C先生:次が、エネルギーマネジメント事業のようだ。これは何を褒めるのだろうか。対象は、フランスのシュナイダー・エレクトリック社。

A君:電力関係の事業ですが、電力供給量が不足すると思われる状況になると、契約企業に節電を要請し、その節電分を電力会社にある金額で買い取ってもらうというビジネス。これは、再生可能エネルギーによる発電量が増えると、しばしば起こるようになると考えられている状況なのです。

B君:特に、これが偉いから主役になるという理由はないようだ。電力供給がこれまでの閉鎖性をやぶって、自由化になれば、必然的に必要になることだ。実は、エネルギーマネジメントといっても、様々な形態があるが、この手の節電屋は、アグリゲータと呼ばれて、結構重要。日本の場合だって、原発がゼロだったときの夏季には、本当に危機的な綱渡りをしていた。そのとき、電力会社が独自に顧客と交渉して、もしも電力供給量が不十分だとなったら、節電に協力して貰えませんか、というお願いし、契約をしていた。それを専門にやる企業というイメージ。

A君:日本も4月から電力が自由化されると、恐らく、そんな商売の仕組みを組み込まないと、電力供給のリスクが大きくなる。すなわち停電のリスクが大きくなる。だから、いくつかの企業が参入するのではないかと思います。

B君:だから偉いとかいうことではなく、「こんな企業も成立するようになった」といった記述だったようだ。COP21後の主役ということではなくて、電力自由化後の主役ということなので、これまた意味不明

A君:次に褒められているのが、米国のファーストソーラーという太陽電池屋。この太陽電池は、カドテルと通称されるCdTeの化合物半導体薄膜をCdS(硫化カドミウム)薄膜と接合させてを使っている。Cdは、日本の公害病の一つイタイイタイ病の原因となった元素。神通川の上流にある神尾鉱山、現在、カミオカンデやスーパーカミオカンデが存在しているエリアにあった亜鉛・鉛・銀鉱山から流出したCdが原因。

B君:それでは褒めるのが難しい。

A君:確かに。日経エコロジーには、何も記述されていないのですが、実は、毒物を利用しているために、自らの製品を回収すると表明しているようです。

B君:なるほど。それは、長期的にみて正解かもしれない。廃太陽電池でもっとも価値があるのは、やや遠い将来のことになるけれど、ガラス板である可能性が高い。原料として、珪砂を使うのだけれど、効率の高い高性能太陽電池のためには、透過率の高いガラスが不可欠で、不純物としての鉄分が少ない珪砂を使ったガラスが必要になる。ところが、この高純度珪砂の入手が難しくなっている。ケイ素は地球の主要構成元素なので、いくらでもあるのだけれど、高純度な珪砂は、真っ白なので、例えば、その珪砂からなる砂浜は多くの場合国立公園などになっていて、観光地として客を呼ぶ存在だ。だから、採掘は難しい。こんな状況になっている。2050年を考えると、ガラス板を回収するために、太陽電池は回収されているかもしれないよ。

A君:そんなことは記述が無いですね。日経エコロジーとしては、ファーストソーラーの偉いのは、自分でメガソーラ―の設置企業でもあるということではないですか。だから、なんとか収益が得られている

B君:収益が主役の条件ということね。日経本体の記事ならそれで良いけれど、日経エコロジーなのだから、回収システム(=リサイクルプログラムと言う)を前提とした商品開発を行って、それを実行しているといったところを褒めて欲しいものだ。

C先生:ここまでで、大企業版は終了だな。その結論は。

A君:日経エコロジーの結論は、「変化の激しい温暖化対策ビジネスを勝ち抜くポイントは、自前主義を捨てて、他社と強者連合を作る「組手」の巧みさにある」

B君:それが結論か。他社と組まない自前主義でも、戦略的にそれが実現できれば良いのではないか。

A君:日経エコロジーの主張は、どうも何か違うような気がしますよね。本当の理由と言えることは、こんなものではないでしょうか。温暖化対策ビジネスは、COP21以来、地球レベルでの「正義のビジネス」になった。だから、高い志をもって、それを実現するのだ、という企業トップのメッセージを元にして、この分野での利益確保を行う方法を見出して、それに向かって邁進している企業は偉い。

B君:しかしこの日本で、「高い志」などと書くと、何言っているのだ、という反応が来るので、日経エコロジーとしては書けなかったのだ、という推定をしたい。

A君:経団連系の企業の一部は、INDCに書いたことは守るのは良いけれど、パリ協定は認めない、という志の低い主張をしていますね。

B君:特に、1.5℃が記述された理由が分からないなどという企業は確かに多いようだ。それは、何回も本Webサイトで主張しているように、欧米の考え方がどういうものか分かっていない。また、島嶼諸国の思いというものも分かっていない。相手を知らないと、地球レベルでの商売はできない。

A君:1.5℃は、地球レベルでの「正義」とは、海面上昇が起きない範囲に、温度上昇を留めることですから、その温度はまあ、2.5℃ぐらいだと考えられている。となると、2℃だとちょっと怪しいので、1.5℃の方が良いに決まっているという理解をしていただきたいと思います。

B君:現実には、島嶼諸国や、バングラデシュのようなデルタ地帯の面積が大きな国は、危機になる可能性が高い。1.5℃は、そのような国に対するメッセージ。要するに、我々は、考えているのだ、ということ。

C先生:まあ、良いことにして、まだ、記事は終わっていない。ベンチャーの記述が残っている。

A君:日経エコロジーの主張は、環境制約は下剋上を起こす重大な要因である。機動的な経営ができるベンチャーにも勝機がある。

B君:その例として、日本だとユーグレナ、米国だとテスラ・モーターズ。

A君:ユーグレナの新聞広告には驚きましたね。いつだったでしょうか。

B君:昨年12月1日のようだ。ANA、千代田化工、いすゞ自動車、横浜市、伊藤忠エネクスが合同会見をして、ジェット燃料をユーグレナから作ると表明した。

A君:ええと。ユーグレナは企業名でもありますが、”みどりむし”という意味です。”ミドリムシ”と書くべきかも。ミドリムシは、植物プランクトンであり、かつ鞭毛で動くので、動物プランクトンでもあります。緑色なので、葉緑素を含んでおり、光合成も可能。したがって、植物のように、光だけで二酸化炭素を吸収して、栄養素を自分で作ることができます。油分も作ることができて、どうやら炭素数14ぐらいの脂肪酸からなる油脂やアルコールからなるようです。一方、ジェット燃料は、灯油と似たものです。飛行機が飛んでいるとき、上空では外気がマイナス50度にもなりますから、凍結する可能性があって、灯油程度の分子量であることが必要です。油脂やアルコールは、そのままジェット燃料にはなりません。油脂であれば、分解してグリセリンと脂肪酸に分け、脂肪酸をまた分解して炭素と水素だけの燃料にする必要があります。廃食油からディーゼルエンジンを作るのと同じ反応を起こす必要があります。

B君:こんな説明は、日経エコロジーには何も書いていない。

A君:それは当然でしょう。どこまで説明するのやら、というのが問題になりますから。

B君:そのプラントは、横浜市の旭硝子京浜工場の中に千代田化工建設によって作られるらしい。

A君:それは、書いてあります。

C先生:それにしても日経エコロジーの記事で驚いたのは、ユーグレナの株価時価総額(2015年9月)が1481億円だって。もともと東大のベンチャーなのだが、これなら、一気に企業ごと売ってしまうという手もありそうだが。

A君:可哀そうなのは、比較されたコスモエネルギーホールディングスで、売上が3兆円以上あるのに、株価総額が1415億円。ユーグレナは売上が59億円(主として健康食品としてのミドリムシ製品)なのに、1481億円ですからね。

B君:日経エコロジ―は、マネーゲームの部分あり、と記述している。健康食品は、まさに、原価の100倍で売れる商品なので、やはり儲かるのかもね。

A君:ジェット燃料は、二酸化炭素排出量を完全にゼロにせよと言われたときに、もっとも困る対象ですね。すでにいくつかの航空機会社が実験などを始めていますが、バイオ燃料以外に選択肢がないのです。しかし、バイオ燃料は儲からないのです。そこで、ユーグレナは、健康食品という一般人に対して、イメージのみで勝負ができる分野でスタートするという戦略を採用した。だから成功した。これが実態。

B君:本気で困ると、色々と解が出て来るが、バイオ燃料に関して、ユーグレナが絶対的な正解であるかどうか、それは分からない。現時点では、なんとも評価不能のように思う。

C先生:そんな結論だろう。最後にテスラモーターズをやるか。テスラモーターの電気自動車は、どうも高く評価されているが、詳しいことは、すでに、書いている。

A君:日本では売れない。理由は、家庭に200Vまでしか配電されていないから。電気自動車のもっとも本質的な性能は、充電時間と電池の寿命。テスラの大容量モデルだと、フル充電に36時間かかる。だから、3台目の車として買う。

B君:電気自動車なら、液体燃料も搭載したハイブリッドにして、電気が使い切っても、なんとか走れるというスタイルだろう。しかし、化石燃料を使うことができないとなると、まあ、アルコールを搭載するのか。なんとなく、不可能のような気がする。

C先生:車の理想形は電気自動車ではない。しかし、電気自動車は普及させるしかない。水素燃料電池車の方が、遥かに実用上優れたコンセプトなのだけれど、やはりいろいろと難点がある。この議論もすでに、本Webサイトでは行われている。
http://www.yasuienv.net/ZEV2018.htm

A君:テスラモーターのイーロン・マスクは、若いのに世界観が並みではないことは事実ですね。

B君:宇宙開発などもやってしまうから、確かに、通常のレベルではない。

A君:しかし、日本にテスラを持ってきたことは、恐らく、見込み違いでしょうね。米国だと急速充電がタダのテスラ専用のステーションがありますが、日本全体をカバーするのは、無駄でしょうね。

B君:テスラがカリフォルニアで儲けたのは、日経エコロジーにも記述があったのだけれど、簡単に言えば、カリフォルニア州のゼロエミッション自動車の制度のお蔭。しばらく前までは、プリウスでも優遇措置があったのだけれど、徐々に条件が厳しくなって、通常のHVでは受けることができなくなり、純粋の電気自動車、あるいは、水素燃料電池車だけになってしまう。しかし、その優遇制度の取引ができるのだ。だから、テスラは、この仕組みを活用して、全体の売り上げを増やしている。多分、ほとんどが利益になる。

A君:いずれにしても、今後の主役になる企業が、なぜ主役になるのか、儲かる分野に先に手を出したから、という理由しか見出すことができなかった。そんな記事で日経エコロジーとして良いのでしょうか。

C先生:多分、本当の意味で「今後の主役」の条件を満たしているのは、レゴ、ジーメンスだけではないか。しかし、それでは、日本企業にとってあまりにもハードルが高い。そこで、上手く先回りして儲けた企業を、今後の主役だとして取り上げたのではないか。しかし、先回りをしても、本物でないと、そのうち、化けの皮が剥げてしまう。だから、どうせ取り上げるのであれば、レベルAからレベルCぐらいまで分けて記述をすべきだったのだけれど、それが不可能なのがこの国なのではないか。まあ、日経という名前を冠している限り、その限界から抜け出すのは困難なのではないだろうか。