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   小島顧問の経済合理性は妥当か
    Wedge5月号の他の記事のご紹介 04.29.2017

               



  「市民のための環境学ガイド」のアクセスカウンターが900万アクセスを突破しました。ほぼ丸20年掛かっています。となると、次の目標は1000万アクセスということになりますが、この実現は、なかなか難しいです。やはり時代が変わったからだと言えるのです。このようなホームページ形式の情報伝達方法は、すでに時代にそぐわないのかもしれないのです。現時点での平均年間アクセス数は、ほぼ20万件に過ぎません。アクセス数のかなりの部分は、過去に稼いでいるのです。
 過去を振り返ると、最大のアクセスを得たのが、やはり、何か非常に危険(と思われる)事件が起きたときです。その例ですが以下のようなものです。
1.所沢ダイオキシン事件    1999年
2.東海村ウラン臨界事故     1999年
3.狂牛病           2001年
4.環境ホルモン事件       2002年
5.マイナスイオンのインチキ  2002年

 どれが本当に危険だったのか、と言われれば、日本に限って言えば、どれも人的な被害が発生するような危険性はほとんどなかったし、マイナスイオンについては良い効果もなかったと結論して良いかと思います。そのためもあり、このあたりで、一旦、危険がキーワードである環境関連事件は収束します。
 その後、ちょっと方向性が変わって、
6.新型インフルエンザ    2009年
ぐらいなものになりますが、これも大ごとにはなりませんでしたし、本HPへのアクセス数もそれほどではありませんでした。
 そして、次の超弩級の大事件は、2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発事故でした。丁度、SNSのようなものが一般化し始めた時期に一致していたのですが、インターネットに存在する全情報を地球全体とすれば、自分の仲間達の発信する類似情報だけ集めて、それにのみ共感するという情報取得の狭帯域化傾向が広まり、結果的には、何が真実かを見極めようとはしない、言わば、地球全体は見ないという、極めて閉鎖的な情報取得性向が強まったと思います。
 実は、このような性向は、それ以前から起き始めています。しかも、単に環境問題だけの世界ではないのです。政治の世界でも同様のことが起きています。日本で言えば、2009年の民主党政権の誕生が、その最たる現象だと思います。実は、築地市場移転問題は、2009〜2010年の民主党政権時代にも、一度、政局化しています。
 そのときの手法は、と言えば、実は、今回の小池・小島流のものと全く同じです。すなわち、土壌汚染を喧伝し、都民の不安を煽り、築地市場移転反対を選挙戦で唱えるという方法で支持を集めたのです。そして、民主党内閣ができましたが、その後の惨状はご存じの通りで、民進党には、今後とも復活の可能性は無いでしょう。多くの場合、一旦、手法を見破られてしまうと、こんな最終的結末に陥りがちです。これを、小池都知事と小島顧問はトレースしているのに過ぎません。恐らく、近々手の内がバレて、同じ運命をたどることでしょう。
 二度同じ手法に騙されてはいけない。この思いが込められた情報が各種満載されているのが、Wedgeの5月号でした。私個人は、前回ご紹介したような記事を書かせていただいていますが、自分のもの以外の情報が非常に貴重ですので、ここですべてをという訳には行きませんが、ご紹介させていただきます。



C先生:同じことが繰り返されている。これは、政治家にとって、極めて便利な状況だから、このようなことが起きる。市民としては、しっかりと過去を学習し、同じことがまた起きている、という反応をすることがもっとも重要なことなのではないだろうか。

A君:ということで、Wedge5月号での豊洲関係の記事の目次からご紹介します。

『築地移転問題にみる日本の病巣』                    p12

第1章 「ゼロリスク」の呪縛から逃れられない日本   中西準子先生     p14
第2章 置き去りにされた「環境基準」の意味       安井 至     p18
第3章 再び政局に利用された築地 経済合理性なき再整備案 
                  宇佐美典也(岡山県立大学准教授)   p21
コラム 筆者:Wedgeの記者
★「築地市場はもう限界」 ”宙ぶらりん”にされる仲卸業者の悲鳴       p24
★”玉突き事故”の「環2問題」東京五輪にも広がる悪影響            p26

C先生:冒頭の記事は、中西先生のゼロリスク論。この話は、本当に、日本の病巣だ。世界でもっともゼロリスクから程遠い自然災害満載の国土の状況があるものだから、せめて、人間が関わることについてはゼロリスクが欲しい、これが日本人の基本的な考え方なのだろう。しかし、ゼロリスクの達成にはコストがかかる。それによって得られるものは、「安心」という訳の分からないものなのだ。しかし、この訳の分からないものの金銭的な価値はどのぐらいなのだろう。ちょっと言い方が不十分か。「安心の経済合理性」はどうなっているのだろう、と聞くべきか。

A君:自分の懐から金を出して、それで払うという感覚になったとき、「安心の経済合理性」が初めて議論できるのですが、これまでのリスク関連の事件では、金の出所は、すべて「税金」からですね。狂牛病のゼロリスク指向も凄かったのですが、これにしても、厚労省の懐から金を出したから、自分の金とは無関係という感覚なのでしょうか。

B君:元々は、自分たちが払った税金であるという意識が無いのが最大の問題。狂牛病のゼロリスク指向以外に、もっと根本的に解決すべき問題に税金を使え、という主張があるべきだった。

A君:第1章、すなわち、中西先生のゼロリスク論で議論されている福島の除染ですが、1mSvまで下げると称して取り掛かったことは、民主党政権の行った数々の間違い政策の内でも、最大の間違いだった。5mSv、せめて、3mSvでも安全上の問題はないということ、すなわち、1mSvの正確な意味の説明が、誰にも、政治家にも、官僚にもできなかった。これは極めてお粗末なこと。

B君:元々、東日本の自然放射線は、西日本よりも低い。それは地質の問題で、西日本は、福井県から恐竜の骨がでることからも分かるように、花崗岩など古い地層の岩石がある。全体的に見れば、日本の国土は、太平洋の海底のプレートが日本列島の下に潜り込むとき、海底の土壌の表層の一部である「ごみのような岩石」が地表に盛り上がってできたものだ。「ごみ」、すなわち、主として石灰岩によってできている。パリやスウェーデンなど、石造りの都市では、自然放射線が高い。それは、花崗岩など地球の深部に起源がある岩石には、ラジウムやウランなどの放射性元素が含まれているから。

A君:パリの自然放射線が高いので、パリに移住すれば、それだけで1mSv/年ぐらいの被曝量が増えてしまう。それは事実なのに、パリに転勤せよ、と言われて、放射線が怖いから嫌だという人はどこにも居ない。

B君:除染にしても、「3mSvを基準にして実施したい。1mSvを基準にしたときとの予算の差額は、関係自治体に贈呈するから、活力ある地域づくりに使ってくれ」、という対応が、当時の民主党政府の対応としてはもっとも正しかったと思う。

A君:ところが、これは噂話として聴いて欲しいのだけれど、地域に住んでいた医者が、率先してどこかに移住してしまったらしい。医者が危ないから移住する、という動きを見せれば、「これは、危ないのだろう」、と思う人ばかりになるのは、当然ですね。

C先生:ゼロリスク指向が、結果的に、どれほど地域の復興に逆風となったか、その反省はいずれ起きることなのか、それとも、このまま忘却されてしまうのか。この福島の深刻な問題については、中西準子先生の記事を読んでいただく以外に、やはり無いと思うのだ。だから、今回は、他の情報を提供しよう。

A君:ということは、第3章からですね。この章の筆者は、2012年9月末まで経済産業省の官僚だった、宇佐美典也氏。記述の概要を説明します。すでに民主党政権のときに築地市場の移転問題が政局化したという話は、この第3章からの引用だったのです。
 そして、そのときの最終的な結論は、
(1)築地市場の再整備は過去に失敗しており、技術的に困難、
(2)豊洲市場の途上汚染の大半は除去可能で、食の安全に影響を及ぼすほどのものではないこと、
(3)豊洲以外の移転候補地の確保は難しいこと

以上の三項目であって、民主党、自民党、公明党が歩調を合わせて豊洲移転を推進することになった。築地市場の移転反対は、一時的な票稼ぎにはなるが、結局のところ合理性に欠ける。

B君:そして、今回は、当時と構図が逆転して都知事が市場移転問題を政局化し、都議会や国政を巻き込んで混乱させている。「環境基準値の79倍のベンゼン」と説明もなしに発表し、その情報を一部のマスメディアが検証することなく報道し、都民の不安が高まった。そこに、築地残留を主張する活動家が便乗。「耐震強度が足らない」、「ターレが曲がれない」などの様々なデマを流して、これをメディアが拡散した。その結果、都政と既存政党に対する不信感が極限まで高まった。これが全体的な構図。さらに、小島顧問がワーキンググループの長になっているが、かなり無茶な暴走をしている状況。

A君:そこで、宇佐美氏(元経済産業省官僚、現:岡山県立大学准教授)は、「経済合理性」という観点からの議論が軸になる、ということで、比較検討を展開しています。これは金額が具体的に出てくるので、検討の価値があります。小島ワーキンググループ長の検討よりも、遥かに、現実的な検討が行われています。

B君:まず、東京都がこれまで豊洲市場の整備に投じた金額が、5884億円。内訳は、建設費2744億円、用地取得費用1859億円、土地汚染対策費860億円、その他関連工事費が421億円。ただし、このうち208億円は国からの交付金で手当されている。したがって、都が実質負担したのは、5680億円弱。

A君:この費用はすでに支出済みなので、いかにして取り返すか、これが重要。その原資は、築地市場の跡地。この跡地の推定価格は、もっとも単純にもっとも高い単価と安い単価の平均を使えば、坪単価で649万2500円。ほぼ7万坪なので、売却収入は4500億円程度。東京都は、売却収入を4300億円と試算していて、大差はなくて、計画では、豊洲市場の建設にあたって発行した4000億円の都債の返却に充てることになっている。要するに、元々、豊洲と築地はセットで議論されている。

B君:もしも、築地を再整備することになって、豊洲の土地を売った場合を考えると、坪単価327万2500円として、概ね12万3000坪なので、4025億円。この金額だけれど、東京都は、すでに述べた用地取得費用1859億円に土壌対策費の860億円を加えた2719億円を支出しているが、かなり資産価値が高まった勘定になる。石原元都知事の判断かどうかは別として、正しい判断が行われたことになる。その割には、百条委員会では、石原氏だけでなく、浜渦元副知事の責任追及がなされているが、経済的な観点だけならば、むしろ、都の財政のために、彼らは貢献したとしたとしか言えない。

A君:豊洲の用地を売却すれば、施設も売却することになるけれど、宇佐美氏は、未使用だから、建設費相当の価値が残っていると言う。これは、2744億円相当だとのこと。

B君:一方、都のワーキングへの小島顧問の提案は、建物は150億円程を掛けて解体し、土地だけを売るというシナリオになっている。このケースであれば、国からの交付金208億円は、国に返さなければならないが、これは、果たして勘定に入っているのだろうか。

A君:環境省の元ナンバー2だった小島氏にとっては、地球の資源の貴重さ、廃棄物の大量排出の無駄は、どうでも良いことなのでしょうかね。作っただけで全く使わないで解体して廃棄物を大量に作って売るというシナリオを平然と書けることが、全く信じられない。

B君:宇佐美氏はさらに厳しい見方をしていて、もしも築地市場が再整備されれば、豊洲市場の土地は、あれほど大規模な土地の用途が限定されて、売れにくくなるのではないか。中国のIT企業であるアリババは、3000億円なら買っても良いと言っているとか。

A君:それより重大な指摘が、築地市場の再整備の非現実性。まず、費用だけをみても、豊洲と同程度の機能を整備するには、1460〜1780億円の建設費が新たに必要。かつ、11〜17年の工事期間を要する。となると、もっとも被害を被るのは、事業者だということになる。工事が入れば、一部の場所は使えない訳だから、その事業者は、一時的に別の場所で営業をしなければならない。例えば、大田市場に移ってしまえば、築地には戻らないとか。

B君:最後に、豊洲のランニングコストが高いから、築地の方が良いとの批判もあるけれど、実は、安全のレベルが全く違うとのこと。豊洲は75億円/年、築地は現状では15億円/年だけれど、豊洲は、食品管理機能の国際規格であるHACCP(ハサップと読む)に対応するために、コールドチェーンなどを備えた高度な食品管理機能をもつ市場になっていて、もしも、築地が同じような機能を持つとすれば、同様のランニングコストになるとのこと。

A君:確かに、ネズミとゴキブリの築地HACCP適合の豊洲のどちらが安全なのか。さらに、どっちが「安心」か。これは都民に聴いてみたいけれど、我々が安心という言葉を使うと自己矛盾の質問になるのかもね。

B君:ただ、宇佐美氏は、豊洲はオーバースペックであるという別の指摘もしている。その問題点は、日本の第一次産業の地盤沈下。現状だと、豊洲が100%活用される未来の姿が書けないとのこと。やはり、未来ビジョンが必要不可欠と指摘。

A君:そして、最終結論としては、「豊洲市場は、日本の第一次産業復活の拠点」を目指すといった未来ビジョンを描き、骨太な政策を作って欲しい」と結んでいます。

B君:これは、小島ワーキンググループ座長の「過去に学ばない姿勢と思考の貧困さ」を非常に鋭く突いている。加えて、小池都知事よりも、宇佐美氏の方が都知事に向いているのではないか、という感想を持たざるをえない。

C先生:これで著者のある記事は終わりで、Wedgeの編集部が書いた「宙ぶらりんの仲卸業者の悲鳴」、”玉突き事故”の「環2問題」、という記事があって、この二番目の環状二号線の問題は、東京オリンピックの施設整備の責任者である小池都知事にとって、将来、事態への対応が不良であったという責任が大々的に追求される問題になると予想できるのだ。競技場の建設を巡って、様々な提案で混乱を招いたのはまだしも、もっとも最悪だったのは、「時間の浪費」が行われたことだ。この「環状二号線」は、オリンピックの運営にとって、かなり重要な問題の一つである交通・観客輸送などの問題の大きなネックになるかもしれないのだ。今、決めても、もう間に合わないのだから。

A君:百条委員会に石原元都知事を呼んだのは小池都知事にとっては良かったのですが、東京オリンピックの運営が上手くいかなくて、この「環2問題」で小池都知事が非難されて、同じような状況になってしまうという可能性がありますね。

C先生:ということでそろそろ終わりにしよう。今回の豊洲市場事件についても、どうも、ネットなどの情報だけを見ていると、あるいは、テレビや新聞を見たとしても、その情報量に限界があるためか、選挙民として正しい判断ができないという事態であることが、しばしばあった。いやいや、ほぼいつでもそのような状況であったと言わなければならないだろう。これを補うためには、様々な人々の考察を聞かなければならないのだけれど、最近は、多くの人々が、最初に述べたように、自分の思いと近い、狭いグループの中だけで情報交換をしているものだから、結果的に、税金の無駄遣いを招いているというのが現実のように思える。
 今回の豊洲市場事件は、地方自治体の税金の無駄遣いに関しては、歴史的に見ても過去最大級の問題なのではないだろうか。政局化を解消して、是非とも、早期解決を目指して欲しい。都議選が近い政治状況があるので、残念ながら、そうは行かないのは承知の上だけれど、次のような指摘をしたい。
 小池都知事の立場から考えてみても、この豊洲市場事件に対する小島顧問の暴走が大きな契機になって、自分の人気が大幅に落ちるという可能性も、すでにゼロでは無くなっている。小島顧問の起用を含めて、もう一度、情勢の再判断が必要だが、そのために残された時間は、恐らく1ヶ月も無いので、速やかに、かつ、適正な最終判断を下して欲しい。少なくとも、これほど騒いだ安全に関わる問題ではないことは、すでにはっきりしたのだから。
 この段階での重要なキーワードは、やはり経済合理性だ。これは、都民にとっても同じ。税の適正利用ということは、やはり経済合理性の一種なのだから。