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   トランプに投票したのは誰?
     
日本メディアの解析は十分か 11.13.2016
               



  いやいやトランプ氏の勝利は、全くの想定外でした。前回の記事にちょっと書きましたように、今回、トランプの支持層は、白人でかつて米国の製造業の労働者階級、しかも多くの場合、失業者という報道がNHKテレビをはじめとする日本のメディアでは行われていますが、そのような単純な解析で良いのでしょうか。

 例えば、このサイトとしては、トランプ氏は果たして発言通り、パリ協定を離脱するか、という命題にも予測を考える必要があります。それには、もう少々トランプの支持者とはどのような特性を持った人々だったのか、を詳しく解析する必要があるように思うのです。これは、「トランプ氏は今後、投票してくれた人々の思いをより反映した政治を行おうとする」、という仮定に基づいた推論を行おうとしているのですが、この仮定自体が怪しいのも事実です。すなわち、選挙中のトランプ氏の発言は、実は、選挙用の言葉に過ぎなかったということになってしまう可能性も否定できません。いきなり「良い子」になる可能性は低いと思うのですけど、ビジネスマンの本性として、ある目標に向けて「合理的な判断」をするという可能性は否定できません。まあ、その目標次第でして、これもビジネスマンの本性として、もっとも可能性が高いのは、自分のビジネスマンとの立場に近い人々の利益を考えて行動するということになるかもしれません(例えば、相続税の廃止)が、そうなれば、支持者の思いとは、全く逆の方向になってしまいます。大統領として、このような主張をする可能性はゼロではないでしょう。

 その他の場合にも、検討する際の態度を決め方の選択肢としては、二つあって、一つは投票してくれた人々のために合理的な政策を行うこと。もう一つは、地球上に存在する最強国の大統領として、世界全体のために合理的な判断を行うという可能性です。この最後のスタンスは、オバマ大統領はやや近かったと思うものの、トランプ氏に関しては、まあ、可能性はほぼゼロだと思えば良いのかもしれません。

 ということがイントロでして、本日の記事の目標は、「もしも(可能性は低いが)、トランプ氏が、自分に投票してくれた人の立場をフルに考えて政策を行おうとしたら、どのような政策を採用するか。これを推測するために、まずは、トランプへ投票した人々の特性をできるだけ詳しく解析してみよう」、ということです。これは、米国民というものをより深く理解することに、繋がると思います。



C先生:ということで、今回の検討課題の難易度は相当に高い。そもそもどんなデータがあるかをちょっと調べてみて、そして、検討してみよう。対象は、米国のネット記事だろう。なぜなら、日本のネットの記事は、かなり偏ったチェックしかしないはずなのだ。要するに、日本人に理解できないことなどは、全くチェックすらしない。これでは、世界情勢を本当の意味で読み解くことは難しい。

A君:まずは、もっともオーソドックスなところからで、The GardianのHPの州別の勝利を示したものから行きます。赤がトランプ、青がクリントンです。文字は本来、州を示す2文字なのですが、なぜか、非常にずれています。無視していただきたい。


図1 州ごとの勝敗。赤がトランプ、青がクリントン
https://www.theguardian.com/us-news/ng-interactive/2016/nov/08/
us-election-2016-results-live-clinton-trump?view=map&type=presidential


B君:東部と西部がクリントンなのは、理解できると思うけれど、その間には、たった4つの州でクリントンが勝利したに過ぎないのだ。シカゴのあるイリノイ州、ミネアポリスのあるミネソタ州。アルバカーキーが州都であるニューメキシコ州、デンバーのあるコロラド州。

A君:この4つの州の特徴は何か。結構難しいですが、中西部としては、まあ産業、特に、商業と工業がある州でしょうか。ニューメキシコ州はそうとは思えないですが。

B君:メジャーリーグのチームがあるのは、このうち、ミネソタ・ツインズだけか。

A君:フットボールのNFLのチームがあるのは、デンバー・ブロンコスのコロラド州、ミネソタ・バイキングスのミネソタ州だけ。

B君:イリノイ州とミネソタ州は、そのあたりの経済の中心地。そこから、そこから西に行くと、太平洋岸まで、ほとんど何もない。残りのコロラド州、ニューメキシコ州は、農業があるかどうかが鍵なのかもしれない。

C先生:それは理屈上はそうかもしれないが、残念ながら、コロラド州は、乾燥地帯しかも、デンバーは標高1600mの高地、ニューメキシコ州だと首都のアルバカーキーでも、砂漠のようなところで、非常にがらんとした雰囲気だ。北に行って、サンタフェあたりになると、若干山がでてくる。クリスマスをサンタフェで過ごしたことがあるのだけれど、アメリカの南部地域なのに雪だった。ホワイトクリスマスになって狙い通りではあったんだが。両州とも、農業というイメージは程遠い。

A君:ということは、農業がある州は、トランプ。それも無いとなると、何か別の要素を考えなかればならない、といったところでしょうか。

C先生:そう言えば、そのThe Guardianの地図は、拡大すると、County別の投票結果が見える。Countyは、日本で言えば、郡と訳すのが適当なぐらいの自治体だが。

A君:ちょっと見てみますか。全米を示すと、こんなになります。大分細かくなります。


図2 郡(County)別の勝敗 赤:トランプ、青:クリントン

B君:なるほど。東部から中部までで、青い点のように見えるところは、都市である場合が多い。都市では、やはりクリントンへの投票が多かったということだ。

A君:ミシシッピー川付近に青いところがベルト状になっているところは例外で都市ではありません。要解析ですね。

B君:ここを拡大してみると、確かに、ミシシッピー川の両岸と、アラバマ州の中央部にベルトがある。

C先生:そのあたりだけれど、ミシシッピー川岸のアーカンソー州から河口までは、走ったことがある。大規模なプランテーションという感じがした。大農場型の農業が多いという仮説はどうだ。

A君:ありそうな感じですね。黒人奴隷の歴史を背負っている地域ですから。現時点では、黒人奴隷ではなくて、大型農機が使われているのでしょう。お金持ちかもしれないですね。
 それでは、課題としては、ニューメキシコがどうしてクリントン支持だったのか。可能性があるのは、メキシコからの移民ということはどうですか。

B君:果たしてデータがあるか。

A君:見つけました。これは多少参考になるのでは。


図3 Hispanic Catholicの分布図
http://cara.georgetown.edu/staff/webpages/Hispanic%20Catholic%20Fact%20Sheet.pdf

B君:なるほど、Hispanic Catholic、ラテン起源のカソリックの分布図か。当然、イタリアとかスペインとかからの移住者も含むだろうけれど、もっとも多いのは、メキシコからの移民だと思われる。

A君:残念ながら、ニューメキシコにほあそれほど多いという感じでもないので、なぜクリントン派だったのか、の説明にはなりませんね。

C先生:ニューメキシコという州は、アルバカーキから北しかドライブしていないけれど、そこからオクラホマ州境まで行ってみたが、このあたりは、結構山がちで、本当に人口密度が低いと思った。もしかしたら鉱山でもあるのかな。結構雪も深いところだった。人口が少ない州なので、何か、なにか特殊な状況があるということかもしれない。

A君:たしかに、ウラン採掘を中心にした原子力産業がありますね。いや、ありました、なのかもしれません。関連するかどうかは別として、ロスアラモスとサンディアの国立研究所、さらには、3つのアメリカ空軍基地があります。

B君:それが理由かどうか分からないが、政府関係の人口が多いということはあるかもしれない。アルバカーキーがほぼ唯一の大都市であることなども効いている可能性があるな。

A君:それでは、ニューメキシコについては、結論が出せないということにしておきますが、中西部でも大都市があり、その周辺の人口が少ない州では、クリントンの支持者が多かった。その例が、イリノイ州とミネソタ州。コロラド州。

B君:もう一つの要素として、宗教がどうか、ということが投票結果に大きく影響を与えているという仮説はもっと検討しなければならないということは事実だ。

A君:それでは、米国における宗教の分布図を探しますか。まあ、これかな。


図4 米国における宗教の分布図。2000年版。
http://www.patheos.com/blogs/blackwhiteandgray/2012/04
/map-of-us-religious-affiliation-by-county/


B君:この図と、トランプが勝利した州を比べてみると、いくつかの事実が浮かび上がる。
トランプに投票したのは、キリスト教の宗派で言えば、ほぼすべてとも言えるけれど、特に、
1.Baptistが多い。むしろEvangelical(福音派)が多いと言った方が良いかもしれないけれど。
2.Catholicも多い
3.モルモン教(正式にはLatter-Day Saints)が多い
4.それに対して、Lutheran(ルーテル協会)あたりはそれほど支持しなかったかもしれない。

A君:ということは、都市居住のしっかりした職業についている人々は、宗教的にも多様であり、場合によっては、無宗教やユダヤ教、ヒンズー教なども多いのかもしれないですね。

B君:金融業にはユダヤ教が多くても不思議はないような気がする。

A君:County別のデータを見直していたら、もう一つ見逃しては行けないことが見つかりました。それは、ワイオミング州の西北部、アリゾナ州の北部、それからコロラド州の中央部、さらには、モンタナ州の北部などを見ていて、クリントンが勝っているCountyが、いずれも、観光地ですね。

B君:なるほど。ワイオミング州のイエローストーン国立公園、アリゾナ州のグランドキャニオン国立公園、モンタナ州のグレーシャー国立公園などの地域では、クリントンが勝っている。

A君:それは、国立公園に雇用されている人々もいますしね。

B君:米国の国立公園は、有料なところが多いね。高いと、$20ぐらい取られることもある。もっとも何日間か有効だけれど。

C先生:どうも、政府関係の人々が多少居るだけでも、もともとの人口が少ないから、影響を選挙結果にも影響が見えてくるという解釈は正しいかもしれない。それに、観光地だからお金は落ちるし不満も少ないのかもしれない
 やや前に戻るが、宗教の話は、本当は重大なのだけれど、今回、トランプが都市以外を満遍なく制覇してしまったものだから、宗教の影響は余り明確ではなかった。宗教の分布から考えられる結果と逆だったところが、ニューイングラインドだろうか。バーモント州、ニューハンプシャー州、メイン州、などだ。マサチューセッツ州、ロードアイランド州、コネチカット州は、都会というジャンルで良いような気がする。バーモント州とニューハンプシャー州は、最後まで民主党候補を争ったサンダース氏の影響が大きかった。もっともメイン州は他の州と同じような人口の多いところがクリントンに投票したということだが。

A君:そういえば、C先生の机の上に、佐藤優氏の著書である「現代の地政学」がありましたが、その帯には、世界を動かす「見えざる力の法則」を述べているようなことが書かれていましたね。

B君:現代の日本人で理解できないことは、やはりビジネスとかお金とか以外にも、世の中を動かしている要素というものがあるということ。いわゆる不満があるとか変化を求めるといったことではなくて、もっと、固定的なこと。一番基本的には、国の地理的な状況(山か平野か、乾燥地か森林か、農地があるかなど)が重要ということが地政学の基本で、次が、資源などだと思うけれど、宗教も基本的要素の一つ。

A君:日本で首相公選をやったところで、宗教の影響や民族の影響は出てこないけれど、米国大統領選挙は、やはり宗教や民族の影響を考えることが必須だという意味。さらに、その州の産業。すなわち、山岳地帯、砂漠、草原などのもともとの地形が政治的にも影響するという意味で、やはり地政学的な説明をしなければならないということのように思いました。

C先生:まあ、今回、福音派とモルモンがもっともはっきりトランプ氏を支持したとも言えるけれど、実は、これらの支持者が住んでいるところは、田舎なのだ。むしろ、今回、最大の戦いは、大都市の居住者と田舎の居住者の戦いで、結果的には、田舎居住者が勝利したということで良いのかもしれない。となると、前回の記事で、パスポートの取得率との関係を述べたが、それは、図5のようなものなので、この方が、トランプの支持率との関係はよりはっきりするということかももしれない。例外がアラスカ州ということにはなるけれど。ちなみに、日本のパスポート取得率は、25%ぐらい。


図5 パスポートの州別取得率。
http://www.theexpeditioner.com/2010/02/17/how-many-americans-have-a-passport-2/

 宗教を考えなければならないと考えたのは、パリ協定の気候正義Climate Justiceとの関係だったのだけど、そのうちに、もっと解析を必要とするとは思うが、さすがにEvangelicalであっても、温暖化完全否定者は減りつつあるということのようなのだ。それは、ローマ法王が、温暖化問題の解決を強く支持しているからではないか、ということのようだ。この話題は、調査するのに、相当の情報を集めなければならないので、ちょっと時間を掛けて検討するか。いずれにしても、非キリスト教徒の多神教の我々にとっては、難しい作業になるので。