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   トランプ政権の石炭戦略
     
ラストベルトでの支持者は、裏切られるだろう 04.15.2017
               



 3月28日にトランプ米大統領が「地球温暖化対策を全面的に見直す」大統領令に署名。その影響がどうなるか、3月30日に読売新聞の取材を受けて、その記事が4月1日に掲載されました(内容は、決して、エイプリルフールの記事ではありません)。
 読売新聞の記者の思いとしては、「トランプ政権が石炭の復権」のような発言があるので、それが、日本国内で再び勢力を増すことを懸念したようでした。確かに、日本の電力関係者は、極めて、ドメスティックですから、同じく、トランプ大統領のような国内優先政策を見聞きすれば、石炭なら1kWhが5円で供給できる、といった短絡的な反応をしないとは限りませんが、実際、米国が本当に石炭に再度戻るのか、と言えば、そうではない大きな理由が存在しているように思います。もっとも、日本の場合には、その理由が無いのも事実ですが。
 といった感じで記事を書いたのですが、その後、Facebookから情報を得ましたが、ICEFのステアリング委員であるために、知り合いのカナダのマニトバ大学のSmil教授の主張が、3月29日に早速、Washinton Postで取り上げられたようです。その題名はインパクトが強いです。
 "Trump's coal policy will likely do just what Obama's did" .『トランプ大統領の政策は、オバマ元大統領がやったことと同じになるだろう』



C先生:読売の記事の取材の際に、言いたかったことを箇条書きにすると、
(1)米国がパリ協定から抜けたというわけではないので、日本を含め各国は過剰に反応すべきではない。
(2)米国一国が国内目標を達成できないことになっても、京都議定書の場合と違って、元々自主的な枠組みなので、政治的影響は少ない。
(3)多くの国で政治的な駆け引きが激しくなっているが、パリ協定のような枠組みが、世界をまとめるため機能することは、変わらない。
(4)石炭回帰は、ラストベルト(さび付いた工業地帯)の支持をつなぎとめるための大統領令であるが、その人々は裏切られるだろう。
(5)米国では、石炭の価格的な優位性は、すでに失われており、トランプ氏自身がビジネスマンであることを考えると、人気取り政策の規模には限界がある。
(6)トランプ大統領に対する世界的な批判が高まることは確実で、日本の企業などが、この大統領令に便乗すれば、笑われるだけである。
 さらに、今回記事には書かれていないのだが、根底には、次のようなこともある。
(7)スティグリッツ教授の環境税の記事に書いたように、2050年の目標の実現には、大きなイノベーションが不可欠であり、石炭から早く離脱することを決意した国が、イノベーションを進めるので、産業面でも優位に立つ。
 こんなことになる。

A君:トランプ大統領の自己矛盾の最たるものが、最終的には、金持ち優遇の所得税減税などをやりたいのに、選挙の際には、ラストベルトの白人失業者が支持者だったこと。最後には、トランプ氏の本音が出るに決まっているので、貧困層からの支持は失われる。それがいつになるか。

B君:どこまで我慢できるか、なのは事実だろう。しかし、このところ、国際紛争がらみで、米国民の気をそらすという戦略があり得ることが、シリアと北朝鮮関係で実現できていて、それがいささか心配。

C先生:ちょっと話がずれるが、ジェレミー・リフキンの著書、「限界費用ゼロ社会」の特別章で、日本は、既得権益を守る姿勢がいまだに強く、そのためイノベーションが遅れるという指摘がされている。本当の成長を目指す産業政策は、既得権益との闘いのはず。トランプ大統領も、本当の成長を目指したいのだろうから、ラストベルトの失業者といった古い既得権益の支持者を、いつかは無視せざるを得ない。それが、いつになるか。

A君:所得税の減税という金持ち優遇をやれば、彼の本音が確実にバレるのですが、巧みに別の経済問題、例えば、中国、日本、ドイツとの貿易問題にすり替えて、支持者たちを騙し続けることが可能なのですかね。

B君:もう一つ心配なのは、温暖化対策からの撤退という名目で、予算のカットをどこまでやるか。その象徴として石炭を使うという戦略が取れるかどうか。米国国内では、すでに石炭は価格競争力を失っているので、それほど進むとは思えないのだけれど。

A君:確かに温暖化対策からの資金の引き上げが行われているのは事実。イノベーションの種になりそうだったARPA−E(Advanced Research Projects Agency-Energy)と呼ばれるエネルギー省(DOE)のプロジェクトがいくつか廃止された。
▲革新的な省燃費自動車/大気汚染物質・温室効果ガス削減技術などの商業化を目指す研究開発・債務保証プログラム2件を廃止。(年間3億ドル)
▲科学局による基礎研究開発支援を9億ドル削減

B君:環境保護庁(EPA)の予算は、なんと31%カットされた。最大のカット率だ。特に、クリーン・パワー・プラン(発電所からの炭素排出量削減プログラム)や国際気候変動対策プログラムなどの予算措置停止により1億ドル削減。省電力プログラム(エネルギー・スター)を含む50以上のプログラムで、3.5億ドルの削減。

A君:良く分からないのですが、DOEのARPA−Eは、100%予算カットだという予備的な予想があるのですが、そのあたり詳細不明です。もしも、ARPA−Eが完全に停止させられると、米国のエネルギー関係のイノベーションは、大幅に遅れる。これは、日本を含む他国にとっては有利な状況を生む可能性があります。
http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2016/FU/US20170316.pdf

B君:結果的に、米国の経済成長は遅れるという副作用が起きるのではないだろうか。高い石炭を使うと同時に、イノベーションを遅らせるのだから、

A君:そのうち、それが現実であることに米国国民が気付くかどうか。そのあたりは、かなり疑問なのですけど。

C先生:こんなところが現在までの大統領令ということ。今後、どうなるか。その予測をしているのが、Washington Postに掲載されたSmil教授の記事。こちらの紹介に行こう。

A君:『トランプ大統領の政策は、オバマ元大統領がやったことと同じになるだろう』
https://www.washingtonpost.com/opinions/trumps-coal-policy-will-likely-do-just-what-obamas-did/
2017/03/29/7c5bb868-14b4-11e7-9e4f-09aa75d3ec57_story.html?utm_term=.fbc389b1288f

 この題名は、極めてインパクトが強いですね。オバマ大統領をあれほど意識して、その反対のことを大統領令などでやろうとしているトランプ大統領ですが、エネルギー関係の現実は、実は、なかなか厳しくて、オバマ大統領と同じことしかできない。

以下、要約をしてみます。

 トランプ大統領は、選挙運動のときから、次のような約束をした。
 "A lot of people are going to be put back to work, a lot of coal miners are going back to work. The miners are coming back." 失業している人々に職を。炭鉱夫も仕事に戻れる。鉱夫が戻ってくるのだ。
 このメッセージは、アパラチア空洞(本当はアパラチア炭田(ペンシルバニア州からアラバマ州にある)と書くべきなのですが、Smil教授は、炭田は空洞化したと皮肉を込めている)の失業者やレイオフ中の労働者にとって、もっとも聴きたかった言葉だろう。しかし、実際に雇われる人数はかなり少ないだろう。 
 Robert Murray氏は米国最大の炭鉱会社の経営者であるが、「トランプ大統領がこれを実現することはできない」と言う。
 この発言はいくら大統領がそうしたいといっても、あるいは、命じたとしても、それは起きない。米国の炭鉱からの撤退という傾向は、別段、オバマ大統領の環境規制のためではなくて、あるいは、現代文明、すなわち、石油と天然ガスに慣れた人々からイデオロギーに合わないと言われた訳でもない。石炭の衰退も、「エネルギーの需給は、安価でクリーンでフレキシブルな燃料に変わっていく」、という「変化の大原則」が起きつつあることの結果の一つに過ぎない。

B君:このSmil教授の最後の表現は、極めて重要。日本の場合でも同じなのだ。石炭も原子力も、安価ではあるのだけれど、フレキシブルでもなければ、クリーンでもない。そのために、選択されなくなるのが宿命だということ。市民から放棄されれば、その事実を受け入れるしかない。

A君:ただ、Smil教授は、同時に、この変化は、市場と技術の両面で問題があって、比較的遅いと述べています。しかし、歴史的に見れば、木炭が追放されたと同じことが石炭についても起きると述べています。まあ、当然なのですが。
 21世紀に入った時点で、石炭は、主として2つの用途、すなわち、発電用の瀝青炭、鉄鋼用コークスの原料になる強粘結性炭があって、2000年では、米国は、電力の半分を石炭に依存していた。しかし、それを生産していた炭鉱は、電力需要が急激に増加した1950〜60年に開発されたものであった。その時点で、天然ガスは16%のシェアに過ぎなかった。
 しかし、2009年までに、水砕法によって掘削ができるようになって、シェールガスのコストが大幅に低下し、米国は、世界最大の天然ガス産出国になった。

B君:次の言葉も、非常に重たい。「経済は不可逆である」。特に、効率面での優位性が大きい。天然ガスの発電効率は60%になるが、通常の石炭発電だと40%留まる。さらに、自然エネルギーのコストの低下もすごい。その結果そして、2016年には、30%の電力が石炭に依存するレベルまで低下した。風力と太陽電池で6%の電力が得られている。

A君:そして、さすがの米国でも、電力需要は落ち始めているのです。2010年から僅かに減る傾向が見られるようです。日本では、2007年ぐらいから、電力消費量は下がっています。GDPはまあ増加していますから、エネルギー消費量とGDPは比例するという仮説は、終わったと判断してよいと思いますね。

B君:Smil教授は、製鉄での石炭の需要も変わりつつあるとの見解。中国は依然として高炉を用いてコークスで鉄鉱石を還元しているけれど、米国では、すでに、電炉を用いて、鉄スクラップのリサイクルが主流になりつうある。そのため、石炭から作られるコークスの割合はいまや、石炭需要の3%に過ぎない。

A君:米国は、依然として、石炭の輸出国ではあるものの、2014〜2016年の間に、輸出量がなんと60%も減った。国際的な石炭価格は低下しつつある。

B君:ということで、石炭は減る。しかも、天然ガスの嬉しいことがもう一つあって、発電を前提とすると、同じ電力を発電するのに必要な二酸化炭素排出量は、天然ガスは石炭の45%に過ぎない。ということで、米国は、二酸化炭素排出量削減が、今後共、天然ガスのお陰と、鉄鋼関係の産業構造の転換で自然に起きてしまう。

C先生:ということで、Smil教授は、この傾向は、ビジネスの自然な流れの中で起きていることなので、そのうち、トランプ大統領もそれを認識することになるだろう。そして、行うことは、皮肉なことに、オバマ前大統領と同じことになってしまうだろう、と主張している訳だ。そして、我々の見方もほとんど同じ。

A君:ただし、日本の状況は、いささか違っていて、残念ながら、安価な天然ガスを輸入することに遅れを取っているので、発電コストを考えると、依然として、石炭がもっとも安い状況は、当分の間継続する。しかし、2030年には、発電企業は、排出原単位0.370kg−CO/kWhを達成しなければならないので、もし、これが不可能となれば、かなり高額な炭素税の導入を受け入れる以外にないことになる。

B君:それでも、日本における石炭の需要は、まあ、2030年代まで残るということ。しかし、2040年まで残ることは無さそうだ。これから、新たに石炭発電所を稼働させたとしても、その運転期間は、15年ぐらいになることを覚悟しなければならないだろう。あるいは、CCSレディーの石炭発電所にしなければならないだろう。

C先生:最後に、読売新聞の4月1日の第11面の記事の様子を、大幅に縮小して掲載してしまうか。版面権の侵害になることはほぼ確実だけれど、文字は、さすがに小さすぎて読めないということで、読売新聞には勘弁して貰おうか。

             
     読売新聞 4月1日 11面の記事のスナップ写真