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  洞爺湖G8サミットの気候変動対応 07.13.2008
     



 洞爺湖において7月7〜9日の3日間開催されたG8サミットが終了した。成果は、ご存じの通りである。現在の国際的政治状況では、G8サミットが言えることは最初から決まっているのである。ただ、その言えることも、内部的対立などによって、場合によっては、言えない状況になってしまうこともある。それを避けることができれば、G8の成果としては十分だったと言える。

 G8サミットに対して、最初から過大な期待をすべきではない。個人的に思うことは、現時点で、ポスト京都の枠組みが大きく影響する中期目標については、日本としての下手な決意などを表明すべきではない。なぜならば、それは立派な国際交渉だからだ。

 それに対して、本日のテレビで、石原東京都知事は、「福田さんは思い切ったことを言わなかった」、「アメリカの経済モデルはもはや成立していない、と述べるべきだった」、と批判的であった。それは、立場の違いであって、都知事として現在やっていることを宣伝するための発言だと考えれば良い。まあ、東京都の温暖化対策が、国のものよりも進んでいるのは事実だ。

 一方、2050年の温室効果ガス半減に関する宣言については、日本が発案者の一人でもあることを考えれば、最低半歩前進が必須だ、と考えてきた。もしも、半歩前進ができなかったら、失敗。半歩前進ができれば、それは、まあ現時点での最大の成果なのだから、成功。

 次に述べるように、まあ、半歩前進はできたと評価できるのではないか。


C先生:なんとか終わった。テロが起きなくて良かった。2050年の温室効果ガス半減という目標がなぜ重要か、と言えば、この世界に存在する多種多様な問題を解決するためには、2050年半減というゴールが必要だからだ。

A君:ただ、このゴールが物理的に、というか、地球の温度上昇がこれで2度以内に収まるという意味から判断して絶対正しいという保証はないですよね。

B君:その通り。したがって、なにはともあれゴールが必要だという別の説明が不可欠になる。

A君:気候変動によって地球上の人類がとんでもない苦境に立つという可能性も十分に指摘されている。しかし、悲観的に考えれば、2050年までに温室効果ガスの半減をしたところで、やはり駄目かもしれない。全く逆に、地球と太陽の揺らぎによって、地球が寒冷化してしまって困ることもないとは言えない。この問題に対する科学的根本原理としては、「未来なので良く分からないから、確率的にモノゴトを考える必要がある」、だろう。

B君:IPCCの第四次レポートが出て以来、温暖化懐疑論が少なくとも日本においては、勢いを増してきたように思える。

A君:本HPのスタンスは、以下の通り。地球の揺らぎは大きくて、1800年ぐらいから地球の温度は上昇し続けている。1950〜60年ぐらいまでは、人為的起源による温室効果ガスの発生はかなり少ないと考えられる。しかし、その後、IPCCのレポートをしっかり読めば、地球はすでに寒冷化モードに入ったようにも見える。しかし、一方で、温度の上昇は続いているようだ。となると、人為的な影響を無視することは難しい。

B君:このところの大気中の二酸化炭素濃度の上昇速度は、過去、地球が経験したことのないようなスピードなのだ。

A君:懐疑論者は、かつて地球の温度はもっと高かったことがあるとか、ある時点での異常だけを議論のタネにするのですが、本当は、変化の速度も重要。現時点のような温室効果ガスの濃度の上昇速度は、異常としか言いようがない。しかも、それは事実。

B君:大気中の温室効果ガスが増えて温度が上昇する。そんなのは全部嘘だという懐疑論が、絶対大丈夫というのなら、それに掛けて、温暖化対策などを全部止めてしまう手もある。しかし、それは危険すぎる、と多くの人々が考えている。「IPCCの予測は完全ではないという懐疑論のすべてを完全に否定することはできない」、という程度だと理解することが現状としては、妥当だと思う。

A君:懐疑論者のような外野は、何を言っても良いから楽ですよね。詐欺だとかスキャンダルだとか、なんでも言える。当たらなくても責任を取ることもない。野次馬的スタンスでやればよい。それで本が売れて儲かれば、それこそ、ボロ儲け。

B君:政策を本当に実施するとなると、どうしても安全サイドでモノゴトを考えることになる。

C先生:懐疑論者といっても様々なレベルがある。かなり多くの懐疑論者の主張は、武田氏のものを含めて無視してよいだろう。IPCCの予測について、不十分さを指摘している最新の書物としては、「地球温暖化論のウソとワナ」、渡辺 正 (著), 伊藤 公紀 (著) 、ベストセラーズ (2008/4/26) を読めば他のものを読まなくても十分だろう。

A君:ただ、この本のタイトルはひどい。加えて伊藤公紀氏の単著にすべき本で、そうなれば、学術書になりえた。

B君:アマゾンの読者のコメントをしばしば見るが、本をまともに読むことがいかに難しいかを実感させられるものが多い。要するに、この本についても、コメントで同感できるものは少ないのだ。「中身が読めていない」、という印象のものが多い。しかし、この本については、次のコメントがあって、これには、120%同意だ。

中身が非常に優れているだけに、タイトルと編集に少し文句を言いたい。タイトルの論調はいささか扇動的であり、冷静な議論を行っている内容にふさわしくないと思います。内容を反映するなら、「地球温暖化の科学−太陽活動と気候変動」などのタイトルの方が相応しいのではないかと感じました。数多くの引用論文もできれば日本語にせずに、英語表記のままでよかったと思います。とはいえ、数多くの論文をいわば総説としてまとめた価値は高く、また日本語で紹介されたことで、一般の人へ最先端の科学に触れる機会を提供した意義は非常に大きいと思います。なので星五つにしました。

渡辺氏も共著者となっていますが、内容のほとんどは伊藤氏の執筆によるものです。つまり、この本は、伊藤公紀氏の「地球温暖化−埋まってきたジグゾーパズル」の続編にあたり、新たに、2008年までの気候変動に関する最新のデータをフォローしており、現時点で手に入る最良の資料だと思います(たとえば次のサイトで紹介されている2008年のラマナタンらによる着色エアロゾルの論文も取り上げられています:http://dotearth.blogs.nytimes.com/2008/03/26/soot-in-the-greenhouse-and-kitchen/)。

また、気候変動の原因は温室効果ガスだけではないという立場から、大気汚染物質を含む気候変動に関する包括的な対策の提言もあり、政策的な面でも大変参考になると思います(上記サイトによると、NASAのハンセン氏らもCO2よりもススなどの大気汚染物質対策を優先すべきとの提言が2000年に行われている)。類似書にフレッド・シンガーらによる「地球温暖化は止まらない」があり、特に長期の気候変動に力が入れてあります。一方、気候と太陽活動の関係に対する詳しい解説や、「アークティック・ヘイズ」や「アジア褐色雲」などの大気汚染を含む様々な気候変動要因、さらに、有効な政策としての気候変動対策などを知りたい人には、こちらの伊藤氏らによる本がお勧めだと思います。


C先生:繰り返すことになるが、2050年に半減といった長期目標を設定することによって、地球の温度が実際に2度以内に収まるかどうかについて不確実性はあるのだが、この2050年半減という目標を設定できれば、他の問題、例えば、原油高騰、食糧供給不足、途上国の経済、バイオマスの無戦略などの危機をも同時に解決する方向性が見えてくる。だから、2050年の目標設定は最重要事項だというのが本HPの主張だということで良いだろう。

A君:温室効果ガスの濃度が人為的に上昇しても、気候感度が低いから、問題ではないという議論は、多分、予防原則的な考え方が無い。

B君:地球の揺らぎの方向が分からない以上、温室効果ガスの気候感度が例え低くても、対応は取るべきなのだろう。

A君:さて、そんな観点から見ると、洞爺湖サミットの国際的文書はどうなのでしょうか。

B君:まずは、原文が重要。ここが長期目標について言及しているところ。次の一文。

We seek to share with all Parties to the UNFCCC the vision of, and together with them to consider and adopt in the UNFCCC negotiations, the goal of achieving at least 50% reduction of global emissions by 2050, recognizing that this global challenge can only be met by a global response, in particular, by the contributions from all major economies, consistent with the principle of common but differentiated responsibilities and respective capabilities.

A君:科学英語の書き方という原則からみると、極めてひどい英文。通常科学英語は、2つの文節からなる文を連ねて書くことが奨められる。単文節の英文だけを並べると、稚拙な感じになるし、論理的な感じがしないからなのでしょうね。

B君:この最初の文章、コンマが6個もあって、それぞれの記述がどのように繋がっているか、わざと分かりにくくしている気配がある。

C先生:それが国際交渉によってできる文章というものなのだろう。今回、最大の抵抗勢力であるブッシュ大統領が、「ダメだ」というような文章は書けなかった。そのために、シェルパだけでは、最終的な文章を作れなかった可能性があって、最後の最後は、本人達が決めたのではないか。だからというか、最初から"seek to share"となっていて、"share"ではない。

A君:今回のこの文章に対して、ドイツ、イギリスなどのEU勢は、それなりに満足し、それと同時に、アメリカも満足した。これは、実際、この文章が超玉虫色だったからとも言える。どうやって超玉虫色の英語を書くか、勉強になる。

B君:主語は、"we"すなわち、G8の首脳のはずなのだが、実際には、他のUNFCCCのメンバーが主語であるかのごとき印象を与えることにも成功している。

C先生:しかし、決裂するよりは、100倍ぐらいは良かった。実際、さまざまな情報が流れていたが、シェルパ間では、流れるとの予測もあったように思える。なんとかなったのも、福田「根回し」首相だけができたことなのかもしれない。

A君:次の文章が、実際に長期目標に向けて何をやるか、という一文。いや二文だった。多少だけれども、前の文章よりも簡単な構造をしている。

Substantial progress toward such a long-term goal requires, inter alia, in the near-term, the acceleration of the deployment of existing technologies, and in the medium- and long-term, will depend on the development and deployment of low-carbon technologies in ways that will enable us to meet our sustainable economic development and energy security objectives. In this regard, we emphasize the importance and urgency of adopting appropriate measures to stimulate development and deployment of innovative technologies and practices.

B君:多少マシかもしれんないが、それにしても、十分以上に分かりにくい。

A君:要は、革新的な低炭素化技術の開発と普及が重要だということを述べているにすぎない。

C先生:しかし、実際には、なかなか普及などしない。それは、途上国の経済力を上げることが不可欠。

A君:そのあたりは、まさに総合的な解を求めるというスタンス以外にはなくて、それには、「2050年で半減」という包括的な主張が有効に作用する可能性が高い。

C先生:現在のG8を構成している首脳のレベルを考えると、今回ぐらいの結論で「まあこんなもんか」ということになるのだが、もしも、もっと偉い首脳が集まったらどうなっただろう。

A君:少なくとも、チャーチルぐらいが居れば、もっと将来を読まなければ駄目だ、ぐらいの一喝はあったのでは

B君:米国に対して、「バイオエタノールを推進したのは間違った政策だった」、ぐらいのことは今の首脳連中だって言えないものなのだろうか。

C先生:会議の中では、誰かは言った可能性はあるのだが、そんなことを強硬に主張すれば、「EUのバイオディーゼルにしてもひどい政策だ。パーム油は使うな」、「カナダ・アルバータ州のオイルサンドは何とかしろ」、「ロシアの石油政策はあまりにもひどい」、「アメリカの鉄鋼生産の効率が悪すぎる」、「ロシアはもっと効率が悪い」、「日本は消費税を上げることができる政治家がいない」、などといった話になって、まあ、収拾が付かないのだろうな。各国それぞれ、国益でしか動いていないのだから。

A君:だからといって、福田さんが日本の国益を全く離れた地球第一主義の発言をすると、それはそんな他国の首脳に単にむさぼり食われるだけ。

B君:それでも、G8の首脳は、日本の政治家よりは上だったのだろう。

C先生:日本人の政治家の人数だが、2050年までに半減ではなくて、5年以内に75%削減で良いのではないか。国益で話をすることすらできない政治家が多いのだから。まして、「地球益が何か」を分かっていて国益とのバランスで発言ができるのは誰と誰なのか。