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  メディア報道に関する2冊の本 04.29.2007
     



 現在、ノルウェーのベルゲンに滞在中。先週、トロンハイムのノルウェー科学技術大学で、持続可能性に関するシンポジウムがあって、ノルウェー関係者と議論をして、その後、ここベルゲンへ。実は、フィヨルドを見に来た。その報告は、次回にでも。 今回は、この旅に持参してきた次の2冊の本が話題。

 1冊は松永和紀著、「メディア・バイアス」、光文社新書、ISBN978-4-334-03398-9
 もう一冊は、小島正美著、「アルツハイマー病の誤解」、リヨン社、ISBN978-4-07075-9

 著者は、いずれも毎日新聞の関係者である。小島氏は、毎日新聞の現役の記者で、生活家庭部編集委員であり、松永さんは、京都大学大学院の農学系修士課程を終了後、やはり毎日新聞で10年間記者生活をしている。

 この新聞報道の内部を十二分に知り尽くした二人の筆者が、話題は多少違うものの、どのようなものが記事になるか、その実態を記述している。

 さて、ノルウェーだが。物価が非常に高い国で、インターネットへの無線LANによる接続も、30分で1300円ぐらい。1日だと2500円。レストランの食事、交通費など、大体、日本の倍だと思えば良い感じ。この国の通貨はクローネだが、欧州通貨の相場は、やはり1ユーロ100円といったところが妥当なのでは? ということで、落ち着いてものを書いている暇は無いので、適当な記述になるのはご容赦を。


C先生:この二冊の本は、是非買ってお読みいただきたい。何をどこまで信じたら良いか、価値観がかなり根底から覆されるのではないか、と思っている。

A君:ただ、先に結論を述べてしまっては問題なのですが、今、この状況だからこんなこと言える、ということだけでは、根本的な解決にはならない。リスクをもっと定量的に開示した議論を進め、それに則って、いつでも何かを言い続けないと。

B君:BSE問題について小島氏の本も取り上げているが、われわれも、日本で牛肉を食べて死者がでるとしたら、1000年に1人程度だろう、と考えている。農水省は、あのとき、全頭検査という方法論を用いて、ある意味で世間を煙に巻いた。その後、米国産の牛肉だけを悪者にして、国産牛の危険性も実はほとんど変わらないという事実を開示することなく、そして日本産の牛肉と、牛肉に関連する産業を守った、と言える。もしも、あのまま放置したら、牛肉はまだまだ危険な食べ物のままになっているのかもしれない。

A君:牛肉を食べなくたって、我々一般庶民が別に困るわけではない。しかし、牛肉生産農家・焼肉屋・牛丼屋は困った。そこで、リスクを定量的に述べることはしないで、対策を打った。その対策にメディアがある程度納得した結果、今の状況がある。

C先生:もう一つ、議論を進める前に言っておきたいのだが、様々なリスクを明らかにすることが重要だとは思うものの、そのリスク情報をどのように受け取るべきか、という受け手側の部分が根本的に改善されないと、リスクを適切に開示し、議論を進めたとしても、何も変わらない。

A君:まあ、様々な人々がいるけど、「おもいっきりテレビ」などの健康報道をそのまま実行に移すのが楽しみだというような傾向が多少とでも減らないと、なにも改善されない。

B君:情報発信側の責任も重大。メディアがまたウソをついた、という実績ばかりが積みあがって行くこと自体も、大きな社会的リスクだ。

A君:このHPを読む方々などだと、テレビの健康関係の番組は、単なるバラエティー番組で、「まだやっているな」、としか思わないはず。さらに、「こんな番組を喜んで見ているようでは、日本の知的レベルがますます下がっていく」、と思っているはず。

B君:しかし、国会議員を選ぶのは、そんなテレビ情報を鵜呑みにするような有権者。

C先生:危うい話題にまたまた近づいているようだ。実際、日本のようになんの資源もない国は、対外的に人的な資源だけで勝負をするしかない。一般に、感性の鋭さで勝負をするとことができる人間は極めて少数派なので、それ以外の普通の人間には、自らの知性を高めることによって勝負をするという正統的ではあるが、努力を要するややつらい方法論以外にない、と思う。いずれにしても、日本という国の目標は、「美しい国」よりも「知性あふれる国」であるべきなのだ。

A君:いずれにしても捏造事件によって、世間の状況がやや正しい方向に向かうと良いのですが。「知性あふれる国」になるかどうかは、別としても。

B君:ただ、その当時、「ダイオキシンは猛毒だ」と騒ぐのが先端的かつ主流になりそうあって、したがってメディアとして正しい行動だった。現時点では、「捏造だ」といって騒ぐのが先端的でかつ主流にもなりつつあり、したがって正しい対処法だ、というのでは、やはり、誰も信用しない。どこにも、真実が無い。

C先生:私個人にも捏造とニセ科学で本を書けという依頼が来たのだが、騒ぎの尻馬にのった本を書くのは、やはり問題のように思って、断った。本当の我々の役割は、「価値判断がブレないこと」だと思う。過去、現在、未来を見通して、「何がもっとも中立的かつ公正な判断か」ということを考え続けることだと思うのだ。

A君:なんとも長いイントロになっていますが、そろそろ紹介しますか。

B君:ただ、これらの本に書かれている事例をすべて紹介するよりも、別のアプローチが良いだろう。

A君:この2冊の本は、是非ともベストセラーにしたい。皆さん、お買い下さい、だから内容は余り説明しません、ということにするということなら、まあ賛成。

C先生:ひとつの読み方は、この二人の著者が何か新しい対処法を提案してはいないか、というところを中心に読むことだろう。

A君:それでは、それ以外の事例については、一言程度でまとめる、という方向性で。

B君:まず、松永さんの本から行く。内容的には、かなり何でも取り上げている。(1)白インゲンダイエット、(2)納豆ダイエット、(3)みのもんた症候群、(4)寒天ブーム、(5)レタスの快眠作用、(6)中国産野菜報道、(7)DDTの本当の意味、(8)PCB処理施設、(8)フードファディズム、(9)環境ホルモン、(10)化学物質過敏症、(12)食品添加物、(13)オーガニック食品の限界、(14)昔は良かったのウソ、(15)マイナスイオン、(16)水からの伝言、(17)ウソつき科学者、(18)遺伝子組換え大豆、(19)バイオ燃料、(20)トランス脂肪酸、(21)NGOによる企業テロ、まあこんなところか。

C先生:何かもっとも印象の強かった話題を一つだけ説明するか。

B君:それなら、(18)の遺伝子組換え大豆の話。ただし、ウソつき科学者の話でもある。2006年、遺伝子組換え大豆が危険だと主張するロシア人研究者が、市民団体の招きで来日し、全国を講演して回った。このロシア人の研究者は、海外ではまともなメディアからは相手にもされないのに、日本では、テレビ局や全国紙が危険説をそのまま報じて、後に、事実上訂正する騒ぎとなり、生物学者らに衝撃を与えた。その理由は、「これほどずさんな主張を、日本のメディアは見破れないのか」。

A君:毎日新聞2006年7月6日大阪版の記述:「ロシア科学アカデミー高次機能・神経行動学研究所のイリーナ・エルマコヴァ博士のこと。親ラットに遺伝子組換え大豆を混ぜた餌を食べさせ、生まれた子ラットにも与える実験をしたところ、生後3週間までに約6割の子ラットが死んだ。遺伝子組換え大豆の慢性毒性の可能性を示す初めての研究結果といい、6日に大阪市で開く講演会で報告する」。

B君:このロシア人博士の実験のやり方には、大きな問題点があった。2005年10月の学会発表がもともとのもの。その研究概要は、母ラットを3グループに分けて飼育。(1)通常の飼料とモンサント社が遺伝子組換え技術により開発した除草剤耐性大豆。(2)通常の飼料と非組み換え大豆。(3)通常の飼料のみ。
 子どもを生ませて、子ラットも同様に飼育したが、子ラットの死亡率が、(1)だと55.6%、(2)だと9%、(3)だと6.8%だった。だから遺伝子組換え大豆は危険。

A君:この実験の問題点は、遺伝子組換え大豆は「生で」、非組換え大豆は、「加熱して」与えている点。「生」の豆にはレクチンやトリプシンインヒビターなどの毒物が存在している。

B君:この学会発表を英国の食品基準庁は詳細に調査し、「この研究からは結論を導くことはできない」と報告。ただし、予備的な報告であるとしているので、「その後、報文として報告がなされれば、再度考慮する」、とした。

A君:要するに、論文的な価値を認めなかった。これで、世界中は、このロシア人科学者を信用しなくなった。

B君:ところが、市民団体「遺伝子組換え食品いらない!キャンペーン」は、このロシア人科学者の全国講演を実施。学会発表時をはるかに上回る仮説が次々と披露され、「遺伝子組換え食品を食べたら、がんや不妊、アレルギーや新生児の病気、高死亡率を招く可能性がある」、となった。

A君:このような次世代に与える影響は、このロシア人科学者は自分がはじめてやったと主張していたが、実際には、同様の実験がすでに南ダコタ大学で行われており、マウスに四代に渡って遺伝子組換え大豆を食べさせたが、非組換え大豆を食べさせた場合と何の違いもなかった、という論文(学会発表ではなく)がまとまっている。
 東京都健康安全研究センターも、三代に渡ってマウスに組換え大豆を食べさせ、同様に問題が無かったという結果を得ている。

B君:これに対して、この博士を招待した日本の市民団体は、他の機関の論文について、「恣意的な実験であり信用できない」と切り捨てた。

C先生:どちらが恣意的か、何をもって恣意的というのか。この話、本当に悪いのは誰なんだ。インチキを見抜けなかったメディアなのか。そのロシア人科学者なのか、それともそれを招待した市民団体なのか。

A君:この場合には、メディアの無能、すなわち、「この博士は単なる学会発表しかしていない。それに対して、その反対の結果を示す論文がすでに発表されている」、ということを調べる能力がなかったことが問題ですが、しかし、記事1本を書くのに、そんな時間を掛けることができない、ということもしばしばありうるだろうから、むしろメディアは騙された被害者とも言える。となると、どうみても、ロシア人科学者とそれを招待した市民団体の共同正犯だと言えるのではないだろうか。

B君:市民団体とその市民団体のための御用学者の共犯という構造が、最近になって見えるようになってきた。以前は、業界とその御用学者、あるいは、政府とその御用学者といった構図が主たるものだったのだが。

A君:いよいよ、科学者がウソをつくのがあたりまえの悲しい時代になり、また、市民団体も自己主張のために有利な情報発信を、ウソつき科学者を使ってでも行う時代になった。

C先生:政府とその御用学者の場合、政府からの情報発信が余りない時代には、結構有効だったのだが、最近では、審議会の議事録・資料や報道資料などもなんでも公開されているので、学者として妙な見解を出すのは難しくなってきた。企業とその御用学者の場合でも、もしも、企業が変なことをすれば、メディアなどからのバッシングが非常に激しいので、かなり注意をして情報を出すようになってきた。したがって、企業向け御用学者の有効性はやはり低下しつつある。ところが、市民団体は、まだまだ自らの情報発信がそれほど充分ではないので、現時点では自分達に都合の良い情報だけを出していても、誰にも余り文句は言われない。しかも、市民団体は、同好会のようなものだ、という解釈もあるので、どんな意見を出そうが、それを批判するというメディア行動は見られない。

A君:市民団体は、特に、環境系の市民団体は、このところ結集力を強めるのが難しくなっていると思われます。なぜならば、反対する対象がぼんやりしてきたから。要するに、何が駄目で何が良いのか分からなくなってきた。食品添加物も、以前ほど有害とも言えない。残留農薬もすでに規制過剰かもしれない。合成洗剤反対の石けん派は完全に時代遅れ。遺伝子組換え作物は、このHPでも以前から主張しているように、ヒトへの影響ということに関しては、通常の作物よりもよく調べられている。ただ、生態系への影響は未知な部分が残るけれど、農薬の使用量が減るというメリットも無いとも言えない。となると、環境関係の消費者運動を継続するのが難しい。すなわち、無理やり闘争の対象を作り上げる必要がある。

B君:ちょっと話を戻すが、企業とその御用学者という構図で、最近、類似したものが見られた例が、シャープの除菌イオンに関して、シャープとの共同研究を行った北里大学環境科学センターのケースか。富山医科薬科大学とシャープの関係も疑わしい。シャープは、これらの活動をアカデミックマーケティングという言葉で表現している。

A君:シャープは、液晶テレビのアクオスの電源ケーブルを非塩ビ化している。うわさでは、シャープの技術者自身が、自らの会社の環境マーケティング戦略を、「ギリギリセーフ」と表現しているらいし。

C先生:話をもとに戻して、市民団体の環境活動についてであるが、自分のライフスタイルを見直すというもっとも重要な主張はあるのだが、しかし、それでは自分達の思う運動が継続できない。やはり、他人を攻撃するのが、環境活動の基本だと思っているのだろう。水俣時代からの脱却ができていない。現時点では、自らの行動を律するのが、環境活動なのだが。

B君:確かに。ニセ科学者を使うニーズとしては、政府よりも、企業よりも、市民団体の方が多いということは確実かもしれない。

C先生:ところで、この松永さんの奨めている対処法あるいは対策は、(1)記者セミナー(2)意思のある科学者によるインターネットでの情報公開。(1)はかなり頻繁にやる必要があるということ。(2)はなかなか人数を増やすのは難しい。

A君:(2)に関して、畝山智香子さんのブログが紹介されていますね。
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/
食品の安全性だったら、このブログを読まなければ、といったところでしょう。各分野で、この人の情報なら信頼できるという評価が定まれば、それなりに有効。

C先生:さて、そろそろ、小島氏の本に行きたいが、すでに、相当長くなったので簡潔に。

A君:内容は、アルミニウムがなぜアルツハイマーの原因物質になってしまったか、という話で、それ自身、相当に深刻な話。

B君:いまだに、相当信じられている話ではある。

C先生:この話を極めて強く主張していた日本人研究者が東京都の研究所に居たが、最近は、さすがに引退したようだ。

A君:その本論は別として、いくつかの面白い表現がありますね。「リスクは経済である」とうのは、まあ、当然と言えば当然。それ以外でも、例えば、「メディアは権威を批判するのが使命だと思っている」

B君:我々としては、「メディアは今や権威そのものである。しかも最強の権威である」、と言いたいね。

C先生:加えて、「しかし、その権威を自ら危うくするような情報を流している」、と続けたい。

A君:「市民団体は、権威ではないから、メディアは批判の対象にしない」、のでしょうかね。

C先生:市民団体にも、「権威」と皆が思えるような情報を流す存在に早くなって貰いたい。

B君:別の方向性だが、インドの環境科学センターなるNGOは、情報テロとも言えそうなニセ危険情報を流した。このNGOは権威ではないかもしれないが、危険分子としてメディアも批判の対象に加えて貰いたいものだ。

A君:もう一つ面白いのがありました。小島氏は、遺伝子組換え食品について、「日本の自治体は栽培を規制する条例を作って満足しているようだが、このままだと日本は技術サバイバル戦に敗退する。一見、組換えに反対しながら、基礎的な研究だけは怠らない欧州から大きく後れをとる」、というつもりで記事を書いたら、読者から次のような声が届いたそうだ。
 「なぜもっと組換えのマイナス面を取り上げてくれないのか」。
 「西欧では、組換え作物を栽培しないフリーゾーンが次々と拡大している。そういう動きをもっと書いて欲しい」。
 「有機栽培や自然農法が素晴らしいといった記事を読みたい」。

B君:これは、普通の考え方をもっている読者は、わざわざそんな声を新聞社に届けることは無い、ということを証明しているに過ぎない。

A君:ということは、もっと「その通り」という声を新聞社に届ける人がでないと、バランスの取れた記事にはならない。

C先生:何についても、また、いつでもそうなのだが、サイレント・マジョリティーなる無党派層が、何もしないことが一つの問題ではある。ただ、何もしないから、サイレント・マジョリティーなのかもしれない。メディアとしては、どのぐらいのサイレント・マジョリティーが居るかを意識しつつ、記事を書いてもらいたい

A君:消費者グループがやっている「洗脳」に関する記述は面白い。自分たちに都合の良い情報だけを繰り返し流して、脳のインプット効果を継続しようとしている。

B君:だから、それに対抗するには、記者セミナーを繰り返し開催して、正しいと思う情報を記者にインプットし続ける必要がある。それには、日本の政府も業界も熱意が不足。せめて、消費者グループぐらい熱心にやる必要がある。

C先生:その通りかもしれない。そして、小島氏の主張の中で、もっとも面白いものが、いくつかある。
(1)まず、記者が知っておくべき科学的事項のなハンドブックの作成。基礎科学情報やその分野における専門家のリストなどを作って、記者に配布する。
(2)NPO法人「リスク情報チェック機関」の設置。2つの役割を持つ。まず、「客観的なリスク」を教えてくれる機関としての役割と、メディア情報をパトロールするチェック機関としての役割。

A君:業界であれば、ハンドブックを作ることが重要でしょう。それに、安倍司氏のごとく、自らの「食品添加物のカリスマセールスマン」と名乗る人物の実像や、その著書における記述の間違いなどを含めて、ハンドブックを作成することも有効かもしれない。

B君:NPO法人「リスク情報チェック機関」だが、小島氏は、メディアに長くいた記者、科学の専門家、弁護士、消費生活アドバイザー、企業の広報経験者などを揃えれば、かなり強力なパトロール機関になると提案しているが、確かにそうだろう。

C先生:そのような機関を作っても、動かすためのインセンティブが何か無いと、動かない。どこかで経済的に成立する仕組みを作らないと駄目だろう。それができれば、有効な考え方だと思う。

A君:そろそろ終わり?

B君:そう。結論は、「あるある捏造事件」は、日本のリスク情報や健康情報の転換点になる可能性がある

C先生:しかし、テレビは変わらないだろう。非常に難しい。製作担当者のメンタリティーが余りにも「テレビ向き」になりすぎていて、すべてのテレビ局が製作関係者を全員クビにするぐらいの対応を取らないと無理だろう。まあ、多少、動きがでてきたことは良いことだ。こんな動きを応援するためにも、本HPの読者諸兄には、次のことをお願いしたい。
(1)この2冊の本を買うこと。
(2)アマゾンの書評などに、その感想を書き込むこと。
(3)そして、可能な方は、ブログなどにも感想を書き込むこと。

 以上よろしく。