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   電力激変 週刊東洋経済の記事 
       知って欲しいこの変化    03.31.2018



 持ち合わせている情報に照合したとき、この記事で書かれていることに間違いは無さそうで、最近の情勢を正確に伝えているように読めました。

 イントロは、会津若松の県立会津大学から始まる。第一期生の久田雅之氏が起こしたベンチャー企業は、スマートプラグと呼ぶ小さな箱状のデバイスを開発。これを電源と家電機器の間に入れることで、電力の使用状況をモニターできる。近々、家庭を対象とするFITの最初の太陽電池の優遇価格は終了する。となると、太陽光発電から出力される電力が余れば、電力会社に売るよりも、直接、他の消費者に売ることが有利になる可能性がある。あるいは、電池を自宅に備えれば、電気単価が高くなる夕方以降のために、余剰電力を貯めて自分で使うのが有利なのか、それとも、他の消費者に売った方が有利なのか、システムが自動的に判断して、有効な取引を行うシステムができる可能性が高い。このようなシステムは、ブロックチェーン、すなわち、ビットコインのような仮想通貨が情報交換をしている仕組みを使うのが、有効だろう。
 実際、海外では、このような状況がすでに起き始めていて、米国では、すでに、ブロックチェーンを用いた取引も試行されている。日本は、かなり遅れてしまったので、より簡易なシステムから始めないと、技術的にもとても困難だろうし、また、経済的にも見合わないと思われるけれど。


C先生:このイントロか? と言った感想も有りうるとは思う。個人的にも、ちょっと違うのではないか、と言いたい。この記事を書いた記者は、最新かつ先端的なイメージをイントロに入れ込みたかったために、ブロックチェーンといった言葉を使うことを決めたのだろう。

A君:先日の仮想通貨蒸発事件で、東洋経済の読者である経済関係者の間では、大きな話題でしょうからね。日本の場合だと、まだまだ、電力のブロックチェーンでの取引は夢のまた夢。大体、各家庭にスマートメーターも付いていない。調べてみたら、東京電力だと、すべてにスマートメーターが付くのが平成32年度とのこと。

B君:「遅い!」の一言だね。第一回のICEFを行った2014年の10月、カリフォルニア州から来たスピーカーが、現時点の我が家の消費電力はこれだ、と言ってスマホを見せてくれた。ネット経由で簡単に見ることができるようになっていた。すでにカリフォルニア州全域でスマートメーターが設置されていた。この2014年の東電のプレスリリースによれば、スマートメーターの設置を開始したのは同年4月から。しかも進度が遅い。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/2014/1235281_5851.html

A君:この記事で、イントロの直後にでてくる東京ガスの高世厚志・技術企画部長がインタビューで、「パリ協定を踏まえて、当社の50年時点での姿を、シナリオ・プランニングという手法によって描き出そうと試みている。そのうえで、必要な再生可能エネルギーなどの技術をベンチャー投資によって獲得したい」。

B君:シナリオ・プランニングという言葉も、かなり一般的になったと思う。

C先生:実は、NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)の理事長の最終年に、超簡易版シナリオ・プランニングというか、それもどきの手法で、NITEの全職員(400名)の参加のもとで、2030年ビジョンを作成した。実際には、多数の要因の組み合わせに基いて行うべきものだと思っているのだけれど、最終検討会が全国5箇所ぐらいで行わなければならないので、なんといっても相当なロードになるので、もっとも簡単な二軸型の作業にした。それでも、全員参加で、これをやれたのは、職員の意識統一には有効だったと思う。

A君:企業にとって、経営の未来の方向性を決定するための必須の方法論にはなったけれど、どの企業も同じ手法でできるという訳ではないし、基礎的な情報力のようなものが必須だと思いますね。基本となる教科書的な本のアマゾンの表記は、『シナリオ・プランニング「戦略的思考と意思決定」 単行本1998/9キースヴァン・デル・ハイデン著』でして、要するに、1998年の著書です。京都議定書の時代。

B君:話を戻して、東洋経済の記事。もうひとりのインタビューはアクセンチュアの伊藤剛マネージャー。曰く、「人口減少とエネルギー消費の効率化により、2050年時点での日本の最終エネルギー消費量は、現在の約半分になる可能性がある。そのうち、電力については、工場のさらなる電化、電気自動車の一段の普及などにより、現時点より25%ぐらい増加する。しかし、再生可能エネルギーと脱炭素化(脱石炭からはじまっている)の進展、発電設備の小型分散化によって、現在の電力産業ビジネスはサステナブルではなくなる」。

A君:確かにそんな感じだと思います。現時点の化石燃料の用途は、なんと言っても熱源が多いのです。車がその代表例ですが、ガソリン車の内燃機関の熱効率、すなわち、燃料の発熱量のうち、走行に使われる割合は、ざっと15%ぐらいと言って良いのでは。燃料調達からガソリンになる効率が85%ぐらいだとすれば、総合効率(いわゆるWell to Wheel:以下WtoW)で約13%。一方、電気自動車だと、何を燃料にして電気を起こしているかによりますが、もし石炭だと、最悪の場合Well to Wheelで22%ぐらい、もし天然ガスであれば、31%ぐらいにはなりそう。

B君:同じような比較になるのだけれど、最近は、CO排出量が決定的な要素なので、1km走るのに、どのぐらいのCOが発生するか、単位はg−CO/kmで表現することが欧州では標準。資源エネルギー庁のサイトで見つけた、そのような比較図がこれ。

図1 EVのCO排出量の電源依存。
http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/ev.html

A君:この図を見れば、2015年の平均燃費で、132g−CO/kmだったガソリン車が、ハイブリッドになるだけで、62から69g−CO/kmまで下がる。しかし、EVは、2015年の電力ミックスでも、59g−CO/km。それが、日本の2030年の電力ミックスが予定通り進めば、41g−CO/kmまで落ちるということですね。

B君:しかし、EUは、2030年で23g−CO/kmぐらいになるはず。日本はそのレベルにとても行けない。

C先生:という訳で、パリ協定以降、CO削減が国と国の勝負の判定基準になった。ということで、再エネをどのぐらい導入できるか、これが各国の成長まで決めるということが標準的な理解になった。

A君:それが、p28以降の二番目の記事の中身ですね。実は、「石炭火力発電の採算は大幅悪化もあり得る」、と記述されています。欧州でそれが起きているのが、実は、ドイツ国内。大手電力企業であるエーオンとRWEは、再エネの導入が遅れた。それは、このところの再エネの価格低下を予測できていなかったから。そのために、急激に採算が悪化して、巨大赤字になり、エーオンは送配電・小売に特価、RWEは発電に集中することになった。

B君:これが日本で起きるとしたら、電力需要の低下が引き金になるという予測がなされているようだ。各企業が例えば、RE100とか、SBTとかいった国際的なCO排出量削減プログラムに対応するようになって、電力の購入を低CO型の発電方式に移す。電力需要が多い間は、石炭発電も動かさないと電力の供給不足になるから、まあ動く。しかし、電力需要が全体として低下すると、真っ先に、石炭発電による電力の需要が減るのは当たり前と言える。

A君:苦境にあるドイツでは、新しい動きがいくつか出ているようです。その筆頭が、ネクスト・クラフトヴェルケ社で、ドイツ全域の農家と契約し、バイオガス発電の電力を集めている。バイオガス電力は、家畜の排泄物を発酵させて、発生するメタンガスを集める。天然ガスと同じ成分だけれど、天然ガスと違って、CO排出量は、ゼロとみなすことになっている。それは、家畜が食べる植物は大気からCOを吸収して、それで成長しているので、家畜の排泄物はバイオ起源、すなわち、カーボンニュートラル、すなわち、COゼロと考えるからです。

B君:もう一つの例が、ゾンネン社。太陽光発電設備をもっている家庭に蓄電池を販売している。約2万世帯だそうだ。この家庭は月額19.99ユーロで、電力使い放題の権利を得ているとのこと。自家で使わないで余った電力をFITより高い価格でコミュニティーに売ることもできるらしい。

A君:ブロックチェーンを活用したビジネスもすでに始まっている。コンジュール社は、太陽光発電設備を持つ家庭をプロシューマ(Producer、Consumerによる造語)と呼び、彼らの発電電力を、再エネ電力にこだわる地域の学校などに販売しています。家庭の昼間の電力消費は少ないですからね。学校は、昼間はかなり電力を使うので、これが成立するのです。この地域の範囲は、半径20km以内にして、狭い範囲でのブロックチェーンを使って、ビジネスをしています。

B君:日本も2020年度には、需給調整市場が創設される。一方、FITも、19年に家庭用太陽光発電設備の最初のグループに対する固定価格買い取り期間が終了する。

C先生:我が家の太陽電池はその対象だ。誰かが、ドイツ的なシステムを作ってくれると面白いと思う。

A君:記事はまだまだ継続します。「世界で進む脱炭素革命」として、ノルウェーの「EV、ハイブリッド電気航空機、洋上風力、特に、浮体型の風力」の記事がまずあります。ノルウェーは、その年金機構が日本の電力会社への投資を引き上げて、このような先進的な取り組みを選択して投資をしているのでしょう。

B君:日本だって、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)があるのだから、先進的な取り組みに積極的に投資をしても良いと思う。「長期的な観点から安全かつ効率的な運用」ばかりではなくて、「リスクを取って、日本社会を変える運用」を20%ぐらいはやっても良いのではないか。

A君:現状を考えると、日本の企業に投資先は無いという結論になるのでは。

B君:そして、次の記事が、p38からだが、石炭案件から撤退続々という記事。

A君:実際には、p40に記述があるけれど、石炭依存度が30%未満の企業であれば、先端的な投資を行うノルウェーの年金基金であっても、ダイベストメント(投資引き上げ)は行っていないのです。

B君:ノルウェーは、ご存知の通り、北海油田をもっている。英国の領海内の油田はほぼ枯渇状態。ノルウェーの油田は、まだまだあって、スカンジナビア半島をぐるりと回って、ロシア領のところまで産油できる可能性が高い。そのためもあって、まだまだ石油を見捨てるという訳ではない。ところが、ノルウェーの中央銀行は、ノルウェーの年金基金に対して、石油への投資の割合を減らすべきと提言した。その理由は、どうも、ノルウェーの投資先は、世界の標準的な株式インデックスに比べると、石油関連の投資が5倍以上多いらしいのだ。これでは、余りにもリスクが大きいという意図だったようだ。

A君:実際、石炭だって、実は、製鉄に使う原料炭なら、まだまだ使わない訳にはいかないですよね。もしもCCSが可能であれば、石炭発電も全く無いとは言えないですね。

B君:それは、炭素税を払うことが決まってからでないとなんとも判断できない。炭素税の価格次第。一部には、炭素税ではなくて、各企業の排出上限を設けての排出量取引にしないと、削減量の推定が難しいので、政策上困る、という意見も日本政府の一部にはあるけれど、世界的に見ても、そんな考え方で動いている国は無いように思える。

A君:ある企業が政府が排出量の上限を決めるというスキームを好むことが分かったら、世界の多くの投資家は、その企業への投資をしないのではないでしょうか。

B君:理由は、自分で決められない政府依存型の企業に未来はない、ということだろう。

A君:今や、常識は変わったと考えないと。「自分自身でどのぐらい自分を変えるという決断ができるか」、これが評価基準になった。政府の決定を待っているような企業は、投資家から捨てられるでしょう。

B君:こんな感じの記事が、p44から続く。まずは、石炭火力発電への依存を加速させる日本の危うさ。この記事によれば、2030年度の日本の国際的な目標の排出原単位である0.37kg−CO/kWhが達成できない可能性が高い。

A君:再稼働原発が動かなければ、確実にアウトですね。まあ、30基が最低限でしょう。石炭火力の増強に対して、経産省がいつまでサポート側に居続けるのか、実は、大変疑問ではないか、と思っているのですが。

B君:そのあたりは、そのときの政治情勢に依存しそうだ。まずは、来年大阪で行われるG20首脳会議で、そのときの首相が何を話すか。

A君:そして、次の記事が、
p46からで「ガスタービン受注が急減、三菱日立は勝ち残れるか」、
p48が「石炭火力「存続のカギ」:CCSは割に合うか」、
p49が「光熱費ゼロ住宅の2019年問題;太陽光発電の採算が悪化」、
p50から「U電力会社に迫る大転換:電力・ガス自由化で新規参入企業の旋風」、
p53には「主要企業アンケート:低炭素電力を支持」、
p55「たまり続けるプルトニウム:核燃料サイクルは袋小路」、
p58に「高温ガス炉の苦節40年:脱炭素化と安全性で脚光」。


B君:そして、p59に、「資源エネルギー庁長官の日下部聡氏のインタビュー記事」p60がEV普及に立ちはだかる電池と充電の壁」。これで終わり。これらの記事を全部チェックした感じでは、どの記事も変なところはほぼ無いと断言できる。執筆責任者は、岡田広行氏、福田淳氏の両名のようだけれど、なかなかの努力をしていると思う。大変に読み応えがあった。

C先生:「まさに、その通り。我々の持っている情報と方向性が一致しないものは無かった。しかも、一部の記事については、新しい情報がかなり得られた」、と言いたくなる記事の集合体だったと思う。取り敢えず、現在進行中のエネルギー基本計画が最終的にどのような記述になるのか、ここに注目したい。まあ、この記事が記述している北欧やドイツの状況を上回る記述にはならないのは確実だろうが。
 そして、やはり、パリ協定のために作った2030年目標の達成は、日本がプライドを掛けて実現すべきものだろう。今後、2023年には、グローバル・ストック・テイクなるものが実施されて、2030年の目標達成の可能性について、国際的な検討と評価がなされる。これがどのような形になるのか。まずは、石炭発電がターゲットになることは確実とは言うものの、2030年に石炭は26%にするのが目標なのだ。これは厳守して当たり前。勿論、原子力と再エネによる非炭素電源を44%という目標も、同時に、達成しなければならない。
 さらなる難題は、2050年の80%削減。実は、これを最初に言い出したのは、安倍第一次内閣だった。2007年のことだ。今、安倍首相は、それどころではないのだろうけれど、やはり自分が言い出したのだ、ということを再度、自覚して欲しいと思う。これが政治家の責任とプライドというものだろう。